翌日、入学式。まぁ何処の学園も校長の長ったらしい話を聞き流しながら、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。辺りを見渡してみて、こいつらが僕の同級生になるポケモンか、とそんなことを考えながら時間を潰す。そういえば、昨日出会ったリンやワニャ、あとルートも確か中等部1年って言ってたし、恐らくあいつらも同級生なんだろう。とはいえ、僕と違って皆初等部からの付き合いがあるからある程度のコミュニティは出来ている……と考えると自分から積極的に話しかけていく必要がありそうだ。ああ、ちょっと気落ちするなぁ……
「はぁ〜……」
そんな僕の気持ちに呼応するかのように、隣に立っていたアチャモが大きなため息をついた。
「何でこうも無駄話を長ったらしく続けられるんだろうなぁ〜、なあ?」
「えっ?あ、うん。そうだね、僕も話半分にしか聞いてないよ」
「オレは話全部だな〜、初等部に入った頃からずーーーっと聞いてるし本当につまんねえ」
「初等部って……じゃああの校長は少なくとも6年以上は校長をしているって事?」
「あ?この学園はあの校長の一族代々経営してるって、初等部の頃聞いたろ?」
「あ、僕中等部からの外部進学なんだ。だからこの学園には昨日初めて来たんだ」
「マジ?通りで見ねえ顔だと思ったぜ、オレの名前はチャネル、Poke-motionの新生児といったらこのオレの事よ!」
「ぽ、ぽけもーしょん……?」
「なんだ、知らねえのか?最近流行りの動画投稿サイトだ!オレはそこで日々動画を上げてるんだ。ほら、これ」
チャネルは僕の腕にメモ用紙を握らせる。そこにはURLと“チャネル・チャンネル”と書かれている。
「それはオレのチャンネルだ!チャンネル登録と高評価よろしくな!」
「そこっ、うるさいぞ!!」
「おっと、ともかくよろしくな」
話しているのを注意されたチャネルは僕にウインクを飛ばして、話を聞いてるフリを始めた。程なくして、入学式は終わり僕達は先生の誘導のもと、教室へと辿り着いた。僕の席は、最前列のど真ん中。こういう所でも不運を発揮しなくてもいいから。
「えー、この中等部1年1組の担任になったローゼルだ、まぁ大体は初等部からの付き合いだから知ってる奴が大半だと思うが……担当科目は数学だ、よろしく頼む。んで、お前ら自身も互いに見知った仲だと思うが、中等部からこの学園に来た奴がいる。おい、ビート。前に立って自己紹介しろ」
「あ、はい……」
僕は教壇に立ち、教室を見渡す。
「あー!お前は昨日の!」
「あ〜、君は昨日の〜!」
「あっ、貴方は昨日の!」
そして、3方向から声が飛んできた。……そうか、昨日出会った全員が僕と同じクラスなのか。同級生であるからその可能性は無きにしもあらずだったけど、まさか全員同じとは思わなかった。
「なんだ、リンドーだけじゃなくてワニャもルートも知り合っていたのか?まぁいい、ほら」
「えっと、ビートです。中等部からこの学園に入学しました、これからよろしくお願いします」
「という事だ、じゃあ皆も自己紹介と一緒に、そうだな、入りたい部活でも言ってくれ。じゃあ右側の列から」
ローゼル先生がそう言うと、1匹ずつ自己紹介を始める。とはいえ全員分紹介していたらキリがないから一部割愛させてもらう。
「俺の名前はリンドー!部活は科学部に入ろうと思ってる!」
「ワニャはワニャだよ〜、部活は美術部〜」
「僕はルートです、部活は……まだ決まってません、えへへっ」
「じゃあ最後だな」
自己紹介も佳境を迎え、最後列のコマタナが立ち上がる。
「某はヤイバ、雑草研究部に入るつもりである」
「よし、これで全員分終わったな」
「待って、何その部活!?」
他の皆はありふれた部活を言う中、最後の最後でこうぶっ込まれたら流石にツッコまざるを得ない。だけど僕の言葉は完全に無視され、ローゼル先生は話を始めた。
「えー、今日はこれで終わりだが、この後は自分の入りたい部活の見学をしたりと自由に過ごして大丈夫だ。それじゃあ解散」
ローゼル先生の言葉に、クラスメイトはゾロゾロを教室を出ていく。何だかまだ昼だっていうのに疲れた。今日も帰って寝ようかな……
そんな事を思いながら、僕は立ち上がると僕の肩をぽんぽんと誰かが叩いてきた。
「よっ!」
「………………」
「おいおいおい無言で出て行こうとするな」
僕に話しかけてきたリンドーを無視して教室を出ようとするとリンドーは僕の後ろ首を掴んで引っ張る。
「ぐえっ」
「今日こそは俺の案内を受けてもらうぜ!お前入りたい部活とかないのか?」
「……部活ねぇ……」
「この学園では中等部から部活に入部出来るんだぜ。まぁ初等部から入れないって訳じゃねえけど、初等部は仮入部って形で大会とかは出られないんだ。ただまぁ大体の奴は初等部の頃からそれぞれの部活に入って中等部になって本格的に入部する形だな」
「成る程ね……まぁ、良いよ。案内してもらえる?」
「えっ!?」
リンドーは心底驚いた顔を見せる。
「……なに?」
「……いや、昨日の事もあるし了承してくれると思っていなくて……」
リンドーはバツの悪そうな顔で頰を掻く。そう思うなら最初から下手に出てほしかったんだけどな。
「どうせ断ってもしつこそうだし……面倒だからね」
「へっ、素直じゃねえな!」
「あ、あの〜」
そんな僕達の間に、これまた昨日出会ったルートが割り込んできた。
「ん?どうした?」
「ビートさん達、部活見学に行くんですよね?お邪魔じゃなかったら、僕も一緒に同行してもいいですか?」
「勿論良いぜ、なぁ?」
「まぁ、構わないよ」
「決まりだな!それで、お前達は運動とかするのか?」
「……あんまりしないね。部活に入るにしろ、運動部系は入らないつもりだよ」
「僕も……あんまり運動は得意じゃないので……」
「じゃあ文化系の部活を中心に見て回るか、俺もそうだしな!」
意外だと思ったのは心の中に留めておこう。そういえば自己紹介の時も科学部に入りたいって言ってたし、実は頭脳派なのか……?そうは見えないけどね……
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そんなこんなで、僕達は文化系の部活を中心に部活巡りを始めた。
「ここが文芸部部室だな!」
「わぁ〜……すごい広いですね……」
ルートの言う通り、文芸部の部室はとても広く、しかも色んな本が置いてある一見図書室と見間違う程だ。あまりの広さに僕達が感嘆していると、1匹のポッチャマが僕達に気付いて近付いてきた。
「君達は……?」
「あ、僕達は中等部1年です」
「……ああ、成る程。部活見学って奴だね。私は高等部2年、文芸部副部長のマッチャだよ」
「…………高等部?」
「うちに学園では中等部と高等部の部活は共通なんだ、だから高等部の方と交流する場でもあるんだぜ」
リンドーが僕に耳打ちする。成る程、ポケモン学園は小中高一貫だもんね。
「ご覧の通り、私達文芸部はこの学園の中で随一の規模を誇っているんだ。この部室で執筆する子もいれば、それぞれ自分の部屋で執筆する子もいるし、比較的自由な部活だよ。この部屋にはそんな部員が書いた作品が展示されているし、部員じゃないポケモン達も自由に出入りできる。だから入らずとも好きな時に遊びにきてくれて大丈夫だよ」
「へぇ〜、すげぇな文芸部……」
「あ、あの。自分で作った作品を何処か外部に出したりとかはあるんですか?」
「そうだね、希望者は学生の小説大会に出場したり、ポケモン学園出資のもと出版社に持ち込みをしているよ。現に、この文芸部部長は学生ながらにして小説の連載をしている。今日はいないようだけどね」
しかしこんなにも規模が大きいと、どうも気後れしちゃうな。僕は別にいいかな……
「決めました、僕はここに入ります!」
だけどどうやらルートは違うみたいだ。
「ん、いいのかい?他の部活を見てからでも構わないんだよ?」
「いえ、僕自身も昔っから物語を書くのが好きだったので……機会があればこういう部活に入りたいと思ってたんです!……という事でリンドーさん、ビートさん、初っ端から申し訳ないですけど後はお二方でお願いします。僕はもう少しこの部屋をみていたいんで」
「お、おう……じゃあ行くか……」
早速パーティからルートが離脱し、僕達は部活巡りを再開した。いくつかの部活を巡ったものの、特にめぼしい部活は見当たらなかった。
そんなこんなで、僕達は理科室の前にいた。
「ここが科学部だな、失礼しまーす」
リンドーが理科室の扉を開け、意気揚々と入っていく。中は……まぁありふれた理科室の内装だ。だけどその一角でデンリュウがいくつもの試験管を並べて怪しげな実験をしている。
「リューク先生〜、約束通り来たぜ〜!」
「ん?おお、リンドーじゃねえか。それでそっちは……?」
「こいつはビート、中等部からの入学で俺と一緒に部活巡り中だ!」
「へぇ、そうかい。じゃあ一応自己紹介させてもらうな、俺はリューク、担当科目は理科だ。ま、見れば分かるだろうけどな」
「リューク先生は初等部の頃にした俺との約束で科学部を作ってくれたんだぜ!だから部員は現在俺1匹!……だよな?」
「そうだな、まぁ初等部で1匹この部活に中等部になったら入りたいって言ってた奴もいるから実質2匹だ。どちらにせよ過疎部活だけどな」
「……えっと、それでこの部活は何をするんですか?」
「あー……それは秘密だ。あまり口外できるものじゃねえからな」
すっごい気になるけど、それは部活としていいのだろうか。爆薬でも作るんじゃないだろうか。
「そういうこった、後は家庭部だけだしお前だけで十分だよな?俺はリューク先生とじっくり話したいからな!」
「……まぁ、ここまで付き合ってくれたしね。ありがと」
「……!?あのビートが感謝の言葉を!?」
「君にとって僕はどんな立ち位置なのかな!?」
とてもじゃないけど付き合いきれない。リンドーの言う通り、残りの部活は家庭部だけだし、さっさとこの場から立ち去ろう。嫌な予感もするし。
『うおっ!?』
『先生ェーーーー!?!?』
理科室から何やら爆発音と悲鳴が聞こえた気がしたけど、僕は完全に無視して家庭部の部室である家庭科室へと向かった。
「……失礼しまーす」
「あら?」
「あっ……」
「ん?」
家庭科室に入ると、そこには机の上にお菓子を並べて座っているニンフィアとマグマラシとエムリットがいた。3匹は僕の姿を確認すると、素早い動きで僕を取り囲んだ。
「部活見学かなぁ〜?君名前は〜?」
「えっ?えっと、ビート……です」
「あはは〜!畏まっちゃって可愛い〜!ハグしていい〜?」
「嫌ですけど……」
「だ、ダメですよフィアリさん。失礼ですよ」
「え〜、そういうエクレアちゃんも可愛いと思っているんでしょ〜?」
「そ、そうだとしてもいきなりは失礼です!」
あ、思っているんだ。
「ふっ……いくら君が可愛くても……この私ことリプトンが1番可愛いけどね!」
リプトンと名乗ったエムリットの言葉にフィアリと呼ばれたニンフィアとエクレアと呼ばれたマグマラシはおー、と声を漏らす。
成る程、変わり種集団だ逃げよう。
「逃げられないよぉ〜」
「あっ!鍵閉まってやがる、いつの間に!?」
それを察してか家庭科室の扉は南京錠で閉じられている。
「えっと、ごめんなさい……と、とりあえず聞くだけ聞いてくれませんか?」
「…………それ以外選択肢無いみたいなんで、分かりましたよ」
抵抗したところで無意味だと悟ったので、僕は素直に話を聞く事にした。
4匹で机に座り、お菓子をつまむ。美味しい。
「じゃあ改めて……私は高等部2年家庭部部長リプトン!」
「私は高等部1年、家庭部副部長のエクレアです、よろしくお願いしますね」
「そして私が中等部3年のフィアリ!よろしくね!」
「僕は……中等部1年のビートです、それでこの部活は一体何をしているんですか?」
「端的に言ってしまうと家庭でやる事全般だね、料理洗濯、趣味として裁縫や栽培とかもするよ。だから料理部や手芸部、園芸部と一緒にやる事もあるね」
「その他に……運動部のユニフォームの洗濯を請け負う事もあります。忙しい時はありますけど、お小遣いもいただけますしやりがいはありますよ」
「でー、ここからが本題なんだけどビートくん家庭部に入ってくれない〜?うち廃部の危機なんだよねぇ〜」
「廃部?何故です?」
「うちの学園では部員が4匹いないとダメなんだよ。新しく作られた部活なら3年は廃部されない規則があるんだけど、家庭部は設立から3年は経ってるし、今年高等部3年の方が卒業しちゃって今は私達しかいないんだよね。部員募集もかけてみたんだけど、あまりの私の可愛さに誰も寄り付かないんだよね……」
「隙あらば可愛さアピールしますね、貴方」
「ともかく、どうかな?身体でお金を稼げるよ〜」
「いかがわしい言い方やめてください!」
「廃部の危機なんです……家事をした事がないっていうなら優しくお教えしますから、ね?」
エクレアさんに腕を握られる。フィアリさんはリボンのような触角を僕の足に絡みつかせる。リプトンさんは爛々とした目で僕を見つめる。
そもそもここに迷い込んでしまった時点で僕は詰みみたいなものだ。
「……分かりましたよ、入ります」
他に入りたい部活がある訳じゃないし、それに家事はどっちかというと得意分野だ。まぁ、ポケ助けだと思って入部する事にしよう。
「やったー!じゃあ早速この入部届に名前書いて〜!」
「これで廃部の危機は去った訳だね、よかったよかった」
「ビートさん、ありがとうございます」
成る程、際物集団だけどエクレアさんは比較的マシそうだな。ここではなるべくエクレアさんに話を聞くようにしよう。
「じゃあ早速、歓迎会も兼ねてお菓子パーティの続きだ〜!」
「これ、貴方達が作ったんですか?」
「そうだよ、私特製クッキー!私の姿が可愛いでしょ〜」
「紅茶もありますよ、何を飲みますか?」
……うん、部員のキャラは濃いけど、何というかあれだね。
悔しいけど心地良いね。