その日の夜はひどい黒雨だった。前も後ろも見えぬ、光の強さがマイナスを示すほどの黒雨であった。
名も知れぬとある森林の奥、そのとき訳あって遠出をしていた私はそれに見舞われ、くらくらと闇の中を彷徨っていると偶然か幸運か古さびた廃屋にたどり着くことができた。
扉を開けるとチリ、チリンと粗末なベルの音が鳴る。電気が通っていないため暗くて見えなかったが、おそらく喫茶店かレストランあたりの店だったところなのだろう。私は壁伝いに歩き、手探りで有るはずの席を探し、そこでさっさと休ませてもらうことにした。
よほど疲れていたのだろう。体中に纏わり付いた雨水の煩わしいのも忘れて私はすぐに眠りに就いたのだが、妙なことに先ほどからときどき、ゴト、ゴトと何かがいるように音がする。それが気になって仕方なく、寝付けるはずも刻み刻みに目が覚めてしまうのだ。__嗚呼、夜はまだ明けないというのに!
__つと気がつくと、私は声を上げていた。
「おい、私の他にも誰かいるのか?」静寂は長くは続かなかった。
「誰かいるの……?」__ビンゴだ。誰かいる。声は焦り、怯えていた。それにちょっとだけ戸惑うも、暗闇から突如として声がしたらそりゃそうなるかと自分に言い聞かせもう一度声をかける。
「いるぜ。怯えなくていい、私はただここで雨宿りしてるだけだよ。」
「……そう。」少し落ち着きを取り戻したような声だった。私が次に気になったのはそこに居る相手の実態だった。
「……何でこんな森の奥まで来たんだ?ああ、私はここにある材料を探しにだけどさ。………それに、ここは住むには地形が過酷だ。ここらの奴じゃ無いんだろ?」
「勘の良いポケモンね。私は___。」
そこで少しだけ間が空いた。
「__そうね、私のことを匿ってくれるなら、全部教えてあげる。」
私、サンダースのエクレールは妙にその続きが気になった。だから、つい、その話に頷いてしまったのである。
話は夜も更けないうちに終わった。聞く限り、彼女は名前を持たないイーブイで、事あって家出をしてきた結果行く宛て無くここに辿り着いたらしい。なるほど匿えとはそういうことか。
「……戻らなくて良かったのか?」
最初、私にはどうもそれが突っかかった。
「戻ったりなんかしたら、惨い仕打ちを受けるだけに決まってるもの。これは私の決心、曲げるつもりは無いわ。」
しかし私の心配をよそに、そのイーブイは強い声の調子でそう言い切った。
日の明けたころ、私たち2匹__サンダースとイーブイは朝一番に泥濘んだ大地を駆け、そうしておよそ2時間かけて私の住み家、単独研究所へと帰っていったのだった。
至らない点がありましたらお気軽に教えて下さい~。感想等も待っております~。