第29話 食って戦え

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「おーなかなかいけるなこの料理♪」

 レストランに入った4人はそれぞれ好きな料理を注文するかと思いきや、サイクスは「このページの料理全部下さい」とメニューを見せながら店員に言った。そのおかげで、テーブルを4つつなげてようやく置くことができるほどの料理が一度にやって来た。

「ほら、お前らも食っていいんだぞ。俺の奢りだし」
『……奢り!?』

 これだけの料理をタダ食いさせてくれるというのかと思うと、ルカリオもアーマルドもおもわずほろりと涙をこぼす。それを拭うと、遠慮なく目の前の料理にかぶりつく。

「バクフーン兄ちゃん、そんなにお金持ってたっけ?」

 ふとヒトカゲがサイクスの懐事情を心配をした。さすがに注文した数が数であるため、ちょっとやそっとの金額ではないことは確かだ。なんだ、そんなことかと鼻で笑いながら、サイクスはカバンからあるものを取り出した。

「ほれ見てみ! 俺のブラックカード!」
『お~!』

 サイクスの手には、かつてドダイトスが持っていたものと同じブラックカードが握られていた。これには3人も拍手喝采だ。そうと分かれば本気で遠慮することなく、次々と運ばれてくる料理を平らげることができる。4人はそのスピードを加速させていった。

「『腹が減っては戦ができぬ』って昔から言うだろ? 名言だよな~これ」
「うんうん、お腹空いてたら絶対1歩も動けないもん」

 きのみタワーを頂上から崩して食べながらヒトカゲとサイクスが会話する。一方のルカリオとアーマルドは一切喋らずに黙々と食べ続けている。
 ここで食っておかなければ今後どうなるかわからない、餓死なんかしてたまるもんかと心の中で叫んでいるかのように、2人は空になった皿を積み上げていく。

「おっ、お前ら大食いの練習のつもりか? おーしなら俺だって~!」

 闘争心が湧き出てきたサイクスは、大食い大会に出たつもりでどんどんと食べ物を胃の中へと押しやっていく。しかし今サイクスが食べた料理は辛めの味付け。当然だが数秒後には一気に額から汗が噴出し、顔を真っ赤に染める。

「……かれぇ~!」

 おもわず口から“かえんほうしゃ”を出してしまった。そのせいで店の窓とテーブル2台を破壊してしまい、後から店員に叱責されたのは言うまでもない。



「支払いはこれで。修理代もこれでいいですか?」
「よ、よろしいですよ」

 目元をヒクつかせながらも店員は営業スマイルで対応する。さすがはブラックカード、驚いているなとサイクスは思っているが、それは全くもって違う。

「は~おいしかったね~ルカリオ、アーマルド♪」
『……そ、そうだな……』

 満足げな表情で話しかけるヒトカゲの隣では、今にもリバース寸前のルカリオとアーマルドがいた。顔が青ざめ、小刻みに震えている。

(ここで出してしまってはあんなに食った意味がない。意地でも吐くものか!)

 意地と執念だけで吐き気を押さえ込む2人。こう見ると2人は似た物同士かもしれないが、食事以外に関しては全くと言っていいほど似ていない。

「あ~そうだ、あの入口に入ったらすぐエレベーターで、屋上直通だからな」

 支払いを済ませたサイクスが父親の会社を指差しながら言った。その言葉にさらに顔が深い青色に染まっていく2人。絶望という言葉が今の彼らの状況にピッタリだ。
 そんな事を一切気にせず、ヒトカゲとサイクスは元気に歩き出す。その後ろをルカリオとアーマルドは必死についていく。傍から見れば瀕死状態である。



「わールカリオ、アーマルド見て! 家があんなちっちゃく見えるよ~!」

 エレベーターの窓から街を見下ろしてはしゃぐヒトカゲ。本来なら付き合ってあげたいところだが今の2人にそんな余裕はなく、座り込んで目を閉じ、何も考えないようにしている。

「あっ、もう着いちまったな」

 突如、ガクンという音と共にエレベーターは止まった。屋上に着いたと確信した2人は恐る恐る目を開ける。そして深呼吸を数回すると、気分の悪さは治まっていた。

「よーしもう大丈夫だ! なぁアーマルド」
「うん。俺も吐き気治まった」
「じゃあ行くぜ~!」

 ルカリオとアーマルドが元気になったのを確認すると、サイクスを先頭に4人は最上階の部屋――社長室へと入っていった。

「出て来いよ親父、息子が帰ってきたぜ」

 挑発する言葉を放ちながらサイクスは奥へと進む。だが返事はおろか、誰かがいる気配すら感じられない。そのまま進んでいくと、社長用の机とイスが目に入ってきた。

「ん、本当にいないのか?」

 辺りを見回しても、バルはどこにも見当たらない。4人が散り散りになって捜していると、机上に1枚の紙切れが置かれているのをヒトカゲが見つけた。
 それを背伸びしてようやく掴み取ると、早速その内容を読んでみることにした。そこに書かれていたのは、これから先に起こる事件の始まりを示す内容であった。

「……“父親を返してほしくば、街外れの森に来い”……だって!?」

 ヒトカゲの声に全員が振り向き、作業を中断して駆け寄る。みんなもその手紙に目を通すと、目を見開いて驚いていた。その中でもサイクスの受けた衝撃は大きい。

「お、親父が、誘拐……された……?」

 サイクスは狼狽した。どんな仕打ちをされようが、バルは世界でただ1人存在する自分の父親だ、そう簡単に見捨てることなどできるはずがない。犯人はその心理を突いてわざとこうしたのだろう。

「行こう、バクフーン兄ちゃん」
「そうだな。誰が連れ去ったかは知らねぇが、行くしかないよな!」

 ヒトカゲの言葉に我が帰ったかのように、サイクスは自分が行かなければならないと思い直し、気持ちを改める。いつもの陽気さとは違い、真剣な顔つきへと変わった。

「お前らも手伝ってくれるか?」

 ルカリオとアーマルドに手助けしてほしいとサイクスは頼み込む。もちろん2人の答えはYesだ。黙って首を縦に振り、彼らの真剣な顔つきになる。
 互いの意思を確認すると、4人は社長室を駆け出していった。


 アイスト郊外にある森は昼間でも薄暗く、夜になると一層闇が増す場所だ。“フラッシュ”が使えない4人は松明(たいまつ)を片手に奥へと進んでいく。

「おーい、親父ー、どこだよー!」
「バルさーん、返事してくださーい!」

 森に入ってからずっと声を掛け続けるサイクス達。かれこれ10分以上になるが、相手側から返事が来ることは1回もなかった。焦りが募っていくばかりだ。
 だがその時、ルカリオが何かを感じたようだ。そこで集中して波導をキャッチしようと試みてみると、森のさらに奥の方から何者かの波導を感じ取ることができた。

「待て。3人、この奥にいるみたいだぜ」

 ルカリオの情報を頼りに、4人はさらに足を急がせた。その瞬間、自分達の前方から赤い光線がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその場に伏せる。
 その光線は自分達の真上を通過していったのは、どうやら“はかいこうせん”のようだ。4人がゆっくりと体を起こした時、どこからか声が聞こえてきた。

「ほぅ、俺の“はかいこうせん”をかわすとは、やるじゃねぇか」

 サイクス以外は聞き覚えのある声だった。記憶を辿って誰だったかを思い出すや否や、一瞬にして緊張が走る。直に草を踏みしめる音が辺りに響き渡った。

「みんな、どうした?」

 ただ1人、状況がよく飲み込めていないサイクスが首をかしげる。ヒトカゲが説明してあげようとした瞬間、そいつらは現れた――サイクスにとって大切な者を連れて。

「お、親父!」

 4人が見た光景――険しい表情をしているバクフーン、その彼の首に自身のツメを突きつけているガバイト、その横で不敵な笑みを浮かべている、傷だらけのボーマンダだった。そう、ヒトカゲ達がロルドフログで1度対峙した奴らだ。

「久しぶりだな、忘れたとは言わせねぇぜ」
「いや、俺は初めましてだ」

 ここへ来てサイクスはボケをかます。ヒトカゲ達はコケそうになるが、これも1つの作戦。敵を油断させるためにたまにつかう手法だとか。

「そ、そうだったな。まあ見てわかるように、お前の親父さんを誘拐した犯人さ」

 シリアスな場面を少々壊されたガバイトは呆れながらも、すぐに状況を立て直す。それから4人はガバイト達に質問する。

「何故俺の親父を誘拐した?」
「仲間のグラエナはどこに行った?」
「どうしてヒトカゲが詠唱できることを知っていた?」
「お前らの真の目的は何なんだ?」
『いっぺんに質問すんじゃねぇ! 何言ってるかわかんねーだろ!』

 4人から同時に違う質問をされ、ガバイトとボーマンダはキレた。自分達の作り出したシリアスな場面を壊されるのが1番腹に立つらしい。

「ならもう一度聞く。何故俺の親父を誘拐した?」

 さすがに父親の置かれている立場を可哀相に思ったのだろう、おふざけを止めにして、サイクスが真剣に問いただす。その質問にボーマンダが応じる。

「お前が持っているブラックカード、それが欲しいからだ」
「ブラックカードを?」

 金目当てなら何故親父を誘拐する必要があるのか、俺でなきゃいけない理由はないだろうとサイクスは考えていたが、彼らの目的は金目的ではなかった。

「そうだ。お前が親父さんから託されたブラックカード、それはある扉の鍵になっているのさ」

 そう言われるが何のことだかわからず、頭に疑問符を浮かべる。その様子を悟り、ガバイトが付け加えるように質問に答える。

「その扉の中には、『赤の破片』が眠っているのさ」

 『赤の破片』という言葉から、以前彼らがロルドフログの美術館から盗もうとしていた赤色の石の破片のことだろうと3人は確信した。
 またもや、サイクスただ1人が違うリアクションをとる。だが先程と違い、かなり驚いている表情をしている。『赤の破片』について何か知っているようだ。

「お、お前ら、まさか……」
「あぁ、そのまさかだ」

 ガバイトとボーマンダが不敵な笑みを浮かべながら、彼らの真の目的を4人に告げた。

「俺らの目的、それは……大地の神・グラードンを操る事だ!」

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