使命であり、罪なんだ
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
「そんな事が……。」
アイ達は本部へ帰ると、ジン達に今回の事を報告した。ジン達はそれを聞くと、世紀の大発見だと言って喜んでいた。
「これは近い内に、会議を開かないとな。」
「そうだね。これで、僕らの罪滅ぼしも、君達の願いも叶うかもしれない。」
ジンは、光風の二人の方を向きながら言う。その意味深な言葉に、アイ達は首を傾げる。ジンに微笑みを向けられていた二人は、目を輝かせ嬉しそうにしていた。
光風の二人が出ていくと、アイとチカはジン達に先程の事を聞いてみた。
「ジン……さっきのって……。」
「あぁ……、君達にはまだ話してなかったね。」
ジンは、少し複雑そうな顔をしながら言った。そして、少し考えるような素振りを見せると、口を開いた。
「そうだね……。彼女達の事は彼女達から聞くべきだと、私は思うね。その代わり、私達の昔話でもしようか。別にいいでしょ、ナミ?」
「俺はかまわない。」
ジンは、後ろで作業をしていたナミに声を掛ける。すると、彼女は手を止めず、目線もそのままに言った。ジンはその返事を聞くと、アイ達に目線を戻し、語り始めた。
「まあ昔話というか、どうして私達がこの夜桜堂を建てたのかって話しだね。」
~~~~~~
「ジン、ナミ、行くぞ!」
「今行くー。」
「何もそんなに急がなくても……。」
一人のエルレイドが、ジン達を呼ぶ。彼もジン達と同じような和服に少し手を加えた服を身に付けている。これで、彼も祈祷師だという事が分かる。
「本当にサクヤは祈祷師の仕事、好きだよね。」
「あぁ!だって、やりがいあるじゃん?」
ジンが苦笑を浮かべながら言うと、サクヤと呼ばれたエルレイドは爽やかな笑顔を浮かべながら言った。その表情と台詞で、彼がどれだけ祈祷師の仕事を愛しているかが伝わってくる。
「それは一理ある。」
ナミは、サクヤの言葉に同意の言葉を示した。その反応に、彼は嬉しそうに笑った。その様子をジンは、微笑ましそうに眺めていた。
~~~~~~
「ジン達って、最初は三人で活動してたんやな。」
アイの問いに、ジンは頷きで返す。そして、少し悲しそうな顔をして、呟くように言った。
「そうだね……。活動してたんだけどね……。」
~~~~~~
「母さん!しっかりして!!」
サクヤは叫ぶように呼び掛ける。その先にいるのは、自身の母親であろうサーナイトだった。しかし、彼女のルビーのように美しい赤い瞳は、光を失っていた。身体には、黒い靄が纏わりつくように渦巻いている。要するに、ケガレに憑かれているのだ。
ジン達は、彼の母親を助けるべく、刀を振るう。サクヤも自身の武器の大きな鎌を振るうが、相手はエスパータイプを合わせ持つサーナイト。以前も言ったように、エスパータイプがケガレに憑かれると、とても厄介だ。飛び道具がなければ、まず勝ち目はないと言っても過言ではない。しかし、この頃の彼らは未熟であった。
「あっ!」
ケガレのサイコキネシスにより、サクヤの鎌が持ち上げられる。彼は取られまいと手に力を入れるが、いとも簡単に振り払われてしまった。それにより、全てが変わった。
ケガレはサクヤの鎌を奪うと、目の前にいる彼に鎌を振り下ろした。サクヤは間一髪で避ける。ケガレは、目の前の動く物に集中して襲い掛かる習性がある。そのため、祈祷師はなるべく離れないようにして、ケガレと戦うのだが、その頃はまだその習性については明かされてなかった。サクヤは襲い掛かる鎌を避ける。しかし、相手はケガレなのだから、そう簡単に避けさせてはくれない。
「ッ……!」
「サクヤ!!」
彼の右肩に、鎌が突き刺さった。その痛みに、サクヤは顔を歪める。それを見たジン達は、大事にならない内に浄化しなければと思った。そうしなければ、サクヤの命が危ない。ジンはケガレの動きを止めるべく、背中から短刀を突き刺す。そして、素早く浄化すると、サクヤの元へと目を向けた。
時が止まった気がした。
彼の鎌は、彼の左胸を貫いていた。ジン達の視界からでは、ケガレの行動が見えなかったのだ。不覚だった。
「サクヤ!!」
「ジン……ナミ……おれ……もう……むりっぽい……。」
「そんな事言うな!!」
サクヤは虚ろな目で彼らを見る。サクヤの身体は、とても痛々しかった。誰が見ても、もう助からないと思う程の鮮血が滴っていた。今なおそれは、彼の白い汚れなき純白を紅く染めている。
「なぁ……ふたりとも……おれのかわりに……ゆめ……かなえてくれるか……。」
ナミは、もう冷たくなってしまった彼の手を握りながら頷いた。その瞳には、涙が溢れていた。その様子を見たサクヤは、微笑む。
「あり……がとう……。」
その言葉が最後だった。彼らの間に、冷たい風が吹き抜けた。
~~~~~~
「彼の夢はね、この八雲町に新しい祈祷師の本部を立ち上げて、そこの神主になる事だったんだ。」
その言葉に、声色に、アイとチカは息を呑んだ。今、ジンはこの夜桜堂の神主をしている。という事は……。
チカは、恐る恐る口を開く。
「ジンが神主をしてるのって……。」
「あぁ……、私が神主をしているのは、彼に頼まれたからなんだ。」
彼は懐かしむような、寂しそうな声で言う。とても痛々しいと思った。
「あの頃の私達は無力だった。彼に頼まれた瞬間、そう思ったよ。これは私達の使命であり、罪なんだ。」
いつものジンらしくない、自傷するような口ぶりに、アイ達はもうどうすればいいのか分からなかった。いつものようにいい言葉が見つからなかった。いや、見つけられなかった。そもそも、自分達は彼らよりも年下だ。まだ人生の半分も歩んでいない。そんな者が言った慰めなんて、軽いだけだ。
「さて、長々と話してしまったね。今日も色々あって疲れてるでしょ。体調には気をつけるんだよ。」
ジンは笑みを浮かべながら言った。しかし、それがアイ達には悲しそうに見えた。
複雑そうな顔をした二人が出ていった部屋には、静寂が訪れた。いつもの光景だというのに、少々心寂しく思った。
「なぁ、ジン……。」
ふいにナミが口を開いた。その声は震えていた。心臓を矢で射抜かれたような痛みが、ジンを襲った。
「アンタは俺を置いていったりしないよな?」
悲痛な叫びだった。先程まで動いていた手先は止まっている。
ジンはゆっくり近づき、そっと後ろから抱きしめた。
「うん、置いていかないよ。いくわけないじゃないか。」
次の日、アイとチカは依頼をこなしに、ダンジョンへと出ていた。今日の依頼は、ダンジョン内の見回りだ。今回のダンジョン『四季折りの園』は、季節に合わせて、様々な花々が咲き乱れる人気のスポットである。そして、比較的穏やかなポケモンが多いので、ピクニックや散歩がてら来るポケモンも多いのだ。しかし、やはり穏やかといっても、何も起こらない訳ではない。トラブルが起きていないか見回るのも、祈祷師の役目なのだ。それに、今はケガレの騒ぎも多発している。損な事はないだろう。
「今のところ、異常はなさそうだね。」
「そうやね。」
しかし、油断は禁物である。何処でどんな異変が起こっているか分からない。しっかりと眼を光らせていなければ。二人は辺りを見回しながら歩く。傍には夏を思わせる向日葵が咲き乱れている。それらは光を求めるように、太陽の方を向いていた。
すると、アイが横を向いたまま動かなくなったので、どうしたのかとチカは思った。
「どうしたの?」
「チカ、ここのダンジョン、こんな鳥居あるん?」
その言葉に、チカは彼女が見つめている方を向いた。そこには、四季桜の正面にあるような真っ赤な鳥居があった。しかし、不思議だ。四季折の園に、鳥居があるだなんて聞いた事がない。それに、何だか分からないがとても嫌な感じがした。それも、昨日廃墟探索の際に感じたような類の物だ。
「そんな事、聞いた事ないんだけどな……」
そう彼は答えた。しかし、一向にアイから返事が返ってこない。不審に思ったチカは、彼女の方を向く。そして、震え上がった。いつもキラキラと輝いている彼女の瞳からハイライトが消え失せ、光を失っているではないか。そして、その鳥居へと吸い寄せられるように歩いていく。これは危ない。直感的にそう感じたチカは、彼女の手首を掴み、懐へと引き寄せた。
「ちょっと、アイ!!しっかりして!?」
「んっ……えっ!?チカ!?」
彼が慌てた様子で呼びかけると、アイの瞳に光が戻った。それに、チカは心底安心した。しかし、アイからすると何が起きているのかさっぱりであった。まず、何故自分は彼の腕の中に収まっているのか。そして、何故彼は安堵の表情を浮かべているのか。
「まさか、覚えてないの?」
「へっ?」
彼は、先程あった事を話した。それを聞いたアイは恐怖を覚えた。この鳥居が、なんとなくケガレと関係ありそうな気がした。何故そう思ったのかは謎だが。廃墟の際もそうだったが、ケガレと関係ある場所で、なんらかの不思議な現象を体験している気がする。それが、自分が呼ばれているような気がしてならないのだ。
チカは、先程アイを引き寄せた事で、彼女が震えている事に気づく。チカは、アイを抱きしめる力を少し強めると、彼女が安心するように優しく言葉を放った。
「とりあえず、本部に戻ろう?」
アイは、チカの抱きしめる力が強くなった事に少し驚いていたが、自分を安心させようとしてくれている事に気づくと、素直に受け入れた。そして、彼の言葉に頷く事で返すと、足早に元来た道を引き返していった。