第1話 始まりは大体災厄(最悪)

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こう、なんていうんだろう。
クスリと笑ってもらえるようなものを書きたい気分なんだ。
 とある町にあるポケモン学園、小中高一貫のその学園は、広大な敷地を有する。そんなポケモン学園には、何の因果か一癖も二癖もあるポケモン達ばかりが集うという。
 そんな学園に、僕ことニャビーのビートは中等部から外部進学する事になった。高等部からの外部進学はよくあるものの、中等部からの外部進学は珍しいらしく、この学園でやっていけるかという不安もあったりする。
 だけど、だからといって校門の前でいつまでも右往左往している訳にはいかない。僕は意を決して学園の中に踏み出そうとした瞬間、突然脇腹に衝撃が走った。

「いっ……!?」
「いってぇ!」

 見ると、コリンクが僕に衝突してきた。そのコリンクはぶつけた頭を抱えながら、僕の事を睨みつけた。

「お前、こんな所で立ち止まんなよ」
「……いや、立ち止まってたのはこっちも悪いけど君も絶対余所見してたよね……?」
「はぁー?何処にそんな証拠があるんですかー!?」
「動いてないものにぶつかるって事は君が何も見ていないっていう証拠だよ!」
「それはあれだ、お前が動いてないと思ってても実は地面が動いててお前からぶつかってきたんだ……地動説ってやつだ!」
「そんなガバガバな理論だったらそりゃあガリレオも裁判にかけられるね!!」

 初っ端から面倒な相手に絡まれた、それが僕が考えていた事だった。

「お前、何年だよ!見ねー顔だが……」
「僕はこの春から中等部に入るビート。君こそ誰だよ」
「中等部……?ということはお前は同級生か、けど初等部で見た事ねえし、外部からだな?」
「……そうだよ、今日は入学手続きをしにきたんだ。もういいかな、とっとと手続きを済ませたいんだ」
「そうは言っても、お前この学園の事知らねぇだろ。……よし、じゃあこのリンドー様が案内してやるぜ!」
「いや結構」

 リンドーと名乗ったコリンクの提案を拒否し、僕は学園の方へと歩き始める。だが、リンドーは僕と並ぶように歩き始めた。しかもピッタリと身身体をくっつけてきた。

「いやいやいや、袖触れ合うも多生の縁って言うだろうが!大人しく好意に甘えとけって」
「好意は押し付けるもんじゃないよ、身体押し付けないで、ピリピリする」
「うるせぇ、俺がやるって決めたんだ。好意に甘えねえと更に電力高めるぞ」
「どうして君が主導権を握ってるの!?本当に、くっつけんな身体!!」

 リンドーを僕は押しのけて歩き続ける。しかしリンドーは諦めず、相変わらずグイグイと身体を押し付けてくる。しまいに互いの力は強くなっていき、ついには僕はリンドーに押し倒される。

「へっへっへっ……もう逃げらんねえぞ……」
「おかしくない、何でこうなるの?えっ、君は案内しようとしてたんだよね、一応?」

 と、いうよりどう考えても今の状況、誰かに見られると誤解を受けそうだ。さっさと立ち上がらなくては……
 だが、何故だかリンドーは立ち上がろうとする僕を力を込めて押し戻す。

「お前が……案内してくださいって、頼むまで……このままだっ!」
「どうしてそこまで案内に拘るのさ!?というかこんな姿見られたら誤解受けるでしょ!さっさとどけ!!」
「うるせぇ!じゃあしてくださいって言ってみろよ!ほら!」
「絶対言ってやるもんか!」

 どうにかリンドーから逃れようと試行錯誤するが、リンドーの力は凄まじく逃げられそうにない。しょうがない、あまり荒事は好まないんだけど……

「『ひのこ』ッ!」
「うおっ!?」

 僕はリンドーに向けてひのこを放つ。リンドーは身をよじらせてひのこを避けるが、体勢を崩してそのまま僕に覆い被さる形で転ぶ。

「あぶねーな!当たったらどうするんだ!」
「最初から当てる気だ!それよりどけ、重いっ!」

 先程より状況が悪くなった。先程よりもリンドーと僕の身体は密着し、リンドーの鼓動すら聞こえてくる。

「……………………」

 そして、そんな状況を冷たい目でフローゼルが腕を組んでみていたのだ。

「……あ、ローゼル先生、おはようございます」
「リンドー……お前、そんな趣味があったのか?」
「そんな趣味?何言ってるんすか?」
「してくださいと言えだの、押し倒したり……どう考えても、それだろ」
「………………」

 リンドーは僕の方を見る。ローゼルと呼ばれた先生を見る。また僕を見る。しばしの無言。そして立ち上がって、思いっきり駆け出した。

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!!」

 地平線の彼方に消えていくリンドーをポカンと眺めていると、倒れている僕に手が差し出される。

「……災難だったな」
「あっ、すみません……」

 僕はその手を取り、立ち上がって土を払う。

「お前が中等部から新しく入るビートだな?手続きを済ませるぞ、ついてこい」

 ちょっと災難はあったけど、無事に手続きはできそうだ。とはいえ、少し前途多難な雰囲気を感じるな。噂通りの学園だ。



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 手続きを終えた僕は、併設されている寮に向かっていた。この学園では一部のポケモンは寮に入って生活している。僕もその1匹って訳だ。手続きをしている時に、寮の場所も鍵も貰った訳だし、リンドーのようなポケモンに絡まれる前にさっさと寮に到着しなくては。
 しかしまぁ随分と距離がある。若干急いでいるとはいえ、この学園でこれから生活していく訳だし少し景色を楽しむのも悪くはない。
 桜の木が立ち並ぶ道を歩きながら、春の穏やかな風をあびてこれからの新生活に想いを馳せる。儚くも美しいそんな学園生活を送りたいね。そう、こんな舞い散る桜のように。……ん?

「……これ、桜じゃないよね……?」

 1枚の花びらが僕の鼻の上についた、と思いきやその花びらは花びらじゃなかった、紙切れだ。ピンク色だから一瞬桜の花びらと見間違えたんだ。しかし、何故こんなものが……

「うおおおお!?!?」

 そう思って風上の方をみると、まるで吹雪のような紙切れが僕に向かって舞い飛んできた。まさに紙吹雪、じゃなくて!

「ぺっ!ぺっ!口の中に入った、ぺっ!!」

 お陰さまで全身紙切れだらけだ。誰だこんなもの飛ばしたのは!

「ごめーん」

 身体についた紙切れを払っていると、そこにざるを抱えたワニノコが小走りでこちらに向かってきた。

「いやー、ちぎり絵作ろうとしたら紙が風で飛んじゃってさ〜」
「外でやったらそうなる事くらい推測してほしかったんだけど……」
「んー、でもやっぱり実物見て作りたいじゃん〜?所で君誰〜?」
「それはこっちのセリフだよ!」
「あはは〜、そうだねぇ〜」

 何だかこのワニノコを相手にしていると調子が狂うな。さっきのリンドーとは別ベクトルで厄介だぞ……

「ワニャの名前はね〜、ワニャって言うんだ〜。中等部1年〜」
「……僕はビート、この春から中等部に……聞けよっ!!」

 自己紹介を返そうとしたら、ワニャは僕に関心を無くしたのか桜の方を向いて手を振り回している。というかそんなに振り回してたら持ってるざるを手放しでもしたら……

「ぶっ……!」

 案の定、ワニャの手からはざるは飛んで見事僕の顔に直撃した。恐らく今日は厄日なんだろう。そうでもなければこんなに災難が続く筈がない。

「……あれ?顔抑えてどうしたの〜?」
「君のせいじゃ!もういい、じゃあね!!」

 この子と一緒にいると災難が続きそうだと感じた僕は、足早にその場から立ち去る。今日は寮に戻ってさっさと寝る!



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 程なくして、僕は寮へと到着した。何と1匹につき1部屋という待遇だ。僕みたいなプライベートはプライベートとキッチリ分けたい身としては嬉しい限りだ。

「えっと……部屋は……」

 部屋は3階の端っこだ。そもそもこの寮が3階建てだから入り口から最も遠い部屋だけど、そこはまぁ文句を言う筋合いはない。学費とか払っているけど、実質無料だしね。資料でみる限り、部屋も中々良い部屋だ。
 先程までの災難を忘れたのか、るんるん気分で部屋へと向かう僕が、階段をのぼっていると突然上からリオルが降ってきた。

「う、うわああああ!?!?」

 避ける事もできるけど、そうするとこのリオルはただでは済まないだろう。流石に目の前で怪我されるのは夢見が悪い。受け止めよう。
 が、やっぱり厄日なのか受け止めきれなかった僕はリオルと一緒に踊り場まで落下した。それほど高さは無かったから身体をぶつけた程度だけど、それでも痛い。

「いてて……」
「ん……あれ……」
「え、えっと大丈夫……?君、階段から落ちてきたんだけど……」
「え……?あぁ!ご、ごめんなさい!御迷惑をおかけして!」
「う、うん……大丈夫……そ、それよりどいてくれるかな……」

 リオルは俊敏な動きで立ち上がったが、僕のお腹を踏んでいるのだ。痛い。

「あぁ!ほ、本当にごめんなさい!」
「い、いや、平気だよ。怪我はなかった?」
「はい、僕は大丈夫です。……ごめんなさい、ちょっと目眩がして……」
「そっか……まぁ、無事でよかったよ。じゃあね」
「あ、待ってください!」
「……何かな?」
「お名前をお伺いしてもよろしいですか?……あっ、僕はルートって言います!」
「僕はビートだよ、1文字違いだね」
「ええ、それでビートさん。貴方女性ですか?」

 ずっこけた。また階段から落ちそうになったけどどうにか踏みとどまった。僕は驚愕の表情でルートに顔を向ける。

「僕はれっきとした男性だよ!?」
「えっ!?じ、じゃあどうして女性寮にいるんですか!?」
「………………はい?」

 僕の思考回路がショートを起こし、僕とルートの間(名付けてビートルート)に静寂が訪れる。僕はどうにか頭をフル回転させ、言葉を絞り出す。

「女性寮って……ここが……?」
「はい……男性寮はここからもう少し歩いた所ですけど……」
「で、でも……僕はこの寮の3階端っこだって言われたよ……?」
「えっと…………考えられる可能性は、男性寮が一杯だから急遽女性寮に振り分けられたとか……」

 つまり、この寮に住んでるポケモン達は僕を除いて全員女の子……って事は……

「えっ!?君も女の子なの!?」
「ま、紛らわしくてごめんなさい……。よく間違われるんですけど、僕は女です……」

 確かにそれも衝撃だ。しかしそれ以上に女性寮に振り当てられたこの事実を僕は受け止めきれるかどうか……

「で、でも女性寮の方は男性寮より広いですし、綺麗ですよ!悪い事ばかりじゃないですっ!」
「あ、ありがとう……」

 目に見えて落ち込んでいる僕をどうにかして元気付けてくれるルート。いや、彼女は悪くない。リンやワニャなんかよりは全然平気。
 それでも、僕はこう言わざるを得なかった。

「本当になんて日だよっ!!」



 

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