カレー屋さんで食事を終えた俺達は、全員が満足した様子で退店する。ガラル地方で流行っているカレーの味は、お客さんの舌を唸らせるものがあった。
「やっぱりカレーはスパイシーが一番だな!ウチのシウバも夢中で食ってたし、来て良かったぜ」
ポケモンも一緒に食べられるお店ということで、それぞれポケモンと一緒にカレーを味わった。リーリエはイーブイのシャインと、ハンスはラッタと一緒に食べていた。
「私は甘口にしてみましたけど、コクがあってとても美味しかったです!別の地方には、こんなにも美味しい料理があるんですね!」
「時間があったらまた来てみたいね。次は別のトッピングに挑戦してみようかな…」
全員楽しげに話しながら、ポケモンセンターに戻って明日への準備を始める。いよいよリーリエの初ジム戦、俺とハンスは観客席から彼女の雄姿を見届けることになった。ポケモンバトルはトレーナー自身の器量と技術が試される場所、俺達は大人しく遠くから観戦だ。
その日の夜、俺の手持ちであるジュペッタのペッタが、夜中なのに遊んでほしいと駄々をこねるので、仕方なく付き合ってやることにした。散歩に行きたい犬のように、無理矢理ペッタに外へ連れられていくと、一人でベンチに座って空を見上げるリーリエを見つけた。
明日のジム戦を前に緊張しているのだろう。そっとしておこうと思っていたが、ペッタがそのまま真っ直ぐリーリエの膝上に向かって飛び込む。ひゃっ、と悲鳴を上げるリーリエの反応を見て、俺は少し笑ってしまった。
「あ、グランさん。奇遇ですね、こんな時間に会うなんて…」
「いや、ペッタが遊んでくれってしつこくてな…。そういうリーリエこそ、こんな夜中にどうしたんだ?」
そんな話をしてる時に、ペッタはちゃっかり、リーリエの膝上にちょこんと座る。その場所気に入ったのか…。
「いえ、ちょっと緊張して眠れなくて…。明日のジム戦、勝てるかどうか心配で…余計なことを考えてしまうんです…」
表情が曇りがちなリーリエは、膝上に座るペッタを優しく撫でる。そんな姿を見て、本当にポケモンが好きなんだなと、俺は率直にそう感じた。先輩として何かアドバイスしてみるか。
「…別にそこまで勝ちにこだわらなくても良いんじゃないか?どんなに強いトレーナーだって、勝利だけを経験してるわけじゃないんだ。負けることでしか気付けないものだってある。
勝ちにこだわるあまり、自分の戦い方を見失って負ける。そんなトレーナーを何人も見てきたし、俺も昔そんな負け方をしたことがある」
「えっ、そうなんですか?グランさんってすごく強そうだから、そんなイメージが無いんですけど…」
新米トレーナーからすれば、俺はそういう風に見えてしまうだろう。でも俺は、今まで情けない負け方を何回も経験したし、幼い頃にレッドとグリーンと戦って負けた時なんかは、ポケモントレーナーを辞めようかなと思い、心が折れそうになったこともある。
でもそんな時に俺を支えてくれたのは、手持ちのポケモンだった。膝を抱えて失望していた時も、ポケモン達は黙って俺のそばにいてくれた。今まで育ててきたポケモンに助けられるなんて、トレーナーとしては恥ずかしい話だが、そのおかげで今の自分がいるんだ。
「初めてのジム戦なんだ。失敗や敗北を恐れずに、全力でバトルを楽しんでいれば、自ずと結果はついてくるさ。イーブイとハハコモリがいれば、そう簡単に負けるわけないぜ」
「…グランさんの言う通りですね。今の私ができることは、ポケモンを信じて戦うこと。後で後悔しないように、思いっきり戦います!」
リーリエは笑顔でそう宣言した。いつものリーリエに戻ったみたいで本当に良かった。ペッタもそんなリーリエを見て、キシシと笑いながら俺のモンスターボールに戻る。もしかしてこいつ、リーリエを励ます為に俺を外へ連れ出したのか?
「よし、そろそろポケモンセンターに戻るか。初のジム戦で遅刻なんて、赤っ恥をかくだけだしな」
「そ、そんなことしませんよ!お母様がいなくたって、ちゃんと一人で起きれますから…多分」
リーリエは歯切れが悪そうにそう呟く。個人的には遅刻するリーリエを見てみたいが、一応明日は起こしに行ってみるか。