episode3ーⅢ カクが違う

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この作品には残酷表現があります。苦手な方は注意してください

遅くなりました…これからも落ちます
「っ…あ…!」
「ルトッ!!」

蹴りを受けて何メートルも飛ばされ、感じたことのない痛みが腹部をじわじわと広がっていく。
…動きが…まるで見えなかった。

「…ラルちゃん!距離をとって!」
「だね…!」

一瞬の戸惑いを振り切り、ツララ隊は少し離れた。
恐らく、近接では勝ち目がないと悟ったのだろう。
ミリアンはこちらを見て焦燥を浮かべていたが、意識を俺にではなくアンノウンに向けた。…正解だ。

やがて、シャルが側まで来る。

「ルト…!立てるか?」
「…がふっ、…無事ではないけど…大丈夫だ。ミリアンやツララ隊と連携をとるぞ。…コイツは…格が違う…!」

アンノウンはその場で止まっており、忙しなくこちらの顔を窺っていた。
…アンノウンには見られない行動。今までの常識は意味をなさない。

「動きを止めるよ、ルト!行けそう?」
「問題ねぇ!どうすんだ!?」
「…近接は多分無理!さっき(ルトを吹き飛ばした蹴り)みたいなのが毎回飛んできたら近づけない!間合いから離れて攻撃しましょう!」
「…ああ、同感だ。シャル、中距離戦にシフトだ。決められる時にしか近付いちゃ駄目だからな」
「了解!」

なんとか起き上がり、刀を構えて腰を落とす。
…ラルダはアンノウンを倒すんじゃなく、止めると言った。つまり、とどめはツララがやるんだろう。ラルダの特性ならば、少し離れた距離でもアンノウンを封じ込める。たが奴の速さは桁が違う。
…今俺達がすべきことは、ツララ隊の為の時間稼ぎだ。

「…『ラスターカノン』…!そして…」

掌の上に銀色のエネルギー弾を集中させ、山なりにアンノウンへと放つ。速度はわざと遅くした。…アンノウンに目眩ましは…有効だ!

「せぃあッ!」

空中に浮かぶラスターカノン目掛けて連続で刀を振り、衝撃波を放つ。ラスターカノンは刀を受けて散り散りとなり、目映いエネルギー波となってアンノウンへと降り注いだ。威力こそ落ちるが、目眩ましとして見るならば優秀な技だ。

「ラルダ!」
「わかってるわ!」

ラルダに合図を送ると同時に、ラルダの口から凍える光線が前方へと放たれた。
エネルギー波に気を取られていたアンノウンに直撃し、辺りと一緒に凍り付く。

「…捕まえた!ツララ先輩!」
「うん!…スゥー……」

ラルダは特性でアンノウンを固定し、ツララは静かに息を吸い込んだ。
すると、ツララの表情が変わる。例えるならば、歴戦の狩人。その落ち着いた表情からは、それほどの威圧感が放たれていた。

「狙うのは…頭…!…ハッ!」

ツララは目を見開き、全力を込めた矢を放った。
矢は目にも止まらぬ疾風(はや)さで飛び、アンノウンの頭の真ん中に突き刺さった。
…見事だ。芸術として感じてしまう。

「…フゥ!誤差無し…かな?」
「アンタ…凄いな。これで中上級だって…?」
「あー…ツララ先輩は、遅刻が多いじゃない?それで…ね」
「…なるほど、なんとも勿体無い…」

緊張が解れ、全員がワイワイと賑やかになるなか…。
俺だけは、悪寒を感じ取っていた。

「…皆!まだだっ!」

俺が声を荒げて皆に伝えた瞬間、高密度のエネルギーがラルダを吹き飛ばした。

「キャアッ!!」
「ラルちゃん!?」

ツララは吹き飛ばされたラルダに近寄り、ルト隊はアンノウンを見た。
すると…

「何でだよ…!頭を貫いたんだぞ!?何で…『まだ生きて』んだよ!」

シャルが驚くのも無理はない。
アンノウンは頭に矢が突き刺さったまま、氷を砕いて立ち上がったからだ。
有り得ないなんてものじゃない。ポケモンで例えるなら、心臓や脳を貫かれても生きているという事が起きているからだ。前者ならば、短い時間ではあるが有り得ない話ではない。…しかし、アンノウンの頭や胸にあるコアは心臓や脳のどちらにも属さないが…どちらにも属している。
言ってしまえば、あのアンノウンは脳と心臓を同時に貫かれて尚、立ち上がったんだ。

「っ攻撃、来ます!」

アンノウンは頭の矢を抜いて下に投げ捨てた。そして、ミリアンの言った通り攻撃をするべく接近してきた。

「ミリアン!俺たちの間合いには入れるな!」
「了解!【ライトウイング】発動!そして、『サイコウイング』!」

ミリアンは特性を発動させ、翼にエネルギーを溜める。それを翼の羽ばたきの勢いに乗せて放った。
紫のエネルギーはアンノウンに当たり、足を止めた。

「ナイスだ、ミリアン!シャル!ツララ先輩のとこまで下がるぞ」
「…流石に、接近すんのはまずいよな」

ミリアンが止めているうちに、ツララとラルダの側まで離れた。
ラルダは気を失っており、吹き飛ばされた衝撃で足に怪我を負っていた。

「…ツララ先輩、ラルダは大丈夫か?」
「とりあえずは…ね。…アンノウン、どうしよっか」
「ルト隊で数秒でも稼ごうや。その隙にツララサンが精密射撃(スナイプ)。…頭にコアがない…って可能性もあるだろ?だから、次は胸を狙ってサ」
「うん、そうしようか。特性を使えば、矢に反応できないと思うしね」

ツララは焦らず騒がず、弓矢の調整に取り掛かった。
…あのアンノウンから数秒。覚悟を決めないとな。

「ルト…さん!そろそろ…やば…!」
「ああ!ミリアン、下がれ!」
「っはい!」

ミリアンはエネルギーを強く放ち、少しだけアンノウンが吹き飛んだ。予想はしていたが、ダメージは皆無だ。
…やるしかない!

「シャル!行くぞ!ミリアンはツララ先輩を守れ!」
「オウ!」
「了解しました!」

佇んでいるアンノウンへ一気に近寄り、細かい斬撃を放つ。一撃で仕留めるのはかなり難しい。大振りは禁物だ。
シャルも俺の動きに合わせて鋭い突きを放っていく。

「『ィ…ギィ…!』」

アンノウンは防御もせずに攻撃をいくつか貰う。相変わらず奇声を上げているが…アンノウン語みたいなものか?
…などと、下らない事を考える暇はないな。

右足を後ろへ下げ、刀を斬り上げる。胸から頭まで引き裂いたつもりだが…薄くしか切れていなかった。
体が硬いな。アンノウンの体を構成する核(コア)。その質が違うのか?

「シッ!」
「『ォ…!』」

そのまま、下げた足を勢いよく戻す。その勢いを殺さずに脇腹を蹴りつけた。
鋼エネルギーを纏わせた蹴りなのに、ダメージは無し。
だが、少しアンノウンが怯んだ。その隙をシャルは突いていく。

「串刺しになりな!」

両手で構えた槍が、アンノウンの胸部を突き立てた。だが、アンノウンはそれを手で防ぐ。

槍は、手を貫通してそこで止まってしまった。

「ち…!硬すぎんだろ」
「『アァッ!』」

身動きを止められたシャルに、アンノウンは右足でかかと落としを放つ。
シャルは咄嗟に槍を離し、影の中に避けた。…かかと落としを外したアンノウンは、大きくふらついた。

…今だ!

「ツララ先輩!!」
「…いくよ」

ツララは静かに矢を放った。
放った瞬間に、感じとれた。この矢は…必ず当たる必中の矢だと。

「『グ…シィ…!!』」
「よっし!」

矢はアンノウンの胸に突き刺さり、アンノウンは倒れた。

動かなくなったアンノウンを確認し、ツララを見た。
大粒の汗を流しており、相当の集中力が求められるのだろうなと納得した





…では、無かった。その汗は、冷や汗だ。
背後から、ギシギシと音が聞こえ振り替えると、アンノウンが矢を持ち、勢いよく俺に投げてきた。


全員の悲鳴じみた叫びを聞きながら、当の自分は、気持ち悪いほど冷静だった。
投げつけられた矢は、正確に俺の脳天に向かっている。奴らの膂力で投げられた矢は、容易く俺を貫くだろう。

…俺は、死ぬ。




「ォォォおおおおオオオオッッラァ!!!」

その時、眼前の矢とアンノウンを赤い一閃が吹き飛ばしながら通り抜けて行った。
次第に落ち着いてきた脳内が、焦りを取り戻して忙しく働き出す。とたんに、冷や汗が全身から吹き出した。
…いまのが、死ぬ前に時間が止まったように感じるってやつか…いや!それよりも…!

通り抜けた赤い光は、ポケモンだ。
赤く燃え盛るその体に、シンプルなブーツを履いた大柄の男。
アンノウンを見た後、こちらに振り返った。

「よう、無事かよ?」
「ぇ…あ…はい」
「そか、なら良かったぜ」

突然話し掛けられ、戸惑いながら返す。
そして、その顔を見た。バシャーモ族…、まさか…?

その答えを、その男は言い放った。

「俺は『バシャーモ』。【炎の大盾】、バシャーモだ!」



タイトル攻めてみたけど…うむむ

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