ごのろく 怪物の手下

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 休憩後に辺りを捜索しても、先に進む道は洞窟しか無かった。
 なので私達四人は、暗い洞窟の中を進むことになる。
 テトラちゃんのフラッシュで照らしてもらいながら進んでいると、ダンジョン地帯に突入して早々に大量の野生に襲撃されてしまう。
 やむを得ず私達は、狭い小部屋で籠城戦を試みざるを得なくなってしまった。
 [Side Altair]




 『…聞こえる? 』
 『うん、聞こえている。この声は…、“原初”様だな? 』
 『ええ。サードも、使い方は身につけたようね』
 『この手の機械は“終焉”以前に扱った事があるからな、うん』
 「“属性”も大したものよね。…それでミウ? そっちはどう? 」
 『私達の方は…、そうね…、“赤兌の祭壇”の“ビースト”は殲滅されていたわ。だからこれから、不本意だけれど敵の本拠地に潜入する、といったところね』
 「不本意…、って事は本当にフィフさんは―――なのね」
 『フィフは昔からそうだから、仕方ないわ。…それでアルタイル? あなたの方は? 』
 「私は今“デアナ諸島”に着いたところよ。もう暗いから、ベガとデネブに会うのは明日になるかもしれないわね」
 『ルデラとデアナではかなり距離があるからな、うん。…しかしチェリーと言ったか、貴女は別時代のセレビィと面会すると聞いていたが…』
 『シードの事ね? 三日遅れたけど、何とか今日会えたわ。それも二人の助っ人付きでね』
 「助っ人? 」
 『そうよ。アルタイルは知ってると思うけど、一人は“星の停止事件”の解決者のフライゴンと、もう一人は同じ時代の出身でフィフの従弟、だそうよ』
 




――――



 [Side Kyulia]




 「…ランベル君、あなた達って…、こんなに過酷な所に…、毎日…」
 「ううん、流石にここまで…、のダンジョン群に挑戦する事は稀…、だけど…」
 「それにしては厳しすぎない…? こんなに息苦しい所…、今まで見た事も聞いた事も…、ないんだけど…」
 「確かにそうね…。今まで色んな環境のダンジョンに…、挑んできたけれど…」
 この環境はあまり無かった気がするわね…。洞窟で籠城戦を繰り広げていた私達は、体感的に三十分ぐらい同じ小部屋で戦い続けていた。そのぐらい戦っていたら敵の勢いが弱まったから、その隙を突いて一気に突破…。こういう事には慣れていないはずのアリシアさんは私が背負ってだけれど、テトラちゃんとランベルと私は俊足の種を食べて、暗い洞窟を一気に駆け抜けた。何とか連戦から抜け出すことはできたのだけれど、それからもまた大変だった。洞窟の中は傾斜の緩い坂道になっていて、ただ走るだけでも余分に体力を消耗した。そんな中で戦闘するとなると、たまに足元をとられて挫きそうになったりもする…。おまけに光が全くない洞窟だから、照らしてくれているテトラちゃんから離れると目を閉じたみたいに前が見えなくなる。こんな中でよく前が見えるわね、って野生に関心している私がいたのだけれど…。
 それで何とか洞窟のダンジョンを突破できたのだけれど、思い返してみると中々難易度だったと思う。それまでに三つのダンジョンを突破してきた、っていう事もあるのかもしれないけれど、総合的にはダイヤモンド…、かしら? 今までの地形とは大分変わっていたけれど、環境の指標は真っ暗で傾斜になっているダンジョンだから、シルバー。けれど野生のレベルは、七合目までよりもかなり上がっていた。モンスターハウスに侵入していなくても数が多く、何より一体一体の実力が急に上がっている…。通常攻撃では全く倒すことが出来ず、秘密の力でも尻尾七本を一点に当てないと倒せなかった。…だから総合して、スーパーレベル。広さの方は、私の予想に反してプラチナレベル。ずっと洞窟の中にいて時間感覚が狂ってきているけれど、空腹の度合いを考えるとこのぐらいだと思う。…それでこれはランベルとテトラちゃんと相談した結果だけれど、七合目までとは少し違ったから、申請する時は名前を変えて提出しよう、という事になった。今いる九合目もそうなのだけれど、七合目までとは違って八合目は洞窟のダンジョン。…だから私達の後で挑戦する人達に違いを知らせるためにも、八合目は“陸白の山洞さんどう”、って命名した。
 「結構な高さを登って来ている…、から…、はぁ…、空気が薄くなっているのかも…、しれないわね…」
 「って事は…、はぁ…、はぁ…、この白いのって…、雲…、なのかな…」
 そうね、結局周りが白くて何も見えないけれど…。話を今の事に変えると、洞窟…、“陸白の山洞”を突破した私達は、小休止を挟んで先に進んだ。…進んだのは良いのだけれど、今いるここもかなりの環境だと思う。七合目までみたいに雪は降っていなくて積ってもいないのだけれど、標高が高いからなのか、空気が凄く薄い。歩き始めてまだ五分も経っていないのだけれど、慣れていないアリシアさんだけでなくて、私とランベルも肩で息をしてしまっている。それと合わせて視界も悪く、五メートル先が白く霞んで見えなくなっている。それも多分霧とかそういうものでなくて、テトラちゃんの言う通り、空に浮かぶ雲なのかもしれない。
 「だと…、思うわ。…私達が住んでる山のはずなのに…、知らない事が多くて…、本当に驚きね…。…登るだけでも大変だけど…、何故かしら…? 今すごく…、楽しいわ…」
 「そう言ってくれるなら…、探検家の僕達としては…、本望かな…」
 「その分危険だけど…、私も元の時代とは違う戦いが出来て…、新鮮だよ…。だって種とかの…、道具使って戦う事…、向こうではしないか…、何…? 」
 「何だろう…、あの光? は…」
 私も見えたわ。こんなに過酷な環境なのに、アリシアさんは寧ろ楽しんでいるらしい。一瞬高山病か何かかな、とも思ったけれど、闘いながら登っているから、急激な高度の変化はないはず…。けれど見た感じ吐き気とか頭痛は無さそうだから、それは無いのかもしれない。…よく考えたらアリシアさんの方が、高所には慣れているのだけれど…。
 そんな中私達は雪の無い坂道を登っていたのだけれど、ランベルが真っ先に前方に何かを見つけたらしい。周りが真っ白だからだと思うけれど、そのお陰で私もすぐに気付く事ができた。ランベルは光って言っているけれど、私にはモヤのような…、そんな風に見える。…じゃなくて水を張ったバケツに白い絵の具を溶かして、そこにオレンジ色の色水を滴下した、そんな風に例えた方が良いのかもしれない。
 「分かんないけど…、動いてない…? あ…」
 「ガァッ! 」
 「うっ、後ろから…? 秘密の力! 」
 「左からも…、炎のパンチ! 」
 「グァッ…」
 ぜっ、全然気づかなかった…。まさかこんなに接近されているなんて…。前のオレンジに気をとられて、私達は背後から近づいていた敵に気付くことが出来なかった。私は相手の唸り声で気付けたのだけれど、その時には既に、私達の二メートル後方にまで迫られている。だから私は、咄嗟に尻尾にエネルギーを集中させ、力に変換してから勢いよく回れ右をする。種族は確認していないけれど、横方向に九本の尻尾で凪払ったら手ごたえはあった。右の後ろ足を軸に回転しながら確認すると、反転した時から見て右方向に野生が弾かれているのが見えた。けれどその途中で、ランベルが応戦しているけれど、ケケンカニが左の鋏を振り下ろしていた。
 「凍える風…」
 「ムーンフォース…! ランベルさん…」
 「何、テトラちゃん…」
 「まだ三体しかいないけど…、はぁ、はぁ…、この野生…、変じゃない…? 」
 「変…? 」
 「その…、何ていうか…」
 言われてみれば、そんな事もない気がするけれど…。私達から一瞬遅れて、テトラちゃんとアリシアさんも残りの一体に攻撃を仕掛けてくれる。アリシアさんは普段の姿でいるのだけれど、多分一番使い慣れている冷風を発動させ、微力ながら前方の野生を押し戻してくれる。その間にテトラちゃんが薄桃色の玉を準備し、負けじと接近してくるサワムラーに向けて解き放つ。…けれどその相手…、だけじゃなくて他の二体にも、何か今までとは違うものがあるような気がした。
 「何かオーラみたいなのが…、ついてない? オレンジ色の…。…フラッシュ」
 「ッ? 」
 「神通力…! って事は…、さっきの光も…」
 「野生って…、事だね。…シグナルビーム! 」
 けれどあのオーラ、最近どこかで見たような…。どこだったかしら…?
 「グルルァァッ…! 」
 「くぅっ…、…ギガインパクト! 」
 「ガァァッ…ッ! 」
 「…っ、…はぁ…、はぁ…、オーラだけじゃ…、なくて、威力も…、凄くあるんだけど…」
 …そうだ、思い出したわ! このオーラ、シリウスさんと二人で“参碧の氷原”で戦った時の…。
 「他とは違う…、秀でた個た…」
 「怪物の手下…、そうに違いないわ…! 」
 「かっ、怪物…? アリシアさん、…そんな生き物がいるわけな…」
 「いいえ…、そうなのかもしれないわ…。…ソーラービーム! 」
 「きゅっ、キュリア…? それって…、どういう事? 」
 私は戦いながら考えていたのだけれど、このオレンジ色のオーラを纏った野生、私は最近ダンジョンで戦っている。別の事を思っていたらしいアリシアさんに遮られたのだけれど、“参碧の氷原”で戦った、あのユキノオー…、あの一体も、オレンジ色のオーラを身に纏っていた。その個体は他とは違って、周りの野生の指揮を執って襲わせているような動きをしていた。だから私は、この三体も秀でた個体、最初はそう思った。
 けれどよく考えると、“参碧の氷原”と“陸白の山麓”、二つのダンジョンは似ている部分が結構ある。八合目は違ったのだけれど、どっちの地形も雪と氷、降雪の面では全く同じ。それから…。
 「ランベル…、テトラちゃんは知らないと思うけれど…、よく考えてみて。“参碧の氷原”とウィルドの昔話…、同じことを言っていると思うのよ」
 「雷パンチ…。…いっ、一緒? 」
 「ええ…。“参碧の氷原”の奥地で倒した生き物…、考え方によっては…、あれも怪物、って思うのよ。それからランベル達は…、初めてだと思うけれど、“参碧の氷原”でシリウスさんと潜入している時…、はぁ…、私達はあのオーラを纏った野生と…、闘っているのよ…」
 「そっ…、そうなの…? 」
 「そうよ…。“参碧の氷原”にいたあの野生を…、怪物の手下って考えると…、…熱風! …他の個体の指揮を執っていた事の…、説明がつくのよ…。個体の特徴が同じだから…、この三体は昔話に出てた…、怪物の手下…。そしてあの生き物が、見た事も聞いた事もない種族だから怪物…。…こう考えると、わざとみたいに…、辻褄が合うのよ…! 」
 私は未だに倒れない野生と息を切らせて戦いながら、パートナーに根拠を説明していく。話した事だけでなくて、昔話に出ていた亀裂、それも“参碧の氷原”に確かに存在した。後者の方は白い渦だったけれど、捉え方によっては空中に空いた丸い亀裂、こんな風に例えても話が通る。それから最後まで忘れていたのだけれど、昔話では祭壇が出ていて、“氷原”では祠が建てられていた。ここまで条件が揃うとなると、意図して同じ様につくられた、嫌でもそう考えてしまう。だから私は、今いる雪山…、“陸白の山麓”にも、常識はずれの強さだった化け物が最奥部にいる…。条件が全く同じだから、私は頭の中でこう結論を出してしまっていた。居ても居なくても、ダンジョン突破だけでも十分過酷なのには変わりないのだけれど…。




  つづく

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