11.Thanks Giving Day

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大きく育った木の下に、たわわな果実が数えきれないほど実っている。
モモンを始めとしてオレンやチーゴ、カゴにヒメリ…示し合わせたかのように収穫日を迎えた果樹たちをウィズは感無量とばかりに見上げていた。

前日に村長に畑を見てもらったら明日収穫するのが一番いいだろうと言われ、その時かららしくもなくわくわくして眠れなかったウィズはいつもよりも早く家を出た。
包帯もすっかり取れた尻尾にかごをぶら下げながら畑へ来てみれば、それはそれは見事な光景が広がっていた。
ウィズの頭上ではふっくらとした実が色づいていて、鼻を寄せればみずみずしい香りが鼻孔をくすぐる。思わず尻尾が揺れてしまうのは自然なことだった。

一番早くに埋めたモモンの実を一つ捥いでみる。時間と手間をかけただけあってハリがいい。ぱつっと張った皮に牙を突き立てると朝露で冷えた果汁が広がる。
店で売っているものより甘く感じられてウィズはその場でぴょんっと跳ねた。うれしかったのだ。

「うまっ!さすがじーさん仕込み…頑張ったかいあったな。すげえうめー!ふへへへ…!」

ウィズの口からみっともないほどゆるんだ声が出ていた。もとはといえば失敗から生まれたのがこの畑だったが、自分の力で素晴らしいものを生み出すことができたという事実はウィズのこれまでを肯定してくれるものになった。
もちろん村長のカーティスや危ない時に助けてくれたコリーの助力あってのもので、こっそり育てていたからウィズの頑張りは村のほとんど誰にも知られてはいない。それでも誇らしい気持ちでいっぱいだった。この村にきてここまで嬉しかったことはないだろう。そわそわと落ち着かない様子のウィズはたしかに浮かれている。でもそれも今日はいいのだ。嬉しいことを嬉しいままに享受しないなんてもったいない。

「カクレオンにひとつ渡して、それでチャラになるわけじゃねえけど…まあ悪い気はされない、よな。」

掘り返していない草地にころりと転がって、食べかけのモモンを掲げる。薄い日の光が桃色の実を輝かせて、それはすぐにウィズの口の中へと消えた。
珍しいほどに満面の笑みだった。




「さて、どうすっかなこの量!」

尻尾にぶら下げてきた籠はあまり意味をなさなかった。一輪車かコンテナを借りてきた方がまだ早く運搬できただろうという量を収穫できてしまったウィズは困った顔で果物の山を見た。

「オーガスタの分に足して…世話になったじーさんとこも二匹所帯だしこれくらいはやってもいいか?コリーにも礼にもってくとして…でもまだあるんだよなぁ。クラスメイトにやるのもいきなりなんだと思われるだろうし、そもそもあんましやりたくねえ…笑われたし。」

みみっちいことを言いながらおすそ分けの取り分を増やしてはみるもののやはり多い。
実った木の実はそこそこ保存のきくものもあるが、特に水分の多いモモンやオレンなどは早くに痛み始めてしまうだろう。しかもダンジョンで手に入りやすかっただけに多めに埋めているのもその2種類だ。痛む前に食べきれるような量ではなかった。

しばらく考えたものの解決策が思い浮かばないのでひとまず木の実は置いておくことにして、ウィズはオレンを一つかじり腹を満たしながら畑を出た。
丘に建つものでは一番高い位置にあるオーガスタの家の傍からは、低い位置にある学校やカフェが良く見える。ティーのとっておきには及ばないがここもなかなか景色がいい。山に囲まれ大きな湖に隣接したおだやか村は緑が多くいつも空気が澄んでいる。

(ここにきてそろそろ半年近いのか…。)

青い匂いのする草場に座り込んで、景色を眺めながらそんなことを思う。村に来た頃は春に入りかけだったのに現在は夏休みを満喫している。春先から厚みを増した青い葉も刺すような日差しも健在だが、周りからそろそろ秋の気配を感じる頃だろうという声も聴いている。
木の実を育て始めたのもそれを思うとずいぶんと前だ。

(なんにもねえけど、良いところだよな。)

拾ってくれたポケモンがいて、帰る場所があって、家族ができて、眠る場所にも食べるものにも困らなくて、目標があって、思えばずいぶんと充実した日々を送っていたなと振り返って気がつく。
それもこれも身寄りのないウィズを拾って何不自由なくしてくれたオーガスタのおかげだ。
ウィズはその恩あって本当に早くからオーガスタを信頼していたが、最初はティーやクラスメイトに言い放ったように自分に利のない相手には興味がなかったし、悪目立ちしてからというもの理解されないとも思っていた。
でも見知らぬ土地でもがいているうちに段々と話す相手が増えてなんと最近は相棒さえできた。最初の頃のウィズは想像さえしていなかったことだ。

「ありがたいこと…なんだろうな。」

気持ちは確かにゆっくり根付いている。大事に思うものも増えてきたし、おだやか村での暮らしは十分満たされているといえるようになっていた。
それを置いていくことを前提にティーと組んでいることに、少し、心残りはある。

(でも俺は人間だ…きっとずっとはいられないし、人間でいるのをやめたくない。)

思い返すのは入学した日のヒヤッキー校長先生の言葉だった。

『まずはゆっくり、ここで自分を見つめなおしてください。』

そう言われた通り、ウィズは自分がどういう人間性だったのかということは理解したつもりだ。一般水準の客観的に「まともではない」過去があるのだろうが、それなりにそれとのつきあい方は学んだ。なくした記憶やフォッコの自分を認めるかどうか、ということにはまだ決着はついていないものの、何もわからなかった頃と比べれば自分が「かたまり」になってきていることは感じている。
少なくとも今、自己紹介で何も語れないということはない。そうなったのもきっと、出会ったものややったことがあったからこそ理解しえたものだ。
「上手くやろうがすっ転ぼうがやったことは良くも悪くも何かを生む」ときのみを拾った時口にした。それはほとんど空っぽだったからこその他人行儀な言葉だったが、それらを経て確かになとウィズは思った。
最初に散々うった下手がそっくり今のウィズになっている。でもこうして短い過去を振り返ってよかったと思えるということは、上手く何かを成してこれたということだろう。

(ま、だからってティーみたいに自分から困っているポケモンみんなを助けたいだとか、そういうことはどうしても思えないけどさ。)

ウィズとしてはそれは仕方のないことだと思っている。
ティーに付き合って依頼をこなしてはいるが、今だって多くの村ポケモンたちの目はウィズを厄介を起こしたポケモンとして見ている。
そんな相手やその場限りの見知らぬ相手を助ける意味はあまり無いように思うのだ。ティーと組まなければ今も関わることはなかっただろう。
コリーを助けようと自ら動いた時ですら、ただ目の前で死にかけているような感覚がどうにも心に引っかかったというだけだ。

そういうスタンスで一度植え付けてしまった印象というのは好意的に深く関わらない限りなかなか変わるものではない。
でもそれはティーだって同じはずなのだ。彼女もはた迷惑な子供だと認知されているのだから。
それでも周りを助けたいと素直に思えるティーは結果はともかく心根が強くてまっすぐなのだろう、それはウィズにとっては腹の立つほど本当に羨ましいことだった。

今は厄介ものであっても、これから仕事がうまく波に乗りさえすれば有名な調査団の傘下であることが広まって、チーム・ウィステリアのリーダーであるティーの名は広がっていくだろう。いい感情も悪い感情もひっくるめて認められていく。ウィズはそんな気がしてならなかった。
確かにティーは大雑把で空気が読めない。だが周りに流されないからこそ世界に名を轟かせる調査団にはおあつらえ向きな性格だ。
自分がそんな重責を背負えるとはウィズには思えなかった。せいぜい後押しか後ろにくっついているくらいが自分の器にはちょうどいい。

それでいいのだと思った。こうして小さく過去を振り返って良しと言えることが自分にできる精一杯のことで、それが大事なのだから。
さて、自分というものがまとまった以上次の段階へと進まなければならない。そしてここでできることかと言えばそうではないのがそろそろ現実だ。

「潮時、なんだろうなぁ。」

からっぽだったウィズが埋めた実は立派に根付いて実りとなった。そんな姿に俺こいつらに後押しされてんのかな、と感傷的な気持ちにもなる。
とはいえ今すぐという話ではないのも知っていた。今の実力では町へ向かうための難関・キリタッタ山脈に挑んだら3日で野垂れ死にかねないからだが、予定はまだ漠然としていてどちらかといえば今日取れた大量のきのみの処理方法の方がはっきりした問題なくらいなのだ。
それを思い出してウィズの思考はふりだしに戻る。こちらの問題は頑張ったからこその結果で嬉しい悲鳴なので考えるのは吝かではないのだが。

「頑張れ、今はフォッコでも俺は人間なんだ…!人類の叡智とかそういう感じのアイデアが必要なんだ…!頑張ったから腐らせたくない!できたら自分で消費したい…。」

頭を抱えて空を見て、あ、と声をあげた。

「人類の叡智………」







「ウィ、ウィズ、疲れてきた…。」
「黙って手動かせ。焦がしたら殺すからな。」

昼を過ぎた頃、村長家のかまどで鍋の中身を掻き回しているティーに真横からウィズの叱責が飛ぶ。その本人はというと真水を汲んで強火にかけた鍋に甘く育ったモモンをつぶしては放り込んでいた。皮ごと熱湯に巻き込まれ実の中身がどろどろと水面をうごめいている。
ティーがまわしている鍋はでくつくつと煮込まれてはいるが、ウィズが作業している鍋とは違い半透明で実は無い。こちらは限界まで糖が浸み込んだ湯をぎりぎりまで煮詰めて濾したものを再び煮詰めているものだ。
なんだかおもしろそうなことをしているな、と興味本位で手伝いを申し出たティーがひたすら鍋をかく仕事に弱音を吐いたのは始まってから数時間後だった。

「水すくなすぎるよ!焦げちゃうよ!!」
「そっちはそろそろよさそうだな。火からおろして冷やして来い。」
「やっと終わった!!」

ティーは家の外に出ると庭先に置かれた皿の数々を突っ切って最寄りの泉に鍋を半ば放り込むようにつける。鍋の中に水を入れるとウィズに燃やされかねないのでそこだけは気を付けた。
こんこんと湧き出る冷たい水でしばらく冷やしていると、鍋底に何かがたまり始めているのがわかるようになる。量が増えなくなったらそれをすくい上げて平たい皿に乗せ、庭先に置いてあるものと同じように日当たりのいい場所へと置いて鍋を持ち帰る。それをかれこれ十数回はやっていた。天気がいい日だったので最初の方に干した皿は水気が飛んでいる。

「ウィズ~~、さっきから何やってるのこれ?私何も聞いてないんだけど…」
「ちょっと試したいことがあったんだよ。手伝うって言ったんだから最後までやれ。」

一心不乱に鍋をかき混ぜているウィズがティーの言葉をはねのける。当然それでは納得がいかないのでティーは声を荒げた。

「だからなにを手伝わされてるかわかんないから言ってんの!!」
「外のやつ乾いてるの見なかったのか?」
「見たけど…白っぽい結晶みたいだったよ。」

ぶすっと、なんでおいしそうな実をあんなのにしちゃうのかなと言うティーに、説明も億劫そうにしながらウィズが言う。

「それ砂糖な。」
「さとう。」
「そう。」
「・・・・・・・・・・高級品じゃん!!!!!!」

ティーが叫んだ。
この世界で調味料というのはごく一部にしか出回らない高級品だからだ。
料理をするという概念はあるが、何分調味料の絶対数が少なすぎる。というのも、加工というものをほとんどのポケモンする必要がないと感じているらしい。
ポケモンにとって料理とはご馳走を指す。しかし普段木の実ひとつで必要な栄養が取れるならそれをわざわざ面倒な工程を加えて元は食べられる部分を捨ててしまうなど、娯楽以外の何物でもない。
手に入れるのに加工が必要な砂糖、塩、さらに複雑な加工を必要とするビネガーや酒類、栽培の難しい香辛料系は一部の職人たちが作るセレブご用達の贅沢品だ。だから物によっては宝石並みに高価なのだ。
風のうわさでは都会のワイワイタウンにはそういう加工品のお菓子があって、たった一口分にダンジョンで時々見つかるお宝「金塊」の何個分もの値段が付いているらしい。

対して入れ物としてガラス瓶などの加工品は当たり前に普及している。しかしそれは単に便利で必要だから発展したというだけのことだ。人間と違い丈夫で、本来外気にさらされて生きているポケモンだからこそ文明の発達の方向性がおかしいのだとウィズは思っている。
歪ながらに家を建て橋を掛け、こうも人に近い文明を形成して長いのに未だにガラス窓すらないのだからそうとしか思えない。単におだやか村がドのつく田舎ということもあるが。
そんなわけで木の実の辛みや苦みなどをベースにハーブを加えたスープがかろうじて一般水準の料理の得意なポケモンが作れる限界だった。料理好きな村長は不満げではあるのでそこは考え方の違いなのだろう。アレがあればソレがあればという村長の言葉を聞きながら育ったティーからしてみればそんな高級品の名前をさらっと口にするのだから驚きは生半可なものではなかった。

「高級品ね…まああれだけあったモモンがすっかりなくなったんだ。当たり前だな。…あれ全部売ったらそこそこ暮らせただろうなぁ。」

それでもウィズはこともなげに言うと、火を止めて用意しておいた石の板に小枝を置き始めた。高級品の名前にすっかり舞い上がったティーが興味津々でウィズの手元を覗き込んでいる。

「それはなにしてるの!?」
「もう一つ実験。鍋持ってこい。」
「うん!」

打って変わって元気になったティーが鍋を覗き込むととろみの付いた半透明の液体が入っている。これも先ほどのモモンからできたものだろうかと不思議そうにしながら持っていくと、ウィズから棒の上に少しだけたらすように指示された。

「俺手がないからそういう作業向かねえんだよなあ…。」
「まあ相棒なんだしそこは持ちつ持たれつってやつで…こんな感じ?」
「おお、いい感じ。」

枝の上から垂らされたものが広がって楕円状になったものを見てウィズが満足げに頷いた。
それをしばらく置いている内に使ったものを片づけたり乾いた砂糖を瓶に詰めたりしていると、あっという間におやつ時になっていた。

「それにしてもよく砂糖の作り方なんて知ってたよね。人間の知恵ってやつ?」
「まあそんなとこ。やっぱり料理とかはポケモンより人間の方が詳しいと思うぞ。それこそこの先お目にかかれないようなものもあるだろうな…。」

火を苦手とする草タイプのオーガスタは徹底的な生の実愛者なのでウィズもそれに近い食生活はしていたが、正直なところもうひとひねり欲しいところではあった。
幸いにして多種多様な味の木の実に助けられてきたものの人間として文化的な生活ができるものなら越したことはない。大量のモモンも砂糖にしてしまえば日持ちするし、ノメルだのドリだのといった普通食べられないような味のきのみをおいしくすることだってできるかもしれない。なら食べ物の幅だって広がるというものだ。ポケモンしかいないこの世界で肉が食べたいとまでは言わないから、せめてそれくらいは許されたいのである。

「さっきの小枝の、あれは砂糖にはならないの?」
「ああ、そろそろ頃合いかもな。」

思い出したようにウィズが言うと、水辺の近くの木陰で冷ましておいた石の板を引っ張り出してくる。
液体だったモモンのエキスが薄桃の透明なガラスのように固まっていた。天板代わりの石板からそれを数本引っぺがすと、ウィズはそれをティーに差し出した。

「こっちは飴だ。手伝いの報酬、これがお前の分。」
「飴ってレベルが上がるやつ!?レアだよレア!!」
「それ"ふしぎなあめ”だろ?これは上がらないと思うぞ。モモンから作ったから毒は多少消えるかもしれないけどほとんど糖分だしな。」

棒キャンディを受け取ったティーがもの珍しそうに透明なそれを光にかざしたり匂いを嗅いだりしている。

「へー…ウィズって記憶ない割に色んなこと知ってるよね。ポケモンの種類とかタイプとか、あったこともないのに知ってたりするし。」
「自分が誰かもわかんねえのにな。」
「不思議だねぇ。」

感心しながら棒キャンディを口に入れたティーの目が輝いていくのを見てウィズもひとつを銜えてみる。思っていたよりも少し柔らかいが初めて作ったにしては上出来な味だ。

「ふぉおおおおおお!!あまーい!おいしい!!ちょっとモモンの味する!!」
「勉強してるときとかちょっと疲れたときとか、食事前でも糖分ほしいときあるんだよなー。」
「あーわかる。いいもの作ったじゃん。」

娯楽の少ない田舎暮らしのティーはずいぶん気に入ったらしい。口から枝を突き出しずいぶん嬉しそうだ。自分も同じような顔をしているんだろうなと思いながらウィズは残った飴をいくつかきのみと一緒に袋に詰め始めた。

「それどうするの?」
「コリーに持ってく。育ててる時ちょっと世話になったし、ガキは甘いもん好きだろ。」
「ウィズ、なんか嬉しそうだね。」
「そうか?」
「うん。本ばっかり読んで1匹でイライラしてた頃より楽しそう。」
「……。」
「あはは、早く持って行ってあげなよ。コリー、喜ぶと思うよ。」
「…ん。」

照れているらしいウィズを笑いながら追いやって、村の方へとかけていく大きな尻尾をティーはまぶしい気持ちで眺めた。

「いつの間にか1匹狼じゃなくなっちゃってまあ、そのうち私より先に厄介者じゃなくなってくんだろうなぁ…。」

ティーには半年以上前の記憶がないということへの恐怖はあまりわからない。でもそのことでウィズが苦労しているのは知っている。時々不文律というか、常識を知らないのだ。
そんないくつもハンデを背負った環境の中でつまづいておきながら、立ち上がる度に数歩分自分を置いていく。
上手い逃げ方がどうだとか、最近はどこが物騒だとか、今日は何が安いだとか、とにかくなんでも知っているような顔で地図を広げてはティーを連れて行くのだ。

「負けてらんないよね。」

そんなことをぼやいた。
前述を差し引いてもウィズは最近ずいぶんと調子がいい。保護者のコノハナをはじめとしてティーの保護者のはずの村長ともずいぶん楽しそうに土いじりをしているのを見ている。最初は怖がっていたはずのコリーもいつの間にか当たり前のように側いるようになっていた。
ウィズも彼らにはずいぶん心を許しているようで、頑張って作ったものをおすそ分けなんてことまでするようになったのだ。誰も信じていませんというような顔をしていたくせに、誰とも関わろうとしなかったくせに。

対して村での自分の評価はウィズが来てからもそんなに変わってはいないように思う。心を預けられるのは未だ保護者の村長くらいだった。
調査団見習いとして少しずつつながりを増やしてはいるものの、基本は個ポケモン間のやり取りで口コミに頼るようなものだ。もともとの行動が派手だからか少しの成果ではなかなか褒めてはもらえない。そこまで仲良くなれたポケモンもいなかった。
たくさんのポケモンの役に立ちたいと思うのは本当だ。そもそも調査団員を目指しているのだって自分のそうした想いや冒険心を満たしてくれるものに違いないからだ。誰も見たことがない場所を一番初めに探検して、たくさんの出会いを体験して、たくさんの成果を出したい…それがティーの本懐である。
でもどこかでそうすれば厄介者でなくなるのではという期待もあって、それは時々途方もない夢にも思える。だからこそ早く早くと思うティーに閉鎖的なウィズの一歩一歩はひどく非効率に見えて仕方がないのに、いつのまにかしっかりと地に足を付けてティーの前へと進み出ている。
それは努力に他ならない。そういうところに触れるほど、ティーはウィズの事を嫌いになれなくなっていた。

それがなんだか悔しくて、こっそり相方の取り分を1本失敬した。
湿っぽくなってしまったが今日はウィズにとってひたすらいい日だったに違いない。氷のようにキラキラ光る棒キャンディも、それを渡せる相手も、ウィズが育てた一歩一歩のたまものだ。
それくらいは一緒に喜んでやってもいい。
口の中に広がる甘みを感じながら、ティーは満足そうに笑った。
タイトル=感謝祭。
というわけで収穫を兼ねてこれまでを振り返る回です。砂糖のくだりはファンタジーフィルター!モモン風味の砂糖の結晶です。本当は分離器とか使います。


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