第四話「青年〜少し前、その3〜」

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ドクサの森の最深部、森のほこら。

巨大な木々が立ち並ぶ中、ただ一つ存在感を示している老木があった。樹齢にしたら一体何歳になるのであろうか、大人五人が手を繋いでも届かない幹の太さに、老木となった今でも一層と生い茂る枝葉。正しく木々たちの長老と言うには相応しく、また、その木の下に森のほこらは建てられていた。

来る人々を見下ろす様に立ち並ぶ木々。しかし、木々たちが見下ろしていたのは参拝者ではなく、また、植物を観察しに来た植物学者でもない。

見下ろす先にいたのは、森を荒らす三人の不届き者であった。

「クソっ、なんで俺がこんなことしなきゃなんねーんだ・・・・・」

思わずガイアルクの口からこぼれる不満。同行している二人は何度も聞いたセリフに嫌気を覚えたが、ガイアルクが口に出しているだけでその気持ちには多少の同感は覚えていた。


ポケモンを捕獲しろ。しかし、名前は教えられない。


一体、名前を告げられずに何を捕獲すれば良いのか。なぜ自分達に名前を告げられないのか。上層部の支離滅裂な言い分に、三人は確かに不安と苛立ちを感じていた。

しかし、薄々、と言うよりかはほぼ確実にそのポケモンが何であるかは察することが出来た。そのヒントは言うまでもなく、このドクサの森自身である。

時を自由に行き来することが出来ると言われる伝説のポケモン。


”ここから さき セレビィ の すむ森 ゴミは 持ちかえりましょう”


入り口に立てられていた看板。三人の記憶には年季の入った文字がやけに印象深く残っていた。

そう。つまり、上層部が求めているポケモンは『セレビィ』である。セレビィを利用して上層部が何をしようと企んでいるのかは予想も付かなかったが、自分の入っている組織にも関わらずろくな事に使わないんだろうという事だけは察することが出来た。

三人は草木をかき分けて探すが、一向にセレビィは見つからない。遂にはガイアルクは手持ちのヘルガーを、ウォルカは手持ちのデンチュラで木の上から搜索させた。

そして、異変はそう時間も経たずに起きた。


遠くからでも分かる。激しい閃光。


「来たかっ!行くぞヘルガー!」

一番最初に行動を起こしたのはガイアルクだった。ヘルガーを連れて、我先にと閃光の発信源へと向かう。後先考えずにすぐ行動に移す性格は、ガイアルクの長所でもあり、また短所でもあった。

「あいつ・・・・・隊長、私は少し先回りします」

「分かった、俺はガイアルクの後を追う」

続いて、ウォルカとデンチュラは閃光が起きた方向から少し出口に近い方へと向かう。女の割に身のこなしが良く、すぐに隊長と呼ばれる男の視界から見えなくなった。それを確認すると、男は手から黒い通信機を取り出す。ボタンを押すと、ピーッガガガガというノイズ音の後にガチャ、っと通信の繋がる音を確認する。

「謎の閃光を確認。現在、発信源へ接近している」

「・・・・・了解、追って連絡しろ」

プチッ、と通信の切れる音がする。男はそれを確認すると、ガイアルクを追う様にして自分も閃光の起きた方向へと向かった。






何かが近づいてくる音がする。それも、こちらに走ってくる足音である。一瞬、ロズベルの家族が閃光に気づいて探しに来たのかと思ったが、素早く駆けてくるこの足音はどう考えても人間ではない。

ポケモン。しかも、恐らくこちらに来ているのは偶然ではない。これもさっきの閃光が関係しているのだろうか。

「えーっと、ロズベル?少しこっちを向いてくれないか?」

コクリ、と頷くのを確認して、俺はバックからゴールドスプレーを取り出す。丁寧に服に吹きかけていくと、目にかかったのか少しだけロズベルが嫌そうな顔をした。どうやら、無表情以外の顔も一応できるらしい。あまりにも反応が薄かったので少しだけ安心する。

「これでよしっ、と」

ロズベルに使い終わると、もう一つのゴールドスプレーを取り出して自分に吹きかける。これで、生身の状態よりかは幾分かマシだろう。

しかし、こうしている間にも足音はどんどん自分達に近づいてくる。確実に野生のポケモンではない。このままでは、いくらゴールドスプレーを使用しているからと言ってもバレてしまうだろう。そして、恐らく狙いは俺達である。

「ロズベル、茂みに隠れよう」

ロズベルを背後にある茂みの中へと誘導すると、自分もその茂みの中へと入る。この森は暗く、色の濃い植物が多いため茂みに入ると見分けが付きにくい。それに、二人で隠れる分にもこの大きさなら問題ないだろう。

二人が隠れたところで念のためにもう一度ゴールドスプレーを吹きかけて、こちらに向かってくるポケモンを待つ。そして、そのポケモンはそう長くかからずに俺達の前に現れた。

ヘルガーである。

ヘルガーは辺りの匂いを嗅ぎ回って、先ほど自分達が立っていたところの周辺を懸命に探している。今の自分たちの位置がバレていないことに少し安心するが、そのうち茂みの中を手当り次第に探り始めた。

(まずい、バレる!)

少しずつ自分達の方へ近づいてくる。いざと言う時は戦うしかないが、生憎俺の持っているポケモン達とは相性が悪いためあまり戦いたくはない。好きを見て逃げる方が得策だが、あの足ではすぐに追いつかれてしまうだろう。

そんな事を考えているうちに、遂に自分達の目の前まで接近してくる。ヘルガーの息遣いが聞こえてくる距離になって、いよいよ覚悟を決めよう、とした時だった。

「おい、何か見つかったか?」

突然聞こえた男の声。

男の声に反応してそちらに駆け寄ったのか、ヘルガーが茂みから遠ざかるのを感じる。思わぬ命拾いをしてほっと胸をなで下ろす。茂みの中から少しだけのぞき込むと、そこにはがっしりとした大柄な男が立っていた。

その顔はフードで見えにくくなっていたが、口元がニヤリと笑っているのが見えた。

「ちっ、まだこの近くにいるかもしれねぇ・・・・・仕方ねぇ」



燃やしちまうか。



俺の心臓がドキリと跳ねた。

「ヘルガー、『かえんほうしゃ』で辺りを焼き」

「ま、待ってくれ!」

思わず、自分達が隠れていることを忘れて茂みから飛び出す。男は少し驚いた顔をするが、すぐにさっきの表情に戻る。待ってましたと言わんばかりに口元がニヤリと笑っていた。

「森を燃やすのは勘弁してほしい」

「それはお前の返答次第だぜ、青年。そこに何か隠しているんじゃねぇのか?」

男はチラッ、と俺の後ろにある茂みへと視線を向ける。今もロズベルは茂みの中でじっとしていて、俺達のやり取りを眺めている。この男の狙いは、もしかしたらロズベルなのかも知れない。しかし、どう考えてもコイツはロズベルにとってプラスになる人物ではないだろう。

やるしか、ない。

「おっ?」

俺がバックに手をかけると男が嬉しそうな声をこぼす。どうやら相手も俺のやろうとする事を察した様で、恐らく先ほどの反応から相手は戦闘を好むタイプらしい。

好都合である。

俺はバックからモンスターボールを取り出して自分の目の前に投げる。投げられたボールの中から光が放たれ、サボテンの様なカカシの様なポケモン、ノクタスが目の前に現れた。

「勝負で勝ったら、見逃してくれないか?」

男は待ち望んでいたかのように笑い声を上げて、そして叫んだ。

「面白い!我々コスモ団に刃向かうつもりとはな!!」

男はおもむろに被ったフードを外す。三十歳程度であろうか、その顔は先ほどの不気味な笑いよりはっきりと、小物を蹂躙して楽しむ顔に変わっていた。

俺は思った。コイツは飛んだ変質者であると。

「ノクタス、『いあいぎり』!」

ノクタスのトゲ状の腕がヘルガーを切りつけようと接近する。しかし、ヘルガーはそれを軽々と避けて後ろに下がる。

「そんなんじゃ当たらねぇよ!ヘルガー!『にらみつける』だ!」

ヘルガーの鋭い目つきによってノクタスが少しだけ怯む。その隙を見計らって、男は更に命令を出した。

「ヘルガー、そのまま『かみつく』だ!!」

ヘルガーが怯んだノクタスの肩に思い切りかみつく。あまりいい状況とは言えないが、ヘルガーが近づいている今はチャンスである。

「ノクタス、『ニードルアーム』で引き離すんだ!」

肩に噛みついているヘルガーの腹をノクタスのトゲ状の拳が思い切り突き刺さる。それに耐えられなくなったのか、ヘルガーが息たえたえとノクタスから離れた。

効果はいまひとつだったが、どうやら急所にあたったらしい。ヘルガーが苦しそうな顔をして、あと一押しと言ったところである。

「くくくく・・・・・」

男の不気味な笑み。それは、ヘルガーが苦しそうにも関わらずバトルを楽しんでいるようにも見えた。

「決着をつけてやるぜ!」

ヘルガーとノクタスはタイプ相性が非常に悪い。その事は俺自身も知っていたが、今、俺が戦闘に使えるポケモンにはくさタイプしか持ち合わせていなかった。

「ヘルガー!『かえんほうしゃ』でトドメをさせ!!」

「くっ、避けてくれノクタス!」

ヘルガーの口から放たれる炎を、さっきのかみつきでふらついているノクタスは避けられない。そのままかえんほうしゃはノクタスに直撃して、耐えられないようにその場に倒れた。

「しゃあ!!」

男の喜ぶ声が聞こえて、それに合わせてヘルガーが吠える。今更ではあるが、実力的にはこの二人は相当相性が良いらしかった。

「悪いな、ノクタス」

俺はノクタスをモンスターボールに戻して、考える。恐らくだが、相手のポケモンはあのヘルガーだけではないだろう。ヘルガーより強いポケモンが後ろに控えていると考えたら、非常にまずい。そして、俺が次に出すポケモンではあの息たえたえのヘルガーすらも倒すことは出来ないだろう。

万事休すか。と思ったが、そこで俺の中にある考えが閃いた。


いや、待てよ。これってバトルに勝たなくても良いんじゃないか?


つまり、俺はあの男から逃げることが出来ればそれでいいのである。フェアでは無いが、わざわざ真正面から戦って勝つ必要は無いだろう。逃げるが勝ち。それだ。

俺はバックから二つ目のボールを取り出して投げる。投げられたボールは空中で光を放って、思ったよりも小さな形に変形していく。中から現れたのは、踊り子を模したような可愛らしいポケモン、キレイハナである。

俺の腰の高さにも満たない小ささに、男とヘルガーは呆気に取られたようだった。

「キレイハナとは・・・・・随分ヘルガーと相性が良さそうだな」

男が勝ちを確信したかのように余裕の笑みをこぼす。確かに、キレイハナではあのヘルガーを倒すことが出来ない。その理由に、このキレイハナは一切の攻撃技を持ち合わせていない。普通に戦えばまず負けることは必須だろう。

しかし、今の俺にとってはそんな事はどうでもいいことである。


何せ、このバトルに勝たなくても良いのだから。


ただし、ミスは許されない。確実に、正確に、一寸の狂いもなく命中させる。

俺はその作戦に賭けることにした。

「頼む!キレイハナ、最大火力で『ねむりごな』だ!」

距離は10メートル程。チャンスは一度切りである。

男は、最大火力でまさかねむりごなを出してくるとは思わなかったのか、一瞬あっけに取られた顔になる。だが、すぐにその表情は先ほどの余裕の顔に戻ったのが見えた。

キレイハナから大量の白い粉が放たれ、視界が白く真っ白に染まる。鈍足なポケモンであるならば、まず、ねむりごなの包囲網から逃れることは出来ないだろう。

しかし、ヘルガーは素早い。

「ヘルガー!お前なら避けれるぜ!!ベリーイージーだ!!」

言われた通りに、ヘルガーは大量に放たれたねむりごなを大回りで回避する。そして、その距離は今にもキレイハナに襲いかかれる位置に立っていた。

絶対絶命。

勝った!!そんな声が、白い煙の向こうから聞こえてくる。

ずばりその通りである。男はこのバトルでの勝ちを確信しただろう。自分のヘルガーならこのねむりごなの包囲網を避けられると信じて。ようやく、自分が強いことを証明することが出来ると。

しかし、視界が晴れた瞬間に、その男の表情は驚きの顔へと変わった。


ヘルガーが眠りの状態異常にかかっていたからではない。

この一瞬で、キレイハナがヘルガーを倒したからではない。

決して、この勝利がひっくり返るような出来事が起きたからではない。


「テメェっ、何で目の前にいやがる!!」


白い煙の中から突然現れた俺に、男は驚きの声を出す。



ミスは許されない。確実に、正確に、一寸の狂いもなく命中させる。



・・・・・男に!

「これでもくらえっ!!」

俺はあらかじめバックから取り出していた麻袋を振りかぶって、思い切り男の身体に叩きつける。叩きつけられた麻袋はその場で解けて、その中身を思い切りぶちまけた。

舞い上がる白い粉塵。

粉を吸い込んだ男は訳もわからずその場に倒れ込む。煙の中で倒れない俺を見て一瞬不思議そうな顔を見せるが、すぐにその表情は地面に伏せて分からなくなった。そのうち、男の気持ちよさそうないびきが聞こえてきた。どうやら無事眠ってくれたらしい。

麻袋に入っていたのは、麻酔効果のある特殊なアサガオで作った、お手製の眠り袋である。効果は絶大であり、常人なら五時間はこの調子で眠り続けるであろうこの代物は、恐らく警察にバレたら即終了である。

主が眠ってしまったヘルガーはどうすればいいのか分からないようで、男の元に駆け寄って服をつかんで揺さぶっている。どうやら起こそうとしている様だが、恐らくあと五時間はその調子だろう。頑張れヘルガー。

キレイハナをボールに戻して、茂みの中に残されたロズベルの元へと向かう。一瞬、ロズベルがいなくなったことに困惑したが、よく見ると茂みの奥でぐっすりと眠っていた。どうやらキレイハナのねむりごなが風で流されてきて、眠ってしまったらしい。

ロズベルを茂みから引き出して、背中に丁寧におぶさる。小さな寝息をたてている様子は可愛らしくて、もう少し見ていたくなったが今はそれどころではない。


あの男が言っていた、『コスモ団』というセリフが脳裏に浮かぶ。

コスモ団、一体何者なのだろうか。

(そもそもなんで俺がこんなことに巻き込まれてるんだ・・・・・?)

花を見に来ただけなのに、なぜこのようなことに巻き込まれているのか。全く持って理解が出来ない。これ以上、関わるのはできるだけ避けたいものである。

とにかく、今はこの森から抜け出すことを考えなければならない。ホウエン地方にはマグマ団だのアクア団だのが存在していたが、恐らくコスモ団もその類だろう。つまり、他にもあの男のような輩がいるということである。


ふと、暗闇の中から伸びる手が見えて、こちらに来るよう手招きしている。手だけが浮かんでいるかと思ったら、その向こうにはうっすらと人影が見えた。

こっちに、来い。

見方なのか、敵なのか。怪しすぎるが、この森を抜け出す手段が見つからない今はあの手招きをする人物に頼るしかない。

俺は警戒するようにしながら、自分を誘う人物の元へと歩みを進めた。





「恐らく先ほどの閃光に関わっているであろう、青年と少女のペアが森の出口に向かっている。手下が一人突っ込んでいったが、今は眠らされてとても動ける状態では無い」

「・・・・・貴様は黙って見ていたのか?」

「私がそこに行った時にはもうそいつは眠っていた。二人の得体が知れない以上、無闇に近づくのは最善の方法ではないだろう」

「・・・・・了解、貴様はその手下を連れてその場から離れろ。後は私達がやる」

「・・・・・了解」




バトルシーンを上手く書くことが出来ません・・・・・。こればかりは積み重ねしかありませんね。早く上達できるようになりたいです。

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