episode7ー5 死者との再会 2

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

冷たい風が頬を撫で、私達の目の前には氷エネルギーを纏う女性が立っていた。
…元バトラーであり、アルセウスとの戦いで命を落とした優秀な魔術師…ユキメノコさんだ。

「ユキメノコ…なのか…?」

キリキザンさんは驚きを隠せないまま、ユキメノコさんにそう問い掛ける。

「ええ。キリキザン。…思わぬ再会…ね。サーナイトちゃんも」
「…はい、驚きました」
「その割には落ち着いてるわね?」
「…実は、一つ自説を立てていまして。反転世界と聞いたその時から」
「流石ね。…その自説、聞かせてもらおうかしら?」

はい、と答えて自分の考えを口に出す。

「まずは反転世界の存在意義から疑問を抱いていました。表の世界を観測するとは聞きましたが、それだけのためにこれ程の規模の世界が必要なのか?と」
「そして、ギラティナの存在。アルセウスが生み出したポケモンはどれも強い力を持っていました。時の流れと時間そのものを司るディアルガ。空間を作り出し、かつ維持することも出来るパルキア。そのお二方に対して、反転世界から表を見ているだけのギラティナ…あまりに力の差が激しいと思いまして。しかもこの世界から感じる雰囲気というか…エネルギーの流れからして表の世界と殆ど同じもの。…この世界自体はギラティナのみの力ではなく、パルキアとディアルガも協力して作り上げた物ではないか、と。だからこそ表の世界と同じ雰囲気を感じたのではないんじゃないかと」

一度息を吸い込む。

「以上の事から、ギラティナはこの世界で表の観測とは別の使命を行っているんじゃないかと思いました。そして思い付いたのが…死者の魂の管理です。アルセウスは表の世界を作り出した後、その世界で亡くなった者の魂の行き場を作るため、ギラティナと反転世界を作ったのでは?と。表の逆と聞いてから考えた妄想のようなものだったので、周りには言えませんでしたが…どうにも私にはギラティナが表を監視するだけの存在には思えなかったんです」
「お見事。殆ど当たってるわ。その口振りからして、死後の世界説を推してたクチね?」
「あはは、その通りです」

話終えたタイミングで、キリキザンさんが口を開いた。

「…そういう事だったのか。…ユキメノコ、俺は」
「続きは心に閉まっておいて?キリキザン。どーせ貴方の事だから、私が死んだのは自分のせいとでも言うんでしょう?」
「っ…」
「図星ね。責任感が強いのは良いことだけれど、私自身のミスで死んだのにそれを貴方に押し付けるような真似はしないわよ。私が死んだのは紛れもなく私が甘かったから。これでこの話は終わりよ」

…あの時の事を後悔していたキリキザンさんを、ユキメノコさんはいとも簡単に励ました。気負う必要はない、と言わんばかりに。

「そうか…。お前がそう言うなら、これ以上は止めておくよ」
「そうして頂戴」
「…全く。こっちは何を言われても受け入れるつもりで話したと言うのに」
「そーいうのが固いのよ貴方は。リーダーだからって全ての責任を取らなくちゃ行けないって考えしか頭にないのは、不器用過ぎるわよ」
「わかったわかった。気を付けるよ」

…それから、しばらく話をした後…深呼吸をした。

ギラティナの言葉からして、私達が戦う相手は…恐らく目の前にいるからだ。

「…楽しかったわ、二人とも。でも…」
「やはり、か。…ギラティナ、可能であれば…今すぐ切り刻んでやりたいほどだよ」
「同感です。趣味が悪すぎる」
「なんだいなんだい?えらく物騒だね。…ま、それだけ私の事を思ってくれているのは嬉しいよ。キリキザン、サーナイト」

ユキメノコさんは何処か悲しそうに笑いながら、エネルギーを体に巡らせた。

………

ゆっくりとこちらに歩いてくるそのポケモンに、俺は…言葉を詰まらせてしまった。

「…ルカリオ、ガイラル。大きくなったな」
「父…さん…」

ガイラルは声を震わせ、目の前の存在を見て涙を流していた。

…実の父、ミスラン。俺達がアルセウスを憎むきっかけとなった男。…故郷、友人、母親と一緒に…亡くなってしまった俺達の家族だ。

「ルカリオ、ガイラル。とりあえずこっちに寄ってくれよ」
「…?」

ガイラルと共に、父さんの近くに寄る。…俺達は昔よりも背が伸びたが、それでもまだ父さんのが大きい。

「こんな形とは言え、会えて嬉しいよ」

そして、父さんの手が二人の頭を撫でた。頭から伝わる父さんの温もりに、目頭が熱くなる。

「どうして…父さんがここに…?」
「んー、どっから説明したもんか」
「……此処が、死者の住まう国だから…ですか?ミスランさん」

黙っていたガブリアスが口を開き、父さんは頷いた。

「ガブリアスか。まだガイラルの側に居てくれているんだな」
「…勿論です。これは、私の償いであり…貴方との約束ですから」
「はは、固いな。だが助かるよ。…大まかに言ってしまえばそういう事だ。この世界は、ギラティナが管理している死者の国だ」

父さんはこの世界の仕組みについて説明をし、まだ心は落ち着いていないとは言え…大体は理解することが出来た。

「ふー、話は分かったよ父さん。…単純な話、表で亡くなればこの世界に肉体から離れた魂だけが送られるってことか」
「そうだ、ガイラル。だが、どんなポケモンでも同じようにこの世界で暮らすことが出来る訳ではない」

例えば、と呟き父さんはガイラルと俺の顔を交互に見詰めた。

「…ボスゴドラ。そして、エルオル。彼らのような悪人の魂は…ギラティナによって屠られる。つまりは、消滅する」
「死んでから魂は暫くの間この世界に滞在し、時がくれば…表の世界で新たに産まれてくるポケモンへと転生する。記憶や人格は受け継がず、魂の在り方だけが受け継がれて、な。故に悪人の魂は、転生してしまうと記憶や人格を受け継がずとも、必ず悪人になってしまう」
「…ちょっと待ってくれないか。その話が本当ならば、表の世界に悪人はとっくにいなくなっていると思うんですが」

父さんの話に疑問を抱いて、ガブリアスが質問をした。確かに、この世界が生まれてからずっと悪人の魂を消滅し続けたのならば、表に悪人など残らない筈だ。

「確かに、産まれた瞬間から悪人というポケモンはいないかもな。…だが、そのポケモンの人生次第では、後天的に悪人になってしまうという事もあるだろう?お前達にも覚えがある筈だ」
「…!ベルセルクやジャローダか」

…ジャローダはアルセウスの策略により性格が歪み、一時期は悪人そのもののような性格になってしまっていた。きっとアルセウスが絡まなければ、心優しいままだっただろう。

「…世界から悪人は消えない。絶対にな。状況や時代によって、どんなに心や魂が綺麗でも、時には醜く歪んでしまう。…詳しくは分からないが、ボスゴドラやエルオルも…そうだったのかもしれない」
「…救えない話だな」
「仕方無いさ。俺達がどうしようとそうなってしまう」

父さんは話を終え、息を吸った。
…その瞬間、脳裏に浮かんでいた得体の知れない不安が奥からせりあがってくる。
…父さんと話をしてとても楽しかった。でも、ここに思い出話をしにきたのではない。解っていた。解っていたんだ。だが…心が締め付けられる。

「…ルカリオはまだ若すぎたが、ガイラル。お前は俺と何度も手合わせをしたよな」
「…ああ。随分と懐かしい話だけどな」
「はは、確かに。…あの時のままなら、お前は俺には勝てない。だが、昔とは違うんだろう?」
「………ああ」

ガイラルも気付いており、武器を構える。俺も渋々武器を構え、荒れる心を落ち着かせていく。

「…ガブリアス。悪いんだが…二人とだけ戦わせてくれると助かる。ただ、強制は出来ない。条件が条件なだけにな」
「……俺は構わない、が…二人はどうする?ここは勝たなければならない状況だ。俺が混ざれば間違いなく勝率は上がるが」

話を聞いてから、ガイラルを見る。ガイラルは迷うことなく頷いた。

「構わねぇよ。…最後の親子喧嘩ってな。こんな所で負けてちゃ、どのみちディザスタにも勝てないさ」
「俺も兄さんと同じ気持ちだ。…ガブリアス、お前はこの戦いを見届けてくれ」
「…分かった」

ガブリアスは頷き、後ろに下がっていく。

「…やろうか」

父さんも武器を取り出し、構えていく。

…ギラティナが負けてもリスクがない戦いなど用意する筈がない。ここで負ければ恐らく終わりだ。

「…行くぞ!ルカリオッ!」
「ああ!!」

だからこそ、負けない!どんな相手にも、絶対に…!!





ユキメノコ
元バトラー。氷のエネルギーを用いた魔術を得意としていた魔術師。アルセウスとの戦いにて命を落とした。
サーナイトに魔術の手解きをしたポケモンの一人であり、高い実力を持っていた。当時は真面目すぎるキリキザンの為、サポートに良く回っていた。
キリキザンとは実は幼馴染みであり、昔から良く知っていた。

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