【十三】悔しい

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 ヒノテは素直に感心していた。
 センスはあると思っていたが、メグリがここまで出来るとは思っていなかった。
 フィールドを使う機転、ラグラージへの素早い指示出し、相手の動きを理解する直観力。
 どれをとっても初心者のそれではない。
 対してヤミラミも、ただ楽し気に突っ込んで行くだけではない、相手を見る冷静さを見せた。ヒノテが感じていた動きの良さも、想定よりずっと良い。
「大丈夫か?」
 ヤミラミへ駆け寄ると、そこまでのダメージはないのか、むくりと起き上がる。
「……どうした?」
 宝石の目をうるうるさせ、涙が零れる。悔しかったのだろう。ぴぎゃあ、と鳴きながら、ヤミラミはヒノテに抱き着いた。
「そうかそうか。頑張ったもんなあ、あともうちょっとだったもんなあ」
 体格、経験、技、全てにおいてヤミラミを上回るラグラージに勝てず、悔しがっている。その負けん気はバトルをするにおいては大切なものだ。
 そして何より、楽しんでいる。
 バトルをさせて良かったと、心の底からヒノテは思った。
「大丈夫? 大きな怪我とかしてない?」
 心配そうに近寄ってきたメグリに、ヒノテは首を横に振って返答する。
 安堵した様子で、メグリもまたヤミラミを撫でた。
「それより、やるじゃないか。授業でやった事があるくらいで、あそこまで出来るなんて本当に凄い。知識もあるし、どこかで勉強していたりするのか?」
 へへ、と照れ臭そうに頬を掻いたメグリは、こくんと頷く。
「たまにアスナちゃんのところへ行ってこっそりトレーニングに混ぜてもらったり、有名なトレーナーのバトルとかは、内緒でチェックしてるんだ。学校の勉強だって、他の子達には負けないしね」
「なんとまあその歳で勤勉なことだ。末恐ろしい娘だよ本当に」
 後ろから近づい来たラグラージが、ひょいとメグリを抱き上げる。
「わあ! どうしたの!」
「ラグラージも、メグリの力を認めたって事だよ。良かったな、仲良くなれて」
 その力を理解したのは、ヒノテだけではなくラグラージも同じだった。
 そして、若い力に驚くポケモンがもう一体。
「グラエナ。どうだ、ヤミラミは強いだろ」
 過保護に吠えていたグラエナだったが、予想だにしない実力を見せられ、驚いている事は間違いない。それでも、可愛い妹分である事は変わりないらしい。近づいて来たかと思えば、自慢気なヒノテには見向きもせず、ヤミラミを優しく舐めて、その鳴き声を鎮めようとしている。
「よし。とりあえず一旦休憩だ。ある程度体力が戻ったら、今度はラグラージとグラエナでやろう」
 メグリを肩に乗せ上機嫌なラグラージも、優しくヤミラミを舐めるグラエナも、ぴたりと止まって視線を送り合う。
 奴にだけは負けない。
 ヒノテにとって頼もしい二体が、静かに火花を散らし始めた。

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