プロローグ ~しらないばしょで~

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

このサイトを小説の公開のために使ったのは初めてです。ついでにポケモンの二次創作を書くのも初めてです。よろしくね!
「あ……れ?」

ある日、いい風の吹く昼下がり。一人の少年はひどく困惑していた。
いつものように目を覚ましたら、歯を磨き、朝食をとって学校へと赴く。少年はそうするつもりだった。しかし、目を開いた途端に気がついてしまう。この異常な事態に。

「……ここは、どこだろう?」

まず、目を開いた少年の目に飛び込んできたのは全くなじみのない天井。いや、天井と言うより、屋根を内側から見ているようなイメージだろうか?梁が露出していて、なんだか古くさい雰囲気を放っている。そして横へと顔を向けると、漆喰のような物で塗られた白い壁と、木製の丸い窓枠が見えた。その十字の格子がかけられた窓枠にガラスははまっていない。このような建物を少年は知らない。
……まさか、眠っている間に誘拐でもされてしまったのだろうか?そんな不安が少年の頭によぎる。

「……とにかく、ここからでないと」

そう言って起き上がろうとした瞬間、足下からがさがさと、何かが擦れる音がした。見てみれば、藁が敷かれている。自分はこんな物の上で眠っていたのだろうか?そして、床がフローリングであることにも気がつく。それは表面加工などが施された木製の床板なのだが、天井や自分が寝かせられていた藁とくらべると、とてもちぐはぐな印象を受ける。ここだけ妙に近代的なのだ。
……いや、そんなことはどうでもいい。そう少年は心の中でつぶやくと、おぼつかない足を目の前の扉へと進める。その扉は、自分と比べていくらかサイズが大きいように感じるが、それでも特に問題なく開くことができた。扉はガチャリと音を立て、その先の視界を開く。そして見えたのは、どこか手作り感のある小さめの椅子とテーブル。そしてその椅子の上には、一匹のポケモンがちょこんと座っていた。
そのポケモンは四足歩行で、その体毛の色は茶色を基調としている。それにやや横に伸びた長い耳と太めのしっぽを持ち、そしてクリーム色のふかふかの毛が首回りを覆っている。しんかポケモンのイーブイだ。そのきれいな毛並みや首に巻かれた紫のスカーフから察するに、おそらく人に飼われているポケモンなのだろう。
……人に飼われているポケモンがいる。それはポケモンの飼い主の存在を示し、そしてその飼い主の存在はこの建物の管理者の存在を連想させる。

(やっぱり、ボクは誘拐されてしまったのかな。でも、なんで……?いや、とにかくここから逃げないと……)

誘拐されたことを確信した少年はすぐに、この建物から脱出しようと行動する。幸いなことに、少年の前方にはおそらく外へとつながっているであろう扉が存在していた。それを確認した少年は、その扉へと向かって、やはりふらふらとおぼつかない足を前へと進める。冷静に、一歩一歩、音を殺しながら……そのおかげか、何にも気づかれずに扉の目の前へとやってくることができた。しかし、もう少しでここから出られる。そう思った瞬間。寝起きだったせいなのか、音を消すように歩いた疲労のせいなのか。そのおぼつかなかった足は限界を迎えてしまう。

「うわぁっ!?」

扉の隣に置かれていたガラス玉や木の枝、木の実などがはいった木箱に、その中身が飛散する大きな音と少年自身の短い悲鳴を発しながら、少年は思いっきり倒れ込んでしまったのだ。
当然、少年はこの恐ろしい状況から逃げ出すべく立ち上がろうとするが、それはかなわない。もし、ここに自分を誘拐したであろう人物がいたとしたら?もし、自分が逃げだそうとしていたことを感づかれたとしたら?その恐怖が、少年の体を支配したからかもしれない。もしくは単純に、丸いガラス玉や木の実が少年の行動を阻害したからかもしれない。もがいてももがいても、少年は立ち上がることはできなかった。
……足音が近づいてくる。何の足音かは少年にはわからないが、少年の焦りや恐怖を大きく加速させたのだけは確かだった。そして、少年は何もできないまま足音の主を迎える。

「あっ!!ああぁっ!……あ。なんだ。び、びっくりしたぁ」

少年は安堵した。いや、まだ、ほかの脅威がこの物音を聞きつけていないという保証はないが。その足音の主は、先ほど椅子の上に座っていたイーブイだったのだ。見たところ少年に敵意を寄せているようには見えない。少なくとも今は、恐ろしい真実に直面しているだとか、そのようなことはないのだ。なかったのだが。

「えっと……何してるの?キミ」

突然、目の前のイーブイが口を開き、そこから確かに人間の少女の声で、人間の言葉を放ったのだ。少年がその声を認識した瞬間、少年の安堵の感情はどこかへ消えてしまった。

「え……あっ……し、ポケモンが、しゃべったぁーーーっ!?」

少年は悲鳴にも似た、驚愕の声を上げる。そして後ずさりもしようとするが、床に飛散したガラス玉のせいでうまく動くことはできなかった。普通、ポケモンが人間の言葉で話すことはない。アニメや漫画、小説の世界なら話は別だが、これは現実なのだ。

「何言ってるの?キミだって、ポケモンなのにしゃべってるじゃないか」
「な、そんな、ちがうよ!!ボクは人間だよ!」

イーブイの言い放った、人間であるはずの少年にとって理解に苦しむ発言に対して、少年は半ば脊髄反射のように反論する。そのセリフを聞いたイーブイは数秒間悩んだあと、何かを思いついたような表情をした。

「そうだ。じゃあ、こっち来て!」

突然、イーブイは前足を器用に使って、少年の片腕をつかむ。そして、どこかへと少年を連れ去ろうとするのだ。

「うわっ!?離して!離してよ!」

もちろん少年は、それを振り払おうとする。しかしながら少年は、突然の事態だからだろうか。たかさがたった0.3mほどしかないイーブイの、その前脚を振り払う事はかなわなかった。それどころか、イーブイにされるがままに、体をひっぱられてしまう。
この状況に少年は恐怖する。得体の知れない存在にされるがままにされている、というのもそうだが、それ以上に……人間の13歳の平均体重は47kgほどなのだが、それをイーブイという特別力が強いというわけでもないはずの小柄なポケモンが軽々と引っ張ってゆく。それが一番恐ろしかった。
抵抗しても、抵抗しても、ついに振り払うことのできぬまま、イーブイの目的地……どこか手作り感のあるテ-ブルの前にまで連行されてしまう。そのテ-ブルの上には本や新聞、そして鏡がおいてあった。イーブイは少年を捕まえているのとは逆の前足で鏡をこちら側に動かすと、少年の視界をその鏡へと強制的に差し向ける。

「ほら、これで"ボクは人間だ"なんてヘンなことは言えなくなるでしょ!」

鏡を半ば強制的にのぞかされた少年の視界には、どこにでもいる、平凡な人間の少年の姿はどこにもなかった。その少年の代わりに、一匹のポケモンが鏡に映っている。少年をつかんでいるイーブイではない。もう一匹、いたのだ。
そのポケモンは、四足歩行で、青色の肌をしている。ただおなかと顔の口より下の部分は白に近い。そして頭とお尻には魚のひれのような物がある。色は、頭の方は青、お尻のほうは白だ。そしてほっぺたの両方にはオレンジ色の、みっつのとんがりがある特徴的な器官……エラがあった。ぬまうおポケモンのミズゴロウだ。
これを見た少年は、おぞましい事実に気がついてしまう。いや、気がつかないはずがない。この鏡の中のミズゴロウは、知らない誰かではない。まさに、彼は自分自身なのである。その衝撃的な事実に、少年は……

「え……ぁ……」
「あれ?……ど、どうしたの!ミズゴロウさん!?」

突然、少年はイーブイの前脚の中でがくりと倒れ込む。精神的なショックのせいなのだろうか、意識を失っているようだ。

「……いったい、なんなんだろう。このミズゴロウは……」

この気絶してしまった少年にとって、この一連の出来事はまさに理解不能と言うべきものであった。しかし、理解不能な状況に晒されているという意味では、それはイーブイにとっても同じ事なのである。イーブイは知っている。人間という生き物は、ずっと昔に絶滅しているということを。にもかかわらずこのどこからどうみったってミズゴロウにしか見えないこの少年は、自分は人間だと言い放ったのだ。
……いったい、何がどうなっているというのだろうか?

「とりあえず……寝室まで運んであげようか」

イーブイはそうつぶやくと、少年を半ば引きずるようにして、少年が目覚めたときにいた部屋へと運んでいくのだった。

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