episode4━Ⅶ 悪魔は微笑む

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

これから先も遅くなります、本当にすみません…頑張ります
━━━知らない記憶が意識の中に流れてくる。
子供達の泣き顔。孤独。劣悪な環境。戦争。絶望。
世界の醜さを煮詰めた様な、胸糞悪い映像が目まぐるしく意識の中を駆け巡る。

━ああ、この記憶はきっと━━━

………

「ナイト姉から…離れろッ!テメェ!」

踞るナイトを見て、ボスゴドラに激昂するルト。そんなルトを見て、ボスゴドラは微かに笑う。

「…ナイト姉?ハッ、あのナイトがガキから好かれてるなんてなァ?…ボウズ、離れてほしいなら…力づくで退かしてみろよ?」
「…知ったような口を聞きやがって…!上等だ!」

ルトは怒りに身を任せ、ボスゴドラへと突進する。
シャルは舌打ちをし

「突っ走るなよルトッ!…ミリアン!ルトの援護だ!ヤイバ隊も頼むぞ!」
「っはい!」
「了解した。私もルトに続く。ルーナ」
「はいはい!わかってるわよ!」

シャル、ヤイバがルトに続いてボスゴドラへと接近する。…ボスゴドラ対ルト、ヤイバ隊。頭数にして5対1だが…ボスゴドラは少しの焦りも見せなかった。

「シッ!」

ルトはボスゴドラの目の前まで接近し、右足で踏み込んで刀を切り上げた。ボスゴドラは右手の甲でそれを防いだ。思いきり刀を振るったというのに、まるで手応えが無い。それどころか、あまりの硬さにルトの刀が大きくぶれた。後ろからシャル、ミリアンも魔術を放つが…直撃したというのに、傷はない。

「っ!硬い…!」
「どうした?掠り傷も付いてねぇぞ?」
「チ…魔術も通らないのかよ…!」

ルトは更に追撃をすべく、ボスゴドラの右手の手首を狙って刀を降り下ろした。関節ならば、多少は柔らかい筈だと踏んだからだ。しかし…

「な…に…?」
「━━関節を狙ったのは褒めてやるぜ。だがよぉ…通らねぇな」

…手を切り落とす勢いで切ろうとしたにも関わらず、ルトの刀はボスゴドラの関節に弾かれ…折れた。カラカラと、折れた刀身が空しく地面に転がった。

「マテリアが…折れた!?」
「そんな…!」

シャルとミリアンはあまりの驚きに一歩下がる。ルトもその場から大きく退いた。混乱で頭が上手く働いていない。
ボスゴドラはわざとらしくコキコキと首を鳴らして、ため息を着いた。

「…こんなもんか。やっぱ神殺しクラスじゃねーと楽しくねぇな。…俺は『鋼鉄の城塞』。なまくらの武器じゃあ傷一つつかねぇよ。ま、一応残りの奴等も掛かってこいよ。今なら素直に食らってやるぜ?」

さぞつまらなさそうにボスゴドラは微笑を浮かべた。混乱するルト隊の3人を尻目に、次はヤイバが走り出した。

「…いいね、今のを見ても立ち向かうか!」
「無論。生憎、退くことを知らぬ身でな。…ルーナ!まだか!」
「…無茶だけはしないでよ…!…四方を囲め、炎の網!『フレアネット』!」

ヤイバはボスゴドラの前で止まり、後ろからルーナは魔術を発動させた。ルーナのマテリアから4つの杭が放たれ、ボスゴドラとヤイバの周辺の四方に突き刺さる。

「ほォ…?タイマンをご所望か」

ボスゴドラはその魔術を見て楽しそうに笑う。
…杭はそれぞれの杭へと炎の網を放ち、ヤイバとボスゴドラは炎の網によって閉じ込められた。

「助かる、ルーナ。これで…私も本気が出せる」

ヤイバはゆっくりと目を瞑り、体から力が滲み出始めた。
━ヤイバもルーナと同じく、限定された条件で発動する特性。その条件は…

「【決闘】発動。…城塞を破るか、私の刀が折られるか…いざ!勝負!」

━━『一対一の状況になること』。第三者が介入することがない状態になることだ。ルーナのフレアネットはただポケモンを閉じ込めるだけの魔術。そのくらいならば第三者が介入したことには当てはまらないという。

「ハッ!」

ヤイバはしなやかな刀を振り上げ、流れるような太刀筋でボスゴドラの腹を切りつける。柔らかな斬撃だというのに、その威力は凄まじい。

「っ…中々…!」

余裕の表情だったボスゴドラが、ほんの少しだけ焦りを見せた。体に傷は付いていないものの、ヤイバの重い一撃はしっかりと痛みを与えていた。

「ほう、硬いな。まぁまだ小手調べ。精々刀を折らぬよう、全力をもって打ち込もうではないか!」

ヤイバは心底戦いを楽しんでいるようで、瞬間に何発もの斬撃を放っている。

「すげぇ…あれがヤイバか…!」

呆気に取られていたルトは、ヤイバの戦いを見て身震いしていた。そんなルト隊に、ルーナが声を掛ける。

「…ぼさっとしないで!ヤイバが頑張ってるうちに、ナイトさんを助けなよ!」
「っ、そうだ!ナイト姉…!」

ルト達はすぐにナイトの側まで走った。
唸るナイトを見て、ルトは苦い表情になる。

「ナイト姉…苦しんでる…。…大丈夫か?ナイト姉…」
「…なんらかの魔術を掛けられたみてェだな…。意識はあるみたいだが、俺らに気づいてもいない」
「……この、魔術は…いや…まさか……」

その中でミリアンだけが、冷や汗を流していた。

「ミリアン?」
「…いえ、なんでもありません。それよりも、ナイトさんを安全な場所へ運びましょう。ここだと、ヤイバさん達の戦いに巻き込まれるかもしれませんから」
「…そうだな。…耐えてくれよ、ナイト姉」

ミリアンの提案に乗り、ルトとシャルの二人がかりでナイトをヤイバ達から離れた位置まで移動させた。

………

「…ラストォ!」

ガイラルは勢いよく剣を叩き付け、最後のアンノウンを切り伏せた。

「ふー…多かったな。ガブリアス、平気か?」
「問題ない。ガイラル、この辺りの生存者の救助をするぞ。他の箇所はガランド達が救助しているから、俺たちでやろう」
「そうだな、手分けして探すぞ」

ガイラルとガブリアスは散り、街中のポケモンを探した。
しばらく走ると、まだ原型を残しているポケモンを見付けた。…見たところ血だらけで、生きているとは思わなかったが

「…ぅ……ラ…ピ……」
「━!大丈夫か!?」

ガイラルは素早くそのポケモンに寄り、抱き上げた。…こいつは確か…ラピ隊のバネッサか。よく生きていたな…。

「…はぁ……」
「…ひどい怪我だ。…『エクスヒール』」

ガイラルはとりあえず治癒魔術を放ち、バネッサの応急処置を施した。
多少楽になったようで、バネッサはゆっくりと目を開けた。

「…ガイ…ラル…さん…?」
「良かった…なんとかなったみたいだな。…ラピは?」
「…私の近くに…居たと…思います」
「…わかった。後で治療室まで送るから、今は寝てな」
「……はい」

バネッサをその場にそっと起き、辺りを見回す。

…ラピを見付けた。

「…!くっ……間に合わなかったか…」

…地面に横たわっていたラピは全身に怪我を負い、眠るように…亡くなっていた。
━辛かっただろう、悔しかっただろう。

「…せめて、弔ってやるからな。………」

ガイラルはその場で手を合わせ、目を瞑った。

少し遠くから足音が聞こえ、ガブリアスがこちらまで走ってきた。

「何人かの生存者は治療室に送った。怪我の酷いものは…『サーナイト』の元へ送った。そっちは?」
「バネッサは生きてたが…ラピは…」
「……隊長は亡くなり、隊員が残ったか。これから先、バネッサは辛いだろうな」
「…ああ」

ガブリアスもラピの遺体に祈りを捧げ、バネッサをサーナイトの元へと送った。

「…ナイトを追うぞ。ボスゴドラの奴は、俺がぶちのめす」
「俺も手伝おう、ガイラル」
「おう、サンキュな」

━━失う辛さを知る二人は、バネッサとラピの悲しみを自分のことのように…噛み締めた。

………

「ち…!その鎧、硬いな。まさか未だに傷すら付けられんとはな」

ヤイバの激しい攻めですら、ボスゴドラの鎧は突破できていなかった。
━━ヤイバの特性、決闘は自身の身体能力の強化及びマテリアの硬度の上昇。発動条件は難しいものの、成功すれば無敵に等しい強さまで昇華する。今のヤイバならばガイラルとも渡り合えるだろう。しかし…ボスゴドラが硬すぎる。
その硬さに、ヤイバにも焦りが生じてしまう。

「いや、嘆く事はねぇ。俺の鎧は…そもそも傷なんて付かねぇんだ。…いや、正確に言えば傷はちゃんと入ってる。が、その度に『作り直している』のさ」
「何…?」

ボスゴドラは意気揚々と語り出す。

「俺の鎧…【フリート】は、傷ついた箇所を高速で作り直しているのさ。ヤイバ…とか言ったな。お前の刀はちゃんと傷を付けている。だからよ、落ち込む事はねぇ。元々俺の鎧を突破できるやつなんて…ただ一人だ。━なァ?ナイト!」

すると、ルト達が守っていたナイトが、突然意識を取り戻した。だがしかし、まだ意識はおぼろげのようだ。

「ナイト姉!!」
「ナイト!」
「……………」

ルトとシャルがナイトの側に寄る。ナイトは視線をゆっくりと二人に向け、そのあとにボスゴドラを見た。

「━━あぁ、そういうこと。アンタが起こしてくれたのね」
「…ナイト…姉?」

突然口調が変わったナイトに、ルトは少しだけ後ろに下がった。
遠くでボスゴドラは愉快そうに苦笑する。

「くっく、お目覚めかよ。━━どした?目の前に『敵がいるぜ』?何かしろよ」
「…ハッ、相変わらず癪に障るわね。…シャル」
「…なんだよ、ナイ━━━」

ドス、と鈍い音。その音の発生源はシャルの腹。その光景に、ルト達は固まった。

シャルは自分の腹を見て、首を傾げた。

「…は?」
「……………」

ナイトはナニカを貫いた腕を引き戻し、滴る液体を払いのけて立ち上がる。

シャルは今になって、全てを理解した。

━先程の音はナイトが肉を貫いた音。
━この熱さは、自分の腹から伝わっているという事。
━ナイトが貫いたモノは…自分の腹部だと言うことを。

「…っ…う…」

グラリと意識が遠退き、シャルはその場に倒れた。
依然として意識が固まっているルトを見て、ナイトは静かに微笑んだ。

「…慕ってくれて有り難う、ルト。さ、今を持って私は…」

血濡れた手を頬に合わせながら、ナイトはニコリと笑う。

「君達が倒すべき、悪と成った」




━━悪魔が、目覚めた。



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