琥珀色の謎(前半シャール視点、後半アラン視点)

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読了時間目安:7分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

〈シャール視点〉

 エミリオとクレアがいないことに気が付いたのは、アランにお願いして「外」に出てからしばらく経った頃だ。いつもいそうな場所に、彼らがいない。これを知って、僕はとても心配になった(アランは興味なさそうだったけど)。
 なぜなら、僕達の憧れの存在で、更に親のような存在でもあるエリスさん、アスタさん、イリアさんも少し前に突然消えたと聞いたから。エリスさん達だけじゃなくて、エミリオ達も消えたらどうしよう……。
 あ、ちなみにエリスさんの種族はエーフィで、アスタさんはブースター、イリアさんは色違いのニンフィアだよ。
『おい、一体誰に説明しているんだ』
 突然、脳内に僕と同じ声が響く。僕の代わりに「家」に籠ってくれたアラン。僕のかけがえのない「友達」だ。
『えっと、何となく誰かに説明しなきゃいけない気がしたから!』
『……あっそ』
 僕の返事を聞いてアランはそれだけ言うと、それっきり黙ってしまった。あれ、今の返事何か変だったのかな。……とても気になるけど、聞いてもアランは意地悪だから教えてくれない。ここは諦めて、エミリオ達を捜そう。
 僕は準備をしてから家を出ると、近くで彼らがいそうな場所に行ってはその姿を捜すという行動を繰り返した。そして、村から少し離れた森で彼らの姿を見つけた。二匹は誰かと話している最中みたいだったけど、そんなことよりも二匹が見つかったことの方に意識が向いていた僕は嬉しさから走りながらこう叫んだ。

「エミリオ~、クレア~! やっと見つけた~。近くにいないから、捜したよ~!」



「え、俺の目って琥珀色なの?」
 イツキっていうなぜか真っ黒に焦げたリーフィアは、目を丸くしながらエミリオにそう尋ねた。エミリオは眉をハの字にしながら無言で頷く。その反応を見て、イツキは黒くなった手や尻尾をチラチラと交互に見ながら何かを呟き始めた。
「体は通常色なのに、目だけが色違い……。これは『一見普通に見えるけど、実は隠された能力が秘められている』ということか? いや、それじゃアレだ……でもこの世界ならありえるかも――」
 偶然にも聞こえてしまった呟きの内容に、僕の眉もエミリオの眉みたいにハの字になってしまった。イツキは「普通じゃないこと」がどういうことなのか、知らないのかな? だったら教えてあげないと。でも、「通常色だと思い込んでいる色違い」という可能性も捨てきれない。僕達が今のイツキ(目以外真っ黒な姿)を見てわかるのは、目が琥珀色ということだけだからね。
 イツキが本当に普通じゃないのか、ただの色違いなのかを確かめるためには、まず体の焦げをどうにかしないと。え~と、体の焦げは状態異常でいいのかな。でも、見た感じだとダメージも負っているみたいだから、体力の回復も必要かな。
 僕がその効果がある二つの技を覚えていたらいいんだけど、皮肉なことに体力回復の技は覚えていても状態異常回復の技は覚えていない。その体力回復の技も対象は自分だけだから、イツキに使うことはできない。
 ……やっぱり、このリュックを持ってきてよかった。僕はイツキに近寄ると、リュックから回復の薬を取り出して使った。傷に染みるのか少し顔をしかめたけど、素直に治療を受けてくれた。黒かった体はみるみる本来の色を取り戻し、彼の不自然さを明らかにした。
「……本当だ。目以外は、普通の色だ」
 元の色に戻ったイツキの姿を見たエミリオが驚いて目を丸くし、その目を憂いの色に染めた。エミリオは優しい。一部が普通ではないという事実が何を意味し、どういう扱いを受けるのか。それを知らないイツキの未来を心配しているんだろう。
 僕も声こそ出していないけど、かなり驚いている。……「類は友を呼ぶ」ということなのかな。それを認めてしまうと、少し悲しいけどね。
「そうか、アンタも――」
 クレアも驚いていたけど、彼女の場合は驚きよりも憂いを帯びた声を出していた。きっとエミリオと同じように、イツキに待ち受ける未来を心配しているんだろうな。クレア、乱暴そうだけど結構優しいから。
 イツキは僕達の反応を見て、自分も目の色を見てみたいと思ったのかさっきから不思議な踊りのような動きをしている。近くに水場があれば見せてあげられるけど、この森に水場はない。イツキが自分の顔を見るには僕達が住む村に行くか、ここから遠く離れた村の近くにある水場に行くか、この森を抜けた海に行くしかないだろう。
 でも、クレアと同類のイツキを水場に行かせたら、間違いなく近くの村のポケモンに襲われてしまう。海に行くとしても、さっきサリーがなぜか急にスケートをしたいという理由で海を凍らせてしまった、と偶然この森で出会ったウェインに聞いたから顔を見るのには使えない。
 となると、選択肢は一つしかなかった。
「イツキ、僕達の住んでいる村に行こう。あそこなら鏡があるから、自分の顔をちゃんと見られるよ」
「デュークさんや皆に報告した方がいいと思うし、僕はシャールに賛成するよ」
「アタシも賛成。聞きたいことが色々あるしね」
 僕の提案に、エミリオとクレアは賛成してくれた。で、イツキはというと……、
「え、村があるの? 自分の目が本当に琥珀色なのか知りたいし、ポケモンが住む村ってどんなんだか知りたいからいいぜ」
 いきなり会ったばかりのポケモンの村に行くと言われ、反対するかと思いきや目をキラキラさせて賛成してくれた。自分もポケモンなのに、ポケモンが住む村を知りたいってイツキは少し変わっているなぁ……。
『フン、僕達が言えることか?』
 突然アランの自嘲めいた声が脳内に響く。朝から黙っていたのに、何でいきなり……。確かに、体を共有している僕達も変わっているといえば変わっている。でも、それを嘲る必要はどこにもないと思う。だって、これは誰にも予想できなくて、かつ防ぎようがなかったのだから。
『……僕、ちょっと疲れたから「家」に入っていい?』
『あんな重いリュックを背負っていれば少しは疲れるに決まっているだろう。後は僕がやるから、さっさと寝ろ』
 僕は乱暴なアランの声を聞きながら、そっと目を閉じた。

*****

〈アラン視点〉

 視界が一瞬暗転し、「家」へと帰ったシャールの代わりに僕が出てくる。
「じゃあ、アタシが案内するよ。ついてきな」
 クレアは僕達が「会話」していたことに気付かなかったのか、表情を変えることなく僕達に向かってそう言うと、村がある方向に向かって歩いていく。
「あっ、待てよクレア!」
「お、置いていかないで~!」
 イツキとエミリオが慌てた様子でクレアの後を追う。僕は彼らに置いていかれないよう小走りをしながら、僕と同じ種族の彼を見て呟いた。

「……キミはクレア達と同じ『改造』だろう? なのに、なぜ他のポケモンと会うことを恐れない?」

 僕の口から零れた言葉は彼の耳に届くことはなく、森の澄み切った空気の中にゆっくりと溶けていった。

 続く

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