リーダーたちのいしずえ

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:9分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

幕間のお話です。
第1章4話で触れた、『基地』がどうやって誕生したのかを書いています。
「なあカイナ、ひとつ提案があるんだ。聞いてくれ」
 ルカがとうとつに切り出した。
 カイリューのカイナとルカリオのルカは、とあるほら穴に入ったあとに体調をくずしたという依頼者を救助した帰り道にいた。ルカは歩く速度をゆるめず、カイナのほうを向いてもいなかったが、はっきりとした声だった。
「なに?」
「今回の件、お前がいなかったらあのロコンは死んでた」
 カイナはルカを見た。ルカはどちらかというともともと活発な性格だったが、救助した依頼者のロコンについてやけにはっきりとした物言いなのが気になった。
 ルカが続ける。
「実はな、俺、あの時――ロコンの救助にかけつけた時、ほとんどどうぐを持ってなかったんだ」
 ルカの表情はみずからを嘲るような色に満ちていた。カイナは黙ったまま聞いた。
「俺の信念は助けを求めるポケモンがいたら助けることだと前にも言ったが」
「うん」
「助けるからには、一刻も早く助けたいだろ? だから俺は手持ちのどうぐを最低限にして、なるべく早く現場に着くように心がけてる」
 自分と正反対だな、とカイナは思った。カイナは探検家として、出かけるからにはそのエリアの最深部まで到達できるようなどうぐをそろえて行くようにしている。そしてエリアの途中に落ちているきのみや不思議なちからを持った玉などは拾えるだけ拾う。のちの探検に役立つことがあるからだ。
「だが今回その考えが甘かったと思い知らされた。依頼者のロコンにたどり着く前に、わなやら敵ポケモンやらのおかげですべて使いきっちまってたんだ」
 ルカがため息をついた。そうは見えなかったのだが、落ち込んでいるというのをカイナはようやく理解した。要救助者だったロコンの前ではそんな様子は見せなかったため、気づけなかったのだった。
「なるほどねぇ。僕がねぐらから出かけるときにはルカは留守にしてたみたいなのに、どうりで到着が早かったわけだね」
 カイナは遠まわしにルカを励ました。が、ルカの表情はその程度では晴れないらしい。カイナはやれやれと思いつけ加えた。
「でも、どうぐが無くてもルカにはあの『はどう』があるじゃないか。それに僕だけじゃあの場はどうにもできなかったよ」
 ルカを励ましたはいいが、今度は自分が演じた失態を思い出してしまう。ああもう、あの無知さはぜったいに克服しなきゃ。
「『はどう』はもともとどのポケモンも持ってるもんなんだよ」
 ルカは笑いながら言った。カイナにとってはそれも初耳だった。
「え、そうなの?」
「ああ。ポケモンだけじゃない。この世の万物に『はどう』は宿ってる。それをわざとしてある程度あやつることができるのがルカリオ種ってだけだ」
 ルカが手のひらを返し、青白い光をその上に発する。
「ただ俺の『はどう』も万能じゃない。あのロコンのように、自分の『はどう』が弱まっていた者にいくら外部から『はどう』を流してもどうしようもないこともある」
「へぇ……」
 どのポケモンにも宿っているなら、自分にもあるんだろうか。カイナは思った。ルカに出会わなければ一生そんなことに気づくこともなかっただろうな。もしかしたら、自分でもあやつることができたりして。ルカリオ種ほどでないにしても……
 話がそれたな、とルカがつぶやいた。
「つまりだ。ええと……俺は俺の信念を持ちつづけるためには、自分いっぴきじゃ難しいんだ。あっちを立てればこっちが立たない」
「迅速な救助を優先すれば必要などうぐがそろわない、ってこと?」
「……その通り。相変わらず頭が切れるな」
 ルカは素直に感心した。カイナは昔から頭の回転がはやく、こちらが言わんとすることを正確に捉えてくれる。そればかりか、考えを先回りさせて的確に問題点を指摘してくることさえあった。
「どうぐを譲ってくれっていうなら、べつにかまわないよ。余ってるぶんもあるし」
 こんなふうに、気が回りすぎるところもあるけれど。
「いや、そうじゃなくてだ。あーそれもあるといえばあるんだが、もっと……あぁくそ、話を最後まで聞け」
 ルカは茶化したように微笑むカイナを見て顔をしかめた。めげずに続ける。
「もう単刀直入に言うぞ。おたがい協力関係を築かないか?」
「協力関係って……幼なじみなのに、いまさら」
「今まで以上にだ。たとえば、二匹で共同の活動拠点を設ける」
「秘密基地でもつくるの?」
 カイナが思い出したように笑う。まだ二匹がリオルやハクリューから進化する前、そのような遊びをしたことがあった。
「ああそうだ」
 ルカは大まじめな顔ではっきりと言い切った。
「だが『秘密』じゃない。公に、誰にでもひと目でわかるように」
 カイナは迷うような表情を見せた。いくらカイナといえども、さすがにルカの意図するところが読みきれなかった。
「……活動拠点の基地をつくって、そこにどうぐをそろえるってこと? それでどうするの?」
「そう、ここからが重要だ」
 ルカがひとつ深呼吸をして、続ける。
「カイナはいままで探検をしてきて、俺は救助をしてきたが、そのためにいろんなエリアに行くってことは同じなわけだ」
「うん、そうだね」
「なら、お前と俺のそれを別々に考えるより、まとめて考えたほうがお互い得だと思わないか?」
「……なるほど。ノウハウの共有ってことだね」
 ルカがやはり話が早い、といいたげににやりとした。
「そうだ。外からの情報――例えばロコンのような救助の依頼や未開のエリアの情報――もそこに集めるようにする。そうして、お互いの利益が一致したときは二匹で出かけてもいい」
 ふむ、とカイナがうなずくのを見て、さらに続ける。
「第一段階はそこまで。次の段階は、その基地をかんたんな救護所にしたい」
 カイナは驚いた。ルカが考えている計画は、現実と比べてあまりにも大きすぎないか。
「ルカ、さすがに二匹じゃそこまで手が回らないよ」
 ルカがうなずく。
「ああ、だが二匹でやる必要はないんだ。仲間を集める」
 カイナはようやくルカの構想を悟った。ルカとしては、より多くのポケモンを救うためにできうる限りの効率化をしようとしている。自分一匹でできることの限界を知り、それならばとカイナを巻き込もうとしている。そして、ゆくゆくは他のポケモンまで。そして巻き込むからにはそれなりのメリットを示すはずだ。ルカはたびたび突拍子もないことを口にするが、私心のみで考えたことは一度もないことをカイナは知っていた。
「僕にも仲間がいれば探検もスムーズに進むはずだ、って言いたいのね」
 ルカはまたしても考えを先読みされてるな、と驚きよりも呆れを前面にだして答える。
「そうだ。悪い話じゃないだろ?」
「……ロコンさんの件で、そこまで考えたの?」 
「全部ってわけじゃないが。ただ知らないエリアがたくさんあるなかで、仲間がいればどれだけ心強いだろうと思ったことはある」
 たしかに今は良くても、より遠く、未開の地に進むにつれ探検も厳しいものになっていくに違いない。そう考えると仲間を増やすというのも理に適っている、とカイナは思った。
「ルカにしちゃあ、らしくないねぇ」
 急にからかわれたルカはあわてて取りつくろった。
「わ、悪いか!」
 カイナが笑う。ルカは話を戻そうとした。
「うまくいく自信はある。カイナにもメリットがあるだろう。いっしょにやってみないか?」
 カイナはルカを見つめ、にやりとする。ルカはいぶかしんだ。
「なんだ」
「それじゃ足りないなぁ」
 ルカは焦った。これだけじゃカイナからすれば面倒が多いということだろうか。
「不満か? もちろん、俺が必要ならカイナの探検にも」
「『はどう』って僕にも少しは操れるかな?」
 ルカの提案をさえぎって、カイナがつぶやいた。何を言い出したのかとルカは思った。
「いきなりどうした?」
「救護所もつくるんなら、一匹でも多く治療に参加できるポケモンがいたほうが良いでしょ?」
 ルカがぽかんとしているのにもかまわず、カイナは続けた。
「あんな思いはもうしたくないんだ。できそうなら、試しに教えてほしい。基地をつくる合間でもいいよ」
 ルカは思い出した。カイナがロコンに向き合って涙をながしていた情景を。こいつはこいつで考えてたんだろう。もともと困っているポケモンがいたら、迷うことなく手を差し伸べるような奴なんだ。探検と救助、両方こなせる資質をもっている。何ともうらやましいな。
 ルカはカイナが言ったことの意味するところを理解し、満面の笑みで答えた。
「ああ、いいぞ! 教えてやる!」
 つられてか、カイナも微笑む。迷いは消えているようだった。
 ルカはひとこと付け加えた。
「あのときのお前はカッコ悪すぎたしな」
 カイナが顔を赤くしてあわてるのを見て、ルカはさらに笑った。これから先の大きな目的を持てたことには楽しみすら感じていた。

 二匹はこれからの計画や準備についてあれこれと話し合いながら、彼らのねぐらのある場所に帰っていった。そこは大きな湖があり、緑の山々に囲まれる静かな場所だった。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想