200%のじゃれつく

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作者:芹摘セイ
読了時間目安:3分
 200%のじゃれつく(約1,000字)




 めきめきめきっ!
 木の幹がへし折れる音。命の危険を察知し、咄嗟に回避。刹那、頭上で木にぶら下がっていたリングマが落下し、土の上に倒れ伏した。アローラのバトルツリー随一の巨木がやられてしまったが、肋骨を折られるよりはマシだろう。
「そら、くまた。”つめとぎ”の時間だぞ」
 そう言ってリングマの頭を撫で回し、鼻先に段ボール紙を置いてあげる。ただでさえ不機嫌そうな目が一層細められる。匂いを確かめるようにくんかくんかしながら起き上がると、リングマは段ボール紙を引っ掻き始めた。
 うちのリングマ――くまたは甘えたい盛り。得意ワザだって”じゃれつく”ときたもんだ。素早さの低さも相まって命中率に不安が残るから、バトル前に”つめとぎ”をさせることにした。右手と左手で計2回”つめとぎ”すれば、”じゃれつく”の命中率は150%、いや、いっそ四捨五入して200%だな。これならもう、ワザを外して連勝が途切れることはあるまい。今みたいに普段は私でも躱せるくらい当たらないが、この巨体でじゃれつかれたら大怪我だ。だから、進化してからは、バトル以外では絶対にじゃれつかせないと決めている。ハグなんてもってのほか。代わりに撫でることで精一杯の愛情を表現する。大きくなったくまたとの付き合い方である。
「ぐまっ!」
 いつの間にか向こうで受付の女性と話し込んでいたくまたが手招きしている。そうだ、今日こそ50連勝してやる。それが私の夢なのだから。

 バトルツリー49戦目の相手はツンベアーだった。ここまではくまたよりも体の小さなポケモンばかりで、お腹でプレスするだけで一発KO。くまたのワザは当たれば強いと思っていたが、まさかこれほどの威力を誇るとは。
 どうやら相手のツンベアーも”じゃれつく”を得意としているらしい。お互いに抱き合ったり、おしくらまんじゅうしたりするだけ。せっかく研いだ爪が何の意味もなさない戦い。やがてくまたの袈裟固め、もとい”じゃれつく”が功を奏した。地味な絵面だったが、私たちの勝利。見ると、氷ポケモンと触れ合ったせいか、くまたのお腹が霜焼けしている。
「お疲れ様」
 患部にカイロを貼りに来た私を、くまたは満面の笑みで迎え入れてくれた。それも、私を抱擁しようと両腕を目一杯広げて。
「あ」
 人ってのは不思議だ。身の危険を感じたとき、ふと大事なことを思い出すのだから。

 “つめとぎ”は命中率だけでなく、攻撃力も上げる。
 つまり、今日の”じゃれつく”は威力も200%。

「ちょ、待」
 相棒の温もりと引き換えに、私の夢は肋骨もろとも砕け散った。
 

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