私は朝、いつも決まった時間に起きることはない。したがって今日も昼過ぎまで布団の中で寝こけていたのである__。
「ほら起きなさい!この寝ぼすけサンダース!」
ああ、あいつの声がする。とこのとき限りははいはいと言って素直に体を起こしたのだが、確かに心の内では楯突いた。
「良いじゃないか、寝る子は育つぜ。」
とある日から私と生活を共にしたそのイーブイは、桐箱に入れられ大切に、蝶よ花よとポケモンらしいバトルの世界も知らずに育てられてきたようであった。職業柄目に付いたことであったが、わざ構成なんてひどかった。
__つぶらなひとみ、だけ?
__そういうふうに育てられたのよ。まったく、これのおかげで反抗もできないままだったんだから。
嗚呼、施す手無し!まったく非道い話である。
__なあ、思い付いたんだよ。
つと、私は口を開いた。
__何を?
次いでイーブイが応じる。
__お前の名前だよ。私命名になっちゃうけど別に良いだろ?
__あの人間に付けられるよりは断然ね。
__……『ランチェラ』。
彼女は鼻で笑った。それから馬鹿にしてるの?と軽く吐き捨てた。
__バレたか。でもあながち間違いじゃないだろ?牧場生まれの『ランチェラ』。
彼女は最初はっとして、それから気に食わないようにちょっとむくれて下を向いた。ranchera__元の意味は『牧場』である。しばらく共に過ごすにつれて、こいつが人間の手により厳選された個体だと察しが付いたために、普段の私への当てこすりに堪りかねて付けた名前だ。
ランチェラは、桐箱入り___もとい、元箱入り娘とは思えないほどにやんちゃで、我が儘で、さらには生意気だった。彼女が言うには人間の元で育てられるのは性に合わなかったらしく、元からいま私の元で過ごしているように、自由にしたかったようだ。
「そうだったら今もエクレールの所に居なくて済んだのにね!」ニンフィアの姿をしたランチェラの、調子に乗ったからからとした笑みが目の前に現れる。そのときの調子に乗った表情があまりにもおかしくて、私はついつられて笑ってしまった。
この時この場所で私の考えは変わった。いまこの状態なら、今度こそ上手く行くかもしれぬと。__エクレールは内心浮かれていたのであった。