いずれまたその時は来るであろう

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「「廃墟探索?」」

アイとチカは、口を揃えて言った。
今彼女達は、ジンに呼び出されていた。その隣には、光風のハナとヤナギがいた。なんともまあ珍しい組み合わせである。ジンによると、この四人で今はもう使われていない寺の探索をしてきてほしいとの事だった。

「ここから少し西に行った所にあるんだけど、結構昔からあるみたいでね。まだ人間がいた頃からあるって言われてるんだよ。巷では、ケガレについての文献なんかが眠ってるんじゃないかって噂だよ。」
「その寺を探索して、ケガレについての情報を探ってきてほしい。」

ナミが詳しい内容を言うと、光風の二人は首を傾げる。

「そこって、前にレイ達が調査してなかったっけ?」

ハナが不思議そうに言うと、ジン達は苦笑いを浮かべる。彼らの話しによると、前に光芒の三人にこの調査を頼んだのは事実なのだが、いつも頼りになるレイが使い物にならないどころか、寺の前で直立不動で全く動かなかった事で断念したんだとか。

「レイって、筋金入りの怪談嫌いだからな。」

ヤナギは苦い顔をしながら言った。あのレイが、怪談話が嫌いという、少し意外な事実を知った。しかし、直立不動で動かなかったというところから、相当不気味だという事が想像出来る。アイ達は、少し不安に思いながら、その寺へと向かった。















八雲町の外れに建っている寺。それが、今回アイ達が調査する廃墟の寺だ。その寺は、もう何年も使われていないらしく、壁や立派な柱はボロボロに朽ち果て、昔は金色に輝いていたであろう金属の装飾は茶色く錆び、辺りは何かも分からない植物がぼうぼうに生えている。もはや、足の踏み場もないような物。そして、その周辺は嫌な空気が漂っており、入ってはいけないと身体が警告している。ここら辺だけ、空気が冷たい気がするのは、気のせいなのだろうか。これは、あの三人が怖じ気付いたのも納得が出来る。それ程に不気味であった。

「ちょっと……これは……。」
「さすがにヤバい気がすんねんけど……。」

アイとチカは、その雰囲気に恐ろしさを抱く。これは絶対に何か起こる。そう身体が訴えてくるのだ。さすがにハナ達も、この雰囲気には恐怖を覚えたようで、不安そうな顔をしている。しかし、怖がっている場合ではない。光風の二人はアイ達の方を向くと、言った。

「大丈夫よ。悪ふざけしなければ、何も起こらないわよ。」
「そうそう。さっさと中調べて帰ろうぜ。」

その言葉で、紫雲の二人も覚悟を決めたのか、頷いた。四人は、慎重に進んでいった。

















ミシミシと床が音を立てる。アイ達四人は、寺の廊下を歩いていた。廊下の床に敷き詰められている床板は、殆んど腐っているようで、ささくれだってはいないが、踏む度にベコベコとへこみ軋む。今にも底が抜けてしまいそうだ。そして、今は昼間だというのに、建物の中は暗く、懐中電灯無しでは歩けない程だ。

「何処にあるんだろう……?」
「あるとしても、もっと奥やろうな……。」
「それこそ、本堂とかな!」

そんな事を話しながら進んでいくと、大きく開けた場所が見えてきた。中を見ると、大きな仏像やら何やらが置いてあった。恐らくここが最深部、本堂であろう。勿論荒れ果ててはいるが。彼女達は意を決して、そのなんとも言えない空気が漂う本堂内へと足を踏み入れた。

「うわぁ……。」
「すげぇ荒れようだな……。」

チカとヤナギは、その荒れように言葉を失くす。寺を廃墟のまま残すというのは、あまりしない方がいい。神様に関係するような施設を手入れせずに放置するのは、良くない事だからだ。罰当たりな事をしているような物。そして、そこに踏み入れるのもまた……。
しかし、そんな事は言ってられない。自分達は調査の為に来たのだから、手ぶらで帰る訳にはいかない。一同は、室内をくまなく探す。積み上がった瓦礫を掻き分けてみたり、倒れた戸棚のような物を開けてみたりと色々としてみたが、それらしき物は見当たらない。その時だった。アイは、自分の前を何かが通り抜けたような気がした。それは、美しい模様の蝶だった。何でこんな所に蝶がいるのかと思ったが、彼女の身体はそれに引き寄せられるように動いていた。その動きを不信に思ったチカは、彼女の名前を呼んだ。

「アイ?どうしたの?」
「へっ?いや、さっきあそこに……?」

アイは蝶がいた方向を指差し示したが、もうそこには何もいなかった。代わりに大きな絵があった。水墨画だろうか。黒を使い分けた繊細なタッチで大きな桜の木と少女が描かれていた。恐らくこの桜の木は四季桜であろう。四季桜の特徴とも言える、四季に別れた桜の表情が描かれている。その横には、つらつらと文字が綴られていた。

「何これ……?」
「水墨画ね……。何か書かれているみたいだけど……。」
「読めねえな……。」

えっ?読めない?アイは驚いた。彼女にはこの文字が読めた。しかし、何故だろうか?こんな文字は見たことがないはずなのだが。自分が前までいた世界でも、こんな文字はなかったはずだ。しかし、何故だろうか。すらすらと読めてしまうのだ。そして、この水墨画に描かれている少女が、自身の人間の姿に似ているような気がするのは、気のせいなのだろうか。

「読める……。」
「えっ」
「私、これ読めるで……。」

その言葉に、他の三人は声も出なかった。そんな三人を尻目に、アイはその文章を読んだ。

止まらぬケガレの現象に、人間達は困り果てた。彼らはこれ以上ケガレの被害が広がらぬよう、一月ひとつきに一度、四季桜に生け贄を捧げた。しかし、ケガレの現象はとどまる事を知らなかった。その時、一人の巫女が名乗りを上げた。彼女は年端もゆかぬ少女であった。彼女は自身の身を捧げ、ケガレの現象を封じ込めた。しかし、いずれまたその時は来るであろう。ケガレは永遠の罪である。

アイは全て読み終えると、チカ達の方を向いた。彼らはアイが解読に何時間も掛かるであろう古代文字か何かさえも分からない文字を、すらすらと数分で読み終えてしまった事に、唖然としていた。

「凄い……凄いよ、アイ!」
「へっ!?」
「やっぱり、アイが人間である事と、何か関係しているのかしら……?」

チカ達が話していると、スマホを片手に持ったヤナギが三人の輪の中に入ってきた。

「バッチリ撮ったし、早く帰ろうぜ。」

ヤナギは、こんな不気味な場所にはもういたくないとでも言うように、三人を急かす。当の本人達は、それもそうだと思い、足早に本堂を後にした。















「いやぁそれにしても、アイの解読の速さには驚いたぜ!」
「無事ケガレについても知れた事だし、帰りましょうか。」

光風の二人は、ここに来た時よりも晴れやかな笑みで言った。流石にベテランの彼女達も、今回の調査はまた違った意味で緊張していたようだ。外はもう夕暮れ時で、茜色の空が四人を見下ろしていた。
アイは、何故だか本堂の中で見た水墨画が頭から離れなかった。自分に似た少女、そして最後の『ケガレは永遠の罪』という言葉。それに引っ掛かりを覚えたのだ。前にも同じような事があった気がする。記憶を漁っていくと、夜桜堂に来たばかりの時に、夢に現れた少女も同じ事を言っていた気がする。服装は違ってはいたが、確かに同じ事を言っていた。
そんな時だった。冷たい風が吹いた。後ろに気配を感じた。四人はダンジョンにいるような野生のポケモン達が、縄張りを荒らされた事によって出てきたのかと思った。しかし、四人がそちらを向いた方にいたのは、全く違うものだった。

「ひっ……」

四人は声にならない悲鳴を上げる。そこにいたのは、正にあの水墨画に描かれていた少女だったからだ。この世の者とは思えない程に青白い肌とボロボロの巫女の衣装。そもそもここはポケモンしかいない世界なのだから、人間そのものがいるはずがないのだ。彼女はゆっくりと顔を上げた。その乱れた長い髪の間から垣間見えた、生者の物とは程遠い瞳に、四人の恐怖を表すメーターは基準値を越えた。

「うわぁぁァァァァ!!」
「ぎゃぁぁァァァァ!!」

四人が走り去っていった方向を、少女は少し寂しそうな目で見つめていた。透けた巫女衣装を、夕風が揺らしていた。

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