第18話 荒らす者

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 数週間前、ロルドブログにある図書館や美術館が何者かによって荒らされた。図書は辺りにばら撒かれ、ショーウィンドウのガラスは粉々に割られていたが、幸いにも何か取られた形跡はないという。
 その1回だけならまだ若者やたちの悪い連中の仕業だと思えるが、このような出来事が数度にわたって繰り返されたのだ。こうなるとただの悪戯とは考えにくい。何か別の目的があるのではと市長は思い、ポケ助けで名高い、チーム・ブラスタスに調査を依頼したのだ。

「なるほど。確かに、何かありそうだな」

 腕組しながらカメックスは考え込む。一緒に聞いていたヒトカゲ達もそれに続くように頷く。

「お願いじゃ、何とか原因を探ってくれ。どうも悪い予感しかしなくての」
「大丈夫、俺の兄さんなら必ず解明してくれるからさ!」

 不安で湯呑みを持った手を震わせながらニョロトノは頼み込む。それをゼニガメが声をかけて安心させようとしたが、語弊があったのか、カメックスが訂正する。

「市長、“俺達”で解明してみせますので、ご安心を」
(……ん?)

 その言葉にひっかかりを覚えたのは、ルカリオとアーマルド。きっと聞き間違いだろうと自分自身に言い聞かせながらも、不安になったルカリオはカメックスに念のためきいてみた。

「あ、あの、今“俺達”って言いました?」
「……何が言いたい?」

 またもや不機嫌そうな顔でカメックスはルカリオを見た。おじけづくルカリオとは反対に、ヒトカゲは嬉しそうに目を輝かせている。

「僕達、一緒についてっていいの?」
「もちろん! 久々に一緒に行動したいしな♪ それに、大勢の方が何か気づくかもしれねぇし!」

 半年以上ぶりに一緒に行動できるチャンスを得て、ヒトカゲとゼニガメは大喜びしている。もちろんカメックスも、ヒトカゲがいてほしいと思っていたようだ。
 だがやはり乗り気でないのはルカリオとアーマルドだ。あまり事件に巻き込まれたくないということもあるが、1番の理由は、もちろんカメックスという恐怖の対象である。

「お前ら、何黙ってやがんだ? まさかこの期に及んで行かねぇとかぬかすつもりか?」
『い、行きますっ!』

 2人の返事は否応なしに決まってしまった。ここで「本当は行きたくない」と言ってしまえば、お互い20年ちょっとの生涯に幕を閉じることになりかねないと悟ったからだ。


 それから、彼らは3グループに分かれて行動を開始した。ヒトカゲ・ゼニガメグループは図書館を調査、ルカリオ・アーマルドグループは美術館を調査、そしてカメックスは単独で聞き込みをすることになった。
 ヒトカゲとゼニガメは図書館で、当時の状況について詳しく聞き込みをする。だが当時図書館にいた職員のカモネギは、図書館をこのようにされるような出来事などはないと言い切った。

「これ警察にも言いましたけど、確かにうちの図書館には重要な書物がありますが、一般公開してないので普通のポケモンは閲覧することができないのですよ! だからうちが誰かに荒らされるような原因は……」
『それだと思うよ』

 何ともあっさり情報を得ることができてしまった。全国10以上の図書館にいるカモネギ兄弟の中でも、ロルドブログにいるカモネギは少々抜けているようだ。

「その書物ってどんなものか、見ることできるのか?」

 ゼニガメはダメ元で尋ねてみたが、カモネギはすんなりとその書物のある部屋へと案内してくれた。一般公開してないとはいえ、職員に頼めば簡単に閲覧できるのだとか。全くもって重要な書物を扱っているとは言えない。


 その頃、ルカリオとアーマルドも美術館で係のポケモンから説明を受けていた。だがこちらはヒトカゲ達とは異なり、ほぼ全ての展示物が重要なものである。物が奪われていない以上、何を目的としているかわからないでいるという。

「いやー参ったな。これじゃ何も手がかりつかめねぇし……アーマルド、ちょっと見学してくか?」
「……あぁ」

 これ以上調べようがなくなった2人は手持ち無沙汰なため、暇つぶしに美術館を見学することにした。この時にはカメックスの事など2人の頭になかった。

「ほぉーこれまた立派なカバルドンハニワだこと」
(おお、これがまもりのオーブかぁ。凄ぇ、欲しいな)

 歴史的に重要な物や、現代において希少価値の高いもの、それらの1つ1つを見ながら2人は見学を楽しんでいる。もしカメックスがこの事を知った場合、彼らは生きて帰れるだろうか。

「……ん? アーマルド、これ見てみ」

 何かを発見したらしく、ルカリオがアーマルドを呼びかける。アーマルドが彼の指すものを見ると、おもわず感嘆の声を上げた。

「凄ぇ綺麗だな……」

 2人が見たのは、両端が尖っていて、時には鈍く、時には鋭く赤色に輝いている水晶のようなものだった。それは大きな宝石の一部ではないかと言われているものだとか。
 ルカリオがこの水晶らしきものに惹かれたのには理由があった。何となくではあるが、彼の持っている光輝く玉と関係ありそうな気がしたらしい。

(でも思い違いだな。変わった光り方してるからそう思っただけだろ、きっと)

 その水晶らしきものをずっと眺めてはいたが、ルカリオは自分の玉との関連性はないと判断し、「ただの綺麗な石」だと思い込み、その場を後にした。


 日が完全に沈み、街は夜を迎えた。みんなは街のはずれにある、街のイメージキャラクターになっているニョロトノ(市長ではない)の銅像の前に集まり、結果を報告しあう。

「夜遅くまでご苦労だったな。まずゼニガメ、そしてヒトカゲ。何か手がかりあったか?」
「一応、図書館に狙われるようなものはあったよ。古文書みたいだけど、何が書いてあるかは誰もわからないみたい」

 ヒトカゲがカメックスに、図書館にあった重要な書物について伝えた。おそらく荒らされた原因があるとすれば、これ以外には考えられないという結論に至ったようだ。

「そうか、図書館についてはそれかもしれんな。じゃあ次、お前ら」

 指名されたルカリオとアーマルドは一瞬固まってしまった。ここで正直に「全部狙われそうな物だった」や、「さっきまで見学してただけ」と言えるはずがない。

「おい、何故黙っている? まさか、サボってその辺で遊び呆けてたとかぬかすつもりじゃねぇだろうな?」

 図星をつかれた2人はどんな小さなことでも報告しなければいけないと思い、美術館で1番印象に残っていた展示物について報告した。

「あ、狙われてるものかはわからんけど、凄く綺麗な石があったぜ。何でも大きな宝石の一部だとか言われてるってさ」

 ルカリオが伝えたのは、アーマルドと一緒に見たあの赤色の水晶らしきもののことだ。とにかく綺麗だったことを強調し、それが狙いだったかもしれないと付け加えた。
 だがそんな説明で納得するカメックスではなかった。ルカリオ達の表情や話の内容などを考慮した結果、彼らにハイドロキャノンを向けたのだ。

「てめぇら、ただ美術館見学してただけじゃねぇのか?」
『い、いやいやいやいや!』

 2人は全力で否定するが、一旦疑いの念を持ったカメックスの考えを曲げるのはかなり困難なことだ。カメックスはじりじりと2人の元へと近づいていく。

「たとえ高価な宝石だとしても、そんな一部だけ欲しがる悪党共がいるとでも?」

 その時だった。カメックスの言葉に答えるかのように、何者かの声が辺りに響き渡った。


「いたらどうする?」


 聞き慣れない声にみんなは誰だと思いながら振り向くと、彼らにとってまずい事態がそこで起こっていた。

『し、市長!』

 そこでは、サメを思わせる頭部や尾をしている、小型の肉食恐竜のような姿をしているポケモン、ガバイトがその腕をニョロトノの首に回し、自身の鰭のような器官を首に突きつけている。
 その横には、ハイエナに近い外見のポケモン、グラエナがヒトカゲ達を黙ったまま睨みながら構えている。状況からすると、ガバイトの仲間のようだ。

「どういうつもりだ?」

 おそらくこいつらが犯人だろうと、カメックスはルカリオ達に向けていたハイドロキャノンを今度はガバイトとグラエナへと向けなおす。だがニョロトノも相手の手の内にいるため、迂闊に攻撃できない。辺りは緊張状態だ。

「必要だってことだよ、その石の破片がな」

 にやりと不気味に笑いながらガバイトは言う。本当なら攻撃を仕掛けたいところだが、まずはニョロトノの安全確保が第一だ。話をして時間稼ぎしている間にみんなは自分なりの作戦を考えていた。
 そうしている間に、さらに悪いことは続く。作戦を練っている間に空から1匹のポケモンがヒトカゲ達の前に降り立った。西洋風のドラゴンに近い外見のポケモン、ボーマンダだ。全身に傷跡があるのが特徴だ。

「遅かったな」
「悪い、手間取ってな」

 ボーマンダは静かにそう言うと、獲物はどいつだといったような目つきでヒトカゲ達を一望するが、攻撃してくる気配はない。その答えは本人からすぐに返ってきた。

「そこの赤いガキ。この市長さんを助けたいなら、今話していた石の破片を持ってこい」

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