57話 仲直り

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

「ハルキ君、アイト君が行っちゃいますよ!? 追いかけないと! ハルキ君!!」

ヒビキが必死に声をかけてくるがハルキは、アイトに言われたことが頭の中でぐるぐると回ってすぐに反応することができないでいた。

「後で必ず追いついてください! 絶対ですよ!! ヒカリちゃん、ハルキ君を必ず連れてきてください! お願いします!」
「うん」

そんな様子を察してかヒビキはヒカリにハルキのことを任せると、走り去ったアイトのあとを追いかけていった。
夕暮れ時の森の中に取り残されたハルキとヒカリ。
しばらくお互いが何も話さない気まずい時間が流れたが、やがて俯いているだけのハルキがぽつりぽつりと話し始めた。

「……何も、言えなかったな。 アイトの言葉を僕は否定できなかった。 あの時から変わってない……か。 確かに僕はあの時から何も成長していないのかもしれないな」
「ハルキ……」
「みんなが頼りにならないとかそんなんじゃないんだ。 ただ、誰かを頼ると迷惑をかけるんじゃないか? 重荷になっちゃうんじゃないか? って思っちゃうんだ。 おかしいよね? アイトには困ってる時は僕を頼ってほしいって思うのに、僕自身が逆の立場になると出来なくなるなんてさ」
「ううん。 そんなことない。 おかしくなんかないよ。 ハルキは優しすぎるんだよ」
「優しい?」
「そう。 優しい人ってね、いつも自分の事よりも他の存在を気にかけちゃうの。 だから自分がピンチの時でもギリギリまで助けを呼ばないの。 ずっと傷を隠して、無理に笑って、大丈夫だよって言い続けるの。 大丈夫じゃないってバレバレなのにね、傷を隠せて、ちゃんと笑えてるって、本人はそう思っているんだから本当に困っちゃうよね」

ヒカリは悲しそうに笑いながら話した。

「でもね、その優しい人は優しさを自分にはあまり向けないの。 どうにもならないほど八方塞がりな状況で、自分が誰かの助けが必要だとわかっていても、相手の迷惑を考えて助けを呼ばないの。 そんな時ぐらい相手に向ける優しさを、少しは自分に向けて助けを呼べばいいのにって思うんだけどね。 だからね、ハルキ。 君が抱えているモノを私達にも教えてほしい。 それはもしかしたら君が思っているより、ずっと軽いかもしれないし、重いかもしれない。 だけど、言ってくれないと何もわからないでしょ?」
「ヒカリ……」

いつも気の抜けたような態度なヒカリだが、今はハルキの内面を的確に見抜いているような鋭い意見を言ってくる。
見つめてくる青い瞳に目を合わせ、ハルキは考えた。
ヒカリの言っていることは正しく、思い当たる節は多々ある。
ヒカリの言う通りここで話してしまった方がいいのかもしれないが、ハルキは話すことを躊躇ってしまう。
抱えているモノが目の前で優しく語りかけてくるヒカリについての話も含まれるからだ。

「ごめんね」
「え?」
「偉そうな事を言ったけど、たぶん、ハルキが悩んでる事は私についてなんだよね?」
「…………うん。 全部ではないけどね」
「やっぱりね」

ズバリ言いにくい事を言われて驚いたハルキとは対象的にヒカリは落ち着いた口調で答えた。

「正直に言うよ。 今はまだ話せないけど、私は隠している事がたくさんある。 けど、遠くないうちに必ず話すよ」
「愚問かもしれないけど何で今話せないかって聞いてもいい?」
「まだ、準備ができてないんだ。 ごめんね」
「わかった。……他の抱えているモノについて話す前にアイトに謝らないとね」
「そうだね。 少しは気持ちも落ち着いた?」
「うん。 おかげさまでね。 僕はもう少し、誰かを頼るように生きたほうがいいってわかったよ」
「ふふっ、そうだね」

モヤっとする部分は残るが、それでもさっきよりは頭の中がスッキリしたハルキはヒカリと一緒にアイトの後を追いかけようとした。
その時――

森の茂みから1匹のストライクが現れた。
ポッチャマの背丈から見るからなのか、やけにデカく感じるが、森に生息していてもおかしくないポケモンではある。
できれば穏便に登山客のように挨拶だけして通り過ぎたいのだが、どうやらストライクにその気はなくハルキとヒカリに鋭利な鎌を振り下ろしてきたので、慌てて後方に跳びのき攻撃をかわした。

「うわっ! いきなり何するんですか!?」
「ハルキ、あいつに何を言っても無駄だよ」
「どういうこと?」
「あいつはダンジョンポケモン。 意志なんて持ち合わせてないんだよ」
「ダンジョンポケモン!? でも、ここはダンジョンじゃないはず」
「理由を考えるよりも先にあいつを倒さないと」
「そうだね。 それじゃあ……」

ハルキが思いついた作戦を話そうとした瞬間、目の前にいたストライクが突然現れたあるポケモンに殴り飛ばされた。

「ヌシ達、大丈夫だぬ?」

器用にかけていたサングラスを外し、こちらに話しかけてきたのはアロハシャツのような服を着たみずうおポケモンのヌオー。

「その声、アスタさん! どうしてここに?」
「あ、ちょっと待つだぬ」

アスタは片手でハルキ達が近寄らないように制すると、背後から攻撃しようとしたストライクに強烈な回し蹴りをぶつけて吹き飛ばした。
吹き飛ばされたストライクは木に背中を打ち付けるとそのまま光となってその場から消えた。
倒した際に光になって消えるのはダンジョンポケモンの特徴の1つ。
ヒカリの言ったとおり、ストライクはダンジョンポケモンで間違いないようだ。

「あらためて、ヌシら久しぶりだぬ」
「わー、こんなところでどうしたの村長? 」
「ちょっとした旅行だぬよ。 そしたら何やら騒がしかっただぬから見に来てみればこの有様というわけだぬ」
「そっかー、いやー、助かったよー!」
「ありがとうございます」
「どういたしましてだぬ」

ハルキとヒカリがお礼を言うとアスタは照れ隠しなのか再びサングラスをかけた。
外もだいぶ暗いというのにサングラスなんてかけていて見えているのか疑問だがそこは触れないでおこう。

「……ん? アスタさん、さっき騒がしかったって言ってましたけど、もしかして……」
「ああ、そうだっただぬ。 今、どこからかわからないだぬがシュテルン島にダンジョンポケモンが出現して、街は少しパニックになっているだぬ」
「そんな……、数とかはわかりますか?」
「う〜ん。 詳しい数は分からないだぬが十数匹みたいだぬ。今はたまたまシュテルン島に訪れていた救助隊連盟代表のネロさんが指揮をとって対応しているところだぬ」

確か、救助隊連盟代表のネロといえば、シャドーの騒動が起きた時にレベルグの救助隊に来て、情報を共有してくれたカラマネロと言うポケモンだった。
レベルグ団長のカリムとも話していたし、救助隊という組織のリーダー格が事態の収拾にあたってくれているのは心強い情報だ。

「それは心強いです。 ただ、ちょうど今、友達と別行動中なので、この事を伝えに行かないと」
「そうだっただぬか。 ワシも一緒に探そうかだぬ?」
「大丈夫だよ、そんちょ。 私がついてるから安心して」
「わかっただぬ。 ただ、合流したら早く宿に戻るだぬよ?」
「わかってます! 急ごう、ヒカリ!」
「うん」

まだこの森に何匹かダンジョンポケモンがいるかもしれないので、森に残ったアスタと別れて、ハルキとヒカリはアイトとヒビキの元に急いだ。
走っている最中、アイトが走り去った方角から大きな戦闘音が聞こえた。


――――――――――――――――――――


「ハルキあそこ! フタチマルと一緒にいるの、アイトとヒビキじゃない?」

ヒカリの指差す方向にはビーチでフタチマルと何やら話しているアイトとヒビキの姿があった。
傍らには光になって消え始めている大きなポケモンの姿があることからフタチマルと協力して倒したのだろう。

「拙者もよくわからぬ。 ただ、最近、よくこういう事があるでござる」
「よくあるって……まさか、ハルキ君とヒカリちゃんの方にも」
「急いで戻ったほうがよさそうだな」
「いや、その心配はないよ」

無我夢中で走っていた時は考えていなかったが、いざ話すとなると、さっき喧嘩別れしたような感じで走り去ってしまったアイトになんて切り出せばいいのだろうか。
ただ、このまま声をかけずにいても仕方がない。
何か話しながらでも伝えたいことを考えて、アイトに伝えよう。

「……ハルキ」
「……ダンジョンポケモンに襲われてるんじゃないかって心配したんだ」
「ああ、さっきのフシギバナはダンジョンのポケモンだったから消えたのか」
「……」
「……」

ふたりの間に沈黙が流れた。

「……あの、アイト。 その、ごめん! 僕、ちゃんとアイトの気持ち考えてなかった。 隠しきれていると思ってたから。 だけど、本当に友達なら……友達だから相談したほうがいい事もあるって気づいて、それで」
「ハルキ」

まとまらないまま話しているハルキの声を遮り、アイトは言った。

「俺の方こそ悪かった。 ごめんな。 ヒビキから話は聞いたよ。 俺、少し焦ってたんだ。 置いてかれそうでさ。 でも、そんなに焦んなくたっていいって俺もわかったんだ」
「アイト……」

アイトは無言で笑うと右手を広げて顔の前に掲げた。

「お互い様だな、ハルキ」
「……うんっ!」

ハルキは頷くと自分の右手をアイトの右手に勢いよくぶつけた。

――パンッ!!

辺りに乾いた音が鳴り響く。
人間の頃によく2人でやっていたハイタッチをして、ふたりは仲直りをした。

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