若草色の誤解(伊月視点)
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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください
俺は伊月。元は普通の人間だったんだが、夢から覚めたらなぜかリーフィアになっていた。理由はさっぱりわからない。
「ねぇアラン。一体どうしたの? 大丈夫?」
で、その夢を覚ました本人がこのシャワーズ。なぜリーフィアになったのかわからずウンウン唸っている俺が心配なのか、そう声をかけてきた。だが、前も(心の中で)言ったように俺はアランじゃない。ここでハッキリとさせなくては、本人と会った時に色々と面倒なことが起こる!
俺はシャワーズを(心の中で)睨むと、腹の底から声を出すつもりで叫んだ。
「俺はアランじゃねぇ、葉……いや、こういう時にフルネームは色々とまずいか。俺の名前は伊月だ! というか、そもそもリーフィアでもねぇ! いや、今はそうだけど、元はれっきとした人間だ!」
俺が別人(いや、別ポケ?)だと知ったシャワーズは、知り合いでも見つけたのか一旦どこかに行き、カッコいいオッドアイのサンダースを連れて戻ってきたわけなんだが……。
「……なぜ、こんな目に」
そう呟くと、俺に向かってどでかい雷を落としたサンダースが、さっきよりも鋭い目で俺を睨む。
「アランの体を乗っ取ったうえ、アタシの『改造眼』を面白がったくせに、まだそんなことを言うのか? わからないってなら、胸に手ぇ当ててよ~く考えな! 全部、全部アンタ達が悪いんじゃないか!」
「…………っ!」
俺はその言葉を聞いて、激しい怒りが込み上げてくるのがわかった。被害者は明らかに俺なのに、何で悪者扱いされなきゃいけないんだ! そもそも、体を乗っ取るって何だ、俺は幽霊か何かか!?
俺は悲鳴を上げる体を何とか起こし、案外すんなりとできた四足歩行で木陰から出て二匹の目の前へと行くと、キッと二匹を睨みつけた(特にサンダース)。
「俺はアランって奴の体を乗っ取ってなんかいねぇ! お前の目のカッコいいとは思っても面白がってなんかねぇし! 一体何なんだよお前ら!」
そう叫ぶと、自然と涙が溢れてくる。本当、何で右も左もわからない俺が初っ端からこんな目に遭わなきゃいけないんだ。
「そんなので信用すると思うのか? 男のくせに女々しいやつだ」
「……イツキ、大丈夫?」
サンダースはバカにしたように、シャワーズは心配そうに俺を見つめる。シャワーズは話を聞いてくれそうだが、サンダースはどこをどう頑張っても無理そうだな。
「シャワーズ、このサンダースは一体何者なんだ? いや、お前もだけど」
涙をゴシゴシと拭きつつそう尋ねると、シャワーズはキョトンとしながらアランから少しも聞いてないの? と言ってきた。だから、アランって誰。いや、種族がリーフィアなのはわかっているけど。もっと他の情報をくれ。そして質問にちゃんと答えてくれ。
「一ミリも聞いていない。というか会ってない。そもそも誰だよ」
そう答えると、シャワーズは怪訝そうな顔をしながら、
「……イツキがアランの『友達』なら、例え彼がそれを望んでいなかったとしても、自分のことや僕達のことは最低限話すはず。となると、イツキはアランの『友達』じゃない……?」
なんてことをブツブツ呟き始めた。その様子を見てサンダースが、
「アタシの思った通り、現実世界のバカが興味本位でアランのデータを乗っ取ったみたいだな……」
と呟いて口元にうっすらと笑みを浮かべる。それぞれ異なる反応をする二匹を見て、俺はやっと気が付いた。……俺と二匹の間で何か激しいすれ違いが起きていて、それが原因で俺は酷い目に遭ったということを。
「おい、お前ら。何か誤解しているみたいだが、俺は――」
これをどうにかするには、まずお互いの情報をきちんと交換しなくてはいけない。そう思い、情報交換を提案しようとした時。
「エミリオ~、クレア~! やっと見つけた~。近くにいないから、捜したよ~!」
木々の向こうから何か妙にでかいリュックを背負った「リーフィア」がこちらに向かって走ってきた。最初は遠くてわからなかったが、近づいてくるにつれそいつは色違いであることに気が付く。……リーフィアの色違いってパッと見わからないから、気付くのが遅れても仕方がない。
というか、俺以外にもリーフィアいるのかよ(色違いだけど)。もしかして、人違いならぬポケ違いだったってやつか(以下省略)? 仮にそうだったら、俺やられ損だよな?
さっきとは別の怒りが込み上がってくるのを感じていると、エミリオと呼ばれたシャワーズとクレアと呼ばれたオッドアイのサンダースが色違いリーフィアを見て驚いたような声を出した。
「シャール!? あ、アランはどうしたの?」
「え、アラン? 彼には少しお願いして代わって貰ったんだ~」
「シャール。アンタ、アランと一緒にこのイツキってやつに乗っ取られたんじゃ……」
「え、何のこと? そもそもイツキって誰? 新しい友達?」
次々と質問を浴びせるエミリオとクレアに、戸惑いの表情を見せるシャールと呼ばれた色違いリーフィア。アランと代わったとか一緒に乗っ取られるとかわからないことが多すぎるが、どうやらこれで誤解は解けそうだ。
ひとまず安心していると、エミリオとクレアが同時にこちらを向いて頭を下げてきた。
「ご、ごめん! 何か僕達、誤解をしていたみたい……」
「すまないね。ここら辺にリーフィアはシャール一匹しかいないから、勘違いしちまったみたいだ」
「……わかってくれればいい。でも、相手は色違いでこっちは通常色だ。目とかじっくり見れば、誤解だとわかったんじゃないのか?」
そう、いくらリーフィアの色違いがあまり「色違いだ!」という感じじゃなくても、じっくり見れば間違えることなんてないはずだ。
……でも、ここら辺にはリーフィアは一匹しかいないらしいから、思い込みで気付かなかったというのも考えられるな(なぜか名前は二つ出ているけど)。思い込みは思い込みと気付かない限り、ずっと思い込んでいる場合が……ってややこしいな、これ。
二匹が誤解をした原因について考えていると、エミリオが困ったように眉をハの字にしながら口を開いた。
「え、イツキって通常色だったの? 僕、てっきりシャールと同じ色違いだと思っていたよ。だって――」
エミリオが紡いだ続きの言葉は、先ほどまで込み上げていた怒りを一瞬で忘れさせ、俺に何とも言えない衝撃を与えるものだった。
「だってイツキの目、シャールとよく似た琥珀色だったから」
続く