One-Fifth 笑顔に隠された真実

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読了時間目安:12分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 チェリーと別れたウチは、その足で郵便局へ向かう。
 届いていた手紙には、チーム火花が今日中にギルドに着く、と書かれていた。
 慌てて戻ったウチは、火花の二人だけでなくシルクとも再会する。
 その彼女と親友が負ったという怪我の事を聞き、ウチは唖然としてしまった。
 [Side Silius]



 「…シリウスさん、三人とも出かけてしまいましたし、どうしましょう? 」
 うーん、そうですね…。ハクが帰ってきてから、自分達は明日の予定について話し合った。大まかな概要しか話していないけど、ひとまずチーム割とダンジョンの特徴だけは話しておいた。自分はデンリュウのランベルさんと二人で組んで、ハクはシルクとキュウコンのキュリアさんと組んでもらうことになった。属性の関係上自分とランベルさんは問題ないと思うけど、ハクは氷タイプが弱点。そういう訳で炎タイプのキュリアさんと組んでもらい、最悪の場合でもシルクがいるから何とかしてくれるはず。…副親方の自分があまりそう思わない方がいいような気もしますが…。
 そして調査の概要説明も済んだので、昼過ぎということもあり自由時間にすることにした。これといって用事もなかったけど、ハクとシルクはキュリアさんを連れて街の観光をするつもりらしい。どこを見るつもりかは聞きそびれましたが、おそらくは水中区画を見るつもりなのかもしれない。キュリアさんは氷タイプになれるそうなので、体に負担がかからず観光できる事でしょうね。
 「これといって何も考えていませんけど…、もし良ければ、ランベルさんのお好きな場所にお連れしますよ」
 おそらくはこれが、一番有効的に時間を使えるでしょうね。フロリアギルドの事務仕事に戻ったから、今ロビーにいるのは自分とランベルさんの二人だけ。なので彼は一度辺りを見渡してから、自分にこのあとの事を訪ねてくる。自分が提案した自由時間だけど、明日の調査の準備をすること以外、これといってすることがない。だからアクトアタウンにあまり来たことがないと思われるランベルさんに、こう質問してみた。
 「好きなところですか…。でしたら、折角の水の大陸ですから、ビアーコーヒーを飲みたいですね」
 「ビアーコーヒー…。それなら、自分がハクとよく行っている喫茶店とかはどうでしょう? トーストとか簡単な食べ物も食べられるので、遅めの昼食ついでにどうでしょうか? 」
 そういえば、今日はまだ一杯も飲んでませんでしたからね。ランベルさんは一度腕を組んで考え、すぐに希望を話してくれる。他にも見たいところがあったかもしれませんが、もしかすると小腹が減っていたのかもしれない。よく考えたら、ランベルさん達は朝早くジョンノエタウンを出て、昼前にこの街についている。自分とばったり出くわす前に何か食べていたのかもしれませんが、時間的に考えても暇はなかったはず…。
 だから自分は、自分の気分とも相談して、こういう提案をする。自分自身もいつもなら、ハクと行きつけの喫茶店でモーニングを嗜むのが日課だけど、あいにく今日はできていない。だからということで、自分は通い慣れた穴場の店を選んだ。
 「言われてみれば、僕達、昼食がまだでしたから…。じゃあ、そこでお願いします」
 「はい。ランチの時間帯は終わってますので、自分がランベルさんの分も払いますよ」
 「いやいや、そんな払ってもらうなんて、申し訳ないですよ」
 「それなら…、達成報酬の一部としてはどうでしょうか? 」
 「それでしたら…、お言葉に甘えて」
 チーム火花といえば自分達が活動し始める前からあった、いわゆる伝説級のチームですからね。それをわざわざ来てもらっているから、少しは自分も何かしたいですから。自分の提案に乗ってくれたらしく、ランベルさんはぜひ、という感じで頷く。なので自分は、そこでやっているサービスとかを思い出しながら話を続ける。けど今から行くとギリギリ間に合わないので、せめてこのくらいは…、という感じで話を持ちかける。けど当然ランベルさんは首を縦にはふらず、遠慮気味に自分の申し出を断ってくる。最終的にはランベルさんが折れるような形で、自分の提案に同意してくれた。



――――



 [Side Silius]



 「…ビアーコーヒーと、ハムカツサンドをお願いします」
 「ビアーコーヒーとハムカツサンドですね? 」
 「それと、自分はいつもので頼みます」
 「トーストセットですね? かしこまりました」
 やっぱりこの店に来たら、これに限りますね。留守番をフロリア、それと一人で技の調整をしているリルに任せて、自分達は歩いて五分ぐらいの喫茶店に立ち寄った。アクトアタウンは割と喫茶店文化が根付いていて、観光客もよく訪れているけど、今自分達が来ている店は、大通りから一本外れた場所にある、いわば穴場スポット。地元の人しか入らないような店で、ピークの時間帯でも比較的早く嗜む事ができる。今日も時間帯がずれているということもあって、一切待たずに席につくことができた。窓際の席に案内されたので、ランベルさんに備え付けのソファーに腰かけてもらい、自分はその向かいの一人がけの椅子に座る。四足の自分は前足を机にかけ、中腰のような感じで席についた。
 「どうですか? 結構落ち着いた感じですよね」
 「はい。混んでいるのかなと思ったんですけど、昔ながらの感じで居心地がいいです。人も少ないみたいですし。…いきつけだって言ってましたけど、どのくらい来てるんですか」
 「街にいるときは、毎日ですね。朝も五時ぐらいから空いているんで、出掛ける前に寄る事もありますね」
 眠気覚ましのコーヒーを飲んでから、一日が始まるという感じですかね。注文もし終えたので、自分達はひとまず話始める。見たところ気に入ってくれているらしく、内心自分はひと安心した。机に置かれているコップを左の前足で掴み、一度水を飲んでから話を続ける。ランベルさんもお絞りで手を拭きながら、何気ない雑談を楽しんでくれていた。
 「眠気覚ましにですかー。いいですね。ジョンノエタウンにはそんなに早い時間から空いている店がないので、羨ましいですよ」
 「この店が早いだけですから…。ランベルさんは、朝にしている日課とかはあるんですか? 」
 「そうですね…。強いて言うなら、静かな街中をキュリアと散歩するという感じですね」
 ジョンノエタウンで静かということは、六時とかそれくらいかもしれないですね。話題は日課の事に移り、自分達は完全にリラックスした状態で話始めていた。だけどお互いの性格からなのか、どうしても敬語は抜けきれていないような気がする。自分から見てランベルさんは、八つも年上だから仕方ないとして、彼自身は、逆に年が離れすぎているから、かもしれない。
 「キュリアと引っ越してきてから続けているんですけど、ミストタウンではそうはいかなかったですからね…」
 「そうはいかない…、ということは、何かあったんですか? 」
 「あったといえばあったと言えますけど…、周りが、と言った方が正しいですね」
 「周りが、ですか? 」
 そう言われても、霧がかかるぐらいしか思い浮かばないですけど…。ランベルさんも語り通すつもりらしく、一度水で口の中を湿らせていた。その時の事を思い出しているのか、ランベルさんは懐かしそうな表情をしながら話始める。だけど何か訳ありらしく、その言葉に含みがあったような気がする。うっかり口が滑っただけかもしれないけど、その事を訊くと少し表情が暗くなったような気がした。
 「はい。ミストタウンは僕とキュリアの生まれ故郷なんですけど、画一主義的なところがありましてね、古くから異端を良しとしない気風があるんですよ。ですから…、キュリアは幼少の頃、その偏見に晒されていたんですよ。今思うとそれが、キュリアの家系が"大虐殺事件"で濡れ衣を着せられる要因になったのかも知れませんね…」
 霧の大陸で"大虐殺事件"といえば、三十年ぐらい前に霧の大陸中で起きた、ってハクから聴いたような気がしますけど…。確かあの事件はランベルさんのチームが、真相を解明したはず…。
 「もちろん僕の実家はそんなことはしません…、させませんでしたけど。そういう事があったので、一時期キュリアが心を閉ざしていた時期があるんです」
 「心を、閉ざす…? 」
 ということはもしかして、自分と同じ…? 原因は違いますけど…。
 「はい。ですから、両親を失ったショックと気を紛らわせてもらうために始めたのが、探険隊、という感じですね」
 結成理由も、自分達と同じ…?
 「今では立ち直っていますけど、キュリアにはあまり辛い想いはして欲しくないんですよね」
 「そう、なのですか…。自分もその気持ち、分かる気がします」
 「シリウスさんも? 」
 「はい。実は自分も、この時代に導かれた直後はキュリアさんと似たような状態でしたから…」
 あの時の自分は、パートナーも仲間も失って、そのショックで精神的に崩壊していましたからね…。…あの時ハクが看てくれなければ、今の自分はいないかもしれないですね…。自分は聴くつもりはなかったけど、ランベルさんはチームの創成秘話を話してくれた。伝説級のチーム結成の逸話につい聞き入ってしまったけど、その話にどこか懐かしさも感じた。何しろ自分が経験してきた事と似ていて、結成理由に至ってはほぼ同じだったから…。だから僕は、ランベルさん達…、特にキュリアさんに、例えようのない親近感を感じる。そういうこともあって、気づいたら自分の口からも流れるように話始めていた。
 「…ハクはあまり話したがらないんですけど、ハクも苦労してきたみたいです」
 「ハクさんが? 凄く活発で明るいので、そういうようには見えないですけど…」
 「自分も聴くまで想像もできませんでしたからね…。ハクは誰にも知られたくないみたいですけど…、ランベルさんなら、"リナリテア家"をご存じですよね? 」
 「はい。エアリシアの貴族だって、学校で習ったような気がしますけど…」
 「その貴族のはずです。…ハクはその家系の長女みたいで、本来なら家督を継ぐ予定だったらしいです。…ですけど理由までは話してくれませんでしたけど、進化した時に家出した、と言っていました。両親の事が嫌いみたいですから、もしかすると親子喧嘩したんだと、自分は思っています。カイリューという種族も極端に嫌っていますから…」
 もしかするとハクが進化したがらないのも、こういう事があったからなのかもしれないですね…。途中からは推測の話になってしまったけど、自分はハクの事を淡々と話す。ハクは進化しない派だと言うことは広く知られているけど、表向きでは、進化しなくてもここまで来れたから、ということになっている。真相は本人に訊かないと分からないけど、そういうことだと自分は思っている。何年か前に"年間検挙大賞"を受賞した結成初期の頃も、気のせいかもしれないけどドラゴンタイプの種族が多かったような気がしますし…。




――――



 [Side Unknown]




 「…父上、今月の議会の報告は以上になります」
 「うむ、ご苦労だった。出来損ないの家出娘と違い、リク、お前はよくやってくれた」
 父上は存じてないだろうけど、ぼくなんかは姉上の尻尾の先にも及ばないよ…。…それにしても、あんな法案を議長に採決させようだなんて、いくらなんでも…。
 「これで我が家にも、大量の金が入るわねぇ」
 母上はまたこれか…。…姉上が母上の事を嫌いになるのも分かる気がするよ…。
 「全てはエアリシアと"リナリテア家"のためだ、リューシュよ、当然じゃろう」
 "リナリテア家"のため…? ただ権力とお金を維持するためだけだと思うけど…。…やっぱりダメだ、言えそうにない。こんな時に、姉上がいてくれたら…。姉上に助けてもらいたいけど、今は探険隊ギルドの事で忙しい筈だから、ぼくだけで何とかしないと…。ソクに言うわけにもいかないし…。



  つづく……

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