第62話 脅威

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「まずはお前からだ。“シャドーボール”」

 空中から降りてきたミュウツーが最初に目をつけたのはカメックス。両手で黒いエネルギー弾を作り彼へ目掛けそれが放たれると、とてつもないスピードで向かってきた。

「これくらいの攻撃、“ハイドロポンプ”!」

 カメックスのハイドロキャノンから勢いよく噴射された水は“シャドーボール”に当たり、軌道をずらすことに成功した。“シャドーボール”は彼の後方に落ち、氷に大きな穴を開けた。

「甘いな」
「なんだと?」

 カメックスが“ハイドロポンプ”を放ち終わった時だった。ミュウツーは既に次の技を放っていて、カメックスがミュウツーの方に視線をやった時には目の前まで“はどうだん”が来ていた。

「ぐっ……なるほど、“シャドーボール”は囮だったってことか」

 “はどうだん”を受けたカメックスが表情を歪めながら分析する。それにミュウツーは何も答えることなく、ただ傷ついたカメックスを見ているだけだった。

「“エナジーボール”!」

 次にチコリータが“エナジーボール”を放つが、ミュウツーはたじろぐことなく冷静に対処した。

「“サイコカッター”」

 数枚のカッターが“エナジーボール”目掛け飛んで行き、それが当たると“エナジーボール”はその場で爆発し、煙を上げる。
 その直後、煙の中から新たな“エナジーボール”がミュウツーに向かってきた。実はこれはドダイトスが放ったもの。カメックスの言葉を聞いて相手と同じ囮を使うとは想像しないだろうと咄嗟に判断したのだ。

「“バリアー”」

 小さく驚くミュウツーであったが、特に混乱するわけでもなく“バリアー”で攻撃を防いだ。その洞察力はカイリュー達を軽く超えていた。

「くそっ!」

 ドダイトスはこの攻撃が当たらないはずがないと思っていたようで、歯ぎしりしながら腹を立てる。

「準備運動になったぞ」

 鼻で笑いながらミュウツーは言うと、“バリアー”を張ったまま両手を合わせて瞳を閉じた。みんなは何をしているかわからずただ見ているだけだったが、ルギアだけはミュウツーの行動を見抜いていた。

「“ふきとばし”!」

 ルギアはその大きな翼で竜巻が作れるほどの風を起こした。だがミュウツーは吹き飛ばされることなくその状態を保ったままでいる。

「なあルギア、あいつは何を?」

 技に動じず黙っているミュウツーの状況をよく理解できずにいるゼニガメに、焦りを募らせているルギアが応じる。

「あいつがやっているのは“めいそう”だ。かなり危険だ」
「どういう事?」
「ただでさえあいつは強い。それにも関わらず“めいそう”でさらに能力を上げているのだ」

 実際にミュウツーの強さを知っているのはヒトカゲとルギアのみ。ゼニガメ達がその恐ろしさを知ることになるのはそれからすぐだった。
 “めいそう”を終えたミュウツーが“バリアー”を解除した。ミュウツーは自身の能力が上がっていることを感じているのか、不敵な笑みを浮かべている。

「さあ、始めようか」

 そう言うと、ミュウツーの体が紫色のオーラに包まれた。見るからに本気モードのようだ。

「じゃあ遠慮なくいくぜ。ゼニガメ!」
「わかった! “ハイドロポンプ”!」

 ゼニガメとカメックスは掛け声と共に“ハイドロポンプ”を同時に放った。2つの水が合わさり勢いがより強くなった“ハイドロポンプ”に対し、ミュウツーは右手をすっと差し出して頃合を見計らっていた。

「フルアタック-1、“10まんボルト”」

 水がミュウツーの手に触れた瞬間、彼はその手から高電圧の電気を放った。“10まんボルト”は光速で水を伝わり、それは水を放っているゼニガメとカメックスを襲う。

『ぐあぁっ!』

 2人にとっては今までに経験した事のない痛みだ。体の中から多くのアイスピックが飛び出したような感覚が全身を支配する。2人はその強烈な痛みに堪えきれずに足を崩した。

「ドダイトス、いくわよ!」
「わかってますよお嬢! “マジカルリーフ”!」

 憤慨したチコリータとドダイトスはカメックス達同様、2人で“マジカルリーフ”をくりだした。これなら電気を浴びることなく攻撃できる、そう思っていた。
 ドダイトスがミュウツーの様子をうかがうと、ミュウツーは手を差し出すことなくただじっと“マジカルリーフ”を見ているだけだった。これは絶対に当たると確信した。

「フルアタック-2、“かえんほうしゃ”」

 何とミュウツーは“かえんほうしゃ”を口から放ったのだ。灼熱の炎は葉っぱを燃やしつつ、その勢いを止めないまま2人に接近する。
 数秒も経たないうちに炎はチコリータとドダイトスに届き、身体に纏わりついた。

「チコリータ! ドダイトス!」

 弱点攻撃を放たれ心配になったヒトカゲが声をかけたが、ゼニガメ達と異なり立てなくなるほどのダメージを受けていなかった。

「あ、危なかったわ……」
「ここだったから助かったのだろう」

 2人が難を逃れた理由、それは今自分達がいる場所にあった。ここはフリーザーが張った氷の上。“かえんほうしゃ”によって一瞬で氷が昇華して水蒸気となり、その水蒸気のおかげで炎の勢いを徐々に弱めることができたのだ。

「次はお前だ。フルアタック-3、“れいとうビーム”」

 チコリータとドダイトスにダメージを与えたとわかると、ミュウツーの次の標的はルギアに移った。またしても強力な技、“れいとうビーム”を放つ。

「“しんぴのまもり”!」

 状態異常にならなければどうってことない、そう思ったルギアは反撃せずに守りの態勢に入る。それを学んだのは前回ミュウツーと戦った時のようだ。

「ずいぶんと余裕だな」
「私を誰だと思っている?」

 互いに睨み合い、その場には沈黙の時間が流れる。2人から放たれる威圧感はヒトカゲ達にひしひしと伝わってきた。

(でも、ここで何か仕掛けて隙を作れば……いける!)

 突破口を開けると直感的に判断し、ヒトカゲは上空で戦っているルギアとミュウツーの方を見上げると、攻撃する態勢に入った。

「届け! “かえんほうしゃ”!」

 ヒトカゲは力を込めて“かえんほうしゃ”を、ミュウツーが放っている“れいとうビーム”目掛けくりだした。炎がぶつかると同時にエネルギーの相乗効果で小規模の爆発が起き、その爆風にミュウツーは少し押されてしまった。

「むっ、貴様か」

 ミュウツーはヒトカゲに目をやった。これでルギアの方に注意はいってない、それがわかるとルギアは口から思い切り空気を吸い込んだ。

「“エアロブラスト”!」

 まさに空気弾と呼ぶに相応しい“エアロブラスト”。ルギアはその空気弾をミュウツーに向けて放った。声に気づいてミュウツーが振り向いた時には既に避けきれないところまで来ていた。
 空気とはいえ、とてつもない圧力のある技だ。それを真正面から受ければ深手を負うことになるのは言うまでもない。誰もがそう思っていた。

「うぐっ!」

 みんなに聞こえてきたのは、ミュウツーの苦しむ声。確実にダメージを与えることが出来、これで勝つための道が開けたと確信した――ヒトカゲとルギアを除いては。

「……“じこさいせい”」
『なっ!?』

 2人だけが知る、ミュウツーの厄介な点。“じこさいせい”ができることである。それを知らないゼニガメ達はミュウツーが回復していくのをただ黙って見ているしかなかった。

「やってくれたな」

 体力が回復したミュウツーは静かに怒る。怒りの矛先はヒトカゲとルギアに向いている。ミュウツーは空中で全員に向けて両手を伸ばした。

「フルアタック-4、“サイコキネシス”!」

 その場にいる全員に向けてミュウツーは“サイコキネシス”をくりだした。みんなは身体が束縛されたのと同時に、じわじわと締め付けられる感覚に陥った。

『う、がっ……!』

 あと数分もこの状態が続けば窒息してしまう、それほどの威力を全員に与えているミュウツーの本当の強さを思い知らされた瞬間だった。
 “サイコキネシス”の力で、ミュウツーはヒトカゲを自分の目の前に連れてきた。

「お前はよく頑張った。ヒトカゲに退化しても、再びこうして私に立ち向かってくるとはな」

 ミュウツーの目の前でヒトカゲは悶え苦しんでいる。声を出したくても出せないでいた。

「お前のその努力に敬意を表し、お前に相応しい末路を捧げよう」

 ヒトカゲに「落ちろ」と一言言うと、ミュウツーは自身の右手を振り払った。それと共に体の軽いヒトカゲは後方に飛ばされた。その先にあるのは、先程“シャドーボール”で空いた穴だ。どうやら海に沈める気のようだ。

(ヒトカゲ!)

 声も出せず、身動きが取れないみんなは事の成り行きを見ることしかできなかった。誰もが最悪の結末を予想してしまった、その時だった。
 ヒトカゲが海に落ちる寸前、突如どこからか黒い影が現れて彼を受け止めたのだ。そして彼を乗せたその影はゼニガメ達のいる所へ駆け寄ってきた。
 ヒトカゲ達はその黒い影の正体がわかると、驚かずにはいられなかった。いきなり現れた影にミュウツーも驚き、おもわず“サイコキネシス”を解いてしまう。

「何者だ?」

 その黒い影は、ミュウツーに臆することなく堂々とその質問に答えた。

「俺か? 俺はこいつの兄貴みたいなもんさ」

 そう、彼らの前に現れたのは、バクフーンだったのだ。

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