ごのなな 昔話の怪物

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 洞窟のダンジョンを突破した私達は、息を切らしながらも雲の中を登り続ける。
 経験を積んでいる身としても過酷な環境だけれど、何とか進む事はできていた。
 そんな中私達は、雲の中でオーラを纏った野生三体ほどと交戦する。
 闘いながら考えた結果、私は“参碧の氷原”と昔話との共通点に気付くことが出来た。
 [Side Archia]





 「…ええと何百年も前にも同じ事が起きていて…」
 「…すみませんがお客様、そろそろ閉館の時間なのですが…」
 「ひゃっ…、ごっごめんなさい」
 え…いつのまにそんなに経って…。
 「すっすぐ片付けます」
 「いえ…、もしよろしければ、貸し出しの方の手続きをしておきますけども」
 「それなら…、お願いします」
 「はい。では少しお待ちください」
 メモが途中だったから助かったけど…、こんな時間までいて迷惑だっ…、あれ、メール? 戻ってきてる事しってるのはシルクさんとウォルタさんだけだから…、どっちだろ…。
 
―――
――



  To:Wolta
  BCC:Archia


   詐いつわりを以って偽を粛す
   其の為我が身を捧ぐ


  From:相反の半糸


――
―――


 「“相反の半糸”…? 誰だろう、“相反の半糸”て…」
 「お待たせしました、返却期限は一週間後になりますので…」
 「あっありがとうございますっ」



――――




 [Side Kyulia]




 「うゎあ…、凄い! 」
 「これは絶景ね…」
 「苦労して登ってきた甲斐があったよ…」
 息を呑むって、こういう事を言うのかもしれないわね…。三体の野生を倒した後私達は、戦闘を挟みながらも登山を続ける事ができた。視界が悪かったから迷いそうだったけれど、幸い傾斜があるからそんな事は無かった。それで何とか九合目の突破にも成功すると、そこには壮大な景色が広がっいた。まず初めに、いつの間にか陽が沈んでいたらしく、空は一面黒…。時期的にそうだったらしく、西側の空には黄色い半月。地平線の先に沈みかけていて、一部だけが顔をのぞかせている…。そして何より一番目を引くのが、一面に広がる満天の星々。空気が澄んでいて月以外の光源が無いから、まるで宝箱から沢山の宝石が溢れたかのように、色んな大きさの光粒が輝きを放っている。天文学には詳しくないから分からないけれど、私はここまで綺麗な星空を見た事が無いから、四等星ぐらいの小さな星まで見えているのかもしれない…。それと山頂らしいこの場所の足元には、星空を映したかのように薄青い光の欠片がちらほらと散りばめられていた。
 ちなみにいつものダンジョンの報告をするなら、九合目の総合評価はスーパーレベル、だと思う。広さは八…、“陸白の山洞”よりもかなり上のウルトラ。月の状態と高さを考えると、最低でもこのレベルが妥当だと思う。環境の方は言ったかもしれないけれど、雲の中で視界がかなり悪く、高所という事もあって空気がかなり薄い。体中に酸素が回らなくて動き、判断力も低下する事に加えて、常に酸欠状態で行動しないといけない…。こういう事を考慮すると、環境の指標はスーパーレベル。…ここまでは他のダンジョンでもたまに見られる程度だったけれど、野生の指標が異常…。あれから何十回と戦ったのだけれど、その全ての野生が、あのオレンジ色のオーラを纏っていた。これとどういう関係があるのかは分からないけれど、技の威力、守り、戦略、それと他の個体との連携が野生とは考えられないぐらい高かった。…だから滅多に付く事は無いのだけれど、野生の指標は最高のハイパー…。属性も種族もバラバラだったから、下手をすると立ち入りを禁止されるレベルになるかもしれない。
 「本当にそうね…。光る石も珍しいけど…、…やっぱり、昔話の通り祠があるわね」
 「祠って事は…、村の昔話は本当だったのね」
 「そうなると…、昔話じゃなくて伝承になるんじゃないかな? 」
 「かもしれないね。亀裂みたいなものも祠の近くに浮かんでるから…」
 そういうのが正しいわね、きっと。視線を上に向けていた私は、ここで一度正面の方に向けてみる。夜空で正確な色は分からないけれど、山の一番高い場所に、多分白っぽい祠みたいな何かが建てられているのが見える。“参碧の氷原”の祠とは少し形が違うけれど、大きさは同じくらいだと思う。それからランベルの言う通り、祠の真上には白い亀裂…、というよりは、丸く渦巻く白い穴…。“参碧の氷原”で見た渦とそっくりだから、私が思っていた事はあっていた、って事になる。
 「亀裂だけじゃなくて、木みたいなものもあるみたいね」
 木…?
 「テトラちゃん、あの木も光ってるけど、山の外には…」
 光る…、木? 私は知らないけれど、光る木なんて聞いた事ないわね…。
 「…こんな木もあるのかしら? 」
 「うーん、僕は今まで見た事ないかな。この一本しかないみたいだけど…」
 だけど何かしら…? この感じ、どこかであったような…。
 「ランベルさんも? …私もないかな。光る木なんて、二千年代でも見た事無かったし…」
 …そうだ、思い出したわ! この感じ、“参碧の氷原”でもあった気がするわ! …という事は…。
 「もう少し近くで…」
 まさか…!
 「…見てみな…」
 「テトラちゃん! すぐその木から離れて! 」
 「えっ? 離…」
 「――! 」
 「秘密の力! っくぅっ…! 」
 やっぱり…。けれど…。そびえ立つ木に違和感を感じていた私は、ランベル達の話に耳を傾けながら考えていた。けれど考えれば考えるほど、“参碧の氷原”の時と同じ…、そういう思いに満たされてしまう。そうこうしている間に、テトラちゃんが何の警戒も無しに例の木? に近づこうとしていたから、私は慌てて大声をあげて呼び止める。結果的に驚かせて足を止めれたけれど、その間に私の悪い予感が当たってしまう。木だと思っていたモノが急に動き出し、無防備なテトラちゃんに向けて電気の塊が飛ばされる。慌てて私は三メートル先にいるテトラちゃんを追い抜き、九本の尻尾全てに力を溜め、電気の塊に思いっきり叩きつける。けれど電気の出力が高く、真ん中とその両側二本、計五本の尻尾が痺れてしまった。
 「キュリア! 」
 「キュリアさん! あっ、ありがとう…。…もしかしてあれが、昔話の怪物? 」
 「そうに違いないわ! だけどキュリアちゃん…、尻尾は…」
 「痺れて感覚が無いけれど、このぐらいなら…、平気」 
 麻痺状態にはなってないと思うけれど、始めからこれは厳しいわね…。尻尾で弾いて不意の一撃を防いだ私は、痺れに顔を歪めながらも何とか頷く。電撃波か何かだと思うけれど、その割には威力が高かった気がする。幸い痺れる程度で済んだけれど、さっきの一撃は牽制の可能性が高い。一度振り返ってランベル達の方を見たのだけれど、二人ともこの一発だけで敵の危険性を察したらしかった。
 「保宇、未左加於礼乃己宇計”幾遠太衣留止波奈」
 「何言ってるのかさっぱり分からないんだけど…」
 「本当に怪物じみてるわね…」
 「“参碧の氷原”の生き物もそうだったけど、こういう生物って、僕達とは違う言葉を使ってるのかな? 」
 「…かもしれないわね」
 向こうはまだ聴きとれたけれど、この生き物は本当に分からないわね…。電飾みたいな相手は私に対して何かを言っているらしく、言葉にならない声をあげる。もちろん私もそうなのだけれど、これを聞いたテトラちゃんはこくりと首を傾げる。一応考えては見たけれどやっぱり分からないから、アリシアさんの言う通り怪物、こういう例えが正しいかもしれない。
 「太”加”之加之、己乃於礼波己乃天以止”之”也奈以。加久己”寸留己止太”奈! 」
 「くっ、くるよ! キュリアさん、ランベルさん! 」
 「ええ! 」
 「アリシアさんは下がっていてください! 」
 向こうは戦う気ね? 本当に何を言っているのか分からないけど、相手は枝? 触手? の先端に電気を纏わせ始める。纏ったって事は攻撃するつもりだと思うから、私は痺れている尻尾を庇いながら身構える。テトラちゃんとランベルも察しているらしく、いつでも動けるように多分エネルギーを活性化させる。そしてランベルの合図で、私達は“ウィルドビレッジ”に伝わる怪物との戦闘を開始した。




  つづく

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