少女と「害虫」と呼ばれるポケモンの物語

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作者:えびフライ
読了時間目安:12分
 こんにちは、えびフライです。
 久し振りに短編小説を投稿しようと思います。



 ...最悪の目覚めだ。


 せっかくの休日だというのに。
 外から物凄い騒音が聞こえてくる。

 覚醒と睡眠の狭間を行ったり来たりしている1日のうちでもなかなかに快適な時間帯を邪魔されて私はついイライラしてしまう。

 私はベットから立ち上がる。
 そして部屋を出て、庭に向かう。
 外から聞こえてくる謎の騒音の源を知るために。


 私はリョウコ。
 アローラトレーナーズスクール高等部1年生だ。
 もともとアーカラ島に住んでいたが父の仕事の関係で一時的にメレメレ島に住んでいる。

 階段を下り、騒音をうるさそうにしていた父に一言おはようと声をかけ、ドアを開け庭に出る。

 そこには騒音に顔を歪ませながら金属バットを構える母に対峙するのは羽を怪我している緑色のカゲロウのようなポケモン。

 こいつが騒音の元か。


 よく害虫と言われている奴だ。名前が出てこない...確かこいつの進化前も地面にアリ地獄を作るから害虫扱いされていたと思う。
 しかしこいつらはこの街では滅多に見ないのだが...


 爆音に怯みながらも金属バットを振り上げる母。

 その時だった。



「待って!!」


 私も驚くほどの大声で、そして無意識のうちに声が出ていた。


 驚き振り返る母。

 奴も驚き爆音を止める。


「何よッ!いきなりッ!」

 怒る母。

「私その子気に入った。飼っていい?」

 私も何かに操られたように答えていた。


「あんたがポケモンを欲しいって言ったのは初めてだしね...でもこんなうるさい奴飼える訳ないと思うけど。」


「良いんじゃないか」

と横から口を挟んだのは父だ。
 何故騒音が止まったのか気になったのだろう。窓から顔を出していた。



 我が家では父の言うことは絶対...いわゆる亭主関白だ。


「まぁ父さんがいいと言うならねぇ...
 た·だ·しまた騒ぎだしたらすぐ追い出すからねッ!」


「うん...」



 なんで私は急にこいつを飼いたいなどと言ってしまったのだろう...?


 奴はじっとこちらを見ている。
 なんだかうれしそうだ。


「わかったよ...えいっ!」


 父から手渡されたモンスターボールを投げる。

「!」

 しかし、モンスターボールなどまったく投げたことのない彼女がボールを投げても変なところに行くのは誰にも容易に想像できるだろう。


 案の定、予想もつかない方向に飛んでいく。



 しかし、彼女が投げたボールにあのポケモンは飛び付き、ボールに体当たりして自らボールに入る。
 羽ばたけないのに必死に飛び付いていた。リョウコは少しばかり感動すら感じた。


「...やるじゃん。ほら、でておいで。」



 奴をボールから出してやる。
 いや、奴と呼ぶのは気に食わない。
 名前をつけてやろうと考える。

「...私はリョウコ。今日から君の名前はグリーだ!」


「♪」


 や...いやグリーはうれしそうに頷く。

 今日から君が私のパートナーだよ。










~次の日~


「ほらグリー、起きて!」

 首を傾げるグリー。
 何故起きなくてはならないのか不思議そうだ。

「私学校行くから!ついてくるの?」


 コクッと頷くグリー。
 家にいたら母に何されるか分からないからねぇ...

 連れて行くしか手段はないかなと私は考えたのだ。


 しかしグリーはボールに入るのを嫌がった。ボールをかざすと嫌そうに首を振るのだ。

「仕方ないか...バックに入れようかな?」

とリョウコが考えているとグリーは飛び跳ねてリョウコの肩にちょこんと掴まった。

「まぁこれでもいいかな...落ちないでね」


 肩乗りグリーもいいかなぁとおもいつつ走って学校へ向かう。


 もともとリョウコの家はトレーナーズスクールの裏山のスクールの反対側の位置にあるため山を回って行かなくてはならなかった。

 道路を走るリョウコ。
 グリーは結構必死に肩に掴まっていた。


 割とギリギリに学校に着いたリョウコとグリー。
 先生にポケモンはボールに入れろと注意され、グリーもしぶしぶボールに入る。


 グリーとの初めての学校は何事もなく終わる...と思っていたリョウコだが、そう上手くいかないものだ。

 放課後男子に捕まってしまう。

「おいリョウコッ!お前ポケモンゲットしたのか!俺と勝負しろ!」

...クソガキめ。



 外にあるバトルフィールドに出る。
 相手は1年ポケモンバトル部員。
 勝てるかどうかは分からない。


 でも、あいつみたいな親からポケモンを買い与えられたようなトレーナーとは違う!
 私とグリーには人間とポケモンの太い絆がある。絶対負けない!


「いっておいで!グリー!」


「ふん!何だそのボールの投げ方は。
俺はそんなアマには負けないんだよ!
いってこい!戦え!キノココ!」

「あなたたちのように親からポケモンを当たり前のように貰ったような人には負けない!行ってらっしゃい!グリー!」


「グリー!...ええっと...」

「先手必勝!キノココ、身代わりだ!」

「お願いグリー!穴を掘る!」


 グリーは穴を掘って地中に潜る。

「ふん!キノココ、まもる。」

 簡単にグリーの攻撃は防がれてしまう。
「キノココ、どくどくだ。」

「グリーっ!」

 グリーは強力な毒に侵され、どんどん体力が削られていく。

「どうしよう...そうだ!竜の息吹き!」

 しかし身代わりが壊れたにとどまった。
「まもる」
「竜の息吹き!」
「身代わり」
「竜の息吹きよ!」
 ・
 ・
 ・

「もう後2ターン程しか持たないだろうな。」

「グリー...」

 グリーは必死に立っていた。まだ上手く飛べないため、あいつのどくどくをかわすことは出来なかった。
 グリーの目はリョウコに何かを訴えているようだった。

 今思えば昨日の出会いは奇跡...待てよ!そうだ!

 グリーは“あの技”を使えるかもしれない!


「いっけぇグリー、爆音波よっ!」


「何いッ!」

グリーが羽を擦り合わせるのが見え、耳をふさいだ。





ズガガガガガガガガガンッ!







「キノココ!戦闘不能!
よ、よって勝者、リョウコ!」

 少し驚いた様子で読み上げる審判のポケモンバトル部の先輩。

「やった!やったね!グリー...?」

 グリーが苦しそうだった。

「お前!毒消しはッ!」

 審判の先輩が焦る。

「え?持ってませんが」

 ポカンとする1年部員。

「馬鹿野郎!こういうバトル施設ではするバトルでない野良バトルの時にどくどくを使う時には必ず毒消しを持っておかんかッ!」

「グリー!しっかりして!」

 グリーがだんだん弱ってきている...どうしよう...このままじゃ!

 出会ったばっかりなのに!


「そこの高1!急いでポケモンセンターへ行くんだ!」

「は、はいっ!」


 グリーを抱えて大急ぎでポケモンセンターへ向かう。

 必死に走るリョウコ。


 しかし。

「あっ!」ドテッ


 派手に転んでしまう。
 その勢いでグリーが投げ出されてしまい、建物の隙間に入ってしまう。

「グリー!」

 あわててグリーを追いかける。

「あれ?」

 しかし、建物の陰に入るとグリーと見たことのないポケモンがいた。
 ピンク色をしていて、なぜだか女の子を感じさせる風貌だ。



「!」

「お願い、グリーを助けて!」


 そのポケモンはコクリと頷く。

 そして、自らの身体についていたりんぷんのようなものを少しグリーにつける。
 すると、グリーの毒と傷が消えだし、数秒後には消えていた。


「ありがとう!ええと...?ポケモンさん!」


「カプゥーフフ!」


 よかった...と安堵するリョウコを見てそのポケモンは微笑む。
 そしてふわりと空に舞い上がり飛んでいった。

「本当にありがとうー!」
と言いながら手を振るリョウコ。

その時。

「おい、大丈夫だった...か?」

 先ほどの先輩が走ってやってきた。
 すっかり元気になったグリーを見て驚いているようだが。

「大丈夫...みたいだな。」

「はい。なんかピンク色のポケモンがりんぷんみたいなものをつけてくれたおかげです」

「えっ!」

 なぜか驚く先輩。


「お、お前!それはもしかするとカプ·テテフかもしれないぞ!」


「ええっ!」


「こんなポケモンだったか?」

 と言って先輩はスマホを見せてくれた。

 まさにこのポケモンだ。
 両親もカプ·テテフについては言っていた。でもカプ·テテフは昔住んでいたアーカラ島の守り神では?

「おそらくそうです」


「お前凄いぞ!これからしっかり頑張れ!」

 興奮しはじめる先輩。

「ええっ!!」


「守り神が目をつけたんだ!上手く行けばお前は島クイーンになれるぞ!」

 そんな...私が島クイーンなんて...


「その話はおいといて、さっきはうちの部活の後輩が迷惑かけたな、すまなかった。」

「治ったし私は別に許せますけどね...」


「でも俺も分かるよ、お前の気持ち。ほら、出ておいで」


「えっ」


 ボールからはラランテスが。


「き、綺麗...」


「だろ?こいつもお前たちと一緒で昔、邪魔邪魔言われていたカリキリを俺が捕まえたのさ。もう今では相棒さ。俺もさっきみたいに言われたら物凄く怒るだろうな。後であいつはしばき上げてやる!」

「あはは...」

 グリーと先輩のラランテスは私たちを見てクスッと笑った。



 その後、何事もなく一日が終わった。





 およそ2年後。


「まずい!寝坊した!」

 なんと今日はリョウコたちの卒業式。
 大寝坊、登校時刻まであと15分だ。

「グリー、[近道]を通っていくから!私の制服取って!」

 昨日までの2年間と同じようにグリーは器用に制服を取る。


 家を出るまでに要した時間、約3分。
 これも高校生活3年間の経験が活きた。


 家を飛び出し裏山の方向へ走る。

 そのまま裏山に入っていく、過去5回使用した[近道]だ。


 草木をかき分け山道を突き進んでいくリョウコ。

 この道なら約10分で学校に着く。
 慣れた道...の筈だった。

「!!」

 不幸なことに足を滑らせてしまう。
 先日雨が降ったせいで地面がぬかるんでいたためだ。
 そして追い討ちをかけるように下は深い崖。
 まっ逆さまだ。

 リョウコは自分の死を感じ、慌てて肩に掴まるグリーに叫ぶ。

「グリーだけでも逃げて!」

 しかしグリーは、嫌と言う意味の羽音を鳴らす。

「駄目!行きなさい!」

 グリーの目からはほろりと涙。
 そして彼はリョウコの肩から飛び立った。


 その時だった。



「リョウコト、イッショニイナキャイヤ!」


「グリー!?」

 グリーの体が青白い光に包まれる。


 その光の中から飛び出してきたのは、本でしか見たことのない位珍しいポケモン、せいれいポケモン フライゴンだった。

 落ちるリョウコの体をすっと背中に乗せ、学校に向けて飛ぶ。

「グリー!凄いよ!ありがとう!」

「コチラコソ。リョウコハボクノイノチノオンジンダモノ。」

 片言の日本語で喋る。

 学校に約5分前に着く。

「本当にありがとう、グリー!」

「ズットイッショダヨ♪」


「ええ!」











 卒業式の後、リョウコ一家はアーカラ島に戻った。



















 リョウコ一家がアーカラ島に帰っておよそ1年後、リョウコはあるところにいた。





「私のパートナーたち、そしてカプ·テテフ。いくわよ!グリーもよろしくね!」

 リョウコたち大きなゲートをくぐる。




 その施設の名は、
  バトルフロンティア!



 島クイーンとなった彼女たちがどのような物語を刻むのかそれはまだわからない...

 しかし、彼女たちの前に広がるのは希望の森。
 必ずや何か記録をこのバトルフロンティアに刻んでいくだろう。
 いかがでしたでしょうか。
 ご感想などお待ちしております。

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