この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
忙しいったらない。
「…まさか、アタシがアンタ達とまた出会えるとはね」
薄暗い空間に、光輝く稲妻を放つポケモンを見て…こちらは全員動きを止めてしまっていた。
…ラピは、死んだ。ボスゴドラに殺された。遺体はここにいる皆も確認している。なのに、ラピは俺達の前に立っていた。以前と変わらない姿で。
「ラピ…ラピなのか…!?そんなバカな…お前はもう…」
「うん、アタシはとっくに死んでるよ。…悔しいけどね」
「なら何故!俺達の前にいるんだよ!?」
ラピは困り顔で唸っていたが…答えた。
「ルト。この世界の名前はなんだった?」
「…は?それは…反転世界だよな」
反転世界。表の逆にある世界。そう説明を受けた。
「それが答えさ。ここは表の逆なんだ」
「…意味がわからんぜ、ラピ」
シャルがそう言い、ラピは苦笑いを浮かべた。
「頭の良いアンタなら分かるだろ?シャル。この反転世界は、表とは全て逆の世界なんだ」
「…全て…。………!!」
シャルは長考した後、冷や汗を流した。
「表は…俺達が住む世界…ポケモンが生きている世界。その逆って事は…!」
「…なるほど、死者が住む世界という事か…!」
シャルと同時にヤイバも気がついた様で、シャルと同じく大粒の汗を流していた。
「正解。ここは、ギラティナの管理下に置かれた死者が住まう世界なんだ。表で命を落としたポケモンは、すべからくこの世界へと魂だけが送られる。今アンタ達と話しているアタシは、魂だけのラピだよ」
「…!そういう事か…」
ポケモンが死んだらどうなるのか?それは学者達の間では永遠に解明されない謎となっている。色々な説が存在するが…その中に、死んだ後の世界があるとの考え方が存在している。…学者が今の俺達と同じ状況になったら、大喜びだろうな。
「とりあえず…また会えたのは嬉しいよ、ラピ。…バネッサも連れてこれたら良かったな」
「…それは、出来れば遠慮したいかな。この世界から表を見てたけどバネッサはもう立ち直っていたじゃない?今、アタシと出会ったら…また悲しませてしまいそうだもの。勿論、会いたい気持ちもあるけれど」
「……それもそうか。俺達がラピと出会った事は伝えないでおく」
「助かるよ、ルト」
それからしばらく話をした後、何かを疑問に思ったミリアンが話を始めた。
「あの…それで私達は誰と戦うんでしょうか?まさか、ラピさんとではない…ですよね…?」
「…………」
ミリアンの質問に、ラピは微笑みながら黙り混んだ。嫌な予感がし、ラピの顔を伺う。
「ラピ…?」
「ごめんね。ギラティナからの命令には逆らえないんだ」
ラピは悲しそうな顔を浮かべながら…短剣を口に咥えた。
「…ギラティナ…!まさか、全員にこんな事をさせようとしてるのか…!」
「ルト。そして皆。アタシと戦って。もし、この戦いに皆が負ければ…」
ラピは真剣な顔で、伝えた。
「皆の命を奪い、アタシが生き返る」
………
私とアーリアの前に立っていたのは、まぎれもなく…親友だったアブソルだった。
あまりの出来事に、私だけじゃなくアーリアも言葉を出せなかった。
「━おいおい、久しぶりの再会だってのに、だんまりかよ」
「あ、アブソル…本当にアブソルなのか!?」
「見てわかんだろー?歳食ってボケたかよ、ベルセルクよう」
間違いない。この減らず口と軽い態度…間違いなくアブソルだ。…見たところ、亡くなった時の姿のまま…。
「何故だ、お前は…」
「…あァ。死んだよ。とっくの昔にな。だがここは反転世界。死者が住む世界なのさ」
アブソルは複雑な顔をしながらこの反転世界について説明した。私はとりあえず納得し落ち着きを取り戻したが…アーリアは今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
「…ったく、泣くなよアーリア。もう大人だろ?」
「泣いてない…!」
鼻声で否定するアーリアに、アブソルは楽しそうに笑った。
アブソルはアーリアの友人であり、私からすれば最大のライバルだ。
思わぬ友人に出会えたことは嬉しい。が…ここにアブソルがいるという事は…。
「…アブソル。会えて嬉しかったよ。…だが、そうも言えないんだろう」
「察しが良くて助かるぜ、我がライバル。さ、殺ろうか」
「え…何で二人とも構えてるのさ…?」
唖然とするアーリアを尻目に、刀を抜いた。アブソルも構え、魔力を体に充満させていく。
「…言っておくが、当時のお前のままなら…私には勝てないぞ」
「残念ながら、そうでもないぜ。俺達にはギラティナから送られた力が宿っているからな。神め、余計な真似をしやがる」
「…そうか」
確かに、アブソルとは別の魔力がアブソルに宿っていた。私達が
戦うときは、いつだって一対一の真剣勝負だった。それを貶された様で無性に腹が立つ。
「ねぇってば!何で戦闘体勢に入ってるのさ!」
「…アーリア。私達が今此処にいる理由は何だ?古い友人に会うためか?」
「そ、それは違うけど…」
「ならば何のために此処にいる?…ギラティナに協力を仰ぐ為だろう。そして、その為には試練を乗り越えなければならない」
「だけど…アブソルを倒さなきゃならないなんて…!僕は嫌だよッ!」
…アーリアの気持ちは痛いほど解る。だが。
「ならばそこで見ていろ。…この戦いは、私達だけがやっているものではない。皆が勝たなければ意味がないんだ。辛く苦しくとも、私達だけ…降りるわけにはいかないんだ」
「う…」
「…そういうこったぜ、アーリア。俺を倒さなきゃ先は無い。そんなら、倒していけ。未来を、勝ち取りな」
黙り込み、動かなくなったアーリアを尻目にアブソルを見据える。…勝たなきゃ未来は無い。それだけは、あってはならないんだ。
………
「お、俺達の命を奪い…ラピが生き返る…だって?」
突拍子もない事をラピは話し、混乱してしまう。
「アタシ達は反強制的にルト達へ攻撃を仕掛けるようにギラティナから操作されている。そして、もしアタシがルト達に勝った場合…ルト達には死んでもらおうとしているの。ギラティナはね」
「そして、皆から奪った生命のエネルギーを…魂だけの存在であるアタシに移そうとしている。そうすればアタシは肉体を得、かつ生前よりも遥かに強くなる」
ラピからの話を理解したのか、シャルが答えた。
「…なるほどな、俺達が勝てば報酬としてギラティナからディザスタのアジトの情報を貰える。そして、ラピが勝てばラピが遥かに強くなって生き返り、表の世界での厄介事を片付けさせられる。ギラティナからすりゃ、どっちが勝とうが自分にはメリットになるって訳だ。…どうせ、ラピ達が生き返ったならアジトの情報も渡すつもりだろーゼ」
「その通りさ、シャル」
「そんな…私達にメリットが少な過ぎませんか…?」
ミリアンは困惑していた。…確かに、俺達が勝ったとしても得られるのはアジトの情報と…かつての仲間に手を掛けたという罪悪感のみ。
「ギラティナからすれば、私達に情報を渡すことさえ不快なのだろう。…子供のようだが、恐らく嫌がらせだ。勝とうが負けようが、私達にはなんの達成感も与えない、とな」
「腹立つわね、ギラティナめ…」
ヤイバとルーナも明らかに苛立ちながらそう吐き捨てた。
「…言うまでもないだろうけど、わざと負けようとか思わないでね。アタシは生き返る事なんて望んでない。ましてや、皆を犠牲にしてまでもね。他の三人もそのつもりだろうね。…話は終わり。構えて。ギラティナから力を与えられた今のアタシの力は、恐らく生前の何倍も強いと思う。…油断や躊躇をしていたら、わざとじゃなくとも普通に負けるよ」
「…く…!」
本当に、戦わなくちゃならないのか。頭からその考えが離れない。だが、今は勝たなければならない。もし負ければ、俺だけじゃなく皆も犠牲になってしまう。そして、他の場所で戦っている皆もだ。
辛いのは、俺達だけじゃないんだ!
「━━━━総員、構えろ!」
「ルト…!やるんだな!」
「ああ、シャル。俺達は負けるわけには…いかないんだ!」
俺の号令に答え、全員が武器を構えていく。
その光景に、ラピは安心したように…笑った。
アブソル
かつてのアーリアやベルセルクとの仲間。元ジャロス兵士。
アルセウスの謀略により、殺された。(詳しくは前作にて。書ききれない…)
実力は当時であればベルセルクと殆ど同じであり、紅き目の持ち主でもあった。軽い態度と口が悪いので勘違いされるが、彼自体は仲間思いの善人である。