6-6 ルノウィリア

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

 “弐黒の牙壌”に潜入する僕達は、違和感を感じつつも先を急ぐ。
 野生の少なさが引っかかっているけど、気にする字時間も惜しいから進むことだけに専念する。
 そして突破してから一休みしていたけど、その途中で衰弱したサザンドラが姿を現す。
 持っている物で手当てをしていたけど、彼のことをランベルさんが知っていそうな感じだった。
 [Side Ratwel]




 「その声…、ランベル…だな? 」
 「はい、チーム火花のランベルです」
 「ええっ? ランベルさん、この人のこと、知ってるの? 」
 ちょっ…、ちょっと待って! もしかしてこの人、ランベルさんの知り合い? 横たわるサザンドラさんをのぞき見るような体勢のランベルさんは、切れ切れだけど彼に尋ねられる。シルクの“回復薬”を飲んだから多少はマシになってるとは思うけど、その声はまだまだ弱々しい…。だけどハッキリとデンリュウの名前を口にしたから、予想外すぎて耳を疑ってしまう。ベリーに至っては、声を荒らげながらランベルさん達を問いただしてしまっていた。
 「そこまで深い関係じゃないけど、“エアリシア”のギルドの副親方。強いて言うなら…、マスターランクに昇格する時に戦った人だね」
 「えっ、“エアリシア”って…」
 ハクの実家がある街、だよね? サザンドラさんから目を離さないランベルさんは、そのままの体勢で教えてくれる。“弐黒の牙壌”を突破するぐらいだから、少なくともスーパーランク以上の人だとは思ってた。だけどマスターランク、それも今はどうなってるのか分からない“エアリシア”の副親方。ランベルさんはさらっと流していったけど、僕は驚きすぎて出す言葉が見つからなそう…。ランベルさんが言った、親友の故郷の名前しか繰り返す事が出来なかった。
 「今じゃあテロリストの…、根城に成り果ててるがな…。面目ない…」
 「そんなことないでしゅ! 夜中に襲われた、って聞いてましゅから…」
 「…何故ソレを知って…。ろくに街の外に…情報が出てない筈だが…」
 テロリスト…? って事は、“エアリシア”の殺人事件と関係がありそうだね。サザンドラさんはははは、って諦めたように小さく笑う。“エアリシア”の事はハクの弟のリクさんから聞いてるけど、聞いた限りでは防ぎようがなかったような気がしてる。意識が朦朧とした様態で申し訳なさそうに俯いているから、気にすることない、って感じでソーフが声をあげる。だけどサザンドラさんにとってはあり得ない事みたいだから、ほんの少しハッキリとした眼差しで僕達に問いかけてきた。
 「この子達のチームはアクトアの親方のチームと深い関係ですからね。今は僕達のチームも共同で調査していますから」
 「アクトアって…、まさか…」
 「そうだよ! ランベルさん達って最初は“参碧の氷原”の調査だけだったみたいだけど、何やかんや言って“エアリシア”とか…、最近のことも一緒に調べてるもんね」
 「そうだね。…ええっと自己紹介が遅れてしまったんですけど、僕達はチーム悠久の風として活動しています」
 そういえば、まだ僕達のことは何も名乗ってなかったよね?
 「有給の風…、何年か前に…、“星の停止事件”を解決した…、ウルトラランクのチーム…、だな? 」
 「知ってくれていたんでしゅね! そうでしゅ! 」
 まさか知ってくれているなんて思わなかったから、僕はつい口元を緩めてしまう。それだけ大きな事件だったからだと思うけど、僕達だけの力で解決した訳じゃないから、少し語弊があると思ってる。…だけど今更訂正なんて出来ないし、広まってるからそのままにしてる。ベリーとソーフは嬉しそうにしてるけど、僕はそのままの口調で話を続けた。
 「聞き覚えのある…、チーム名だったが…、やはりそうだったか」
 「はい。…ですけどサザンドラさん? どうしてサザンドラさんが“弐黒の牙壌”に来ているんですか? 行方不明になっている、ってハクから聞いたんですけど…」
 「行方不明…、そうなるのか…。お前らどこまで知っているか…は分からんが、市政反対…、の立場をとっていた俺達は…、あの夜…、“ルノウィリア”と名乗る集団から…奇襲を受けた…」
 「奇襲って…、サンドラさん、市長からの差金って事ですよね? 」
 「そうだ…。正確にはデアナの殺し屋だが…、俺を含めたギルドのメンバー…全員が捕らえられ…、軟禁された。…ギルドの建屋に閉じ込められたが…、あれは牢獄そのものだな…」
 「ろっ、牢獄って…」
 「言葉通りの…意味だ。明くる日にこの鎖で繋がれ…、奴隷同然の扱いを受けた…。賛成派の市民も…同様に扱われていると聞いているが…、俺を含めた探検隊員、街にいた救助隊員も…、戦闘奴隷としてかり出された…。今回もそうだが…、テロリストに成り果てた市長の命令で…、ここまで手下に連れて来られたと言う訳だ…」
 「奴隷って…」
 鎖って事は…、もしかしてサザンドラさんに着けられる赤黒いの事かな? 突破するまでに結構な数見たけど…、あの人達も、サザンドラさんと同じ…?
 「奴隷って…。赤い鎖なら…、沢山亡くなってたあの人達も…」
 「…残念ながら、そうだ…。…この鎖の作用なのかも…しれないが…、意識というものが根こそぎ奪われる…。俺をこき使っていた奴がダンジョンで…死んだからかもしれんが、気づいた時には…、弟子達…、他の奴らも…手遅れだった…。…ここの潜入権を持っていたのが幸いし…、ダンジョン内で物資を集め…、命かながら突破した…。後はお前らに発見され…、今に至ると言う訳だ…」
 そうなると…、そういうことだよね…?淡々と語ってくれた“エアリシア”の現状に、僕達は言葉を失ってしまう。こういう認識で良いのかどうかは分からないけど、リクさんと同じ日に襲われたサザンドラさんは、そのまま捕まった。監獄として使われる事になったギルドに閉じ込められて、事あるたびに奴隷みたいな仕打ちを受けた。その日“エアリシア”にいた人達も同じような扱いをされて、市長…、ハクのお父さんと“ルノウィリア”っていう集団に、街が乗っ取られた。殺人事件を起こしたのも“ルノウィリア”っていう集団で、市長の指示で決行された。その集団の正体は“デアナ諸島”の殺し屋…。
 これは僕の予想だけど、“パラムタウン”を壊滅させた集団と、サザンドラさんを捕らえた集団は多分同じ。どっちも件の殺し屋絡みだし、街自体も同じ大陸で行き来しやすい。リクさん達が襲われた日とパラムのことを考えても、同じ集団じゃないと考えられないぐらい短期間に起きている。そうなると気になるのが、サザンドラさん達に着けられてる鎖を、誰がこんなにも沢山準備したのか…。…今思い出したけど、体を乗っ取られるって言うことは、同族のアーシアさんが経験してるらしい。ウォルタ君達の本を読んで知ったことだけど、アーシアさんの場合、術者? が何かしらの道具を通して乗っ取ったもの…。…だけどサザンドラさんの場合は、これとはちょっと違うような気がする。道具…、この赤黒い鎖が関係してるのは間違いないと思うけど、サザンドラさんの話だと、術者らしい人はもうこの世にはいない。サザンドラさんの状態と“弐黒の牙壌”の環境のことを考えると、まず間違いないと思う。…だけどその前に、他人の体を乗っ取る恐ろしい道具にしては、あまりに数が多すぎる気がする。もし“デアナ諸島”とか“ルデラ諸島”にそういう物があったら、連盟とか保安協会が黙ってるはずがない。僕達のランク以上のチームにしか知らされてなかったら、話は別だけど…。
 「そう…だったんですか…」
 「信じられない話だけど…、リクさんから聞いてるから…、信じちゃ…」
 「リク…、今…、リクって言ったよな? 」
 「えっ…? うん、言ったけ…」
 「行方知らずの筈だが…、今どこにいる? 」
 「どこに、って…。ハク達のギルドでもう一人と匿ってるけど…」
 「そっ…、その一人っていうのは…」
 「ジヘッドのトレイしゃんでしゅ。同じ系統でしゅし、もしかして知り合いでしゅ…」
 「俺の甥っ子だ…。俺は次男で分家だが…、元はと言えば政治家の家系だ…」
 何となくそんな気はしてたけど…、やっぱり親戚同士だったんだね?




  続く……

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