ちょっと内容がズレてきてないか心配ではある。
結局ボクたちメモリーズは、ダグトリオの依頼を成功させることが出来なかった。二人の信頼感にも亀裂が入りかけるし、本当に散々だったな。これからどうしようか。
ボクがヒトカゲになって今日が5日目。ボクの怪我の具合も宜しくないと言うことで、今日は救助活動も断念している。何も出来ない日があるというのはボクたち救助隊にとって屈辱的なもので、虚しさが募るばかりだった。
(でも仕方ないよね。よくよく考えれば今までが少し出来すぎていた。このままじゃいけないってことなんだ………。そうやって考えていかないと…………)
ボクはまだ痛む体を起こそうとする。顔を歪めながら。その姿に気づいたチカの「何してるの、ユウキ!?」という声にも耳を貸さずに。
…………ボクは前を向くことしか許されてないんだと…………そのように自分に言い聞かせて。なんとか………なんとか立ち上がろうとしていた。
…………しかし、それをチカは許してはくれない。
「ねえユウキ!!今日は休みだって言ってるよね!?聞いてたの!?どうしてそこまで自分一人で動こうとするの!?私たちチームだよね!?どうして助けあっていこうって気持ちにならないの!?」
「だって………どこかで救助を待っているポケモンたちがいるんだ………」
「バカ!!!自分のこともままならないのに、誰かを助けられるなんてできるわけないじゃない!!」
「!!?」
涙ぐみながら訴えかけてくるチカの姿に、思わずボクは動きを止めてしまった。彼女はさらに質問を重ねる。
「どうして?どうしてそこまで頑張ろうとするの?無茶をしてまで。どうして気づいてくれないの?メモリーズはあなた一人だけで成り立ってる訳じゃないのよ?…………それなのにどうしてなんでもかんでも一人で解決しようとするの?」
「そ………それは………」
ボクは彼女の質問にちゃんと応えることが出来ない。昨日のダンジョン内での口論のときもそうだったが、まさか「自分は“リーダー”だからチカを前にして弱みを見せたくない。“リーダー”だから自分の力で何とかしたい」って理由を口にする事なんか出来るはずがなかった。
ましてや弱い姿を見せたとき、チカに嫌われて独りぼっちになるのが怖いなんて。
「私はあなたの“パートナー”なんだよ?あなたに何かあったときにサポートするのが私の役目なんだよ?だからあなたの動きに合わせるし、あなたの考えを尊重したいって思ってる。私は全然バトルが強い訳でもないし、今でもダンジョンの中は怖いし。でも、その代わり私に出来ることならなんでもしたいんだよ!だってあなたが一番始めに、私のこと信じてくれたから…………!!なのにあなたがそんなに塞ぎ混んでいたら、私だってどうしたら良いのかわからないよ………」
彼女の困惑してるが故の意見に、ボクは「そりゃそうだよね」と思った。昨日までの4日間、彼女はボクよりもずっと自分の仕事を全うしていた。ボクがピンチのときは道具などを利用してフォローしてくれたし、ボクが落ち込んでいたときも寄り添ってくれていたりした。本当に“リーダー”をサポートする“パートナー”という名に恥じない活躍っぷりだった。本当に毎日感じさせられる事だけど、初日に常に後ろ向きな態度だった様子とはまるで別人のようである。だからこそ余計に自分の情けなさが身に染みるようで、何となく素直になれてないような気がした。
「ユウキは…………そんなに私のことが信用できない?何度も同じこと聞いちゃうけど。私にサポートを受けるのが嫌なの?」
チカがタイムリーな質問をしてくる。返答に困るボク。本音からすれば弱い姿を彼女の目の前で見せたいのかもしれない。わざわざ「もっと甘えても良いんだよ?」なんて、聞いてるこっちが恥ずかしくなるようなセリフで保険もかけてくれているし。でもそれを簡単に伝えることが出来ない。なぜかわからない。嫉妬なのかもしれない。だから今回もこのような答えになってしまった。
「信用してるよ。サポートだってありがたいって思ってる」
「じゃあどうして!?」
ますますチカが感情的になっている感じがした。これはうまく誤魔化すことなんて出来ないだろうな。そのように思ったボクは昨日の幻覚のことを話すことにした。ゆっくりと体を起こして、その場に座る。
「チカ。信じてくれないかもしれないけど、ボクの話を聞いてもらっても良い?」
(ユウキのバカ!どうして私の気持ち、わかってくれないの…………?私はただあなたの力になりたいだけなのに………。私はずっとユウキのそばにいるって、味方でいるって決めているのに………。どうしてもっと素直に向き合ってくれないの?どうしてそんなに私の気持ちを試そうとするの?……………悔しいよ。全然気持ちを理解してもらえないなんて)
私は昨日からのユウキの姿に失望していたかも知れません。初日に出会ったときの頼もしさはカッコ良さはどこへ行ってしまったのか不思議なくらい、今の彼には失望を感じられずにはいられませんでした。自分には彼の勇気が必要なのに…………。
(なんとか立ち直って欲しいな。どうにか元気付けてあげないと)
私は彼の心の救助隊になると約束した。だからこそ今こそ彼の支えにならないといけない…………と、そんな意識へと変わっていくのでした。その結果私は自然と彼の元へと一歩ずつ近づくことにしました。かつて私の恋人がそうだったように、自分が寄り添って温もりを感じさせてあげたら、少しでも不安定な心に安心感を与えられると思ったから。
しかしここで彼は、私に向かってこんなことを言ってきたのです。
「チカ。信じてくれないかもしれないけど、ボクの話を聞いてもらっても良い?」
「え?別にいいよ」
彼の神妙な表情に私は一瞬足を止めました。果たして彼は自分に何を伝えたいんだろうと、そんな疑問を感じながら。
「実は昨日さ、最後に自分がイシツブテに向かっていったってこと…………ボクは全然覚えてないんだよね。むしろ幻覚を観ていてさ………」
「幻覚?」
「そう。チカがボクのことを完全否定してくる………ってそんな幻覚。そんなことがあったからキミに素直になるのがちょっと怖かったんだ…………」
「そうだったんだ…………」
恐る恐るというような感じでユウキは私に内容を伝えてきました。ちょっと信じられない気持ちが自分の中にはありましたが、彼の様子を見るとその話にウソはきっと無いんだろうなと思いました。だとしたら、彼はどれくらい心を痛みつけられていたのでしょうか。
人間時代の記憶喪失、“リーダー”のプレッシャー、幻覚………彼の気持ちはきっと休まることがなかったことでしょう。私はますます寄り添ってあげたいと思いました。本当はダンジョンの中でもユウキに同じことが出来れば……………彼は安心感を覚えることができたかもしれません。そうやって考えるとなんだか自分に物足りなさを感じてしまいました。
(ユウキはたくさん褒めてくれるんだけど、私もまだまだなんだよね。もっとユウキの力にならなきゃ。だって私は………私は彼の心の救助隊になるって約束したんだから)
自分でもなぜここまで彼のために動いてるのかよくわからなくなっていました。確かに彼は私の夢を叶えさせてくれた存在だけど、だからといってまるで自分の全てを捧げてるような………この状態は単なる“パートナー”としてはオーバー過ぎるような気がしたのです。いや、きっとおかしいでしょう。だとしたら?
(やっぱり“ハガネやま”の中で感じたように嫌われるのを怖がってるだけ?彼に嫌われたらもう行く場所が無くなるから…………。それが怖くてここまで尽くそうとしてるのかな?)
気付いたら私はうつむいていました。急に救助活動を失敗してから今の時間までに浴びせられたダグトリオの非難の声を思い出してしまったのです。
「…………なんと!?私たちの息子、ディグダの救出に失敗したというんですか!?」
「すみません。リーダーのケガの具合も酷いので、これ以上救助活動を続けるのは難しいと思いまして………………」
「ディグダはどうなってしまうんですか!?あなた方は救助隊を名乗りながら依頼主より自分たちを優先したと言うんですか!?」
「そんなことはありません!!誤解しないでください!準備が出来たらすぐにまた出発します!」
「ふざけるな!?そんな悠長なことを言ってられる余裕がどこにあると言うんですか!こっちは息子の命がかかってるんだ!二度とこんな救助隊に依頼するものか!!」
「あ、待ってください!!」
「うるさい!この“役立たず”めが!!」
(…………“役立たず”!?イヤ、そんなの!もう私は“役立たず”なんかじゃない!ユウキがそうやって気づかせてくれた。そうだよ…………だからユウキの為なら何でもするって決めたんだ。依存してるって思われたって構わない。今の私にはユウキしか頼れる人が居ないんだから!)
改めて振り返ってみると、この決断が私にとって幸せでもあり、また不幸への扉を開くことにもなりました。それでも………今でも私はこの決断が一番正しかったって思ってる。
「ゴメン。多分気持ちを重くさせちゃったよね。こんなこと言ったところでどうにもならないのはわかってる」
「別に気にしなくて大丈夫だよ。さっきも言ったでしょ?私はユウキの為ならなんでも力になるって」
自分の話を聞いてもらったボク。だんだんと表情が沈んでいくチカの様子が心配になってひと声かけた。心配ないとは言ってくれたけど、完全に表情が良くなったというわけではなく、何となく無理をしてる印象を受けた。
「幻覚だけが理由なら、これからは少しずつ私のこと頼りにしてね?私はどんなことがあってもあなたを否定しないし、あなたの力になれるように努力するから。約束だよ」
「う、うん………」
幻覚だけがすべてではないけれど、ひとまず本心を悟られずに済んだからこれで良かったのか。言いにくいもんね。“リーダー”としての意地もあるし。
「ユウキ………多分他の理由もあるんでしょ?私には伝えにくいような」
「なんでわかったの?」
「あなたの表情を見ていれば何となくわかるよ。私はパートナーだもの。それに言ったじゃない。私はあなたの心の救助隊になるって」
「………………」
彼女の心遣いが何となく悔しい感じがした。そこまで見破られているのであれば素直に白状すべきだろうな。……………ボクはそのように観念して重い口を開こうとした。しかし、それはチカが制止する。
「いいよ、ユウキ。話さなくたって。話すことでストレスに繋がることだってあるかもしれないから」
「チカ…………」
「それよりも私は、あなたが一人で全てを抱えようとする姿を減らしてくれたらそれだけで良いよ」
「ゴメン………」
「忘れないでね?辛いときとか寂しいときは私に………私に甘えて良いんだからね………///////」
「う……………うん………。じゃあいつか………甘えさせて…………////////」
彼女もボクも最終的には赤面してしまった。変なの、こんなのって。でもこのときボクは決めたんだ。
この先…………周りから依存しているって思われても良い。男らしくないって思われても構わない………。ただボクは…………ボクはチカを思い切り頼ることにしようって。甘えるくらい。だってそんな気持ちを受け止めてくれる心強い“パートナー”がいるんだから。多分ボクには彼女しかいないのかもしれない。
ボクも……………私も……………
独りにならない為には相手に依存した方がきっと…………良いんだ。
「そろそろ帰るね?今回は本当に残念だったけれど、明日からまた地道に依頼をこなしていけるように…………頑張っていこうね、ユウキ」
「本当に帰っちゃうの?」
「明日に向けて道具を揃えないといけないしね。ペルシアン銀行からお金を降ろしてこないと…………ね♪」
「そう…………」
いつものようにまた満面の笑みを浮かべたチカ。なんでだろう。今まで彼女とは別々の場所で暮らしていて、そこまで寂しさを感じなかったのに…………今日は。今日は…………彼女が離れていくのが凄く寂しい感じがする。
いや、正確には一昨日も感じた気持ちだ。ボクが酷く落ち込んでるとき、チカの温もりを感じて少しだけその気持ちがラクになったあとに
感じた気持ちだ。恐らくそんな気持ちが顔に出てるかもしれない。笑顔を崩さないまま、彼女が不思議そうに尋ねてきた。
「…………?どうしたの?」
「いや、何でもない…………」
ボクは首を振って平静を装う。確かに甘えようとは思ってるけど、いきなり甘えるのはさすがにちょっと抵抗がある。忘れよう。
……………と、彼女から視線を離そうとしたそのときだった。
ギュッ!!
「…………えっ!?」
「…………バカ。………ユウキのバカ………」
気付いた時にはボクは真っ正面から抱き付かれていた。そのときケガの痛みに耐えきれず、危うくバランスを崩しそうになって藁のベッドに倒れそうになる。毛で覆われているチカの体は本当にふわふわしていて温かい。心の中の暗い氷が溶けていく感じがする。耳元で悲しそうに呟く彼女の声がした。それを聞くと寂しい気持ちは消え、逆に申し訳ない気持ちが募る。
「なんでわかってくれないの………?辛かったら辛いって、寂しいときは寂しいってちゃんと教えてよ…………。だからダンジョンでも苦しい目に遭っちゃうんだよ………?」
「そうだね…………。ボクは………本当に分からず屋かもしれない……………」
彼女の体温が伝わってくる。本当に温かい。癒されてるのを感じる。でもその温もりは他に切なくて、辛くて………なんだか泣きそうになるくらい重いものに感じた。
…………メモリー32へ続く。
今回はシナリオの関係上「~ハガネやま#○○」は外してますが、次回からはまた復活します。どんな話になるかはお楽しみに。
※今回は5月7日(木)投稿予定でした。だいぶ遅れてますね。