ここから第2章「しめったいわば」編が本格的にスタートします。予定よりだいぶ遅れてますが、毎週土曜日更新目指してがんばります。よろしくお願いします。
ソラと迎えた探検隊「トゥモロー」としての初めての日。彼女がぺラップに説教されて元気を落としてるのが気になるけど…………大丈夫なのか?
「ここが岩場の入り口だね。バネブーの依頼だとここの地下7階にあるってことだけど………とてもキケンな場所らしいから気をつけて行こうね」
「うん」
ぼくたちは今、“しめったいわば”の入り口にいる。やっぱり多湿な環境ということも関係してるのか、そこら辺にある岩にはびっくりするほどコケが蒸している。足元もまるでアリ地獄のよえにぐちゃぐちゃにぬかるんでるようで、気を抜くとそこにはまってしまいそうな感じがする。なんだか不気味な感じがしてるのは、きっとボクだけではない。
「ソラ、あんまりさっきのこと…………気にするなよ?」
「え?」
「ほら、ぺラップに説教されたこと」
ダンジョンに突入する直前。ぼくはソラに一声かけた。突然のことに彼女はキョトンとしていた。少し時間を置いて苦笑いを浮かべながらこのように言う。
「あぁ、あのこと?………大丈夫だよ。確かに最初はショックも受けたけど、ぺラップの言う通りだもん。不思議のダンジョンは私たちの考えてる以上に危険なところだし、それに………」
「それに?」
ぼくはソラの話に疑問を感じて首を傾げる。すると彼女はこのように言った。
「それに私、探検隊になれたことが嬉しすぎて、自分のことだけしか見えてなかった。昨日あなたに探検隊を誘ったときもそうだったし、自分たちの部屋が当たったときもそうだった。嬉しい気持ちが強くなりすぎて何だかみんなに迷惑かけてる感じがしたんだ」
「ソラ…………」
「このバネブーの落とし物を拾いに行くってこと、私はワガママ言っちゃったけど…………でも、よく考えたらこの人は困っている。大切な物を無くすって苦しいと思うんだ。昨日の私のように………。それなのに私、探検隊っぽくないって文句言ってしまった。それをぺラップを怒ってたと思うんだ。周りの気持ち考えないと、みんなで力を合わせて探検なんて出来ないもんね…………」
ぼくは段々と表情が沈んでいく彼女の様子を見て、何だか自分が質問したことに気まずさを感じた。このままではいけないと無理やりではあったけれど、ソラを励ます。
「それだけ反省できてるなら大丈夫だよ。次から気を付けていけば良いじゃない?」
「ススム………」
「ぼくはソラがしょんぼりしている姿を見るより、探検隊のことを楽しそうに話す姿の方がたくさん見たいしね。その方が安心するし………ね?」
ソラはしばらく黙ったままだった。不安そうな表情は変わらない。でも、しばらくしてその表情も次第に緩んでくる。そして何かを決意したかのように、ぼくに向かって話しかけてきた。
「うん、ススム!がんばろうね!」
「え?………あ、うん!」
彼女からはそれだけだった。まるで今までのことは何も関係ないと言わんばかりに。コクッと笑顔で大きく頷いて、手を差し出してくる。ぼくは顔を赤らめながらぎこちなく頷くだけだった。
「だからなんで後ろに隠れるのさ~!!」
「ススムが守ってくれるって思うと安心するからだよ~♪」
徐々に探検隊に慣れないと………そのように考えるぼくだったが、必ずソラがニコっと笑いながら自分の後ろにつく……………これだけは慣れるのに時間はかかりそうだ。
「うわぁ…………やっぱり気持ち良いものではないなぁ」
「うん、なんか全身の毛にまとわりつく感じがして私も嫌だなぁ………」
“しめったいわば”内のダンジョンの雰囲気も想像通りだった。体に纏りついてくるくらい多湿な空気の洞窟内。足元も岩にもコケがびっしり。その足場だってぬかるんでる感じがする。こんな悪条件でぼくのほのおタイプの技、ちゃんとダメージを与えられるだろうか。
「とにかくどんどん進もう。こんな居心地悪いところなんて長くいたくないし」
「うん、そうだね。バネブーを早く安心させてあげたいしね」
ぼくとソラは首に巻いてるバッジ付きの青いスカーフを軽く引っ張りながら小さく頷く。それにしても、
(やっぱりぼくが先頭になって歩くことになるんだな………)
やっぱりソラにはまだ不安な気持ちは残っているようだ。それは良いとして、なんだかぼくの体を彼女がギュッと掴んでるような感じがする。恥ずかしい。しばらくこんな状態を続けないといけないのだろうか。だとしたら落ち着かないな。ただでさえぼくはキミを好きなのに。意識して探検活動に集中出来なさそうな感じがするんだが…………。
ガツン!!ガツン!!
「痛ッ!!」
「ススム!大丈夫!?」
そんな感じで広めのフロアから狭い通路に差し掛かろうとしたときだ。その通路の先からこっちに向かって何かが飛んできた。それは頭にヒットして鈍い痛みを全身に走らせた。思わずしゃがみこんでしまう。ソラが心配して声をかけてきた。
「なんなんだよ…………この石ころ?」
「石ころ…………はっ!!きっと“いしのつぶて”だよ!」
「“いしのつぶて”?」
「投げ道具だよ。遠くにいる相手に向かって攻撃するために使うの」
「……………ということは?ぼくたち…………誰かに狙われてるってこと?」
「うん」
ぼくの言葉にソラが小さく頷く。一体どうして?自分たちは困っているバネブーの落とし物を拾いに来ただけで、それ以外は特に何も考えていないと言うのに…………。
「ススム。ひょっとして考えてるでしょ?何で自分たちが襲われなきゃいけないんだ………って」
「………………」
ソラはぼくの気持ちを見透かしたかのように言った。ぼくは何と答えたら良いのかわからず、黙り込んでしまう。すると彼女はやや呆れた様子でこのように言った。
「仕方ないよ。だってそれが不思議のダンジョンって呼ばれる場所なんだから。私たちがどんなに誰かの為に思って行動していたとしても、ここに住んでいるポケモンたちからすればただの“侵入者”なんだから。それに外の世界で暮らしているポケモンたちと比べて、みんな心を閉ざしている。だから攻撃的にもなりやすいんだよ。でも、それでも彼らには何の罪もない。私たちだって変に自分たちの住んでる場所を歩かれたら嫌な気持ちになっちゃうから」
「じゃあ攻撃もしちゃダメってこと?」
「極力ね。だけどここにいる大概のポケモンたちは、きっと私たちの姿を見ると先制攻撃をしてくるよ」
「どうして?」
ソラから大体の話を聞き終わったぼく。さすがに探検隊に憧れを抱いていたってことだけあって、ダンジョンのことには詳しい。本当に惚れ惚れとしてしまう。けれども最後の先制攻撃をしてくるという話には納得出来なかった。そこで改めて質問をしてみる。すると彼女は急に真剣な表情となり、このように答えたのである。
「それは…………それは私たちが“探検隊”だからだよ………」
「え?」
ぼくは動揺してしまった。襲われる理由が“探検隊”だから?意味がわからなかった。そんな感情さえも先に読んでいたのだろう。ソラは更に続けた。
「ここにいるポケモンたちはね、特に“探検隊”を嫌っているんだ。ぺラップの言葉を思い出してみて?不思議のダンジョンはとても厳しい場所なんだ。入ってしまったらどこに出口があるのかもわからない。そんな危険な場所にどうして足を踏み入れる必要性があるの?」
「そうだよね。危険な場所って予めわかっているなら、余程自分に自信がないと怖いもんね」
ぼくは彼女の言葉に納得していた。そして、頭の中にぺラップの言葉が浮かんできたのである。
……………いいかい!念のためもう一度注意だよ!不思議のダンジョンは途中で倒れるとここに戻されるし………お金も半分になるし………道具も半分ぐらい無くなることがあるから気をつけるんだよ!
(…………そういえば話が逸れちゃうけど、なんでぺラップはあんなお金や道具の損失に関して執拗に伝えてきたんだろう?)
「ススム?ねぇ…………ススムってば!私の話、聞いてる!?」
「え?…………あ、ごめんごめん。ちょっと考え事していて……………アハハハ」
「何それ…………」
ついつい別のことを考えてしまったぼく。自分の話を途中から聞いてくれなかったことに対して、ソラは膨れっ面になっていた。だけど…………なんだかその姿も可愛い。もうひとつひとつの反応や仕草が愛くるしい感じがした。彼女には失礼だろうけれど。やっぱりぼくのことが好きなんだと、そのように思った。少しだけ顔が赤くなっていないだろうか?
「もう。ボーッとしないでよ。大事な話なんだから」
「ゴメン」
「…………とにかく、ダンジョンに住むポケモンたちは私たちのような“探検隊”を嫌っているから気を付けようね。スカーフとかバッジとか道具箱とか、とにかく目立ちやすい装備をしているからすぐに判別されてしまうし」
「うん、わかったよ」
ぼくはソラの言葉に頷き、改めて前へと振り返る。そこからフーッと深く息を吐いて狭きその通路を進み始めた。結局ぼくたちに“いしのつぶて”に投げつけてきたポケモンの正体は分からずじまいだったが、まあそのあと更なる襲撃を受けなかっただけ良しとしよう。
「あ!!」
「どうしたの!?ソラ!」
その狭き通路を越えて新しいフロアに入ったとき、ソラが遠くを指差した。そこには何かの植物の種らしきものが落ちていた。
(…………これは?)
ぼくはその種のもとへ近づいてみる。何しろ自分にはこういう道具などに対する知識が全く無い。拾い上げてまじまじとそれを眺めてみるが、結局正体がわかることはなかった。
「これは“まどわしのタネ”って言うアイテムだよ♪」
「“まどわしの………タネ?”」
「うん。これを食べちゃうと、”まどわし状態”階段とか他のポケモンの姿が変な風に見えちゃうんだよ。私も昔間違って食べちゃったことがあって、大変だったんだ」
(つまり幻覚が見えるってことか)
恥ずかしそうに苦笑いするソラの話を聞いて、ぼくはこのように感じた。だとしたら扱いに気を付けなきゃいけないだろうな…………とも。まあひとまず何かの役に立つかもしれないということで、チカが提げている道具箱へこの種を入れることにした。
それからしばらくまたダンジョンの中を歩くぼくとソラ。このまま何も起きなければいいなとか考えながら。
ヌチャ、ヌチャ、ヌチャ…………
「何だ?急に足元が泥で覆われてきた?」
「何でだろうね?」
何部屋目かのフロアに突入した途端、足元の雰囲気に変化が生じたのをぼくらは感じた。理由はわからないが、足首辺りは完全に隠れてしまう程に泥が床を覆っているのが確認出来る。
「景色が変わってきたってことなのかな?」
「まさか。自然が作り出す景色としては極端な感じするよ。ここが地上に繋がってるとか、水の流れがあったとかならわかるけど。現に奥の方はまた今までのようにコケに覆われているような雰囲気だし」
「そうだよね、だとしたら誰かが作り出してるってこと?」
ぼくの考えをソラが否定する。それを踏まえてぼくはまた別の考えを出した。と、そのときだ。ソラの表情が突然険しいものに変化し、ぼくに向かって「危ない!伏せて!」と叫んできたのは!!!
「え!?」
ぼくはわけもわからないままチカの指示に従ってその場に伏せる。すると次の瞬間、何かが自分とソラの頭上をかすめていくのを感じた。例えて言うならば、空気を切り裂いたという感じか?仮にもしあのままの姿勢だったらそれに巻き込まれて、大きく“きりさかれた”可能性があったかもしれない。このことでぼくは気づいた。
「“きりさく”………?ということは他のポケモンが襲撃してきたってこと?」
「そうだよ。私の耳に聴こえたの。空気が切り裂かれたような“ヒュン”という音がね」
「どうする?」
「レーザーの役目をしている私のしっぽからまだ雰囲気を感じ取ってるから、まだこの近くにいるとは思うけど…………とりあえず逃げよう?」
「わかった、そうしよう」
ぼくは彼女の提案に従って行動することにした。泥で床が抜かるんでるそのエリアを慎重に進む。ソラによると、ぼくたちを襲撃してきたポケモンはまだこの近くにいるらしい。正体不明だけに、先手を奪われると劣勢が懸念される。そうならない為にも常に技を繰り出せる準備をしておく必要がある。特にぼくたちは昨日「敗北」している事実がある。だからこそ余計に先手を奪われることのリスクに、過剰過ぎるかも知れないような意識を持っていた。
そんなときだった。何かハッキリと雰囲気を感じたのだろう。ソラが背後からぼくに向かって再び叫んできた。
「!?危ない、ススム!!」
「え!?」
あれほどバトルの準備をしておいたのに、いざそのときを向かえると戸惑ってしまった。これはまだレベルが低いことが理由なのだろうか。ぼくは丸腰状態となってしまい初動が遅れてしまった。…………その結果、
スパッ!!!
「ぐわっ!!」
「ススム!!?」
ぼくは体を斬り裂かれる感覚に襲われた。思わずその場にうずくまる。背後にいたソラが慌ててぼくの前に回り込み、「大丈夫!?」と何度も声をかけてくる。しかし、この状態では彼女も危ない。咄嗟にそのように感じたぼくは、ソラに向かって“ひのこ”を放ったのである。いくら探検隊のことを知る彼女でも、まさか仲間に技を繰り出されるなんて予想外だろう。「何するの!?」と、同様と困惑からの憤りの気持ちを口にして一旦自分のそばから離れた。ぼくの思惑通り。
(よし、これなら…………これならソラが巻き添えにならずに済むぞ………)
ぼくは痛みを感じつつも、最悪な状態を回避出来たことにホッと一安心する。しかし、それも束の間。またソラが叫んだ。
「危ない!!誰なの!?“でんきショック”!」
「!!」
今度は敵はぼくの背後から姿を現したのだろう。ソラが体を丸めて、赤い頬っぺたから電撃を発射した。体を守るような仕草をとるぼく。そんなぼくの目も眩むような光を伴った電撃がターゲットに向かって飛んでいく。
「ぐわあっ!!」
(あ…………当たったのか?)
次の瞬間、明らかに別のポケモンと思われる声が聞こえた。それが誰なのかは全くわからなかったが、これでひとまず危機は回避出来るだろう…………と、ぼくは思った。しかし、そのように感じたのもほんの一瞬だった。
「こざかしい!俺たちの土地を荒らすんじゃねぇぞ!?」
「え!?なんで!?きゃあああ!!」
「ソラアアアアアアアアアアアア!!」
……………10Daysに続く。
本来は5月16日(土)投稿予定。21日遅れ。