第2話 島巡りの始まり

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 ……デリバードがボクの入ったプレゼントを運ぶ。多少揺れるが、そこまで気にならなかった。

『……着いたよ。ここがユウちゃんの家だ』

 プレゼントの中にいるせいで、どんなところなのかは見えず、分からない。

『……"クリスマスの奇跡"によって、クリスマスカードをかざせば……。その家に入れるようになるんだ』
『凄いですね……』

 デリバードは、ユウちゃんの家に入っていった。デリバードが歩いていく。
 ……なんだか、緊張してきた。

『……ここがユウちゃんのベッドだ』

 デリバードが小声で話す。

『それじゃあ……ユウちゃんをよろしくね、ミミッキュ……!』
『はい……短い間、ありがとうございました……デリバードさん……!』
『僕も、キミと居られて良かったよ。ありがとう……!!』

 デリバードの足音が聞こえる。
 もう、行ってしまったようだ。
 この一晩だけだったけれど、デリバードと一緒に過ごした時間は、とても楽しかった。

 外が見えないせいで、今どのような状況なのかわからない。おそらく、ベッドの枕元にいるのだろう。
 これから……上手くやっていけるだろうか。"クリスマスの奇跡"はちゃんと味方してくれるのだろうか。
 ボクは、不安で胸がいっぱいだった。





 気がついたら寝てしまっていたようだ。今はもう朝だろうか……?
 ……何やら声が聞こえる。

「おーいママ、ちゃんとプレゼント届いてるよ!」
「シッ、ユウが起きちゃうでしょ」

 会話しているのは、ユウちゃんのお父さんとお母さんのようだ。
 ああ……。もうすぐユウちゃんが起きてしまう。どうしよう……どうしよう……。

「……ん、朝ぁ~?」

 女の子の声。この子がきっとユウちゃん……。

「あっ、今日は……クリスマス! そして、私の誕生日だ!」
「そうよ! ほら、枕元見てみなさい」
「あ……やったぁ! プレゼントだぁ!!」

 ユウちゃんの弾んだ声が聞こえる。それと比例するかのように、ボクの不安は高まっていく。
 ユウちゃんがプレゼントに手を伸ばす。ああ、箱が開けられてしまう……。
 ボクは目を瞑って、祈った。ユウちゃんが悲しみませんように……。
 箱の中に光が入り、明るくなる。

「わぁっ……! ピカチュウだぁ……!!」
「ミ……ピカ!」

 ピカチュウ。ボクのことをピカチュウと言った。
 ユウちゃんは、ボクのことをピカチュウだと思ってくれたようだ。姿がピカチュウに見える魔法でもかかってるのだろうか。それとも、単にミミッキュを知らなかっただけか。どちらにしろ、とりあえず一安心だ。
 鳴き声もピカチュウらしい鳴き声が出せるようになっている。"クリスマスの奇跡"さまさまだ。
 ユウちゃんがボクを箱から取り出し、抱きかかえた。

「ママ、パパ、見て!! ピカチュウだよっ!!」
「……え、ええ! 良かったわね、ユウ!」
「……おー! ユウがいい子にしてるからだな」

 反応がぎこちない。ミミッキュだとバレている。姿は、騙せなかったようだ。
 となると、ユウちゃんはミミッキュというポケモンを知らなかったのだろう。
 ユウちゃんの両親は、ユウちゃんを悲しませないようにボクをピカチュウとして扱う。それがありがたくもあり、つらい。

「ピカチュウ、これからよろしくね!」

 笑顔で話しかけられる。

「……ピカ!」

 これからボク……ピカチュウをよろしくね、ユウちゃん。

「ユウ、今日島巡りに出るのか?」
「うん! 朝ごはん食べたらすぐ行くよ!」

 ユウちゃんがボクの方を振り返る。ボクとユウちゃんは向かい合う。

「ねぇピカチュウ。アローラには島巡りっていうものがあるの。……一緒に来てくれるかな……?」

 ボクには、行かないという選択肢は残されていない。ユウちゃんの悲しむ顔は見たくない。そのために、偽ってプレゼントになってまでここに来たのだから。

「……ピカキュウ!!」
「やった! ありがとう、ピカチュウ!!」

 ユウちゃんがボクを抱きしめる。
 暖かい……。誰かと触れ合うということは、こんなにも暖かいことだったなんて……。今まではなかったことだったから、心が満たされた。

「それじゃ、行ってくるね!」
「……ピカ」
「……行ってらっしゃいユウ。気をつけるのよ」
「ちょっとちょっと! そんなに暗くならないでよー! ピカチュウだっているんだし!」
「ピ……」

 ユウちゃんは知らない。この暗い雰囲気が、ボクのせいだということを……。

「まあいいや。行ってきますっ!!」
「……行ってらっしゃい」

 ユウちゃんは勢いよく家を飛び出した。……ユウちゃんの両親は、ボクがピカチュウだということを隠してくれたけど……。これからは……どうしよう……。





「ねぇ、ピカチュウ。ここはメレメレ島っていうんだよ! 守り神はカプ・コケコっていうんだ!」
「ピ……ピカ!」

 ユウちゃんがボクに色々なことを教えてくれる。
 と、突然ユウちゃんが歩く足を止め、ボクと向き合う。

「……ピカチュウ」
「……ピ?」
「ありがとね。私についてきてくれて。……正直、断られるかもって不安だったんだ。でも、ついてきてくれて……嬉しかった!」

 ユウちゃんが笑った。
 断るわけない。だって、だってボクは……。自分を偽ってまでユウちゃんの笑顔が見たかったから……!
 自分でもわからない。何故、見ず知らずの人間にこう思うのか。
 それでも……。もう、あとには戻れない。この事実は変わらない。だから……。

「今ね、リリィタウンってところに向かってるの」
「ピカ?」
「ハラさんに挨拶に行くの。ハラさんはね、メレメレ島の島キングなんだよ!島キングってすっごくすっごく強いんだ!!」

 熱烈に語るユウちゃん。とても楽しそうでボクも嬉しくなる。





 しばらく歩いていると……。

「あっ! トレーナー!」
「!!!」

 たんぱんこぞうに声をかけられる。
 ……マズい。
 トレーナーと目が合ってしまった。それが指すことは……。

「……! 目と目があったらポケモンバトル!!」

 どうしよう、どうやったらバレずに済む……?

「初バトル、頑張ろうね! ピカチュウ!」
「ピカチュウ? ソイツは……」

 ダメッ……!!





 ボクは必死に叫んだ。すると……。
 ボクの体から不思議な光線が出た。これは……技? でもボク、こんな技覚えない……。

「……どうしたの? 大丈夫?」
「ん? あれ……。ああ、大丈夫だ!」

 たんぱんこぞうはボーッとしている。
 パンッと、ユウちゃんが手を叩き仕切り直した。

「じゃあ、改めて行っくよー!」

 そして、こう叫んだ。

「ピカチュウ! 君に決めた!」

 やるっきゃない。初バトル、全力で……!

「ピカキュウッ!!」

「オレも! ゆけっヤングース!!」

 たんぱんこぞうがボールを投げる。

「グゥゥゥウウ!!」

 ヤングースがボールから飛び出て、雄叫びを上げた。
 お互い、目を見合わせて――。

「バトル、スタート!!」

 二人の声が重なった。
 ボクとヤングースは、同時に地面を蹴る。
 ……バトルの最中でも、ミミッキュであることを隠し続けなければならない。ピカチュウっぽい技を……。

「ピカチュウ、"10万ボルト"!」
「ピィィィカァァァ……キュゥゥゥゥウウウッ!!」

 ヤングースに向かって電撃が放たれる。……昨日までは10万ボルトなんて覚えていなかったのに。……クリスマスの奇跡か。

「ケッ、お前のピカチュウやるな!」
「……!!」

 今、ピカチュウと言った……! ……なるほど。さっきの光線は洗脳光線か。あれは便利だ……!

「ふふーん! 負けないからねっ!」
「こっちだって! いくぞヤングース、"たいあたり"!!」
「ヤングゥゥゥッ!!」

 たいあたり。ノーマルタイプの技。ボクには当たらな……。

「グウッ!!」
「ピッ……!?」

 ……ヤングースのたいあたりはボクに直撃した。……なるほど。今はミミッキュじゃない。ボクはピカチュウなんだ……!

「ピカチュウ、大丈夫!?」
「……ピッカァ!」
「よかった……気を取り直して、いくよっ! ピカチュウ、もう一度"10万ボルト"!!」
「ピカッ! ピィィィカァァァ……キュゥゥゥゥゥゥゥゥウウウッ!!」

 ボクはありったけの力を出した。
 ……ボクはあんまりバトル経験はないのだけど……。これも、ユウちゃんのため。
 起こっていた砂煙が晴れる。その先を見ると……。ヤングースが倒れていた。

「…………!」

 倒した……みたいだ。ユウちゃんの表情がパアッと晴れる。ユウちゃんが僕の元に駆け寄ってきた。

「やった! やったよピカチュウ! 初バトル、勝利だね!」
「ピカァ……!」

 ボクはユウちゃんにギュウッと抱きしめられる。こうやって抱きしめられると、なんだか嬉しい。

「っと……戻ってくれ、ヤングース」

 たんぱんこぞうはヤングースをボールの中にしまった。

「ふー……おめでと。お前のピカチュウめっちゃ強かったぞ!」
「ありがとう!」
「ピカキュウッ!」

 とりあえず……良かった。不思議な光線を出せば、みんなにボクがピカチュウだと騙せるかもしれない。

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