第13話 つるつるピカピカ
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
マダツボミを繰り出してきた坊主にマイはミニリュウを出した。別に捕獲したばかりのピカチュウをバトルに出してもよかったのだが相性が悪い。いや相性が良し悪しはきっとマイはわからない。つい癖で出してしまったのだろう。
「リューくん! 体当たり!」
「マダツボミ避けるんだ!」
ミニリュウの体当たりを、細い枝のような身体で避ける。というか、当たっていない。
「マダツボミ、ツルのムチ!」
坊主の呼びかけにマダツボミが、自分の手にあたる葉っぱの部分でムチのようにしなやかに叩きつけようとした。
「リューくん後ろに下がって! 下がった勢いで電気ショック!」
「遅い! 避けろ!」
攻撃をしては避けられ、攻撃をされては避けるの繰り返しになる。このバトルは耐久性を求められるある意味修行バトルなのか。しかし、コウがいるかもしれない今は時間はない。
細く、すばしっこいマダツボミに攻撃を当てるのは難しい。だがしかし、動いていないのなら?
「リューくん、電磁波!」
まばゆい光がミニリュウ全体を包み込む、それが一つの電気の塊になって、雷の如くマダツボミに降りかかる。
「しまった! マダツボミ、行けるか!?」
無理無理、動かない身体の代わりに目で訴えるマダツボミ。そんな相手とは違い、ミニリュウは次の指示を待つ。
「テレビで見たことあるあの技できるかな!? スピードスター!」
「リュー!」
ミニリュウは勢いをつけるため身体を半回転させ、顔を表面に向けたと同時にキラキラとした無数の星屑を頭の突起から放つ。輝きとスピードを増しながらマダツボミに向かってゆき動けないマダツボミにクリーンヒット。
「ぐ、ぐぅわ……」
「マダツボミ! 戻るんだ」
(あれ? もう終わっちゃった?)
マイ達が気づいていないだけでミニリュウはかなりの経験値を積んでいたため、たった一回の攻撃でも十分すぎるダメージを与えることができた。
目をクルクルと回したマダツボミをボールに戻すと坊主は一礼をしたあと、マイとゴールドを入り口へどうぞ、と言わないかわりに手で示した。
「行けってことか?」
「そうだよ、きっと! ありがとうお坊さん! 楽しかったよ!」
落ち込む坊主に手を振り入り口内へと入る。かなりの広さだ。中央にはこれまた大きな柱があり、踊るように動いていた。寺院一階に坊主の姿は見えない。どうやら泥棒はここにはいないようだ。
「マイ、あそこに階段がある。俺が先に上るからここで待っていてくれ」
「やっやだよ! わたしも一緒に行きたい!」
「危ねえかもしれねえだろ」
制止する腕をつかみ、強い意志を瞳に宿し、金色同士の瞳がぶつかる。
「わーったよ、ただし俺の後ろから離れるなよ」
「うんっわかった」
長い階段を上っていく最中マイは、コウちゃんじゃなきゃいいけどなあ、と口に漏らした。コウチャン? とゴールドは階段を上りながら顔をこちらに向けて誰だソイツ、と聞く。
「ドロボーさん、だよ」
「名前なんて聞いてねーぞ」
「言ってなかったね、ごめん! 隠してたわけじゃないよ!」
隠し事をしないことくらい知ってる、そんなに焦るな、と頭を軽く撫でてやって階段を上るスピードをあげていく。
二階には坊主達が五、六人がぐったりの床に倒れていた。慌てて駆け寄ってみると息はある、この階を察するに激しいポケモンバトルが繰り広げられたのだろう。
「ここにもいないってことだな、ってとこは」
「最上階にいるんだね」
坊主達を起こさないように、忍び足で歩く。部屋の真ん中には相変わらず大きな柱が揺れている。上の階ではバトルをしているということか。
マイに言われて、こくりとうなずき
「そういうこった。行くぜ、ついて来いよ」
「うん!」
◆◆◆
ついに最上階まで来た二人。マイはぜいぜいと肩から息をしているが、ゴールドはけろっとしていた。もっと運動しなくちゃ、なんて考えてる暇がないのに、そんなことを考えてしまう。
「マイ平気か? あ? あれって……」
「コウちゃん? って捕まってる?」
「おや? 今日は訪問者が多いですねえ」
暗い最上階の奥から金ぴかの肩掛けをしたお坊さんが出てきた。その隣には観念したのか黙り込む少年、コウがいた。
「あ、お前また来たのか」
「また、じゃないよ! 何盗んだのコウちゃん」
そしていつもの「まだ何も盗ってねーよ」とふてくされたように片方の頬を膨らまし、顔をそむける。
見かけたお坊さんが助け船をコウに出してやる。
「まあまあお嬢さん、彼はまだ何も盗んではいない。これは派手な道場破り、いや寺院破りという形で解放したいんだよ。どうかね?」
「で、でも!」
「ならワシとバトルをするかい?」
コウはきっとまた何か目的があったらしくマダツボミの塔に侵入したらしいのだが、修行僧の坊主は倒せてもこの偉い偉いお坊さんには勝てなかったそうだ。
結論を言うと何も盗めていない。つまり警察に引き渡す必要はない、というなんとも広いお心の持ち主だった。
「バトルす「待てマイ、こいつかなりの実力があるぜ。戦うだけ無駄だ」えええ……」
マイが意気込んでバトルを申し込もうとしたがゴールドに止められる。たしかに、コウの実力はある、そんなコウが負けるということは……?
「うん、やめる……」
「ほほほ、物わかりのよい子供達じゃ。そこのコウとやら? お主はこれがほしかったのだろう?」
お坊さんが取り出したのは小瓶。中には結構大きな粒の薬が入っていた。
「それは?」
「フラッシュ、じゃよ」
「あ! フラッシュって!」
暗闇の洞穴にて知ったポケモンの基本中の基本の技、らしい技が小瓶の中に薬として詰め込まれていた。
「ほら、コウ。拗ねていないで、これをやろう」
「いいんですか」
「いいに決まっている。お主の強さはわかっている」
小瓶から一粒取り出しコウに渡した。一礼をしてバックに詰め込むと同時にモンスターボールを取り出し、名前も知らない飛行タイプのポケモンに空を飛ぶ指示をして、最上階にある唯一の大きな窓から出て行った。
「あー! コウちゃん……」
「まーたとんずらかよ、まあどっかで会えるさ! よくあるこった気にすんな!」
肩を落とすマイを励ますように、眉を下げてニッと笑うゴールド。
「ほらお主らにもやろう。フラッシュの秘伝マシン薬じゃ」
「ありがとうございます!」
なぜかゴールドとマイにもフラッシュの薬をくれるお坊さん。どこまで心が広いのか。
ゴールド達が地上に降りて行くのと同じにお坊さんも出てきた。この騒ぎを止めるのだろう。お疲れさまですお坊さん、とマイが心に思うのであった――。