くのに 敵勢の情報

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 前から計画されていた作戦当日、私達は早朝にギルドのロビーに集まる。
 私はその他大勢側での参加だったけれど、名目上はランベルがS班のリーダーを務めることになった。
 彼自身見るからに緊張していたけれど、グループごとのミーティングでは私が概要を説明する。
 連絡担当のアーシアちゃん、それからリアン君に作ってもらった“隷断の小刀”の説明も終わったから、私達S班はテレポートで現地へと向かった。
  [Side Kyulia]




 「…ティネアさん、ありがとう」
 「だけどこれって…」
 「そのまさか…よね? 」
 こういう事は聞いた事があるけれど、まさか本当に出くわすなんて思わなかったわね…。ネイティオの彼のテレポートで“エアリシア”に来た私は、ふと街の空気に違和感を覚える。彼に頼んで街の南部にテレポートしてもらったけれど、私は以前来たときと変わりすぎていて言葉を失ってしまう。まずはじめに飲食街として賑わっているはずなのに、何故か今日は人っ子一人居ない。それどころか物音ひとつ聞こえて来ず、嵐の前の静けさのような…、不気味な静寂に包まれている。石造りの建物自体も様変わりしてしまっていて、大きな戦闘、あるいは災害があったかのようにいくつもの建屋が倒壊してしまっている。そして何より…。
 「ダンジョンの空気と似てません? 」
 アーシアちゃんの言うとおり、ぼんやりとしているとはいえその一体特有の空気で満たされている…。“ラスカ諸島”は他と比べてダンジョンが多い事で有名だけれど、最近新たに増えたっていう事は聞いてない。ルデラなら割と増えてきてる、ってアーシアちゃんとフィリアさんが言ってたけれど…。
 「そんな気がするよ。…警戒するに越した事はないと思うけど、予定通り頼んだよ」
 「そうね。“奴属の鎖”を斬る刀は渡してあるけれど…、あまり深追いはしない方がいいと思うわ」
 「だよね」
 詳しい事は“壱白の裂洞”で会ったあの二人が教えてくれるとは思うけれど…、“陽月の穢れ”の方も心配よね…。嫌な予感がしてならないけれど、ひとまず私達は他のS班のメンバーに声をかける。人数が多くてまとめきれるか分からないけれど、そこは多分フィリアさんが何とかしてくれると思う。だから私は湧き上がり始めた不安を奥の方に追いやり、念のためメンバーに念をおしておく。
 「じゃあこれからS班、“ルノウィリア”の一斉捜査を始めるわよ」
 そのままの流れで、私は周りの二十二人、一人一人に目を向ける。その殆どが初対面だけれど、指揮者のS1として…、彼らの身の安全を預かる者として、この場にいる全員に号令をかけた。
 「…んーと私達はまず、あのお二人と合流するところからですね」
 「それもだけど、まずはB班の方への連絡を頼んでもいいかな? 」
 「そ、そうでした」
 多分向こうは向こうで気づいてると思うけれど、念のため一方入れておいた方がいいかもしれないわね。私の号令で作戦開始になったから、S1以外の各班はそれぞれの方向に散っていく。…というのも大体が北上する事になると思うけれど、目的は捕らわれた市民と探検隊員の救出で変わらない。
 それで私以外に残ったのが、ランベルとブースターの姿のアーシアちゃん…、S1のメンバーだけ。よく考えたらランベルと潜入するのは“陸白の山麓”以来な気がするけれど…。その代わりにアーシアちゃんの戦い方とか…、その他諸々の事は把握しているつもりだから、彼女とランベルの連携の方も多分大丈夫だと思う。そのアーシアちゃんは私達の行動計画について訪ねてきていたけれど、それにはランベルがすぐに答えてあげていた。
 「ええと…、S1のアーシアです。フィリアさん、S1の全員“エアリシア”に着きました」
 言われるままに、て感じだったけれど、アーシアちゃんは二足立ちになってから、非左の前足に着けている通信端末を起動させる。通話機能があるそれに話しかけるようにして、端末超しにB班に連絡を取り始めてくれた。
 『こちらB1のフィリア。アーシアちゃん、こっちでも確認したわ。ということはS班も本格的に動き始めた感じね? 』
 「はいです! ということはフィリアさん? 他の方達も着いてるのです? 」
 『A班はまだだけれど、G班は動き始めた、て二分前に連絡が入ったわ』
 ということは、後はハクちゃん達だけね? 端末の画面を見た訳じゃないけれど、多分フィリアさんはすぐに応答してくれていると思う。どんな風に対応してくれるのかは訊いてないけれど、確かB班にはリーフィアとシャワーズの二人、それからコット君の四人がいたと思う。そのうちの一人は公務員って聞いているけれど、彼は多分端末の通信の方を担当するんだと思う。そうなると残りの一人とコット君は、本部の防衛って事になるわね。
 『あっそれからアーシアちゃん? 』
 「はい何でしょう? 」
 『ルーター機能だけじゃなくて、通話機能の方もアクティブにしておいてくれるかしら? 』
 「すぐに連絡できるようにするためね? 」
 『そうなるわね』
 「はいですっ! 」
 『…と、A班も今ついたみたい…』
 「…これでひとまずは大丈夫かな? 」
 ハクちゃん達も着いたって事は、これで全員揃ったことになるわね。
 「そうね」
 「…キュリアさん」
 「ん? 」
 「絶対に、捕まった皆さんを助けましょう! 」
 「ええ、もちろんよ! 」
 この作戦のメインの目標だから、言われなくてもそのつもりよ? 通話中の端末をそのままにした状態で、アーシアちゃんは意を決したように話しかけてくる。その目はどこか心に決めたような…、絶対に達成するんだ、ていう強い意志が含まれてるような気がする。もちろん私もそのつもりだけれど、アーシアちゃんは特にその度合いは強いと思う。呼びかける声にも凄く力がこもっているから、その声に何故か奮い立たされるような気がした。
 「うん。…そういえばキュリア? これから合流する二人の特徴って、何かある? 」
 「そうね…、一人はフードを深くかぶってて種族が分からなかったけれど、もう一人はルカリオだったわね」
 名前を訊けたら良かったかもしれないけれど、その前に居なくなってたからね…。少なくとも敵ではないとは思うけれど、本当に何者なのかしら…?
 「それから二人とも、女の方でした」
 「ルカリオともう一人がフードを被ってる…。うーん、他に何かあると分かりやすいんだけど…」
 本当にそれよね…。ルカリオの方はかなりの実力者、って事に間違いなさそうだけど、もう一人の方は本当に謎よね…。アーシアちゃんみたいに、技を四つ以上使ってた、って言っ…
 「それってアタイ等の事ね? 」
 「やっと見つけたよ」
 噂をすれば影がさす、っていうやつね…。その時その場にいなかったランベルのために、私達は“壱白の裂洞”で会った二人組の事を教えてあげる。生憎持ってる情報は少ないけれど、それでも何も知らないよりはマシだと思う。アーシアちゃんも何とか教えようとしてくれているけど、この感じだと多分私と同じ。一つ二つ挙げだところで、私と同じように言葉に詰まってしまう。…だけどこれ以上無い、っていうより先に、私達の後ろから、ありがたいタイミングで二つの声が話しかけてきた。急だったから、少しビックリしたけれど…。
 「ええ、待ってたわ」
 「…<u>月</u>」
 月…、ってことは例の合言葉ね? それなら…。
 「<u>太陽</u>」
 私が振り返ったその先には、予想通りの二人組の姿…。あの時と全く同じ装いのルカリオともう一人が、ちょうど私達の所に歩いてきているところだった。そのうちの四足のもう一人の方が、例の言葉を一言、ぽつりと呟く。だから私はそれに応えるように、私があの時のキュウコンだと証明する単語を送り返した。
 「…何か知らない二人がいるけどあんたは間違いなさそうね? 」
 「ええ」
 そういえばあの時、アーシアちゃんはグレイシアの姿だったわね。
 「じゃあ約束通り、私達が持ってる情報を渡すから、そっちが知ってる事を教えて」
 「そういう約束だったわね。…私達の方は、今ここに全員で四十三人。一人体調不良で抜けたけれど、目的に応じて四つのグループに分かれて潜入してるわ」
 「四十三人…結構集まってるわね。アタイ等の人員は三十人。種族と素性まではいえないけど手練ればかりを集めてるわ」
 「そう思うと凄く心強いです。ええと他には、私達を入れた何組かがあの<u>赤黒い鎖</u>、“奴属の鎖”を切れる道具を持ってます」
 「“奴属の鎖”をって…強力な助っ人よ呼んでもらえたような気分ね」
 「それから“ビースト”の事だけれど、僕達は“壱白の裂洞”以外に、“弐黒の牙壌”、“参碧の氷原”、“肆緑の海域”、“伍黄の孤島”、“陸白の山麓”、“捌白の丘陵”、“玖紫の海溝”を討伐してるよ」
 「それは他の仲間から聞いてるわ」
 「なら今他のグループが“エアリシア”の主要機関に向かってる…、この事は知らないですよね? 」
 「うん、それは初耳だよ。…だけどそれなら願ったり叶ったりかな? 探検隊ギルドが監獄として使われていて、そこに“エアリシア”と“パラムタウン”の市民が捕まってるから」
 「ということは、S班とG班にはそう伝えた方が良さそうですね。あと他には…、私達の仲間が“エアリシア”の副親方さんの救出に成功してます」
 「サンドラさんを…。…それなら“ルノウィリア”の首領は二人でこの時間なら“リナリテア邸”にいるらしいわ」
 「リナリテア…。ハクちゃんの実家だね。って事はもしかすると、代表の一人はカイリューかもしれないね」
 「そうだよ。あともう一人の種族はグソクムシャ。そっちは“月の次元”の侵入者で、シル…、仲間のうちの三人が確保に向かってるよ」
 「私達の方も、三人がそっちに向かってるわ」
 「奇遇ね。…アタイ等が持ってる情報はこのぐらいね」
 「僕達も以上だよ」
 結構“ルノウィリア”の事には詳しそうだったけれど、これは思った以上ね…。だけどハクちゃんの実家の方に三人が向かってるって事は、もしかすると向こうでも合流してるかもしれないわね。それから事件の主犯格…、まさかとは思うけれど、ハクちゃんの親御さんなんてことはないはずよね…?
 「…にしても私が知らない間に、結構調査も進ん…」

 「お前等何者だ? 」
 「さては噂に聞いた侵入者だな? 」
 「そうなれば話は早いすぐにやっちまおうぜ? 」
 「おぅよ! …暴風! 」

 …っ?




  つづく

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