ろくのいち 山麓の調査結果

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:8分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 [Side Kyulia]




 「…ここまで来れば、あと少しだよね」
 「うん。時間的に危ういかもしれないけど、誰かはいるはずだよ」
 そうね、この時間なら朝礼が終わっているはずだから…。“陸白の山麓”であの生き物を倒した私達は、あの後少しだけ頂上を調べていた。…調べるとは言っても小さい祠だけだったけれど、それでも分かった事が少しだけあった。祠には古代の文字で何かがかかれていて、テトラちゃんが読めたから、相当昔の祠ということで間違いないと思う。訳してもらうと、五千七百年代…、だから今から千三百年前にもこの場所にあの生き物が出現して、今の“ウィルドビレッジ”の場所にあった集落の住民が大量に襲われた。それを数年後にサード、っていう人が倒し、犠牲になった人を供養するために祠か建てられた。…この事件を語り継ぐうちに話が大きくなり、その結果できたのが“ウィルドビレッジ”の昔話。流石にアリシアさんも知らなかったらしく、テトラちゃんから聞いて物凄く驚いていた。
 それで時間も時間だったという事もあって、私達四人は山を降りた。ダンジョンを攻略している時、それからあの生き物と戦っている時は気付けなかったのだけれど、夜がかなり更けていて八時にはなっていたと思う。だから私達はアリシアさんの家に一晩泊めてもらい、早朝にテトラちゃんと三人で村を発った。山を降りてからは家に寄らずに船着き場に行き、始発便で水の大陸に向かった。偶々乗り継げたから船で“アクトアタウン”に向かったのだけれど、仕事とか依頼をこなしに出発した人たちでごった返していた。
 「ええ。…それとシルクさんも、流石に目覚めてるはずよね? 」
 「そういえばもう二日目だもんね」
 そして話を今の事に変えると、アクトア港に着いた私達は、船を降りてからすぐにハクさん達のギルドに向かった。朝食はジョンノエの売店で買った菓子パンだけだったけれど、昨日の調査で余った林檎があったから八分目ぐらいには腹を満たすことが出来たと思う。ランベルは少し物足りなそうな感じだったけれど、私は大して気にはしていない。何しろ私はギルドで一服してから、ランベルとテトラちゃんを誘ってカフェに行くつもりでいる。だから私はハクさん達のギルドが見えてきた辺りで、二人にこの話題を出してみる。“ワイワイタウン”に着いてから寄っても良かったのだけれど、どう思っているのかを訊いてみる事も兼ねて、こう訊ねてみた。
 「そうだね。シリウスさん達に訊いたら分かると思うけど、後でお見舞いに行ってみようか」
 「ええ。…シリウスさん、“陸白の山麓”の…」
 早い時間に行くのも迷惑になるから、昼ぐらいに行くのが良いかもしれないわね。ランベルは私とは違う考えみたいだけれど、この感じだとシルクさんに会いに行く事は同じだったらしい。一度空を見上げて太陽の位置を確認してから、私に訊き返してきていた。なので私はこくりと頷き、彼の意見に同意する。…そうこうしている間にギルドに着いたから、入り口をくぐり…。
 「…そんじゃあ、今日も頼んだで! 」
 「…あっ、ハクさん。この感じだと、もう大丈夫みたいだね」
 見たところ何ともなさそうね。ギルドのロビーに入ると、そこでは恒例らしい朝礼が行われていた。ギルドを出る時は休んでいたけれど、今は前に立って話しているから、ハクさんは完全に回復したのかもしれない。終盤みたいだけれど、調査の時みたいな溌剌とした声で複数人に呼びかけていた。
 「それなら安心だね。…シリウスさん、調査の方はどうですか? 」
 「…ん? あぁ、ランベルさん。あれから色々な事が分かりましたよ。キュリアさんにテトラさんも、お疲れ様です」
 「シリウスさん達もね! 」
 何人かいなかったり初めて見る人がいるけれど、ギルドってこんなに出入りが激しいものなのかしら…? 朝礼に参加していた人達散り散りになったところで、ランベルは奥の方へ歩きながらシリウスさんに呼びかける。回復したハクさんは悠久の風のベリーさん達と話しているけれど、私とテトラちゃんはひとまずランベルの後に続く。依頼掲示板の前で話しているから邪魔になるかもしれないけれど、この様子だと確認する人はいなさそうだから大丈夫なのかもしれない。帰還して初めて話すという事もあって、副親方のシリウスさんは私達の労をねぎらう言葉をかけてくれた。
 「テトちゃん、おかえりなさいですっ」
 「ただいま! 」
 「“陸白の山麓”…」
 「…そちらの方はどうでしたか? 」
 「えっ? そっ、そうね…、予想通り、種類は違ったけれど知らない生き物がいたわ」
 「…ただ山頂に行くまでの登山が、凄く過酷でしたね。僕達は一日で強行しましたけど、“陸白の山麓”は二日がかりで挑戦した方が良いかもしれないです」
 難易度もかなり高かったから、その方が良かったのかもしれないわね。私達が話しているところにブラッキーの女の子、アーシアさんが駆け寄ってくる。テトラちゃんと仲が良い…、そもそもテトラちゃんと同じ時代から来ているみたいだけれど、別で二人で話し始めていた。多分“陸白の山麓”での事だと思うけれど、その会話に参加する間もなくシリウスさんの方に引き戻される。シリウスさんの方の途中は訊いていなかったkら思わずこう答えたのだけれど、この感じだと偶然話題とあっていたのかもしれない。ランベルが補足すすような感じで話してくれたから、この時ようやく話の内容をさする事ができた。
 「一日がかりで、ですか…。そうなると、相当難易度が高かったんですね? 」
 「高かったと言えば…、そうかもしれないわね。これから調査結果を申請するつもりだけれど、五つのダンジョンに分かれていたわ」
 「前半二つは良かったんですけど、残り三つは中々でしたね」
 「火花のお二人がそういうって事は、相当ですね。詳しく聴きたいですけど…、これから別件で予定があるので、帰ってから聞かせてください」
 「という事は…、あの生物の事かしら? 」
 「いいえ、ハクの案件と、ちょっとした私用です」
 ハクさんの? という事はシルクさんの件以外に何かあったのかしら…? 物凄く簡単になったけれど、私達二人はシリウスさんに調査の事を話し始める。今思うとあのレベルのダンジョン群は、中々お目にかかれない難易度だったと思う。私達二人の見立てだから何とも言えないのだけれど、五合目のノーマルレベルから始まって、最後の九合目になるとスーパーレベルになっている。草の大陸の“空の頂”も複数からなるダンジョン群だって聞いているけれど、確か“陸白の山麓”みたいな難易度の幅は無かったと思う。けれどその事を伝える前に、シリウスさんは急に話題を切り替えたから話しきる事が出来なかった。
 「なので申し訳ないですけど、自分達の方はハクに訊いてください。…アーシアさん、お待たせしました。そろそろ行きましょうか」
 「はっはいです」
 シリウスさんの予定に、アーシアさんも? 私達の元から離れ始めたシリウスさんは、近くで話しているアーシアさんにこう呼びかける。無理やり話を終わらせていこうとしてるとなると、急を要する事か、他の大陸に用事があるのか…、そのどちらかだと思う。けれど過去の世界から来ているアーシアさん絡みみたいだから、私はこの時点で訳が分からなくなってしまう。彼の言う通りハクさんに訊くしかないけれど、首を傾げる私達を置いて、シリウスさん達はこのギルドを出発してしまっていた。




  つづく

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想