One-Fourth 思いがけない来訪者

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読了時間目安:14分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 行きつけの喫茶店で語り合うウチらは、最近諸島で起こっている事の情報を交換する。
 その中でチェリーから知らされたのは、親友のチームの事と、セレビィという種族ならではの事。
 彼女が言うには、ウチらが住む七千年代だけ、原因不明の異常が起きているらしい。
 二千年代に親友がいるウチらにとっても無関係じゃないから、何とかしたい、そう強く思いはじめてきていた。
 [Side Haku]



 「…それじゃあ、そろそろ行くわね」
 「そんな時間やもんな。…じゃあ、ラックさんにもよろしく言っといてな! 」
 「ええ! 」
 ウチはしばらく会えてへんけど、ラックさん達にはお世話になったでな! 喫茶店での雑談を切り上げて、ウチらは午前の街を歩いていく。ウチも暇な事は無いけど、これから行く予定の所はこのくらいの時間やないと開かない。そやから時間潰し、っていう意味で喫茶店に寄ってたから、これから毎日の業務を始めるつもり。…とは言っても一軒でまとめて済む話やから、その建物の前で、ウチはチェリーと別れる事にしていた。
 彼女もウチの予定は分かってくれとるから、その場所で振り返り、こう言ってくれる。彼女も急ぎの用は無いみたいやから、ウチの声かけに笑顔で答えてくれる。喫茶店では暗くて重い話題になってしまったけど、あの空気は今は払拭できている。そやからウチも、弾けた声でこう応える。ギルドの件でお世話になった彼の名前を出してから、ウチらは別々の方向へと歩みを進める事にした。
 「さぁてと、すみません。今月もいつものようにお願いします! 」
 「はいはい。草の大陸の探検隊協会宛ですね? 」
 「そうです。速達やないから、お代は百八十ポケでええやんな? 」
 「そうなりますね。…はい、確かに受け取りました。では、午後の便で送付しておきますね」
 「頼んだで! 」
 これも親方としての業務の一つやでな。目的の建屋、郵便局に立ち寄ったウチは、いつものように真っ直ぐ、発送の窓口へと向かう。開局直後と言う事もあって誰も待っとらんかったから、すぐにウチは要件に入る。防水性のバッグからその封書を取り出し、受付のペリッパーにそれを取り出す。ギルドの決算報告書や活動内容とかをまとめた重要書類やから、その分高つくけど…。
 「もちろんですよ。…あっ、そうそう! ハクさん、“明星”のお二人宛に、お手紙が届いてますよ」
 「ん、ウチらに? 」
 手紙といえば、一昨日に出したばかりやけど、流石にそれは早すぎるでなぁ…。係のペリッパーは得意の笑顔で応じてくれ、ウチから手渡された封書をカウンターの下に仕舞う。どういうシステムなんかは知らへんのやけど、多分一般郵便の棚に、ウチの封書を置いたんやと思う。それから彼は下げていた視線を上げ、そこで何かを思い出したように短く声をあげる。かと思うと彼は、ウチの返事も待たずに、カウンターの奥の方へとその手紙を取りにいった。
 「霧の大陸の方は早くから業務を始めているみたいで、今朝速達で届いたんですよ」
 「速達で? でも霧の大陸って事は…」
 まさか、そんな筈は無いやんな? 右の翼で掴んで持ってきてくれた彼は、その便せんをカウンターの上に置いてくれる。向こうの大陸での速さには驚いたけど、彼はこの手紙が届いた時間をすぐに教えてくれる。速達とはいえ大陸名に心当たりがあったけど、流石にそれは無い、ウチは思い浮かんだことをすぐに心の奥の方に圧し込む。そやけどウチは、その便せんの文面を見た瞬間、追いやった思いを引き出さずにはいられなくなってしまった。
 「チーム“火花”からの郵便ですよ」
 「…ほんまや。まさかこんなに早く返事くれるとは思ってへんかったでな…」
 ちょっとビックリしたなぁ。その送り主は、ウチが依頼の件で手紙を送った、マスターランクのチーム。ダメ元で送った先やったから、まさかこんなに早く返信が来るとは思っとらんかった。やからウチは、思わずその送り主の名前を二度見してしまう。やけど見間違い、聴き間違いやなかったから、そういう意味でも二重に驚いてしまった。
 「こちらも驚いてますよ」
 「やっぱそうやんな? ええっと…」
 乱れた心を何とか落ち着かせながら、ウチはその場で便せんを開封する。便せんの底の方を尻尾で押さえ、糊付けされている部分を咥えて上方向に剥がす。それから床に置いた状態で中の手紙を尻尾で取り出し、同じく尻尾でそれを広げる。するとその面には、綺麗な足型文字でこう書かれていた。


  拝啓

  先日のお手紙、拝見しました。
  三碧の氷原の件、私達がお請けします。
  ですので、明日、貴方方に届く日中に、そちらにお伺いします。
  昼頃に到着する予定ですので、その件についてはよろしくお願い致します。

  敬具

  霧の大陸 チーム火花 副リーダー キュリア


 「今日の昼…、うっ、嘘やろ? 今日の昼って、もうすぐやん! 」
 昼にも着くって…、急がなあかんやん! その文面を読んだ時、ウチは言いようのない焦りを感じてしまう。喫茶店でお茶をしてる場合やなかった、そんな後悔と共に手紙をバッグに片付けながら、ウチはこう声を荒らげてしまう。一応ギルドにはフロリアがおるけど、依頼した手前、親方のウチがおらな話にならない…。一応シリウスも今日の昼には戻ってくる予定やけど、際どいと思う。そやから、すぐにでも戻らないと、ウチはこう自分に言い聞かせ、慌てて郵便局を飛び出した。


――――


 [Side Haku]



 「ハァ…、ハァ…。…フロリア、まだ誰も来てへんやんね…? 」
 パッと見フロリアとリルしかおらへんから、何とか間に合ったんかな…? 郵便局を飛び出したウチは、急いでギルドの方に戻った。文字通り低空飛行で駆け抜け、客人が来るギルドに滑り込む。時間も丁度正午やから、間に合わんかったかもしれない、そう思ったけど、ギルドロビーにいたのは、会計士のフロリアと、特訓を終えたばかりらしいリルの二人だけ…。急ぐに越したことは無いけど、ここまで焦る必要はなかった、こんな風に考えながら、ウチは息を切らせて彼女にこう訊ねた。
 「ハク、相当焦って返ってきたようね? …いいえ、五分ぐらい前に、“火花”の二人とシリウスが帰ってきたわ」
 「しっ、シリウスも? 」
 「ええ。アタイもまさかそうとは思わなかったけど、シリウスが途中で会ったらしくてね、もう一人と一緒に連れてきたのよ」
 シリウスが? そんなら、何とか間に合った…、のかな? ウチの焦り様に引いとったけど、フロリアは落ち着いた様子で、こう教えてくれる。やけど二階への階段の方をチラッと見てから、危惧していたことを語る。幸い不在中に着く事は無かったみたいやけど、その事はフロリアでさえ予想出来てなかったらしい。意外そうな感じで、彼女は手短に話しきっていた。
 「そう、なんやな? …やけど、もう一人って…」
 「ハクもよく知ってる人だと…、あっ、言ってたら降りてきたわ」
 ウチが? フロリアが言ったもう一人、ってのが気になったから、ウチはすぐにこう訊ねてみる。ウチがよく知ってると言えば、ラテ君達やウォルタ君、それからチェリーの事がすぐに浮かぶけど、そのうちの二組はあり得へんと思う。ラテ君達は草の大陸か風の大陸におるはずやし、チェリーに至ってはついさっき分かれたばかり…。だとしたらウォルタ君かもしれへんけど、それなら前もって知らせてくれとるはず…。思い返せば他に色んな人が浮かぶけど、フロリアも知っとる人で当てはまるのは、それ以外ではラックさん達くらい…。そう考えながら彼女の話を聞いていると、例の人物がこのフロアに来たらしく、階段の方を見てこう言い放ってい…。
 「しっ、シルク? こっちの時代に来とったん? 」
 『ええ! 私も急だったから、シードさん経由で伝える暇が無くてね』
 その人物は、白衣を羽織って水色のスカーフを身につけたエーフィ…。二千年代の親友のうちの一人で、化学者のシルク。彼女は白衣の裾を靡かせながらこっちに走ってきてくれて、満面の笑みでこう言い放つ。意外過ぎて驚いてしまったけど、このタイミングで親友が来てくれたと言う事もあって、ウチからも自然と笑みが溢れ出た。
 「彼女も色々と訳があったみたいですからね。…あっ、すみません。申し遅れましたけど、デンリュウのランベルです」
 「あっ、はい。あなたがランベルさんやね? ウチがハクリューのハクやで。今回はありがとな! 」
 訳? というと、何か予想外の事でも起きたんかな? ウチが尻尾、シルクが右の前足で握手を交わしていると、デンリュウの彼が少し遠慮気味に話しかけてくる。手短に名乗ってくれたから、ウチも同じように自己紹介した。
 「いえいえ」
 「…でも何でシルクがランベルさん達と一緒に来たん? いつもならシードさんかフライがおるはずやけど…」
 シルクが“火花”の二人と前からの知り合いやとは思えへんし、何でなんやろう…? 会いたかった人、それから親友が一緒に来てくれて嬉しかったけど、意外すぎる組み合わせに、思わずこう問いかけてしまう。シルクがこの時代に来るためには、最低でもセレビィのシードさんと一緒やないといけない。…そやけど彼女は、その彼やなくて“火花”の二人とこのギルドに来てくれた。そもそも前に会った時はフリーやったから、シルクは知らんかったはずやけど…。
 『あっ、その事ね? 話すと長くなるんだけど、偶々道を尋ねたのがキュリアさんだった、って感じね』
 「そうですね。…途中で仲間とはぐれたみたいですけど…」
 『ええ。私も想定外で、飛ばされた…』
 「飛ばされた? って事は、シードさんも影響を…」
 『やっぱり何かがおかしかったのね。“時渡り”してる時、シードさん、凄く慌ててたから…』
 まさかとは思ったけど、チェリーが言っとった事はと本当やったんやな…。ウチの問いかけに、シルクはすぐに答えてくれる。幸運が重なった結果みたいやから、凄く驚いたわ、っていう感じで話してくれる。ランベルさん自身も当然やとは思うけど、驚きですよね、って呟いていた。それからランベルさんは、シルクから聴いたのか、彼女がこの時代に来た経緯を話し始める。仲間っていうと多分シードさんたちの事やと思うけど、面識がないとはいえ心配そうに呟く。まるで自分の事のように心配してくれてるから、内心嬉しくもあるんやけど…。…けど彼女達が語ってくれたことは、悪い意味でチェリーが話してくれた通りやったから、そんな思いはすぐにかき消されてしまった。
 「やっぱりシードさんも? …実はウチもさっきチェリーから聴いたんやけど、この時代で何か異常が起きはじめとるみたいなんよ…」
 『七千年代で…? まさか、また“星の停止事件”みたいな事が起きて…』
 「原因は分かっとらんからそうとは言い切れへんのやけど、最近それ以外にも起きとるでなぁ…」
 「場所はバラバラですけど、自然災害が増えましたからね…」
 関係性はまだ分かっとらんけど、無関係とは思えへんでなぁ…。ウチは今日知ったばかりやけど、七千年代の“時の回廊”も異常が増えてるってチェリーが言っとった。これはいつからかは分からへんけど、同じ時期に重なっとるから、どうしてもその関係性を気にしてしまう。ランベルさんの反応を見た感じやと、霧の大陸でも災害の事は広く知れ渡っとるんやと思う。腕を組みながら、心配ですよね、って呟いていた。…やけどウチは…。
 「そうやな…。…やけどシルク? さっきから気になっとるんやけど、何でずっとテレパシーで話しとるん? 」
 再開してからずっと頭の中に語りかけとる親友の事が気になり、彼女にこう訊ねてみる。初めて会った時から、シルクは喉に傷を負っていた。この時代で負った火傷で、その後遺症で大声を出せへん事は知っとったけど、日常生活に支障はなかったはず…。
 「…まさか“時渡り”の異常で、その影響を受けたんじゃあ…」
 「影響? 生まれつきじゃなくて、ですか? 」
 『ランベルさん達には言って無かったけど、喋れなくなったのは最近なのよ』
 「最近? 」
 『ええ。直接私が襲われた訳じゃないけど、操られたエンテイに襲われてね…。奇襲をうけた親友を守るために無理をしたのが、直接の原因ってところね。…一応すぐに治療すればここまで悪化しなかったけど、親友の命と天秤にかけて、私の声を捨てたって感じかしら? 』
 「エンテイ…、エンテイって確か、伝説の種族ですよね? 」
 「ウチもうろ覚えやけど、確かそうやったはず…」
 小さい時におとぎ話で聞いただけやから、詳しくは知らんのやけど…。ウチの素朴な質問に、シルクは少し暗い表情やけと語ってくれる。親友…、それが誰なのかは分からへんけど、命と天秤にかけるくらいって事は、その人は致命傷になるレベルの大怪我を負ってしまったのかもしれない。…やけど古傷が暴発した状態で、自分を犠牲にしてでもその人の事を選んだってところを聴くと、シルクらしくて安心した自分がここにおるんやけど…。伝説の種族が、ウチらにとっては大昔になるけど、その種族でも操られたってのが気がかりやけど、それよりもウチは、そのシルクの親友の容態の方が気になってしまった。
 『そうよ。私達の時代では、炎の化身って言われている伝説の種族よ。…私が駆けつけたのが遅くて、その親友は左目を焼かれて失っちゃったけど…』
 左目を…? シルクはその人の事も教えてくれたけど、それは物凄く重い内容やった。左目を失う、つまり失明したって事やから、日常の生活に支障が出とるのは間違いなさそう。…やけどそんな重すぎる内容に、ウチ、それからランベルさんも、かける言葉を失ってしまった。シリウスは少し離れた場所で、フロリアとキュリアさんと話しとるみたいやけど…。



  つづく…

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