第24話 波を導く力

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「まずは1発“しんくうは”だ!」

 先制攻撃を狙ったルカリオは“しんくうは”を放つ。まずは相手がどう出てくるか、技をくりだしながらそれを窺っていた。

「“こうそくいどう”!」
(やっぱり避けたか!)

 ルカリオの予想通り、ジュプトルは素早く攻撃を回避すると同時に自分の方へ近づいてきた。相手の攻撃にそなえてルカリオはぐっと構える。

「“れんぞくぎり”!」
「それきた! “カウンター”!」

 ジュプトルの“れんぞくぎり”も予想していたのか、ルカリオは瞬時に見えない壁をつくる。“カウンター”だ。それにより攻撃を倍にしてジュプトルに返したが、放ったばかりの“れんぞくぎり”は威力が高くない。2倍のダメージでも大したことなさそうだ。

『“でんこうせっか”!』

 数mの距離を置くと、2人は互いに相手へと向かって行った。元々素早い2人の“でんこうせっか”は目にもとまらぬ速さだ。だが技を放って数秒後、体勢を崩したのはルカリオの方だった。

(痛っ……あいつ、あんなに力が!?)

 “でんこうせっか”はお互いの脇腹に当たった。だがルカリオの方が苦痛に表情を歪める。彼の想像以上にジュプトルの力は強かったのだ。

「さっきの威勢はどこへやら」
「ちょっと遊んだだけだ。お前が俺と遊びたそうにしてたからさ」

 それでも余裕の表情でルカリオは言葉を返す。それはジュプトルの神経を逆撫でし、ふつふつと怒りを今以上に湧きあがらせるのだった。

「遊ぶだと? 冗談ぬかすな!」

 するとジュプトルは後方に引き下がり、ルカリオとの距離をさらに広げた。その間に、彼が大きく口を開けていることにルカリオは気付けなかった。

「“タネマシンガン”!」

 ルカリオが状況を把握できたのは、“タネマシンガン”が目の前まで差し迫っていた時だった。だがすでに遅し。防御できる姿勢も取れずに、その攻撃を浴びる。
 刹那、辺りに閃光が走った。それと同時にルカリオを中心として大きな爆発が起こる。ジュプトルはその様子をただじっと、無表情のまま傍観していた。
 爆発による煙が引くと、中からルカリオの姿が現れた。想像以上のダメージを負ったのか、全身が傷つき、呼吸が荒い。

「て、てめぇ……“タネばくだん”仕込んだのか……」
「よくわかったな。褒めてやろう」

 “タネマシンガン”で放った種の中身は“タネばくだん”。それが数十発にもなると強力なダメージを相手に与えることが可能になる。だがこれでルカリオはわかったことがあったようだ。

(あいつ、感情に流される傾向にあるな)

 前回の時もそうであるが、ジュプトルは感情が高まるとそれに比例するように威力の高い技や惨い方法を取る傾向にあるとルカリオは感じ取った。それを考慮し、頭の中で作戦を練る。

(だったら“カウンター”でダメージ返しにするか? だけどさっき使ったから読まれるな……あいつに効く攻撃は俺にはない。なら1つ。相殺しながら地道にとっていく!)

 傷の痛みに耐えながら立ち上がると、攻撃する態勢に入った。前のように天気が悪くて不意をつかれる心配もない。必ず勝てる、そう信じて構える。

「来いよ、トカゲ野郎!」
「本気で殺してやる……!」

 まだまだといった表情のルカリオと、眉間をぐっと寄せて怒りを露にするジュプトル。睨み合いがしばらく続き、ある瞬間に同時に駆け出した。

「“エナジーボール”!」
「“あくのはどう”!」

 ジュプトルは手で作り出したエネルギー弾をルカリオ目掛け、ルカリオも同様にして作り出した黒色の波導を同心円状に放った。互いにぶつかったエネルギーは中心で爆発を起こす。

「“はどうだん”!」

 これまた前回同様、その場から飛び上がったところに攻撃を入れようとしたルカリオ。青白い玉を煙の中にいるであろうジュプトル目掛け投げつけた。

「“れんぞくぎり”!」

 2度目の“れんぞくぎり”をくりだすジュプトル。威力が増しているため、向かってきた“はどうだん”を自身の腕で弾き飛ばしてしまったのだ。軌道が逸れた“はどうだん”は地面に落ちて小爆破する。

「“リーフストーム!”」

 ここでジュプトルは大技“リーフストーム”をくりだした。ルカリオにあまり効果がないとはいえ、その威力・勢いは彼を空中から地面に叩きつけるには十分すぎるものだ。

「うがぁっ!」

 ルカリオは激しく地面に体を打ち付けられた。それでもまだ“リーフストーム”は止まない。無数の葉っぱがようやく視界から消えたのを確認すると、同時にジュプトルの姿も消えていた。
 すぐさま立ち上がりどこへ行ったと見回すが、どこにもいない。逃げるための手段だったのかとルカリオは予想したが、それは大きな間違いだということに気づいたのは、それからわずか数秒後のことであった。
 予想だにしない事が起こった。何とルカリオの真下から、まるで地面を打ち破るかのように勢いよくジュプトルが現れたのだ。それと同時に強烈な攻撃をぶつける。
 あまりの苦痛にルカリオは絶叫するしかなかった。その身は空中へと放り出され、やがて墜落する。一撃で相当なダメージを負ってしまい、苦しみ悶えて立つことすらままならないほどだ。

「……“あなをほる”、か……」

 そう呟くルカリオの元へ、ジュプトルがやって来た。「無様な姿だな」と鼻で笑うと、ルカリオの首を思い切り踏みつける。声にならない声が体の奥から出ている。

「う、うぐっ……」
「このまま首をへし折ってやる。地獄に行く覚悟でもしとけ」

 ジュプトルはさらに足の力を強める。それに比例してルカリオの声もだんだん小さくなっていく。意識も少しずつ薄れてきているようだ。

(このままやられる……のか……? こんな奴に俺が……)

 瀬戸際に立たされると弱気になってしまうものなのか、ルカリオの頭の中はやられることばかり考えていた。いっそ全身の力を抜こうかと思ったときに、ふと出てきた顔が2つ。いつも笑顔のヒトカゲと、大人しいアーマルド。

(俺がここでやられたら、あいつらもこいつに……?)

 そこではっと気づかされる。自分は2人を巻き込みたくないがためにここへ来たというのに、自分がやられてどうすると、考えを変えることができた。

(俺はここで……)
「……負けねぇ!!」

 刹那、ルカリオはそう叫びながら直前の倍以上の力でジュプトルをなぎ倒す。突然のことにジュプトルは驚きつつも落ち着いて彼を見るも、再び衝撃を受ける。

「なっ……!?」

 おもわず声を上げたジュプトルが見たもの、それは、周りが渦を巻いているルカリオの姿。ルカリオは両腕を横に広げ、目を閉じて意識を集中している。


【無辺、時に切り立ち大地よ 静寂、時に荒々たる海原よ そこから得ん万物が持ちし躍動よ 我が命に従いて 我が手に集いて力となれ!】


 何とルカリオは詠唱を唱え始めたのだ。しかも今回はおまじないとは違い、本物のようだ。詠唱中にルカリオの体の毛が逆立っていく。

(あ、あいつ……まさか!?)

 さらにジュプトルは気づいてしまった。詠唱する声が2重に聞こえたのだ。そして幻影なのだろうか、ルカリオの後ろにもう1人、別個体のルカリオがいるように見えたらしい。ただただ衝撃を受けている。

「絶対お前になんか負けねぇ! 波導は我にあり! “はどうだん”!」

 ルカリオは両手で作り出した波導の球“はどうだん”を放つ。再び“れんぞくぎり”で弾き返そうとするジュプトルだったが、勢いが想像より遥かに上回っていた。弾くこともかわすこともできずに、“はどうだん”を正面から受けて吹っ飛ばされる。

「ぐおっ!」

 ジュプトルはそのまま後方にあった木に打ち付けられた。それだけではない。その木が音を立てながら折れ、ジュプトル共々後方に倒れ込んだのだ。その隙をつき、ルカリオはさらに攻撃を放つ。

「もう1発! “はどうだん”!」
(いきなり強くなってやがる……一時退散だ!)

 再び放たれた“はどうだん”がジュプトルに当たるか否かのところで爆発が起き、視界が遮られる。その間に、ルカリオは以前の状態に戻っていった。
 視界がようやくよくなった頃には、ジュプトルの姿は消えていた。おそらく“あなをほる”で逃げていったのだろう。落ち着きを取り戻したルカリオは、自身の両手のひらをまじまじと見つめながら、自分のした事に改めて驚く。

「俺もヒトカゲみたいに、詠唱できた……何故だ?」

 本人はどうして詠唱を言えたのか、どうしておまじないとは異なるものを知っていたのかが不思議でたまらないようだ。意識はあったものの、まるで何かがフラッシュバックしたような感覚だったという。

(……親父……?)

 考え事の最中にふと思い浮かんだ、ルカリオの父・ライナスの顔。それが何を意味しているかはわからなかったが、彼はこう捉えることにした。「親父が助けてくれたのかも」と。


 ルカリオがその場を立ち去ってからしばらくすると、地面から手負いのジュプトルが静かに顔を出した。一気に地面から這い出るも、先程の“はどうだん”が効いたのか、足下がおぼつかない。

「あれは見間違いだったか? いや違う。あれは……」

 何かを確信したかと思うと、ジュプトルは右手を強く握り締めた。ツメが食い込んで手のひらから出血するほど、力強く。鮮血がぽたぽたと芝生に落ちていく。
 痛みを全く感じないほど、彼の怒りはその大きさを増していた。心でした誓いの宣言を口に出し、己の気持ちをさらに高ぶらせた。

「待っていろ、必ずお前に復讐してやる……ライナス!」

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