神の森を飛ぶ蒼き羽と紅き羽

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作者:えびフライ
読了時間目安:6分
「神の山」と呼ばれる広大な山の麓に広がる広大な森。これは、地元の人々に「神の森」と呼ばれ信仰されてきた森に住む兄妹の儚い物語である……


森の中を流線型をした羽を広げ、音速で飛ぶ二つの影。
蒼き竜と紅き竜が木々の間を抜けながら話していた。


「お兄ちゃん」
「何?」
話しかけてきたのは僕の妹の小怪だ。コミと読んでいる。
自己紹介が遅れたね。僕はラティオスのムゲン。この森にコミと両親と4人で暮らしている。僕達の種族は光の屈折を自由自在に操ることができる。それを利用して人間に化けることだってできる。僕達は両親にお使いを頼まれ、山の麓の商店へ向かっている所だ。
「さっき言ってたケイカクって何?」
コミには一つの夢がある。
それは大きな街でお買い物をすることだ。しかし、コミは生まれつき心臓が弱く、母親がそれを過剰に心配し、森から一歩も出させない。そこで、僕はコミの夢を叶えるために入念に計画を練ったのだ。
両親は半年に一度、カントーってところに三日間滞在する。その間僕達は北の方にある大きな街へ行く。実は親の目を盗んで既に下見をしておいたのだ。そこでコミが心ゆくまで買い物をし、森に帰る。
お金?
その心配はいらないよ。人間さん達が納めてくれたお賽銭を両親にバレないように少しずつ貯めておいたからね。
そして両親は明日カントーへ行く。これは大きなチャンスだ。
僕は計画の全貌をコミに話した。
「明日、コミの夢を叶えてあげたいんだ。」
「え!本当!?」
コミはとても嬉しそうだった。
その後僕達は、両親に頼まれたお使いを終えた。お釣りでアイスを買ってコミにあげた。いつもの習慣だ。
コミは大きな街で買い物ができるのが本当に嬉しかったらしく、ずっと顔がほころんでいる。コミの心の中にはドキドキとワクワクが詰まっているようだった。
その日の夜は興奮でなかなか眠れなかった。コミにとっても眠れない夜だったに違いない。

~次の日~

両親がカントーへ旅立つ日が来た。それは、僕達にとって壮大な冒険を意味する。
「ムゲン。コミをしっかり守りなさい。」
「コミに何かあったらお父さんにテレパシーを送りなさい。分かったな。」
……いつも通りだ。
両親には僕が物心ついた時から二歳下のコミを守るように言われてきている。
だから僕は森に侵入者がいたら我が身を挺してでも守るつもりだ。尤も、今までそんなことは一度もなかったが。
しかし、今日は親に反抗する。
母親の思いだけでコミの夢が捨て去られていいはずがない。コミも年頃の女の子だ。
両親が飛んでいったあと、荷物をリュックに詰め込んで、僕達は飛び去った。
外は雲ひとつない晴天で、絶好の冒険日和だ。森を抜け、田園地帯、大きな大地の横を通り過ぎていった。顔に当たる風が心地良く、爽快だった。ふとコミの方を見ると、コミは生まれて初めて見る外の景色に感動していた。その表情を見ているだけでも、コミを外に連れ出して良かったなと思った。
しばらく飛んでいくと大きな街に出た。北に行くにつれ、車が増えてきている。下に見えるモノレールを辿り北を目指す。
大きなビルが建ち並ぶ交差点に降り立ち、人間の姿に化けた。僕達は西にある大きなデパートを目指し歩いて行った。街は華やかで人が多く、森とは比べ物にならないくらい目まぐるしかった。その中でもデパートは一際目立っていた。
僕達は、緊張しながらもデパートに入っていった。そこにはたくさんの商品が陳列されていた。大半はコミにとって初めて見るもので、その一つ一つに興味を示し、目を輝かせていた。
あまりにもコミがはしゃいでるので、迷子にならないか心配でぴったりとくっついていた。
「自由にお買い物していいの!?」
「うん、僕のお金が無くなるまではね。」
コミはデパートの中を片っ端から回っていった。僕が歩き疲れても、コミは全く疲れの色を見せず、色々なものを買った。ぬいぐるみ、ケーキ、絵の具、キャンバス、筆……。
太陽が沈む頃には、持っているお金が尽きてしまった。コミは満足している様だった。
僕達は大きな荷物を抱え、路地裏で姿を消す。荷物だけが飛んでいるように見えないように、僕の背中に荷物を載せ、その上にコミが荷物にぴったりと張り付いて帰った。
家に着いても、コミの喜びは止まらなかった。自分の棚にぬいぐるみを並べて話していた。
「今日はとても楽しかった!ありがとうお兄ちゃん。」
「今日のことは皆には秘密だよ。」
「分かった。言わない。」
僕達は疲れていたのですぐに眠りに落ちた。

しかし、運命は残酷であった――。

両親が帰ってくる日の朝、コミは散歩に出ていた。その間、僕が洗濯物を干していると近くで何かが落ちる音がした。気になって駆けつけると、そこには倒れているコミの姿があった。
心臓は動いていない……
空気の悪い街に連れ出したのがいけなかったのか、両親のいうことを聞いていれば良かったのだろうか……。僕は慌てて親にテレパシーを送る。
「大変だ、コミが――」
コミの手には一枚の画用紙が握られていた。そこには、あの日羽を広げ、幸せそうに飛んでいる僕とコミが描かれていた……
 読んで下さりありがとうございました。
 実はこの物語に登場する森と街は実際に存在するモデルの地があり、実際に訪れて物語の構想を練りました。何故ラティオスラティアスなのか...それはいろいろ理由がありますが...一部作者の夢物語も入っております。
 本当にありがとうございました。

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