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 既に辺りは朝焼けに包まれて、梢の間からまばゆい光が覗く。ニンフィアは自分の家であるドーム状に茂みに覆われた、空洞の中に住んでいた。


 床に敷き詰めた木の葉の上で、身を丸めてニンフィアは微睡んでいる。


「ニンフィア、居るかい」


 外からしゃがれたポケモンの声が聞こえる。するとニンフィアは重い体を起こした。


「ん、います…待ってて下さい」


 腰をつきだすように伸びをした後、前足に重心を掛けて後ろ足を伸ばす。そうしてぼんやりとした意識を覚醒させると、茂みからニンフィアは出た。


 ニンフィアの正面には茶色の毛並みを持つ大きなポケモン。そのポケモンを見上げる。


「朝早くにごめんな」


 鋭い目付きに似合わない和やかな表情で謝るポケモンはリングマ。彼はこの森では父親のような存在として知られている。リングマは森のことなら何でも知っていて、迷子になったポケモンや森へと捨てられたポケモンの面倒も見てくれる。


 ニンフィアも以前、人間によってこの森へ捨てられた時に森での生き方を教えてもらったことがある。なのでニンフィアにとっても彼は大事な父親なのだ。


「俺は大丈夫ですけど、何か用ですか?」


 今にも閉じてしまいそうな瞼を前足の甲でまさぐりながら聞くと、リングマは急に深刻な顔になる。


「最近、この森で奇妙なポケモンを見かけると報告があったんだ。もしかしたら人間に捨てられたポケモンかもしれない。よかったら確認してきてくれないか」
「リングマさんの頼みなら喜んでお受けしますよ!じゃあ、行ってきます!」


 そうして颯爽と駆けていくニンフィアを微笑ましげにリングマは見送った。



* * * * *




 パトロールをすること数分、獣道はだいたい確認しおえたニンフィアは人間によって整備された道を歩いていた。


 この森は新人トレーナーが特訓の場としてよく訪れる。なので以前人と共に過ごしていたポケモンならこの辺りにいるかもしれないと、考案したニンフィアはその道を重点的にパトロールしていた。


「居ないな、今日の所は諦めるかな……」


 昼間は賑やかだった森は朝早いこともあり、まるで別の場所のように静かだと思う。辺りを見回すも一向に不審なポケモンは見当たらない。


 帰ろうとした時の事だった。

 背後から雑草を踏む乾いた音が聞こえる。慌てて背後を振り返るとそこには、森では見かけないポケモンが立っていた。


「お前は一体何者だ」


 相手の訴状が知れないため、取り合えず臨戦態勢へと入る。すると彼は淡々とした調子で言った。


「俺の名はルカリオ、マスターの命によってこの森へと来た」


 表情一つ変えずにポーカーフェイスで話すポケモンは、二足歩行で青と黒が主体のまるで何もかも見透かしたような冷徹な赤い瞳をこちらへと向けていた。


 ニンフィアは人間を嫌っている。たとえ人にモンスターボールというもので縛られているポケモンとて例外ではない。ニンフィアにとっては忌まわしいき物の対象となるのだ。


なのでルカリオというポケモンが人間と共に過ごしていると分かると、怒気の含んだ口調で問うた。


「人間に所有されているポケモンが、一体何の目的でここにいるんだ」
「最近、新人トレーナーが野生ポケモンに太刀打ち出来ないという事件が発生していてな。それは人間によって捨てられたポケモンたちの仕業ではないかという結論に至り説得にきた」


 その言葉にふと思い出したようにニンフィアは告げる。


「それは恐らく、森の奥地に住むポケモンの仕業だろうな」


 森の奥地に住むポケモンというのは、トレーナーに捨てられ森での生活に馴染めず、途方にくれていたポケモンたちが住んでいる所だった。大抵は悪事を働いていて、森のポケモンたちには嫌われている。最近では人間にまで被害を及ぼしていたと噂で聞いていたニンフィアは、それが事実だったことに驚きはしなかった。


「そうか、情報を提供してくれたこと、感謝する」


 ルカリオが通り過ぎようとしたために、慌ててニンフィアは呼び止める。


「ちょっと待て、何処に向かうつもりだ」
「君が言っていた森の奥地だが」


 ニンフィアは瞳を細め、ルカリオを睨む。


「あいつらには俺が説得にしておくから、さっさと森から出ていけ」
「たった今、会ったばかりの君を信用しろなんて無理な話だな」
「この神聖な森で、人間と友情ごっこをするポケモンをうろつかせる訳にはいかないんだよ。そこまで言うなら俺と勝負しろ」
「無駄な争いは控えたいんだが」
「そんな甘い考えは、この森では通用しないぞ」


 するとルカリオは小さく息を吐く。


「何を言っても無駄なようだな、仕方がない」


 目付きが変わった。紅玉の瞳を細め鋭い目付きでニンフィアを見る。身構えて戦闘体制へと入った。


 ニンフィアは可愛らしい顔に不敵な笑みを浮かべて構えた。


 互いに対立して相手の出方を伺う。不意に、強風が吹く。草木のざわめきと共に動いたのはニンフィアだった。


 ルカリオの元へと走りながら周囲に無数の星を出現させる。それらを一気にルカリオに向けて放った。


 ルカリオは素早い動きで駆け抜け、星の追尾を振り切る。


「中々やるな」


 普通なら必ず命中するはずのスピードスターがかわされて、ニンフィアは感心した。


「次は此方から行くぞ」


 冷ややかな声と共に立ち止まり、ニンフィアへと向き直る。片手を前へと伸ばし淡い青色の球体を作り出す。


 何か大技をするのだろうかと思案したニンフィアは性急にルカリオと距離を取る。


「くっ」


 しかし判断が僅かに遅かったかせいかその攻撃を受けてしまった。


 だが、ニンフィアは口の端を上げて笑う。
 

「これは格闘タイプの技だな」


 ルカリオの発した技は波動弾と言い、格闘タイプの技。ニンフィアにはあまりダメージがなく、タイプの相性は有利だということが分かった。


「それがどうした」

「随分と余裕そうだな、その余裕もいつまで続くことやら」


 勝算がついた事でニンフィアはルカリオとの距離を一気に詰める。その大胆な行動に瞠目するルカリオ。


「様子見なんてまどろっこしい真似は性に合わない。一気に決めさせてもらうぜ」


 告げると同時に背後に出現する月の幻影。ニンフィアの周囲に風が舞い、前方には白銀に輝く球体。


 それをルカリオの腹部に向けて放った。


「ぐぁっ」


 後方にそびえ立つ木の幹に、吹っ飛ばされた勢いで強く打ち付ける。


 それを見届けたニンフィアは満足げに息をつく。


「残念だったな、俺がフェアリータイプじゃなければもう少し、楽しいバトルが出来たのに」


 ルカリオに背を向けて、去ろうとする。


「まだ、戦いは終わってない」


 慌てて振り返るが、そこにルカリオは居なかった。辺りを見回すも先程までの姿はどこにもない。


 上の方から聞こえた、枝の折れる音につられて顔を上げる。すると飛び降りて来たルカリオが太陽と重なり、逆光となる。あまりの眩しさに思わず目を瞑る。


 攻撃を仕掛けてくると感じてかわそうとするが遅かった。


「ぐあぁっ…!」


 鋭く鈍い痛みが何度も身体中を蹂躙して、体を支えられなくなる。ニンフィアの予想を遥かに超える重いダメージだった。バランスを崩したニンフィアは力なく倒れた。


(どうしてなんだ、あいつは格闘タイプのはず。なのにムーンフォースをくらっても動けるなんて)


 次第にニンフィアの意識は薄れていき、深い闇の中へと落ちて行った。
ここでちょっと補足です。ニンフィアはルカリオのタイプを知らないという設定にしてたので、このような展開になっております。

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