10Days:「強くなる想い~しめったいわば#2~」の巻

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 節目の10話目。本来は5月23日(土)投稿予定ですからね。だいぶ狂ってる。なんてヤツだ。
 探検隊として初めて挑む不思議のダンジョン、「しめったいわば」。ここに潜んでいた何者かによってぼくとソラは襲撃を受けていた。何とかしてこのピンチを脱出しなくちゃ………!


 「ソラアアアアアアアア!!大丈夫か!?」


 ぼくは叫んだ。ソラの電撃によって一度は倒せたと思った正体不明のポケモン。しかし別のポケモンがどこかにいたようで、ソラはそのポケモンに反撃を受けてしまったのである。元々そこまで強烈な一撃への耐久力に秀でてはいない種族、ピカチュウ。それをカバーできるだけの俊敏さで回避出来なければ、あっけなくK.O.されてしまう。ましてやバトル経験などまだまだ未熟。そんな悪条件も重なってしまったこともあり、状況的にもかなり厳しいと思った。


 「あらかじめ“どろあそび”をしといて良かったな」
 「そうだな。電撃なんてされちまったら俺たちには厳しいからな!これで胸くそ悪い探検隊を心置きなく倒せる」
 「何だって…………!!」


 ぼくたちを襲ってきたのはウミウシポケモンと呼ばれる種族のカナラクシ、それからむかしエビポケモンと呼ばれる種族のアノプスだった。どちらも目付きが鋭く明らかにぼくとソラに敵意を剥き出しにしていた。


 「聞いてくれ!!ぼくたちはここにある落とし物を拾いに来ただけなんだ!それが見つかったらすぐに帰る予定でいる!だからやめてくれ!」


 負傷した箇所を庇いながら立ち上がったぼくは、必死な気持ちで敵意や戦意が無いことをすぐにその二匹へと伝える。離れた場所でうずくまるソラのダメージも心配だし、何より昨日の“かいがんのどうくつ”のときのように、序盤からバトルを積み重ねて疲労を溜めて後半で力尽きることを避けたかった。


 「そんなこと俺たちが信用できると思うのか?そのスカーフを巻いてる探検隊は………」
 「俺たちのすみかの資源を荒らし、食べ物を奪い、不要なバトルで仲間を傷つけて勝手に正義のヒーロー気取ってる…………気に食わねぇヤツらなんだよ!!」
 「そんな……………!!」


 残念ながら彼らにはぼくの想いが通じることはなかった。かえって敵意を刺激してしまったようでぼくに向かって突撃してきたのである!


 「ちくしょう!!“ひのこ”!!」
 「チッ!!こざかしい!!“きりさく”!」
 「鬱陶しいんだよ!!“どろかけ”!!」
 「わわっ!!ぎゃあああ!!」



 身の危険を感じたぼくは、得意の“ひのこ”を放って応戦する。しかし元々このダンジョンが湿っていることもあるのか、何となく火力が弱いように感じる。一応技は命中したが、タイプの相性も格別宜しいわけでもなく、さほどダメージを与えることも出来なかった。そればかりかぼくの種族“ヒトカゲ”がニガテとしているタイプの技や強烈な一撃で返り討ちにされてしまった。


 (ぐう………!!目が見えない………。泥が顔にかかったのか?まずい…………)


 しかも悪いことにカラナクシからの“どろかけ”によって、大量の泥が顔にかかってしまった。全く前が見えない。これでは回避できず一方的に攻撃を受けるばかり。何とかしなくちゃ………と泥を必死で払う。だが、そのときだった。





 「えーーい!!」
 (ソラ!!?)


 遠くからソラの声が聞こえてきた。二匹がぼくを追い詰めてる間に少しずつ間合いを狭めていたのだろう。間隔は空いていたがちょうどぼくとカラナクシとソラは一直線上に重なる形となっていた。その事で何か彼女はこのピンチを脱出する術を思い付いたのだろう。肩から提げていた道具箱を開いて何かを手にする。そしてそのまま体を一回転させて反動をつけてそれを投げ飛ばしたのである!!


 「ケッ!!何したいのか知らねぇがそんな事じゃ俺らには勝ち目はないぜ…………わっ!!?」
 「どうしたカラナクシ!?」
 「目が………なんだ!?周りの景色がおかしくなったぞ!?」
 「なんだと!?………このピカチュウめ!カラナクシに何しやがった!!!」
 「フフフ…………教えてほしい?」


 ソラが投げ飛ばした物体が体に当たったその瞬間、カラナクシもアノプスも余裕の表情を浮かべていた。しかし時間が経過するに連れて徐々にその余裕は失われていった。その理由はご覧の通り、カラナクシが視覚に異変をきたしたことにあるわけだが………。まるで勝ち誇ったかのようにソラは不敵な笑みを浮かべながら、アノプスに対してこのように答えた。


 「私が投げたのは“まどわしのタネ”。しばらくの間カラナクシは周りの景色が変に見えちゃうよ?このダンジョンで拾ったアイテムだから、ここに住んでいるあなたたちにはよくわかるでしょ?」
 「くっ、この野郎………!!」
 「“どろあそび”であなたたちが私の電撃のパワーを弱めてるなら、他の作戦でこの場を突破するのみよ………!!」
 (ソラ………!なんか急にたくましい感じがする?)


 ソラの雰囲気はダンジョン突入前とはもはや別人状態だった。ぼくの後ろの方が安心できると離れなかったのは一体なんだったのか。とにかくその変貌っぷりに驚きと頼もしさを感じた。


 「うるせぇ!!ガタガタ抜かしてると、その可愛らしい表情にキズをつけてやるぞ!人前に出られないくらいにな!くらえ、“きりさく”!!」
 「あぶない!?ソラ!!!」


 逆にソラに逆手を取られてすっかり面白くなくなったのだろう。アノプスは力任せに鋭い爪を彼女の顔面目掛けて振り下ろした。このままでは危ないと声の限りにぼくは叫んだ。………だが、そんな心配もどうやら無用だったようである。


 「無駄だよ!!“でんじは”!!」
 「な!?ぎゃあああああ!!」


 次の瞬間、ソラの両方の赤いほっぺたから弱い電流が発射された。至近距離だったのてアノプスはそれを避けることが出来ず、悲鳴を上げて泥まみれの地面にグシャリと倒れてしまった。“でんじは”は他の電撃よりだいぶ威力は弱いけれど、相手の身動きを奪うのには適している。こうなればいくらソラの電撃のパワーが落とされていたとしても、カラナクシにもアノプスにも集中攻撃で大きなダメージを与えられるようになるだろう。そしてそれこそが彼女の目的だったんだ………と、ぼくは思った。


 (一瞬のうちにそこまで考えて行動出来るなんて………。やっぱり探検隊になりたかったってことはあるね。ごっこ遊びだったといえ、ある程度イメージが出来ている感じがする。凄いな…………)


 バチバチと電気エネルギーを溜め込みながらカラナクシとアノプスに近づいていくソラ。でも、そこから先はさすがにやめておこうとぼくは思い、そのことを彼女へと伝える。


 「ソラ、これ以上バトルを続けるのはよそう。ぼくたちの目的はあくまでもバネブーの落とし物を拾うだけだし」
 「ススム。それだと後からまた追撃されちゃう可能性があるんだよ?」
 「大丈夫だよ、きっと。キミが近づくにつれて本能的に恐怖を感じてる。もうバトル意欲も無くなってるさ。それに…………探検隊に対してこれ以上悪いイメージを持たれても嫌だしね」
 「……………!」


 ぼくの言葉を聞いて何かを思い出した様子のソラ。そう、この「探検活動をするときに極力バトルをしない」という考えは元々彼女自身が打ち出した方針だった。チラッと二匹の方を振り返り彼らに戦意が無いことを確認すると、彼女はそれまでの電気エネルギーの蓄積を中断した。そして「行こう」と一言呟いた。ぼくは「うん」と小さく頷き……………またダンジョンに入ってきたときのように、彼女を庇うようなフォーメーションに戻って先を急いだのである。無論カラナクシとアノプスがその後ぼくらを襲撃することはなかった。


 それからこの騒ぎもあった影響か、しばらくの間他のポケモンと遭遇してバトルになってしまった。みんな口を揃えて言うのは「探検隊は自分たちの生活を荒らす侵入者」ということ。それでも彼らに理解して欲しくてなんとかバトルにならないように尽力してきたが、ぼくのその想いが叶うことはなかった。


 「あ、階段だ…………!」
 「良かったね、ススム!!これで下の階に進むことが出来るね!!」
 「うん!」


 それでもぼくとソラは地下2階へと続く階段を発見することが出来た。嬉しさのあまり思わずお互い顔を見合わせてニッコリと笑顔がこぼれる。束の間の感激を覚えたのである。


 …………しかし、想像より疲労は蓄積されていた。昨日の“かいがんのどうくつ”のときのように。





 「ススム。さっきはありがとう」
 「何が?」
 「私のこと止めてくれて」
 「あ、ああ…………あれくらい気にしなくても良いよ。それよりも…………」


 “しめったいわば”地下2階。特に変わった様子は無い。相変わらず不快なほどの湿気とコケが蒸してるおかげで歩きにくい足元って感じだ。それと視界が薄暗くなった気もする。ぼくのしっぽの炎がより明るく周りやソラを照らしている感じがした。


 そんな中で交わされたぼくとソラの会話。彼女はまだ先程のバトル後の出来事を気にしていたようで、ふとしたタイミングで申し訳なさそうにぼくに謝ってきた。青いスカーフにバッジとともに飾り付けた“スペシャルリボン”を揺らして。


 でも自分としては………ソラとは…………意識している彼女とは対等な関係でありたいし、変な風に気遣いされるのがどうも苦手だった。それに本当に自分としては彼女へ凄いことをしたとは思ってないし、むしろ自分のピンチを救ってくれたのだから、ぼくが彼女に謝らないといけないと思った。だからこそ伝えた。


 「ぼくこそゴメン。それからありがとうね。助けてくれて。それからキミにびっくりしちゃったよ。あんな作戦を考えて、余裕たっぷりな表情をしていて…………」
 「違うよあれは………。昨日負けたことがずっと忘れられなくて悔しくて…………絶対にビクビクするもんかって思っていたんだ」
 「そうだったの………」


 思えばそうだ。昨日はズバットとドガースに追い付いたときにソラは完全に怖気ついて、「生きてる理由」になっていた宝物や思い出の品々を好き勝手に荒らされてしまうという最悪な事態になってしまった。もちろんぼくがしっかりとしていれば防げたことなので、その点に関しては自分も反省しなきゃいけないことだろうけど。


 でも、そうだとしてもソラが昨日の出来事をかなり引きずっているんだなということは明らかだった。そりゃそうか、自分が探検隊を目指すきっかけになったものをメチャクチャにされてしまったのだから。


 (だけどそれで変に無理しなきゃ良いけどね。何とかしてぼくも協力していかないと。昨日からほとんどバトルで貢献できていないわけだから。二人で協力して頑張らないと………。いや、ぼくが彼女を引っ張って守れるくらいにならないと…………)
 「ススム………」


 無意識のうちに右手はソラの右手をつかんでいた。彼女は不思議そうで、けれども恥ずかしそうな表情をしながらコクリと小さく頷いている。自然とぼくの中で「ソラを守る、ソラを支える」という意識が強くなっていったのである。


 …………なぜかって?好きだからでしょ?直接そんな言葉を伝える勇気なんてまだないし、彼女自身だって昨日の夜にぼくを意識するような発言をしてるけど、きっとまだ気持ちの整理がつかなくて迷惑するだろう。だからこれから彼女の気持ちがもっとぼくへと傾くように、これから先努力しなきゃいけないな………と、そんな風に思った。


 (ぼくは…………ソラを守るぞ…………!)






 それからぼくらは手を繋ぐ形でダンジョンの中を進んだ。離ればなれになるのが怖かったのかもしれない。途中でお金を拾うときも一緒に拾ったし、“いしのつぶて”だって一緒に拾った。目の前にポケモンが姿を現れた時こそ一瞬手を離すことはあったけど、無事にバトルが終わったらまた手を繋いだ。


 そんな感じで地下2階は突破。地下1階に比べたら比較的早く階段を発見できたってことも関係してるけれど、体力を温存出来たのは大きいし、少しずつ気持ちに余裕ができている感じがする。このまますんなりと奥へと進むことが出来れば最高だが。


 「あれ、なんだろう………」
 「どうしたの、ススム」


 階段を降りてすぐにぼくは床に転がっている赤い物体と黄色い物体を見つけた。もちろんぼくはそれに迷わず近づいていく。するとソラが満面の笑みでこのように説明をしてくれた。


 「なんだ。“あかいグミ”と“きいろグミ”じゃない。私たちのおやつというか軽食みたいな感じの食べ物だよ」
 「へぇ~。色によって何か違うんだ?」
 「うん。ポケモンのタイプによって好みが違うんだ。私みたいなでんきタイプは“きいろグミ”が好きで、ススムみたいなほのおタイプは“あかいグミ”が好きなんだよ。せっかくだから食べてみる?」
 「え?いいの?」
 「うん。あそこに座りやすい岩もあるし、何の気配も感じないから他のポケモンもいないと思うんだ。だから休憩もかねて…………一緒に食べよう?」


 二つのグミを拾ったソラが嬉しそうな笑顔でぼくの手を握る。そのまま離さず寄り添って一緒に歩いてくれる。正直恥ずかしい。でも、ますます彼女への恋心も熱くなっていく。なんだかずっとそばにいたい………二人きりのこの状態がずっと続いてほしいと願う自分がいた。


 「どう?美味しい?」
 「美味しい…………凄く美味しいよ。そう言えば昨日からあまり食事もしてなかったからな。ぼくたちお腹ペコペコだったよね」
 「ウフフ、そうだよね。でも喜んでくれて嬉しいな。このグミは私たち探検隊に必要なスキル、“かしこさ”を成長させる効果もあるんだよ♪ダンジョンの中で冒険すると自然とお腹も減るから、そんなときの食糧としても役割を果たすしね♪」
 「そうなんだ…………本当に探検隊って奥が深いんだね」


 ぼくはますます探検隊への魅力にもハマりそうだ。


          ……………11Daysへ続く。




 




 



 


 
本来は毎週土曜日更新です。作者が守ってないという…………この。

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