第12話 入道雲が出てきた空

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 夏の朝がやってきた。カーテンの隙間から覗く朝日が眩しくて目を細めるマイ。

「朝日じゃねえよ。昼だぞ、昼」

 カーテンをひとつにまとめ、窓を開ける。新鮮な空気が風と一緒に入り込んでくる。最高の目覚めだ。

「んーっ!」
「背伸びして身長伸ばそうな~」
「大きくなるもん!」

 空気をめいっぱい胸にいれて、両腕をまっすぐ上に伸ばす。息を吐き出すと同時に腕も下げる。気持ちがいい。からかわれながらも嫌味には全く聞こえないそれは、普段のゴールドに戻った証拠。
 何もかもが最高だ。そんな日は――

「リューくんたちと外に行きたい!」
「言うと思ったぜコンチクショウが。さっさと支度して飯食いに行こうぜ。俺もう腹ペコだよ」
「えっゴールド朝ごはん食べてないの?」

 部屋に備えてあったパジャマを脱ぎ、いつもの服に着替える。洗面所に行き顔を洗って歯を磨けば準備OK。
 リュックを背負って忘れ物がないか最終チェックをゴールドに任せて部屋を出る。

◆◆◆

「ん~暑いねぇ」
「まだ六月入ったばっかだろ。梅雨はどうしたんだよ梅雨さんはよォ」

 照りつけられる日差しから逃れるべく建物の影にいる二人。前を通る人々は皆忙しそうに動き回っていた。

「何かあったのかな? あっちの方向にみんな行ってるけど」
「あー確か、なんだったかな、有名な塔があるんだけどよ、そこに行ってんじゃねえかな」

 ふうん、と興味がないような態度を見せながらも、視線をとある塔に泳がせる。

「行ってみようか?」
「行きたいんだろ?」

 じゃ、気合入れて行くか! ゴールドのニッとした笑顔と掛け声に、ドキンドキンと動悸がが打つ気がする。なんだろうか。
 あれだけの人が行く寺だ。きっと何か面白いことがあるに違いない。

◆◆◆

 どこから来たのかと思うほどの人でごった返しているここは、マダツボミの塔。
 三階建ての大きな寺院。外側は黄金に塗られていて、寺院の周りには守られるように湖に囲まれている。その湖には黄金がキラキラと反射をしている。

「一体何があったんだ?」
「うわっぷ! ご、ゴールド! 助けてっ」
「なーにしてんだよ、マイ」

 息が詰まるほどの人ごみにマイが苦しそうにゴールドに助けの手を伸ばすと、すかさずその小さな手を掴む。

「あ、思い出した。マダツボミの塔だ。ポケギアのラジオで何があったか聞いてみるか。こんだけの騒ぎだ、ニュースになってんだろ」
「うん!」

 案の定ニュースになっていて内容をまとめると寺院の中に泥棒が侵入したそうだ。泥棒のワードに、ぴくりと肩が動くマイ。

(コウちゃんじゃないよね?)
「マイ、まさか泥棒って」
「うん……。でも、確かめて見なくちゃわかんないよ!」

 じゃ、見学という名前で乗り込みますか! なんて軽いノリで寺院の入り口まで来たのだが、眼光が鋭くうかつに踏み込めはしない風格がある坊主がいた。

「あ、あのぉ……そこ通してもらえませんか?」
「駄目です。この騒ぎを見てわからんか?」

 マイが低い身長をさらに低くして伺ったものの、間髪入れずにお断りをされた。
 もっともなご意見ありがとうございます本当に、と内心ゴールドは苦虫をつぶしたような顔つきをする。

「どうしてもだめですか?」
「駄目です」
「こんなにお願いしてもだめ~?」
「駄目です」
「どうしたら通してくれる?」
「駄目です」

 何を言ったとことで無駄だった。坊主は通す気など一切ないのだ。マイが提案をしてもすぐに断られてしまい眉が下がってしまったのを見ていたゴールドのこめかみに青い静脈が怒張する。

「さっきから駄目駄目駄目ってよォ~! 何が駄目なのか教えてくれなきゃわかんねえだろ~!? なんでも泥棒が侵入したんだってぇ? そいつは困ったなあ~? もしかしてアレか? 誰も泥棒に勝てないってか?」
「うっ」
「はは~ん。わかったぜ。おいマイ」

 ゴールドの饒舌がさく裂する中急に名前を呼ばれ、瞳を大きくする。

「な、なんでしょうか」
「なんで敬語なんだよ。それは、まあいいか。こいつとバトルしな!」
「え? なんで?」

 ポカーンとした効果音がぴったりな顔つきのマイ。

「こいつらはポケモン勝負で泥棒に勝てていない。勝てば泥棒だって大人しくなるだろ? それが出来てないってことは誰も勝ててないわけさ。つまりここを通りたければポケモンバトルで勝てばいいってことよ」
「わかった!」

 頭の中の引き出しをたくさん出してゴールドの言葉を理解しようと目が回る。

「よかろう、ならばそちらの娘よ。私とポケモン勝負だ」
「望むところだよ!」
「行け、マダツボミ!」

 観衆がいる中でのバトルは初めてだ。そんな中、出されたポケモンはマダツボミ。

(あの時のポケモン……)
「マイ? どうした?」
「ううん、なんでもないよ。行ってきて! リューくん!」

 思い出したくない過去と、今立ち向かわなくてはいけない現在は、すべては泥棒の正体を暴き、もし泥棒の正体がコウだとしたらコウの目的を聞き出す未来のために、戦う。

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