第7話 第六話『民家』

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その言葉を聞いたラフは、焦った。
「(冗談じゃない!どんな内装になってるかわからないんだぞ!?)」
鳴き声を荒げる彼にラズが窘めた。
「(だからこそ入るんでしょ。いい?私たちはあの人達を守るためにいるのよ?)」
彼女の言いたいことがわかった彼は一刻静まり、考えた。
「(俺を小心者と言いたいんだろ。…うーん… あ、分かった。)」「(どうしたの?)」
ラフは表情を変え、こういった。
「(アイツらを守るために言ってんだ!だから入らないほうが…!)」
必死の訴えを彼女はバッサリと斬った。
「(はいはい分かった分かった。すごい発想だねー。うわー。)」
「(くぅっ…!)」

そんな彼らの様子を見ていたレイとケイはこう会話した。
「…俺らの行動の中のどこにあんなに鳴き合う要素があったんだ?」
「さあ? …ポケモンのことにはまだまだ謎が深いねえ…」
「それを謎と言うかどうかは微妙だろ。 っていうか流石にもうモンスターボールに戻していいよな?そろそろ俺限界なんだが。」
そういうレイの顔を見てみると、確かに冷や汗が流れている。
「…うーん…まあ、確かにこの付近には戦う場所はないからね… でも、またその先には草があるからすぐにポケモンを出すことになるよ。連続してモンスターボールに出し入れするとポケモンが疲れちゃうよ。…しまわない方が得策だね。」
「ん…わかった。じゃあもう少しだけ我慢しておくか…くぅぅ…」
彼らが民家に入ると、後ろからついてきていたラズもついていった。 ラフは少し躊躇していたが、ラズの睨みが目に入り、足取り重く民家に入っていった。

普通の民家だ、と彼は思った。 キッチン、冷蔵庫、電源のついたテレビ、机に椅子。そこに座っている一人の老人。男性だ。
「失礼します。」
ケイの声で振り返った老人は驚いた表情でこういった。
「おやおや、久しぶりに若い人に訪ねてもらったわい。どしたんじゃ?」
「いえ、これといった用はないのですが…」
「ふぉっふぉっふぉ、そうかそうか!しかし訪ねてくれたとは嬉しいことじゃ!―そうじゃ、これをあげようかのう?」
そういい老人は後ろの棚からなにか小さめのバスケットを取ってきた。
「あ、それは…」「そうじゃ、『ぼんぐりケース』じゃ!こいつさえあれば、どんなにでもぼんぐりがしまえるぞ! ―ちょうど2つある、儂にはもう必要ないものじゃな。 差し上げよう!」
彼らはぼんぐりケースを手に入れた。

このぼんぐりケースの作り方はすべて不詳という完全企業秘密状態を保ってきている商品である。
パッと見ると細い縄で作られていて簡単に壊れそうだが、壊してみようとすると、非常に壊れにくい。 さらに言えば壊れない。
又、底も浅いようで非常に深いのも特徴のうちの一つであろう。
ぼんぐりマニアでさえもこのケース二つで満足という噂すら立つほどである。
以上のことから、非常に高い値段が予想されるが、この商品を買った多くのユーザーが『想像していたよりずっと安かった」と回答している。
なので、このおじいさんがこの不思議なぼんぐりケースをいくつも持っていても全くおかしくはないのである。

「突然押しかけて申し訳ございませんでした。失礼しました!」礼儀正しいケイの挨拶に、優しく老人は答えた。
「いやいや、また来てくれよ! こんどはなにか用意しておくからのー!」

彼らは外に出た。まっさきに口を開いたのはレイであった。
「ちょっと時間を食い過ぎたか? 急いだほうがよさそうかな?」「うーん…そうでもなさそうだよ。 ゆっくりいってよさそうっぽい。」「そっか。分かった。じゃ、行こうか?」
彼らは歩き出した。その後ろをまたポケモンたちが歩き出す。
「(ほら、言ったでしょ?)」「(いや、日々のこういう常なる疑心暗鬼が)」「(L5発症しても知らないよ)」「(L5ってなんだよ?)」「(あっ、いや何でもない。うん。)」「(えるご…?エルゴ? なんかのアニメの登場人物だったっけな? 違う、それはゴルゴだったか? エルボみたいなゴルゴ?―なんという画期的な気持ち悪さであろうか…)」「(違うし、何でもないから!そんなに本気で悩まないでー!)」「(気になるな…)」
彼が考えていると、ラズが思考を停止される話題を持ちだした。
「(…ところで、さ。)」「(ん?)」「(私たちってさ…このお使いが終わったらどうなるのかな?)」「…」「(やっぱり、あのモンスターボールに入れられてウツギ博士の手に戻るのかな…?)」
彼女の悩みに、彼は答えるために質問をした。
「(不満だったのか?)」「(そうじゃないんだ。 それは、研究所だから設備は凄いけどさ… こうやって隣町までやってくるような遠出、したことないでしょ?)」「(…そうだな。それは確かに言えてるな。)」
ラズは続ける。
「(そしてさ、こうやってウツギ博士に限らない人間達と触れ合えるのも…初めてだよ。 「戦え」って命令されたのっていつ振りだと思う?)」
彼女の質問に彼は笑いながら答えた。
「(はっ…少なくとも俺は受けたことはないね。 お前は、あるのか?)」「(私は一回だけあるんだ。 ―負けちゃったけどね。 でも、その時はとっても楽しかったよ。)」「(それは今と同じ感じだったのか?)」「(…わかんない。でも、とっても幸せで、楽しかったよ。)」「(幸せねぇ… 俺はいつ毒になるやら麻痺になるやらで恐ろしいばっかりだけどな!)」「(貴方は注意深すぎ!ビートルの頭のツノは確かに猛毒だけどそれが運悪く血管に入るのは100%じゃないんだから。 もうちょっと気を緩めてみたらどう?)」「(これは宿命っぽいから無理だと思うぜ。 ―だからこそ、俺はこのお使いが終わったら研究所に戻りたい。)」「(えっ?)」
この言葉ではっきりした。彼等の意見は完全に対立状態だった。 
ラズはお使いが終わっても、もしレイが旅立つのであれば、一緒についていきたい。
ラフはお使いが終わっても、もしケイが旅立つとしても、研究所にいたい。
居づらい雰囲気の中。 彼等の状態を打ち破ったのは、人間だった。 レイだ。
「なあ、ラズ。俺の目の前にレディバがいるんだ。 どう思う?」「ワニャ?ワニー…ワニワニ!」「なるほど、全くわからん」「(ただそれが言いたかっただけでしょう!)」
そんな彼等の様子を見たケイは言った。
「レイ、僕の目の前にはイトマルがいるんだ。君はどっちがいい?」「う…レ、レディバ…」「でしょ? 因みにこの可愛いレディバのどこが気持ち悪いんだい?」「可愛いってお前…あんな目を見開かれて突然飛び立たれて気づいたらなんかくっついてたとかいうことになったら…」

「可愛いじゃん」「えっ」

時が止まった。

「そこがわからないと多分俺の気持ちはわからないと思うぜ」「じゃあわからないと思う…」
そんなこんなしていても、レディバは空気を読んでいた。そして前に出てきたラズもくつろいでいた。
「…ディバ…」「ワニャー…」
そんな状況をレイを通して見たケイは彼に警告した。
「…そろそろ戦ったほうがいいかな…」「…そうだな…」

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