24日なんてあっという間で、約束の日はすぐにやってきた。もっと長い時間彼女といたかったけれど、彼女の都合を曲げることはできそうもなかったし、何より無理に曲げようと思えなかった。
約束の時間よりも少し早く乗船所に行くと、彼女はいつもの場所に立って、ぼんやりと改札ゲートの方を眺めていた。自動ドアが開く音に反応した彼女の、不安を滲ませた顔に光が灯った気がした。
「来てくれたんだ」
静かに、けれどはっきりと。そして、心の底からそう思っているように、彼女は言った。
「嬉しい……ありがとう!……怖いけど、あなたがいてくれるから、私、頑張る!」
ぼくは何も言わずに――何も言えずに、笑顔で一つ頷いた。
「お礼を受け取って」
彼女はどこからともなく何かを取り出してぼくに差し出した。ぼくの手に乗せられたそれは、ぼくが最初に彼女に会った時に渡したハンカチだった。風呂敷みたいに畳んで結んであって、何か丸い物を中に包んであるみたいだった。
「これ……」
毎日彼女と話すのが楽しみで、楽しくて、そのことばかり考えていて、ハンカチのことなんかいつの間にか忘れていた。
「ごめんね。私もすっかり忘れてて。……開けてみて」
言われるままにハンカチの結び目を解くと、何だかよく分からないごつごつした小さな石ころが包まれていた。指でつまんでよく見てみるけど、何も変わったところは見当たらなかった。
「これは……?」
「内緒。きっとそのうち分かるわ」
彼女は左手の人差し指を立てて自身の唇に当てた。ぼくはその石が傷つかないように、もう一度ハンカチで包み直してから鞄の中に入れた。
ぼくがその石ころをちゃんと受け取ったのを確認すると、彼女は少し顔を上げて目を閉じて、感慨深げに呟いた。
「ああ、やっと会えるよ……パパ、ママ……!」
その時は単純に、離れた土地にいる両親のことを想って言ったのだと思った。少女は瞼を開けてぼくの方へ向き直ると、
「……さよなら」
と、ひとこと残してゲートへ向かった。少しだけ、ほんの少しだけ寂しさを浮かべた、しかし覚悟を決めた笑顔だった。その顔を見た瞬間、ああ、もう二度と彼女には会えないんだ、と思った。何故だか分からないけれど、ぼくの直感がそう囁いていた。
行ってしまう。引き留めたい気持ちはやまやまだった。でも、できない。手を伸ばせばまだ届くかもしれない。一歩踏み出せれば、まだもう少し一緒にいられるかもしれない。それなのに、ぼくの足は動かなかった。今は動いてはいけないというように、何かが地面に足を縫い付けているような感触がした。そうしている間にも、彼女の背中はどんどん遠ざかっていった。
そして――
「ワッハ!」
二人の間を隔てるように――
二人の住む世界は違うんだとでもいうように――
二人の間をカイリキーが通り過ぎていった。
灰色の岩のような肌に遮られた視界に次に映ったのは、乗船口へと続く改札ゲートだけだった。改札ゲートから乗船口まではそれなりに距離があるはずだったのに、彼女の姿は、もうどこにもなかった。