メモリー30:「真偽はいかに!?~ハガネやま#5~」の巻。

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 とりあえず節目の第30話に到達しました。久しぶりの更新となります。大変お待たせしました。
 “ハガネやま”も中腹まで来た。イシツブテが厄介な存在だけど絶対に倒して先に進む!どんどん進んでディグダを助けてみせるぞ。


 「くたばれ!!“ほのおのパンチ”!!」
 「いやああああああ!!」


 私の悲鳴はどこまで響いたのでしょうか。もうきっとイシツブテからの攻撃を避けることも出来ないでしょう。ユウキを助けることも出来ず、自分自身も倒されてしまう…………今までもこんな危機は………何度もあったことだけど、こうしてまた直面すると辛い。そのように感じました。


 「ガハハ!どうだ?これでもうお前も立てまい。そのまま火だるまになって、やけどに苦しむんだな?」
 「うぅぅぅ……………」


 イシツブテの勝ち誇ったような声が響きました。彼の言う通りでした。私の体も既に岩雪崩や“ほのおのパンチ”等によって本来の鮮やかな黄色い体も、それから首に巻いた赤いスカーフでさえもすっかり土まみれ、焼け焦げ等で黒ずんだものになってしまうほど。それくらいボロボロでした。それは同時に、身動きも出来なくなるほど“ひんし”に近い状態なんだということも意味していたのです。


 (なんだか“メモリーズ”って結成してからスムーズに依頼をこなせたことって少ないな………。いつもピンチに追い詰められて、下手をしたら依頼主たちに力を借りるときもあって…………そんなの救助隊として失格じゃないか!)


 …………同じ頃ボクは握りこぶしで一発、地面を叩いていた。悔しい。ただその一言だった。なぜ自分はここまで弱いのだろう。情けない。リーダーとして何一つ役に立っていない…………………ッ!?


 (ボ…………ボクだったのか…………、役立たずは……………)


 その瞬間、ボクは自身に絶望を覚えた。時間が自分の周りだけ止まったように感じる。目を最大限に開いてしまい、自然と白目が拡幅される。何かがボロボロと崩れていくような音が頭の中で反響したのを感じた。………それと同時にどこからか誰かの嘲笑する声が聴こえてきたのである。


 …………ハハハハハハハハハ♪
 (!?)


 ボクは咄嗟に辺りを確認する。しかしこの場所には今、二匹のイシツブテとチカ以外に他のポケモンの姿は無い。一体誰なんだと混乱を覚えた。……………と、そのときその声がこんなことを言ってきたのである。


 …………誰だかわからないの?私だよ…………?チカだよ?あなたのパートナーの♪
 (チカ!?何で?君は今倒れていたじゃないか…………)


 自分は幻想を見ているのだろうか。にわかには信じられなかった。無理もない。そこにいたのは自分にとって、今もっとも信頼している唯一無二のパートナー…………チカだったのだから。しかし何か様子がおかしい。ここまで4日間共に過ごしてきた中で全く感じさせなかった「冷たい雰囲気」を出していたのだから。


 ………散々私には“役立たず”って言っていたのに、あなたがこんな無様な姿をさらすなんて実に愉快だよ。
 (ゴメン…………そうだよね。キミを傷つけるような発言をしたのに、ボクはリーダーとしてきちんと出来なかった。キミに責められても何も言い返すことなんか出来ないよ………)


 ボクは冷たく嘲笑するチカの言葉に何一つ反論できなかった。いや、してはいけないと考えていた。それほど自分は彼女の優しさを軽んじてしまったし、行く手を阻む敵から守ることも出来なかったのだから。


 ハハハ♪よくわかってるじゃない。そうよ?あなたは“役立たず”。必死に尽くしてた私の気持ちすら理解出来ない。だから決めたの。私はあなたを置き去りにするってね♪
 (そう思われても仕方ないや………むしろそうしてくれ。その方が誰にも迷惑をかけずに済むから………)


 気が付いたらボクは地面に両手をついて項垂れていた。唯一無二のパートナーにここまで思われているのであれば、もはや下手に立ち直って行動する方が迷惑をかけてしまうような気がした。それならいっそ…………いっそのことここで力尽きた方が良いのかもしれない。ダンジョンの中で力尽きて動けなくなったら、損失という代償を払うことにはなるけれど、バッジの効果で一度地上に戻れるというし。そこでチカと話し合ってチームを解散しよう。その方が良い。人間に戻る方法はそのあと自分で模索すれば良いだけの話だ。


 どうしたの?そんなしょげた顔して?まさか自分の情けなさに気づいたとか?アハハ♪だとしたら笑える!キャハハハ♪
 (うう……………ちきしょう…………)


 チカが腹を抱えて大笑いしている。悔しさと情けなさが募るばかりだ。あんなに自分を信用していて寄り添ってくれていたチカに言われると、その感情がさらに増大する感じがした。やっぱり彼女も他のみんなと同じで「見せかけの優しさ」だったということなのか?表面上温かくて優しくて………だけど内側では自分への不満の感情が募っているだけの。


 考えてるでしょ?これが私の本音なのって。当たり前でしょ?どうして種族も育ちも違う人を信用しなきゃいけないの?どうせ優しくしたって、思いやりを持っていたって利用されて利用されて、ちょっとでも意見が噛み合わなくなったらまるで記憶喪失にでもなったかのように、アッサリと手のひら返しで見捨てられちゃう……………そんなことを繰り返されてどうして人を信用できるって言うの?馬鹿馬鹿しい。
 (チカ…………止めろ!止めてくれ!!)


 ボクは遂に耳を塞いだ。冷たく嘲笑しながら彼女は自分へと歩んでくる。これが彼女の本音なのかを確かめる術はどこにも存在しなかったが、仮にこれが本音だったとしても受け入れ難い。ボク自身も崩壊しかねない。一体どうすれば良いのかわからなかった。


 あなただけは違うと思っていた。一緒に救助隊をしてくれるって言ってくれて、私が不甲斐ない姿を見せてもそれをカバーしてくれた。だから私も頑張ろうって思った。でも日を追うごとにあなたの優しさは失われていた。そして「役立たず」なんて言葉で刺されて…………。やっぱり利用されていただけなのかなって。
 (違う!!そんなつもりなんか無い!!頼む!わかってくれ!!止めてくれ!!)


 ボクは耳を塞ぎながら必死になってチカの嘲笑する声を書き消そうとした。しかしそんなことは叶うはずもなく、塞いでるはずの耳からしばらく彼女の声の冷たい笑い声が離れることはなかった。だが、いくら後悔してももう遅い。だからといってどうすることも出来ない。いっそのことしっぽの火を消して、死んでしまった方がラクかもしれない。そう思うと悔し涙が止まらなくなってしまった。死んだ方がマシだ。そうなったら人間に戻ることも出来ないだろうけど。そうしていくうちに段々と目の前が真っ暗になっていった…………ちくしょう。






 「…………う、う~ん…………っ!」
 「気づいた?」
 「…………ここは?」
 「救助基地………ユウキの家だよ」
 「ハッ!?どういうことなの!?」


 ボクは何がなんだか全然理解が追い付かなかった。でもチカの言うように確かにここは、ボクたちの救助基地だ。藁のベッドに暖かな炎が燃えてる暖炉。まさにボクが住まいとして利用している救助基地だった。でもどうしてだ。さっきまで確かにボクたちは、“ハガネやま”の5階でイシツブテたちとバトルになっていた。それなのにどうして…………ッ!?
 「うがあ…………!!」
 「もう!無茶しないで!あんな酷い攻撃を受けちゃったら、ケガだって治るわけ無いじゃない!」
 (チカ…………!)


 チカが取り乱すようにボクを叱りつける。確かに体には痛々しい打撲傷がたくさんできている。彼女からよく話を聞いてみた。何せ全く覚えが無いから。


 …………最終的にあのときボクは感情を剥き出しにして2匹のイシツブテへと突撃したらしい。その表情は穏やかさとは無縁。まるでリザードンが“ブラストバーン”でも放った時のように恐ろしく、また無慈悲なものだった。無論チカが制止を求めている声など届いてなかったようである。


 「でもイシツブテたちには全く関係なかったよ。だってすぐにまた連携して“マグニチュード”で地面を揺らしながら“ロックブラスト”で攻撃をしたのだから。ただでさえ致命的なダメージを負っていたあなたには回避する力さえ残っていなかった…………だから」
 「そのまま倒されてしまったってわけか…………」


 コクリと頷くチカ。ボクはその反応を聞いて、ますますショックを感じてしまった。


 「そうか………ボクたち負けてしまったのか。今までなんとかギリギリのところで耐えていたけど…………ダメだったのか…………」
 「そうだよ。だからと言ってあなたを置き去りにして、私だけがディグダを助けに先に進む訳にもいかない。私もギリギリだったし。仮にあのまま進んで倒れてしまったら、ユウキも私も他の救助隊の助けが必要になってしまう。だから一旦退避って形をとったの。バッジのダンジョン脱出効果を発動させてね」


 どこか不機嫌そうに話すチカ。それもそうか。昨日は出だしから噛み合わせが宜しくなかった。チーム内で言い合いになってしまうし、救助活動だって失敗してしまった。まだ彼女とは4日間しか行動を共にしてないとはいえ、最悪な一日だったとしか言い様がなかった。


 「今日は…………どうしよっか?ダグトリオを待たせるわけも「ダグトリオだったら今回の件で怒ってしまって、他の救助隊に頼みにいったよ」………!?」


 ボクの話を遮るようにチカは言った。悔しそうに。ということは完全にボクらは依頼主から信用を失ったことを意味していた。


 (そういうことだったのか……………)


 ボクはその瞬間、直感的に全てを悟ったような気がした。自分は信頼を失ったのだと。依頼主はおろかパートナーのチカにも。自らの行動のせいで。仕方ないことかもしれない。それくらいボクは周りが見えていなかっただろうし、何より自らのパートナーでさえもまともに守れないくらい、レベルも低かった。逆に今までが奇跡に近かっただけなのだ。苦手なタイプを相手にしたら、恐らくこの程度の結果しかならないと言うことなのだろう。だからこそボクはチカの言うように、助け合って救助活動をしなきゃいけなかったのである。完全にボクの「リーダーだから強くならなきゃいけない」という考えは木端微塵にされたことを意味していた。


 「あ…………あのさ、今日はどうしようか?」
 「今日?昨日あんな失敗して、依頼主さんからの信頼も失ったんだよ?何事もなかったように、救助活動なんて出来るわけ無いじゃない。それにあなたの怪我だって完治してない。今日はこのままお休みだよ」
 「そっか…………そうだよね。ゴメン、チカ」


 チカの機嫌は最悪だった。いつもの癒しをもたらすような笑顔が一切ない。まるで光が消えたように、ずっと悲しそうな表情をするばかり。それもそうか。ダンジョンで倒れたボクをここで看護したり、ダグトリオの対応をしてくれていたのだから。きっと辛かったに違いない。胸が痛むばかりだった。それだけボクはリーダーとしての役割も果たせてないのだ。情けない。単なる“役立たず”だった。


 ……………4日前、この世界に来た初めての日のあの根拠の無い自信は、もはやどこにも存在しない。代わりに完全にボクは自信喪失になっていた。いや、最初から自信なんてどこにもなかったのかもしれない。今考えると、初日の強気な発言は自らの不安を消そうと咄嗟に飛び出した感情なだけで、チカの為ではなく自分の為だったのかもしれない。


 …………そう、最初からボクは自分のことでいっぱいいっぱいだったのだ。







 お互いに気まずい時間が流れていた。ボクは藁のベッドで仰向けになって茫然と寝転がったまま。チカは椅子に腰かけて両手でテーブルに頬杖を作りながら、不機嫌そうにぼんやりと窓の外を眺めるだけだった。会話は存在せず、パチパチと暖炉の薪が燃えてる音だけが虚しく音を立てるだけであった。こういうときペリッパーから手紙が運ばれたりしてくれれば、きっかけが出来るかも知れない。しかし外からはそんな都合よくポストに投函される「カコッ」という音が聞こえることはなかった。


 …………こうなったら仕方ない。


 「…………あのさ、チカ?」
 「何、ユウキ」


 ボクはまだ思うように体を動かせないため、藁のベッドから彼女に声をかけた。しかし彼女から届けられたのは投げやりな返事。自分の方へ振り返る様子は無かった。でもここで躊躇う訳にもいかない。だからボクは続けて彼女に声をかけた。


 「あのさ…………、聞いてくれないかもしれないけどさ……………その……………ゴメン。ボクが間違っていた。独りよがりになっちゃってキミに随分と迷惑かけちゃって…………、キミの気持ちを蔑ろにして本当にゴメン」
 「……………」


 チカはずっとそっぽを向いたまま。今更何を…………背中越しにそうやってボクに伝えてるような感じがした。仕方ないよね………、ボクのことなんか仲間だと思いたくないよね、きっと。


 「あのさ…………こんな質問するのも変だけど。チカは…………ボクと一緒になったこと、良かったって今でも思ってくれている?」
 「何なのさ、いきなり」


 思いもよらない質問だったのだろうか。チカは久しぶりにボクの方を振り返った。だが、不機嫌な表情はまだ変わらない。むしろさらに不信感を募らせているようにも見える。そりゃそうだ。ボクの分まで負担をカバーしてくれたチカに対してこんな質問をすること自体、失礼以外の何者でも無いのだから。


 「そんなこと聞いてどうするつもり?」
 「何となくだよ。特に理由はない」
 「ふざけないでよ!電撃ぶつけるよ!?」
 「う………ごめん」


 チカは怒りを露にしている。慌ててボクは彼女に謝った。しかし、それでは怒りが収まる様子は無かった。


 「なんでそんな酷いこと言うの!?私はあなたと一緒になれて良かったって思ってるよ!むしろこれからも一緒にいたい!それなのにどうしてユウキは私の気持ち、全然わかってくれないの!?」
 「う……………」


 涙ながらに訴えるチカの姿にボクは言葉を詰まらせてしまう。しかし同時になぜか安心感も覚えた。チカの信頼感が失われた可能性があるのにも関わらず。理由があるとしたら、あの夢か幻想かわからない言葉が、全て彼女にとっては本音ではないということ。その真偽がわかっただけでも気持ちが救われる想いだったからに違いない。



         ………………メモリー31へ続く。




 



 本当は4月30日(木)に完成させないといけないお話でした。毎週木曜日更新を目指してますが。

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