第24話 何も知らぬ者達め

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

※今回、ほんの一部ではありますが人によってはショックが少なからずあるかもしれない部分があります。また、これにより今回から作品全体に残酷描写の注意書きを付与してあります。 ご了承ください。 (ワンクッション置く方が安全だと思ったので付与した次第です)
 「......うわあ......」
 
 山に入った時、キラリは息を吐くように声を出す。 それは洞窟の壁に反響し、こだましてきた。
 中に入れば豪華絢爛!!......というわけではなく、入った時点では何の変哲も無いただの山である。 しかし、この山だからこそ感じる緊張感に心が引っ張られる訳ではあるが。
 
 「止まっている暇など無い。 さっさと歩け」
 「あっ......ごめんなさい」
 
 ジュリはこちらの感動をよそにスタスタ歩いて行ってしまう。 慌ててそれを追うが、少しはゆっくりさせて欲しいと2匹は心の中で愚痴を漏らす。
 だが、ジュリの言葉もあながち間違ってはいないため反論出来ない。 確かにこの辺りには目立った何かは無いようであるし、何より、一応不思議のダンジョンでもあるのだ。 いつ罠に引っかかったり、ポケモンが一気に襲ってきたりしてもおかしいとは言えないのだ。 頂上と言う目的地に辿り着くまでは、一応景色に目を向けながらも、テキパキと進んでいくのが1番効率的であり、安全な道なのだ。
 
 「......グオオっ!!」
 「うわっ!?」
 「敵ポケモン......!」
 
 そして、案の定敵は現れる。 岩タイプのポケモンを主とした集団であり、数としては4匹程だ。
 
 「来ましたね......[ねらいうち]!」
 「[リーフブレード]」
 
 そんな中、すぐさまジュリとケイジュはそれぞれ技を放った。 長老の言葉に偽りは無く、2匹であっという間にその4匹組を蹴散らしてしまった。 無駄の無い水と葉の刃の躍動ぶりに、ユズとキラリは少しぽかんとする。
 
 「......凄い」
 「何か言ったか。 ......行くぞ。 雑魚どもに構う暇は無い」
 「確かに。 ここでつまづいていたら後の方に響くのは事実ですし......貴方、珍しく気が合うのでは?」
 「黙れ。 貴様と気が合うなど絶対に御免だ」
 
 ......何故かまたピリピリとした雰囲気が流れてしまった。 ユズが「まあまあ」となだめ、当たり障りの無い方向へ話を転換させようとする。 流石に話しかけるのはケイジュの方だが。
 
 「ケ、ケイジュさん達はどうしてそんなに強いんですか......?」
 「よく近くの森で修行しているのですよ。 現に、昨日はジュリが森に行っていましたし」
 「そっかぁ......でもどうして?」
 
 キラリの何気ない質問。 それに対し、ジュリの目蓋がぴくりと動いた。 ケイジュは雰囲気を変えず、ゆったりとした口調で返す。
 
 「......ここは辺境の村ですが、やはり虹色聖山の話は世界に広まっているものですから......その麓に住む我々の財産を狙い、時に盗賊が村を襲ってくるのです。 ですから、当然我らの財産も危ないですし、最悪の場合命すらも奪われます。 だから皆を守る力を身につけねばならない。 皆さんの警戒心の理由もそれが1番としてあります。
 ただ、最近はかなり減りましたがね......何度も迎撃して撤退させたので、武力で行ってもどうしようもない事を奴らもきっと学んだのでしょう」
 「......そうなんだ......なら良かった」
 
 村のポケモン達があれほど極端に恐れていた理由を知り、2匹は納得する。 確かにそんな危険が普段でも潜んでいるのだから、あそこまで怯えるのも当然だろう。
 あの時、ポケモン達は皆恐怖に顔を歪ませていた。 ユキハミがこちらをすぐに信じてくれたのは、身をもって「余所者がもたらした絶望」というのを知らないからであろう。
 不躾な事をしたと反省の気持ちを蘇らせてながら階段を登ると、その先は少しこれまでの光景と違っていた。
 どうやらダンジョンの中継ポイントのようなものであるらしく、ポケモン世界の七不思議の1つ、「どこでも現れる謎のガルーラ像」も鎮座していた。 これだけなら、足を止めずに進めばよかった。
 だが。辺りを見回して4匹は足を止める。 そこには、大きな壁画があった。 それはかなり抽象的だったが、内容を理解するには事欠かない。
 
 天空にある黒き渦。
 そこから扉が開き現れる、ポケモンのようでどこかが違うような黒い塊。
 ......そこから溢れる瘴気に当てられたような者が、ポケモン達を襲っている光景。
 
 
 「......これは.......」
 
 ユズとキラリは言葉を失う。 壁画と言えども、恐らく脚色はあると言えども。 この光景は異様なものであった。 描いた者の技量の高さもあるのか、その塊はとても恐ろしく2匹の目には映った。 あまりに不気味だ。

 「......恐らく......あの昔話の」
 「昔話?」
 「この村に古くから伝わると言われる話です。 悪しきモノが世界に舞い降りた時、とある来訪者がそれを成敗したと......ですが、話の内容には無い事も描かれてますね......」
 「......もしかして、このポケモン? なんか、操られてるみたい......」
 「......まあ、その解釈でいいでしょうね」
 「長い間、誰も訪れなくなった山だ。 伝承に無い、つまる今生きる我らが知らぬ真実が隠されているのは当然か......」
 
 ジュリが口を開く。 確かに、「悪しきモノ」は自ら手を下してはいない。 ポケモン達を襲うのは、きっと仲間であっただろう同じポケモンだったのだ。
 
  「操るって......」
   
 ユズがぶるりと震える。 言ってしまえば、これは自らの大事なものを壊すのと同義なのだ。 そう。 「壊される」ではなく、自らの手で「壊す」。 その恐怖と操られているポケモンへの哀れみの感情が、彼女の心を強く刺す。
 
 「まあ、こればかりは先に進んでみないと分からないことも多そうですね......」
 「どうしてですか......?」
 「伝承の内容が今の時点では曖昧過ぎるからに決まっている。
......この先に進めば、真実が掴めるやもしれない。 本来無駄な時間だと思ったが......どうやら、目的は出来るようだ」
 
 ジュリはまたスタスタと歩き出す。 2匹は「ジュリが途中で帰る事」をかなり心配していた。 しかし、彼自身に目的が出来たのならば繋ぎ止められる。 キラリはほっと息をついて歩き出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 暫く歩いていると、これまた2匹の出会った経験の無いものがあった。 道が2つに分岐していたのだ。 普通に考えれば、どちらかの道が正解の道であろう。
 
 「......どうしよっか?」
 「うーん、折角4匹いる訳だし、一回分かれてみるのも......」
 「俺は1匹で右に行く。 貴様らは3匹で左に行け」
 「そうですね......ってええ!? いいんですか!?」
 
 ユズが驚きの表情でジュリを見つめる。 鬱陶しいとでも言いたいような顔で彼は溜息をついた。
 
 「俺を舐めるな。 それに貴様ら2匹と俺と奴の2匹で別れるのはあまりにバランスが悪い。 これが妥当だろう? さっさと進め」
 「ええ〜......」
 
 ......いくつか解決策は浮かぶが、ここで言っても貴様らと行くなど御免だとか面倒臭いことになるだけだろう。 ユズが口をつむぎ静かに首を縦に振った。 速く行ってしまいたいのか、彼は翼を広げ、[ブレイブバード]の要領で右の入口へと隼のように飛び込んでいった。
 
 「......まさか1匹だけって......ケイジュさん、本当に大丈夫......?」
 「彼は強いですから、余程の事が起きない限り問題は無いかと。 ......それより我らも進めましょう。 ここで止まって遅いとか言われるのは御免です」
 「で、ですね......」
 
 これでいいのか少々疑問は残る。 だが止まっていても仕方がないのだ。 思考をダンジョンへと引き戻し、彼の無事を祈る他に手はなかった。
 もっとも、自分達に危険が及ぶかもしれないリスクは勿論ある。 3匹は気を引き締め、先の知れない洞窟の中へと潜って行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「下らない......あいつらめ......」
 
 ダンジョンの敵達を次々に斬り伏せながら、ジュリは愚痴を零す。 何故だろうか? 彼の中にはふつふつとした怒りが満ちていた。
 
 「何が被害が減っているだ。 何が良かっただ......」
 
 下を向き呟く。 ありったけの憤りを込めて。 ユズ、キラリ、そしてケイジュの無神経さを呪って。
 そしてそれと共に、彼の記憶が隅から顔を出す。

 あの日の冷たい嘘。 重なる悲鳴。 下劣な歓喜の声を上げるポケモン達。 長老の胸の中で泣きじゃくり、仇敵への呪詛を吐いた夜。
 ーーかつて彼を抱いた薄茶色の暖かい翼は、呆気なく冷たい紅に染まり、脆くも崩れた。
 
 記憶は頭の中を駆け巡り、彼の不快感は増していく。
 
 「長老様よ......俺は、信じるべきなのですか? 奴らを......どんな者とも分からない奴らを......」
 
 頼るべき者がいない中ではその声は虚ろだった。 ただ壁に反響するだけの波。誰にも届かない波。
 
 「いや......落ち着け。 心を乱してどうする......俺は、負けない」
 
 首を振り、鋭い眼光で前を見据える。 草、ゴーストタイプながら、彼の目には焰が宿っていた。 自らを奮い立たせるかのように。
 敵を前にしてまた、彼はその羽を構える。

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