ここから第2章:「しめったいわば」編になります。まだ予定より1週分遅れてますが、毎週土曜日更新、頑張ります。
何だかドタバタしちゃったけど、まぁ無事にソラの願いがひとつ叶って良かった。もっと嬉しそうな表情が続くように頑張らないとなぁ。
「おいっ!!おおおいぃっっっっっ!!起きろおおおおおおおーーーーーー!!!朝だぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉー!!!」
次の朝…………、ぼくとソラはこのとてつもない騒音から一日がスタートすることになった。
(ぐわわわぁぁぁ~~~~~ん!!)
まるで何かにぶっ叩かれたかのように、音は頭の中に反響する。既に目を回すほど。いわゆるK.O.状態だった。
(あ………頭がイターーーーイ!!な、なんてバカでかい声なんだろう。鼓膜が破れそうだよ………)
しかし、騒音のようなその叫び声はまだ止まらなかった。
「いつまで寝てンだよーーーーーっ!!早く起きろーーーーーーーっ!!」
ちゃんと目を開ききってる訳でないが、うっすらと先に見えた声の主はドゴームだった。おおごえポケモンと呼ばれる種族である。彼もまたこのギルドで修業してる身なのだろうか。
(ぐわわわぁぁ~~~~~ん!!)
まだぼくの頭にはそんな効果音が反響していた。
「み、耳がぁ……」
ぼくより部屋の入り口かつ、耳が長く聴覚が鋭いソラは更に悲惨だろう。彼女もまたぼくと同じように目を回している。K.O.状態だった。
しかし、その状況はまだ収まらなかった。追い打ちをかけるように、彼はまだ目の覚めきらないぼくとソラへと叫んだ。
「寝ぼけてンじゃねーーーー!オレはドゴーム。弟子の1匹だ。急げ!集合に遅れるととんでもないことになるぞ!もしもプクリン親方を怒らせて………その逆鱗に触れた日にゃ………あの親方の………たぁーーーーーーーーーーっ!!……を食らった日にゃ………ああ、考えただけでも恐ろしい………ブルブル………」
一旦ぼくらに背を向けて、感情の落差が激しい一人言を口にするドゴーム。次第ににわかに震え出したのだが、やがてまたくるりと回転してぼくらに向かって体を向けた。
…………そしてまた叫ぶのである。
「とにかーーーくっ!オマエらが遅れたせいでこっちまでとばっちり食うのはゴメンだからな!早く支度しろよな!!」
彼はそのように言い残すとのしのしと部屋を後にした。
だが、ドゴームからの手厚い気遣い(?)の叩き起こしのダメージが強く残ってしまってるぼくとソラは、ベッドでずっと目を回したままだった。
「うう………まだ耳がキーンとしてるよう………」
「うう………ぼくもだよう、ソラ………」
「なんか支度とか言っていたような気が………」
「なんだろうね……………」
ぼくとソラはしばし沈黙に包まれた。やがてようやく目が覚めてきたのか、タイミング良くぼくたちは揃ってピョンとその場に飛び起きたのである。
「えっ!あっそうか。…………ボクたちプクリンのギルドに弟子入りしたんだよね」
「そうだよ。ソラ、まだ寝ぼけているでしょ?あんなに嬉しそうにしていたくせに」
「寝ぼけてないよ~」
ぼくとソラはそんな感じで和やかに会話をしていた。と、ここでソラが急に何か思い出したかのようにキョトンと首を傾げ始めた。
「ん?と言うことは…………」
段々と太陽みたいな温かく優しい笑顔から表情は曇っていく。そしてとんでもないことに気づき、彼女は飛び上がって叫んだ。
「わーー!寝坊だよ!」
「何だって!?」
「急ごう!ススム!」
大慌てでバッグやらバッジやら、それから探検隊の証である青いスカーフを首に巻く。そうしてからバタバタと他のメンバーが待つフロアへとダッシュするのであった。
「わああああああああ!!ゴメンなさーーーい!!」
「遅いぞ!新入り!!」
「お黙り!」
集合場所は地下2階のプクリンの部屋の前。そこには到着したぼくらに怒鳴り散らすドゴームを更に怒鳴るぺラップの他に7匹のポケモンがいた。ぺラップは確かプクリンの一番弟子だから、その他ドゴームを含む8匹のポケモンたちの先輩というか上司みたいな感じなんだろう。
だとしたらこの4匹毎に横並びに整列してるのも納得がいく。部屋の左側から見て1列目にはグレッグル、チリーン、ビッパ、キマワリ、そしてぼく。2列目には同じ方向から見てダグトリオ、ヘイガニ、ドゴーム、ディグダ、そしてソラという感じで集結した格好だ。
「全く、お前の声は相変わらずうるさい!!」
「うーーーー……………」
キマワリの前にいるぺラップから注意されて意気消沈してしまうドゴーム。まぁ、彼は彼なりに自分たちを手厚く(?)フォローしてくれたから悪いことは言えないな、ぼくたちも。
「全員集まったようだな。よろしい♪では、これから朝礼を行う」
フロア全体を見渡して確認をとったぺラップはこのように弟子たちに告げる。その“朝礼”という言葉に、ぼくとソラの期待とテンションが一気に高まった。……………その時までは。
「親方さまー♪全員揃いました♪」
くるりと体を半回転して弟子たちに背を向けてぺラップはギルドの親方を呼ぶ。するとそれに応じる形で部屋の扉を開き、プクリンが登場した。ぺラップは続けた。
「それでは親方さま♪一言お願いします」
(あんな陽気な感じのキャラクターがここでどんな挨拶するんだろう?)
(なんだか私、凄く緊張してきたよ…………)
「…………ぐうぐう……ぐうぐう……」
…………は?(半ギレ)
「ぐーう、ぐうぐう…………」
(…………なんだよそれはああぁぁぁぁぁぁぁ!)
思わずボクは心の中でツッコミを入れる。………と、よくよく耳を澄ましてみると周りの弟子たちのこんなひそひそと話す声が聞こえてきた。
「ヒソヒソ………。(プクリン親方って相変わらず凄いよな………)」
「ザワザワ………。(ああ。ホントそうだよな…………)」
「ヒソヒソ………。(ああやって朝は起きてるように見えて………)」
「ザワザワ………。(実は目を開けながら寝てるんだもんな………)」
その会話にボクは汗をタラタラ流して思った。……………マジかよ…………と。これにはさすがのソラも苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ありがたいお言葉ありがとうございましたぁ♪」
(はあああああああああああああぁぁ!?)
ボクは激しく心の中でツッコミを入れた。ありがたい言葉ってぺラップさんね…………あれじゃプクリンが何を言ったかさっぱり分からないじゃないですか………。良いのかよ、そんなテキトーで。
「さあみんな♪親方さまの忠告をキモに銘じるんだよ♪」
(あれって忠告だったんだ…………)
羽をバタつかせて弟子たちに指示を送るぺラップの姿に、またぼくはツッコミを入れた。忠告って全然伝わってこなかったんだけど、毎日こんな感じなのか?だとしたら嫌だなぁ、この朝礼。
「最後に♪朝の誓いの言葉!はじめッ♪」
(誓いの言葉?)
(何だろ?私たち、何も聞かされて無いんだけど………)
ぺラップの指示にぼくとソラは動揺する。そんな自分たちをよそに、周りの弟子たちは大きな声で次のように叫んだ。
『せぇ~のっ!ひとーつ!仕事は絶対サボらなーい!』
(なんじゃそりゃあああ!!)
(これも毎朝言ってるんだよね?なんだかちょっと恥ずかしいかも………)
もう今日もツッコミどころ満載である。何だかもう頭が痛い。こんなんでこの先やっていけるだろうか。もはや不安しかない。
『ふたーつ!脱走したらお仕置きだ!』
(は!?)
(脱走する人、本当にいるんだ………)
『みっつー!みんな笑顔で明るいギルド!』
(………………)
弟子たちはみんな満足そうな表情をしている。これで毎朝スイッチ入れているんだと思うと、なんだかめちゃくちゃヤバいところに来たのでは……………と、ぼくは思った。
「さあ、みんなっ♪仕事にかかるよ♪」
『おおーーーーーーっ!!』
最後にぺラップの指示を送られ、弟子たちは拳を突き上げて返事をした。そうしてからバラバラとそれぞれの仕事をするために散らばっていった。
その場所に最終的に残ったのは新入りのぼくとソラ、それからぺラップのみになった。
「どうしよっか、ススム」
「とりあえずみんなの後をつけてみる?」
「そうしてみるか…………」
二人で相談した結果、とりあえず他の弟子たちが向かった方に行ってみることに。早速上の階につながる梯子に向かってトコトコと歩いていく…………と、そのときである。ぼくたちはぺラップに呼び止められることとなる。
「おい、そんなところをウロウロしてるんじゃない。オマエたちはこっちだ♪」
彼はそのように告げると一足先に上の階へと姿を消した。一瞬不安が過ったぼくとソラは視線を合わせる。
『まぁ、とにかく行ってみるしかないね』
地下1階。部屋の中心部から向かって左側にぺラップはいた。ぼくとソラがたどり着くと、自らの背後にある木製の大きな掲示板を羽で指しながらこのように言った。
「オマエたちは初心者だからね。まずはこの仕事をやってもらうよ♪」
『はぁ…………』
「いいか、これは“けいじばん”。各地のポケモンたちの依頼が集まっているんだ。ススムと言ったか?オマエも最近悪いポケモンたちが増えてるのは知っているよな?」
「え、え~と………」
体を掲示板の方に向けたり、ぼくたちの方に向けたりして色々と説明をしてくれる。しかし、そんな事実を当然ぼくは知らない。返答に困った…………そんな時だ。
「うん。なんでも時が狂いはじめた影響で…………悪いポケモンも増えているんでしょ?」
「ん?オマエはソラと言ったな?まぁ、その通りだ」
ソラが自分に助け船を出してくれた。ぺラップは不思議そうに彼女の方を振り返ったが、特に深追いすることもなかった。一方のソラはチラッとぼくの方を見てニコッと笑みを浮かべている。ぼくをフォロー出来たのが嬉しいのだろうか。余談だがこの時にぼくがドキッとしたことを彼女は知らない。
(時が狂い始めてる?時って時間のこと?それがおかしくなっているってことなのかな?そしてそのせいで悪いポケモンが増えてる……一体どういうことなんだろう………)
ぼくにはさっぱりわからない。ただずっと難しい顔をしながら、その場で腕組みをするのみである。
「ゴホン。その時の影響で悪いポケモンがわんさか増えてるせいか………この掲示板も最近特に依頼が増えているのだ。また………これもときの影響なのかどうかはわからないが…………最近各地に広がってきてるのが………不思議のダンジョンだ」
(!?不思議の…………ダンジョン?)
腕組みをしたままだったが、ぼくはベラップの説明に出てきたそのワードにビクッと敏感に反応した。それに気付いたのかソラが「ススム」と、自分の名前を呼んだ。ぼくはソラの方を振り返る。彼女は話を続けた。
「昨日私たちで“いせきのかけら”を取り返そうと“かいがんのどうくつ”に入ったよね?あそこも不思議のダンジョンだったんだよ」
「そういえばそんなこと言ってたね、ソラ」
ぼくの言葉にソラは頷く。更に彼女は話を進める。
「不思議のダンジョンは入る度に地形が変わるし、落ちている道具も変わる。最深部とか、最上階にたどり着くまでの途中で倒れたりするとお金が半分無くなるし………、道具も半分ぐらい無くなることがあったりして………、ダンジョンの外に戻されるという………ホントに不思議な場所なんだ………」
「そうなのか…………。ずいぶんと厳しい場所なんだな」
ソラの説明にちょっぴり不安を感じるぼく。しかしそれも束の間だった。なぜなら突然彼女がピンとハート型のしっぽを伸ばし、目をキラキラ輝かせてこのように言ったからだ。
「…………でも!行く度にいつも新しい発見があるから………探検するには本当に魅力的な場所なんだよ!」
「なんだ!よく知ってるじゃないか♪」
「ありがとうございます………。ずっと探検隊に憧れていて、ずっと独学で勉強していたんです…………」
「そうかそうか♪それは良かった。頼もしい限り♪それなら話が早い♪」
ソラの話を聞いてすっかりご満悦と言う感じで翼をバサバサさせたぺラップ。彼女はというと、賞賛されて恥ずかしそうに顔を赤くしていた。その後「もう一度こちらを見てくれ」と彼に言われたぼくらは再び掲示板側に振り返る。
「依頼の場所は全て不思議のダンジョンだからな。さて………ではどの依頼をやって貰おうかな♪」
どうやらぼくたちの探検隊デビュー戦の内容ははぺラップが決めるらしい。ところ狭しと掲示板に貼られた手紙を眺めてる。1分くらいしてから羽元近い手紙を剥がした。
「………!うん♪これがいいかな?ホレ…………」
再びぼくらの方に振り返り、ぺラップは剥がしたその手紙をソラに渡した。
「え~なになに?………」
彼女はその受け取った手紙を読み始めた。
「はじめまして。ワタシ、バネブーと申します。ある日悪者にワタシの大事な真珠が盗まれたんです!真珠はワタシにとって命。頭の上に真珠が無いとワタシ落ち着かなくて、もう何も出来ません!そんなとき!ワタシの真珠が見つかったとの情報が!どうやら岩場に捨てられてたらしいんですが…………その岩場はとても危険なとこらしく………ワタシ怖くてそんなところ行けませーーーーん!ですのでお願い。誰か岩場に行って真珠を取ってきてくれないでしょうか?探検隊の皆様、お願いします! バネブーより」
(ずいぶん話が長い手紙だなぁ…………しかも謎なテンションだし)
ソラの読み上げる手紙に思わずツッコミを入れてしまう。そんな彼女はと言うと記念すべき初仕事だと言うのに、あまりテンションは上がってない様子だった。そればかりか呆れて怒って、文句を口にした。
「…………ってこれ………、ただ落とし物を拾って来るだけじゃない!?それより私、もっと冒険したいな。お宝を探したり知らない場所を冒険したりとかさあ…………」
段々とソラはぺラップに甘えた感じで自分の意見を口にする。キラキラと目を輝かせながら。しかし、それは翼をバサバサさせたぺラップに「おだまり!」と怒鳴られて、呆気なく却下されてしまう。その言葉に彼女は「ひゃーーーーーっ!!」と叫ぶ。なんだその奇声は。
「新入りは下積みが大切なんだよ!いいかい!念のためもう一度注意だよ!不思議のダンジョンは途中で倒れるとここに戻されるし………お金も半分になるし………道具も半分ぐらい無くなることがあるから気をつけるんだよ!さぁ、わかったら頑張って仕事に行ってくるんだよ♪」
「うう…………」
ぺラップに説教され、ソラは正に青菜に塩といった状態。ぼく、また何も出来なかったな。
……………………9Daysに続く。