6-5 地底への違和感

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:10分

この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 イグレクさんに案内してもらった僕達は、その場所で穴を隠してる仕組みを少しだけ教えてもらう。
 潜入するためにシルクの“時の御守り”を外してからは、四人で潜入に必要なことを再確認する。
 準備が出来て突入したけど、あまりの光景に僕達は言葉を失ってしまう。
 だけどこのままいる訳にも行かないから、僕達は気を持ち直して特殊なダンジョンを突き進み始めた。

 [Side Ratwel]




 「…黒い眼差し」
 「っ? 」
 「火炎放射! ランベルさん! 」
 「うん、炎のパンチ! 」
 「エナジーボールっ! 」
 このまま行けば、効果が切れる前に抜けられそうだね? 潜入してから何時間か経ったところで、僕達は一気に攻撃を仕掛ける。曲がり角を曲がったところで鉢合わせになったから、予め溜めておいたエネルギーを一斉に解放する。まず初めに先頭を走る僕が睨みを利かせ、十五メートルぐらい先にいるドリュウズの自由を利かなくする。その間にベリーが燃えさかる炎を解き放ち、ランベルさんが炎を纏った拳で直近のアーマルドを叩き飛ばす…。一歩遅れて僕の背中のソーフが緑の球体を二発撃ちだし、エネルギー消費を抑えながらもトドメを刺してくれた。
 「ソーフ、今までで何回結び目が通ってる? 」
 「さっき来たから…、七回でしゅ」
 「七回だね? ありがとう」
 ってことは、あと少し走れば抜けれそうだね。相手が倒れたのを確認するまもなく、少し右側にずれた後ろを走るベリーが声をあげる。その隣には麻で出来たロープがピンと張られていて、今まで走ってきた道を示してくれている。…もちろんそれは僕の鞄から伸びていて、原始的な方法だけど目印になっている…。十本のロープを結んで一本にしているから、計算が正しければあと結び目一つ分ぐらいでダンジョンを突破できると思う。三倍速で走る足を止めずに、僕は背中に乗っているソーフにこう伝えた。
 「…だけどラテ? やっぱり変じゃない? 」
 「やっぱりそう思うよね? 」
 「ベリー達もそう思いましゅか? ミーもでしゅ」
 これだけ少ないと…、どうしてもそう思っちゃうよね? ロープが張られていない通路を左折した辺りで、ベリーはこんな風に訊いてくる。もしかしたら違うかもしれないけど、少なくとも僕は、走り始めて以来感じてる違和感みたいなものはある。
 「だよね…。野生のレベルはシルバーだけど、それにしては少なすぎる気がするんだよね…」
 「確かにね。シルバーならそろそろモンスターハウスが出てきてもいい頃だとは思うけど、野生自体にも中々出会わないよね」
 だから思っていることを口に出してみたら、最後尾を走ってくれているランベルさんが多分頷いてくれた。ランベルさんの言う通り、“弐黒の牙壌”にはモンスターハウスがある。アーシアさんと初めて会ったのも戦闘中だったし、シルクを救出したのもモンスターハウスだった。…それに比べて今回は、三、四時間以上は経ってるのに数えるぐらいしか戦っていない。おまけに運が良いのかは分からないけど、モンスターハウスのモの字でさえ、見かけていない…。
 「シルクしゃんを助けた時、モンスターハウスがあった、って言ってましたよね? 」
 「そういえばそうだったね。…だけどそれって、私達以外に潜入してるグループが倒してるから、じゃないかな? 」
 「ミー達以外に、でしゅか? 」
 「うん」
 ベリーは何か心当たりがあるのか、ソーフが呟きに便乗する。直接見た訳じゃないけど、多分ベリーは一度頷いてから僕達に訊いてきていると思う。それに後ろ向きでのっているソーフが訊き返すと、もう一度首を縦にふる。そのまま間を開けることなく、ベリーは自分の考えを僕達に話してくれる。
 「最初の方に、沢山の人が倒れてたよね? …結局あの人達はみんは手遅れだったけど…、その中の何人かは生き延びて、何とか先に進めてるんじゃないかなー、って思って」
 「言われてみればそんな気がしましゅ。少し古いでしゅけど、戦闘の跡も残っていましゅし…」
 うーん…、そんな気はするけど、他に考えられることがないからなぁ…。ベリーの言う通り、突入してしばらくは沢山の人達が倒れていた。…だけどどの人も既に息絶えていて、残念だけど救いようがなかった…。それだけ沢山の人が亡くなっているのも変だけど、そもそも“弐黒の牙壌”は存在自体も隠されているダンジョン…。僕達は偶然が重なって潜入できているけど、場所はもちろん名前さえも知らないのが普通のはず。赤黒い鎖を着けられた人が何十人もいたから、多分大勢で挑戦しに来たんだとは思うけど…。だけどそれなら、申請された時点で噂が広まるはず。普通のダンジョンならそうでもないけど、未開の地の調査とか…、特殊なダンジョンへの潜入を誰かが申請したら、一定ランク以上のチームには通達が行くようになってる。“アクトアタウン”を出発してから知らされたなら分からなくもないけど、それなら“トレジャータウン”に着いた時に耳に入るはず。もしかすると、“パラムタウン”のニュースで隠れてたのかもしれないけど…。
 「分からないけど、突破さえすれば分かるはずだよ。二、三日も前の跡、って訳でもなそうだしね」
 「そっ、そうですよね」
 今の段階では何も分からないから…、まずは何も考えずに突破した方が良いよね? 違和感のナゾは解けなかったけど、それ以前に僕達は突破しないといけない…。三倍速状態で移動速度はかなり上がってるけど、シルクの“回復薬”の事も考えて走り抜かないといけない。一人五個ずつ渡してはいるけど、僕は今までに三つ飲み干している。単純計算で一個につき一時間って事になるけど、突破した後で“ビースト”と戦うことを考えると、少しでも温存したい。結局話はランベルさんが締めくくったから、僕達はより一層走る足に力を込めた。




――――




 [Side Til]




 「…イメージ? そんなもので出来るようになるのか? 」
 「うん! わたしもティルさんに教えてもらった時はビックリしたんだけど、人間だったわたしにも出来るぐらい簡単なんだよ! 」
 「確かにね。種族とか熟練度にもよるけど、イメージを力に変える、って感じかな? 」
 「イメージを、力に…? 」
 「はい! “月の次元”のルガルガンのことは分からないですけど、ミナヅキさんなら岩落としぐらいは出来ると思います」
 「岩落とし…、キノトが使った“術”だな? 」
 「そうです! 」




――――




 [Side Ratwel]




 「ひとまず、抜けたみたいだね」
 何とか温存できたから…、あとは“ビースト”次第かな? あれから三十分ぐらい走って、僕達はダンジョン地帯を突破することが出来た。まだ奥地の“祭壇”には着いてないけど、ダンジョン特有の空気はないから戦闘にはならないと思う。だから今は隊列も崩していて、戦闘前の小休止をとっているところ…。目印用に使っていたロープも結び目一つ分を残して解いたから、僕の鞄の中はほぼ空の状態だけど…。
 「そうだね。…そういえば、ラツェル君達って“ビースト”と戦ったことはあるんだよね? 」
 「うん! マフォクシーのティルさんも一緒だったんだど、炎タイプで攻めたら何とか勝てた、って感じかな? 」
 あの時は偶々ベリーとティルさんの相性が良かったけど、今回もそうとはいいきれないからなぁ…。根が張った壁にもたれないよう注意しながら座るランベルさんは、ふと僕達にこう尋ねてくる。潜入する前にイグレクさんが言ったから知ってはいるけど、詳しいことまでは言わなかったから属性までは知らないと思う。僕達だってランベルさんのチームが二体倒したのは知ってるけど、その両方ともの属性までは聞いていない。どの“ビースト”も違う属性、って言うことは確かだけど…。
 「ティル君って…、テトラちゃんの仲…」
 「…はぁ…、はぁ…っうぅっ…! 」
 「…えっ? だっ、大丈夫でしゅか! 」
 もっ、もしかしてこの人が…、僕達の前にいた人? ランベルさんはテトラちゃんの仲間のだよね、多分そう言おうとしていたんだと思う。だけど言い切る前に、切れ切れな呻き声がこの場に流れ着く。僕も話していたから気づけなかったけど、後ろに振り返ると、苦痛に顔を歪めるサザンドラ…。声的に彼は疲弊した…、というよりは衰弱した様子で、飛ばずに重い足取りで僕達の方へと歩いてくる…。よく見ると彼の真ん中の首には赤黒い鎖が巻き付いていて、それを引きずる音がジャラジャラと聞こえてきた。そんな尋常じゃない様子のサザンドラを目の当たりにし、ソーフだけじゃなくて僕達三人も、彼の元へと慌てて駆け寄った。
 「…わから…ない…。…でもここは…ダンジョン…の外…、なんだよな…? 」
 「そっ、そうだよ! 私達も今抜けたところなんだけど、もう大丈夫だよ! 」
 「そう…か…。なら…よかった…」
 「っサザンドラさん! 」
 っ…! 足下がおぼつかないサザンドラさんに、僕は寄り添うように肩を貸す。すると彼は左の頭を僕の肩にかけるようにして、体を預けてくれる。…だけどここまで走り続けてきた疲れもあって、僕はサザンドラさんの体重を支えきれず前のめりに倒れてしまう。体格差で凄く重かったけど、ベリーが声を荒らげている間に何とか抜け出すことは出来た。
 「こっ、コレを飲んで! 」
 「…これ…は…? 」
 「飲んだら楽になるから! 」
 「ミー達が作った、“回復薬”でしゅ! 」
 ベリーは取り乱しながらも、何とか鞄の中から何かを取り出す。彼女が取り出したソレはここのダンジョンでは命の綱とも言えそうな水色の飲み薬。オレンの果汁から調合したソレの入った小瓶を取り出したベリーは、少しもたついていたけど何とか蓋を取り外す。詳しい効果を言うのは後回しにしてるけど、ソーフが言ってる間に真ん中の口元にソレを持っていっていた。
 「かいっ…! もしかし…て…、これは…オレンの実…か? 」
 「そうです。僕達の知り合いが発明したんですけど…。…それよりも、まさかこんな所でお会いするなんて思いませんでしたよ、サンドラさん」
 「その声…、ランベル…だな? 」
 「はい、チーム火花のランベルです」
 …えっ? もしかしてランベルさん、この人の事、知ってるの…?




  続く……

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想