No.60 † 再会 †

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とある日の午後。
共同スペースでお茶の時間を楽しんでいると

シャロン:「ねぇ、アーシェ。」
アーシェ:「ん?何だ?」
シャロン:「パルデア地方に行きたいって言ったら、怒るかい?」
アーシェ:「いや、怒らねぇけど……理由を教えて欲しいかな。」
シャロン:「この子をゲットしに行きたいんだ。」

シャロンはそう言って1枚の写真を私に見せてくれた。
そこには水色……かな?同じポケモンが数匹映っている。

アーシェ:「こいつは?」
シャロン:「セビエっていうポケモンらしい。その子は氷単タイプなんだけどさ、最終進化したら氷・ドラゴンタイプになるんだよ。」
アーシェ:「へぇ!伝説のポケモン、キュレムと同じタイプになるのか。確かに……この地方でこのセビエ……だっけ?この子を見たことないなぁ。」

私はまだこのフィリアの北方に行ったことがないから、もしかしたら棲息しているのかもしれないけど……
今まで巡った場所で見たことがないのは、確かだ。

アーシェ:「ん。わかった、良いぜ。この施設の代表として、一緒に頑張ってくれる仲間のポケモンが増えること、庭が賑わうことは純粋に嬉しいからな。今回のシャロンの申し出に限らず、こういう申し出には今後も随時、快く承諾していきたいと思う。」
シャロン:「ありがとう、アーシェ!セビエをゲットしたら、すぐに戻ってくるよ。」
アーシェ:「おう!楽しみにしてるぜ。」

***

翌朝
荷物を纏めたシャロンの出発を私とノーマ、メゼスの3人で見送り、各々仕事をしていると……
ギィ……と重い音を立てて、木製の扉がゆっくりと押し開けられた。

アーシェ:「おっ!挑戦者か。今日はどんなバトルが……って……ぁ……」

私の目の前には、白髪ではあるが、背筋がしっかりと伸びている初老の女性が立っていた。

女性:「久しぶりですね、アーシェさん。」
アーシェ:「院長……先生……」

ポケモンリーグの開会式や各要所でのバトルが、ドローンロトムによって全国に放送されているんだ。
いつかはこの日が来るんじゃないかと思っていた。

目の前に居るのは、私が以前居た孤児院の院長である女性。

アーシェ:「わざわざこんな場所まで、何の用です?孤児院だって暇じゃねぇはず……私を、連れ戻しにでも来たんですか?」
院長:「アーシェさんが孤児院を去った当初は……貴女を見つけ次第、連れ戻すつもりでいました。ですが……あの日、孤児院の子ども達とポケモンリーグの開会式を見ていて……驚きましたよ。まさか、貴女がこの町で東の代表者を務めることになっていただなんて……」

院長は微笑みながら私の方へ歩いて来ると、私をそっと抱き寄せ、優しく頭を撫でてくれた。

院長:「こうして再会した今日まで……アーシェさんがどのように過ごしてきたのか、それは私には判りません。ですが、とても実りある日々を過ごしてきたのでしょう。よく生きていて……頑張りましたね。」ニコッ
アーシェ:「……いんちょ……せんせ……」

抱きしめられる胸の中で、私は思わず……少しだけ涙をこぼしてしまった。

◇◇◇

メゼス:「どうぞ。」ニコッ
院長:「ありがとうございます。」

バトルフィールド奥、共同生活スペース1回のリビングで、メゼスにお茶とお菓子を用意してもらった。

院長:「……まぁ!美味しい!院に居る子達に、お土産で買って帰ってあげたいです。」
メゼス:「うふふ。ありがとうございます。私は隣のお菓子屋に居ますので、お帰りの際に立ち寄ってください。」
院長:「入る時に見たあのお菓子屋さんですね。えぇ。必ず。」
アーシェ:「それで?出て行った私がこんなことを訊くのはどうかとも思うんだけど……それからどうなんだ?院に居る連中は、減ってるのか?」
院長:「…………いえ。逆に増えていますね。アーシェさんのようにご両親を事故や病で亡くされた子達だけではありません。家庭の事情で親元から強制的に引き離すケースも、最近では増えてきましたから。」
アーシェ:「そっか……」
院長:「このフィリアでは10歳になれば、ポケモントレーナーとして旅に出ることはできます。しかし、ポケモンを恐れたり、1人で生きて行く自信を持てずに、長期に渡って院に残る子達も居ます。」
アーシェ:「……だな。実際、私も長い間孤児院に居たし……」
院長:「『 孤児院に居られる年齢の上限 』を設けるつもりはありません。皆、心に何かしらの傷を負っているハズなのに……成人になったから出ていけ!というのは、いくら何でも可哀想だと思いますので。成人された子で、院を去っていない子達は、教員として私や他の先生達のお手伝いをしてもらっています。そして、その中で新しい目標を見つけて行けば良いと。」
アーシェ:「なるほど……」

メゼスに淹れてもらったお茶を飲んだ院長先生が、再び静かに口を開く。

院長:「本日、こちらを訪れたのは、アーシェさんの様子を見に来たことの他に、1つ……お願いしたいことがあったからなんです。」
アーシェ:「お願いしたい事?」
院長:「アーシェさん。孤児院にいつもポケモンを連れて慰問に来てくださっていた方々が居たのを、覚えていますか?」
アーシェ:「あぁ。まだポケモンを持つ年齢に満たない子達に触れ合わせるために、ポケモン嫌いな子達に少しでも慣れてもらうために……その慰問で連れて来られたポケモン達で、ポケモンバトルをするのは御法度だったな。」
院長:「えぇ。ですが、これも時の流れ……でしょうか。その慰問をお願いしていた団体と、連絡が付かなくなってしまいましてね……他にもいろいろ探していたのですが、良い返事を頂けなくて……」
アーシェ:「まぁ……私も詳しくは知らねぇけどさ。そういう施設や団体そのものの数が、少しずつ減ってきてるんだろうな……」
院長:「私もそう思います……そんな時、先程お話しした、テレビでアーシェさんのバトルを放送されたとき、施設案内ということでお隣に併設されているお庭が映し出されたんです。この町の子かしら?小さな子ども達が遊んでいる場面も映っていたわ。」

ここまで言われれば、院長先生が次に何を言いたいのかは、手に取るように分る。

院長:「ねぇ、アーシェちゃん。時々で良いの。お庭に居るポケモン達を連れて、慰問に来てくれないかしら?」
アーシェ:「そいつぁ……難しいですね。最初に勘違いしないでもらいたいんですけど、私が孤児院に行きたくないからとか、そういう私情で『 難しい 』って言ってるんじゃないんです。確かにあの庭に居るポケモン達は、私や此処で一緒に生活している仲間達のポケモンです。孤児院に慰問に来てくれていた人達のポケモンのように、野生のポケモンよりも人に慣れてるのは確かでしょう。」
院長:「えぇ。続けて。」
アーシェ:「院長先生もこの施設に入る時に、実際にその目でご覧になられたのなら、この庭に居るポケモン達のお世話をしている1人の女の子のことも見えたでしょう?」
院長:「……ごめんなさい。ポケモンは見えたんですけど、遠くの方に居られたのかしら?その方は確認できなかったわ。」
アーシェ:「そうですか。ブリーダーで、ノーマって言うんですけどね。私も挑戦者が来ない時は手伝っていますが、基本的にあの庭の事はノーマに一任しています。適材適所ってヤツです。それで、孤児院へポケモンを連れて慰問する際には、彼女に率先して動いてもらうことになります……が、そうなると私が挑戦者とバトルしている時間、メゼスがお菓子屋さんに居る時間、そして……ノーマが孤児院に慰問へ行っている時間。これら全部が重なった時、庭で放し飼いにしているポケモン達を監督する人間が居なくなってしまいます。」
院長:「確かに……」
アーシェ:「まぁ、『 だったらその間、他のポケモン達をボールに戻しとけ 』って話なんですけどね。ですので、慰問の件に関しては特に問題は無いんです。ノーマに話したら、それこそ二つ返事で承諾してくれるでしょう。」
院長:「でしたら……」
アーシェ:「ただ、あの庭……院長先生がテレビでご覧になった通り、この町の子ども達にも開放して、ポケモンと触れ合う場として提供……一般開放しているんです。もちろん、毎日来るわけじゃねぇですけど、孤児院へ行って戻って来るまでの長期間、ポケモン不在っていうのは……事情を話せば、そりゃ理解はしてくれるでしょうけど、せっかく楽しみにして遊びに来てくれた子達が、何かその……可哀想で……」
院長:「そうね。アーシェちゃんも知っている通り、孤児院にもあれくらいの年齢の子達が居るから、理解できるわ。」

目に見えて気落ちしている院長先生を見て、私は考えていた内容を口にする。

アーシェ:「そこで提案なんですが……ウチから孤児院へ行くのではなく、孤児院の方からウチに来てもらうってワケにはいきませんか?」
院長:「孤児院から……こちらに?」
アーシェ:「ずっと同じ施設で過ごすんじゃなくて、社会科見学っていう名目でさ。あそこに居る子ども達全員が、最初からポケモンが好きとは限らない。苦手な子といきなり対面させるんじゃなくて、心の準備をする時間ってのも必要だと思うんだ。」
院長:「えぇ、そうね。良いわよ、アーシェちゃん。そのまま続けて。」
アーシェ:「だから、事前にアンケートなり何なりして、『 ポケモンと遊びたい 』って希望を出した子達だけを引率して、此処まで来てもらう。院長先生自身で引率するのが厳しいなら、他の先生を頼ると良い。私同様に成人一歩手前まで残ってる奴等も居るんだろ?だったら、そいつ等を頼ったって良いじゃねぇか。」

私の言うことに、院長先生は静かに……でも、何度も力強く頷いてくれる。

アーシェ:「院長先生。私があの庭を提供している理由は、孤児院への慰問と同じです。このハイルドベルグ……その近隣の町の子ども達で、『 まだ自分のポケモンを持つことができない子 』や『 トレーナーとして旅立つ前に、ポケモンと触れ合って苦手を克服したい子 』。そういった子達のために、私達のポケモンを解放して、私やノーマで危険なことをしないか監督してるんです。」
院長:「まぁ……そうだったの。」
アーシェ:「ですので、此処に遊びに来ていただく分には、いつだって大歓迎です。それに……同じ目的で遊びに来た『 孤児院の外の子 』達と、喧嘩をしたりするかもですが……それでも!仲良くなってくれるかもしれません。私も……孤児院を出てから、このフィリアを東から南経由で西まで旅して、多くの人に出会い、国外の友人が数名できて、こうして同じ施設で生活してくれる仲間もできました。ポケモンだけじゃない。外の人と触れ合うっていうのも、良いことだと思いますよ。」
院長:「アーシェちゃん……そうね。貴女の言う通りだわ……本当に、いろんなことを経験して、立派になりましたね。」
アーシェ:「いやいや。私は全然立派じゃねぇですよ。友人や仲間の力を借りて、どうにかこうにかやっていけているだけです。」
院長:「うふふ。わかりました。孤児院に戻り次第、こちらへの社会見学の件、他の先生と話し合ってみます。決まり次第、こちらに連絡を入れさせてもらいますね。」
アーシェ:「ふふっ、了解です。」

✝✝✝

その後、メゼスのお店でお土産のお菓子を買った院長先生を、施設の前でノーマ、メゼスと一緒に見送ることにした。

院長:「アーシェちゃん、本当に良いのですか?お菓子の代金を出してもらって……」
アーシェ:「もちろん。院長先生や、他の先生方には迷惑かけちまったからな……せめてもの謝罪、お詫びだと思ってくれ。」
ノーマ:「アーシェさんから話は聞かせていただきました。是非とも孤児院の子達と共に、いつでもいらしてください。」ニコッ
メゼス:「事前にアーシェさんに連絡していただければ、人数分のお菓子を御用意致しますので。」ニコッ
院長:「うふふ。えぇ、ありがとうございます。それじゃあ、アーシェちゃん。代表のお仕事、頑張ってね。」
アーシェ:「あぁ。これからも、楽しくやらせてもらうよ。」

一礼してから北へ向かって帰って行く院長先生を、私達は手を振って見送った。

アーシェ:「ふぅ……緊張した。」
ノーマ:「あの孤児院の先生とは、久しぶりの再会だったんですよね?」
アーシェ:「ん?あぁ、うん。変わらずに壮健そうで、安心した。」

正直、もっと怒られるかと思ってたんだけどな……
孤児院で生活していた身として、あそこで生活する子ども達の心境ってのは、ほんの少しは解るつもりだ。

できるだけ、院長先生や孤児院で暮らす子達の力になれれば良いな……と思った。

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