第35話 誘拐犯逃走中!?

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 特訓から2日後の朝、ヒトカゲ一行は次の街『カレッジ』に無事到着した。この街はその名のとおり学園都市であるため、街の至るところに大きな学校と、その通学路に商店街が並んでいる。「よく学び、よく遊べ」という言葉をテーマに創られたのだとか。
 街の入り口に入ったところで、4人は一旦立ち止まる。街を見回してその大きさに圧倒されていた。ヒトカゲ曰く、アスル島の2倍以上はある大きな都市らしい。

「俺様の案内はここまででいい。感謝しているぞ」

 バシャーモは道案内をしてくれた3人に礼を言う。だがやはり“俺様”という一人称のせいか、感謝しているように聞こえないのが残念だ。

「どこに行くの?」

 不意にヒトカゲが行き先を尋ねた。まさかそこまで聞かれるとは思っていなかったのか、バシャーモが少し焦りだす。目を泳がせながら、ヒトカゲの質問に答える。

「そ、それは……友人のところだ。最近知り合ったばかりで、住所しか知らなかったからな」

 やはり怪しいと思う3人。変な奴ではあるが根が悪いポケモンではないと理解していた彼らは、何で自分達に嘘をつくのかわからずにいた。だがそこまで重要なことではないだろうと判断し、それ以上問い詰めるのを止める。

「それでは、さらばだ!」

 まるで逃げるかのようにバシャーモは街中に走り去っていった。それを見届けて軽く息を漏らすと、ルカリオは彼がいなくなった喜びを顔に出しながらヒトカゲ達に話しかける。

「んじゃあいつもいなくなったことだし、まずは情報探索といくか」
「そうだな。早くしないと、もしかしたらグラードンが……」

 この数日間、アーマルドは怖くてたまらなかったのだ。ガバイトが言っていたグラードンを操る計画が進んでいるのではと考えるだけで、恐怖を感じていた。

「今のところは赤の破片が完全に集まるとは思えないから、しばらくは大丈夫だと思うよ。でもその事も聞き込みしないとね」

 アーマルドの恐怖を取り払うようにヒトカゲが言う。その言葉で気が少し楽になったのか、彼は「うん」と小さく頷く。

「そんじゃ行きま……って、何だあの集団?」

 街に入ろうとルカリオが前を見た瞬間、彼の目にポケモン達の集まりが見えた。もしルカリオの勘が当たっていれば、また事件があったに違いない。

「はぁ……行くか、仕方ねぇ」

 嫌な予感しかしないが、探険家である故、黙って見過ごすわけにはいかない。ルカリオを先頭に3人はその集まりへと向かって行った。


 その集まりでは、ポケモン達が慌しく話し合いをしていた。深刻そうな雰囲気で、おどおどしているポケモンまでいた。

「ちょっとすみません。何かあったんですか?」

 集団を掻き分けてヒトカゲが入り込み、話を聞くことにした。その集団の中にいたアリゲイツが物凄く慌てた様子で何が起こっているのかを説明し始めた。

「ゆ、誘拐だよ誘拐! でっけーポケモンが子供のポケモンを誘拐して、今逃走中なんだ! 僕、ハッキリこの目で見たんだ!」
「えっ、誘拐だって!?」

 まさに大事件である。さらにアリゲイツが言うには、この街は平和そのもので犯罪が起きるのは数年に一度あるかないかだという。そういう理由で、警察学校もあるのだとか。
 ヒトカゲは再び集団を掻き分け、ルカリオ達のところへ戻って事情を説明する。その話から、まだこの街の中を逃走していると睨んだルカリオは面白そうだと笑みを浮かべる。

「ちょうどいい。こないだのコンビ技を実戦で試してみるか」

 そう言うと、ヒトカゲ達と一緒に誘拐犯を捜し出すことに勝手に決め、半ば強引にヒトカゲとアーマルドの手を引っ張って走り出した。



「はっ、はっ……」

 その頃、街中を血相変えて走るポケモンが1匹いた。小脇には自分よりもかなり体格の小さいポケモンを抱えている。その前方に立ちはだかるように、複数のポケモンが行く手を阻む。

「どけ――! “はかいこうせん”!」

 息を切らしながらも、口から“はかいこうせん”を放つ。それから必死に逃げ惑う市民達はそのポケモンを止められずにいた。目の前の道が空くと、そこを走り去っていく。

「ちょっと、やりすぎじゃないの!?」
「しゃーねーだろ! やりすぎとか言ってる場合じゃねぇ!」

 小脇に抱えられたポケモンが自分を抱えているポケモンに向かって叫ぶ。どうやらこの2人、知り合いのようだ。雰囲気から察するに、誘拐ではなさそうだ。

「何で誘拐犯と間違われるわけ!?」
「おめーが空飛べばいいだけの話だろ! 誰だよいっつも『頭にのっけて』っていうのは!」

 何やら口喧嘩になっている2人。些細なことでも苛々するほど今の状況に参っているようだ。だがうかうかもしていられない様子で、ひたすらに走っている。
 その時だ。そのポケモンの前方に1匹のポケモンが飛び出してきた。慌てふためきながらも、そのポケモンはぶつからないように足に精一杯力を入れ、どうにかぶつかる寸前で止まることができた。

「あっぶねーな! 気をつけ……」

 飛び出してきたポケモンに怒鳴りつけようとしたが、その姿を見た瞬間、驚きからか、途中で怒鳴るのを止めてしまった。そこにいたのは、友達の姿だったからだ。

「……ヒトカゲ!? 何でここに!?」
「あれ……うそ、バンギラスにポッポ!?」

 そう、追われていたのはヒトカゲの友人であるバンギラスだった。そして彼の右脇に抱えられていたのはバンギラスと仲の良いポッポだ。お互いにどうしてここにいるのかというような顔をしている。先に口を開いたのはヒトカゲだ。

「な、何でバンギラスがここにいるの?」
「あぁ、実はな……」

 バンギラスがその理由を話そうとすると、後方から雄叫びを上げながらポケモン達が彼らに向かってきている。この集団がバンギラスのことをポッポを誘拐した犯人と思い込んで追っかけているのだ。

「やべっ!? と、とにかく話は後だ!」

 刹那、バンギラスは左手でヒトカゲを掴むと、そのまま脇腹へと抱え込んだ。2匹のポケモンを抱えながら、再び彼らから逃げるように走り出した。

「えっ、何なに何なのこれ!」
「だから話は後からするって! 今は振り落とされないように掴まってろ!」

 バンギラスはひたすら走る。だが後ろから追っかけてくる集団を振り切ろうとか、追っ手から逃げ回っているような感じではない。どこかへ向かって走っているようだ。
 しばらく走り続けると、またしてもバンギラスの行く手を阻むかのように、前方にポケモンが2匹立っていた。目を細くしてそのポケモンを確認する。

「今度はどっかのルカリオにアーマルドかよ! ったく!」

 このルカリオとアーマルドは、ヒトカゲと一緒に旅しているメンバーに他ならない。ヒトカゲもその姿を捉えると、まずそうな顔になった。
 ルカリオとアーマルドがバンギラスに向かって走り出す。それを見てヒトカゲは思い出した――彼がコンビ技を実戦で試してみるかと言っていたことを。

(絶対まずいことになっちゃう!)

 何とかしてバンギラスにそれを伝えようとするが、こういう時に限って言葉が出てこない。そうしている間にも彼らの距離は縮まっていく一方だ。

「“シザークロ……”」
「どけー! “じしん”!」

 バンギラスは走りながらジャンプをし、その勢いで両足を地面に思い切り叩きつけた。地割れが起き、ルカリオとアーマルドは足下を崩されバランスを崩し、その場に倒れてしまう。
 2人が倒れたのを確認してバンギラスは通り過ぎようとするが、何とその足に2人がしがみつく。彼の走る速さが一気に遅くなる。

「や、やめろてめぇら! 放せ!」
「誘拐犯が何をほざきやがる! 大人しく捕まれ!」

 足に絡み付いている2人を引き離そうともがくバンギラスと、誘拐犯を捕まえるべく必死にしがみつくルカリオとアーマルド。その攻防は数分間に及んだ。
 それから直に、バンギラス達の横にある学校から、とあるポケモンが彼らの元へやって来た。そして今起こっている光景を目の当たりにして、少々驚いている。

「バ、バンちゃん、何やってんだ?」
「……お、おじさん?」

 バンギラス達の目の前にいるのは、彼の父の元同僚であった、ニドキング警視だった。これまた懐かしい顔にヒトカゲも驚いてしまった。

「早くしないと、もうすぐ式始まっちまうぞ?」
『……式?』

 ヒトカゲ達が声を揃えて言う。何のことかさっぱりわからない3人にポッポが説明しようとしたが、それより先にバンギラスが口を開いた。

「そうだ……今日は俺の警察官任命式なんだよ!」

 全員に怒鳴りつけながら、さらにバンギラスは説明を続ける。

「寝坊したから急いでこの警察学校に向かおうとしたのによぉ、誰が言ったか知らねぇが誘拐犯だのとかほざきやがって……ふざけんなっつーの!」

 そう言うと、足を大きく振ってルカリオとアーマルドを振り払う。ついでにポッポとヒトカゲも地面へと落とされた。

「そこのルカリオとアーマルド、俺が任命された瞬間に公務執行妨害で逮捕してやっからな……」

 低く、ゆっくりと、2人を睨みつけながらバンギラスは脅す。カメックス並みの恐さを感じたのか、全身に凍りつくような寒気が2人を襲う。

「ハハハ、ご苦労だったな。まぁ、ヒトカゲ達もせっかくなら式を見学していけばいい」

 まるで日常茶飯事の如く笑い飛ばすニドキング。彼に案内されるがままに、みんなは警察学校へと入っていった。

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