残酷な未来の先で

しおりを挟みました
しおりが挟まっています。続きから読む場合はクリックしてください
読了時間目安:8分
トレーナーとの別れ際話。
また死にネタです。
私が初めて未来というものを見たのは、進化してからのことだった。

なんだか体がむず痒いと感じたら自分が光だしたから驚いた。それから、いつもは見上げないと見えなかった主の顔がすぐ目の前で見えるようになった。
自分に起きた変化にオロオロしている中で、主が嬉しそうに笑っていたのを覚えている。
「見ろよ皆! ティティがネイティオに進化したぞ!」
一緒にバトルの練習をしていた仲間たちが、主と同じように喜んで私に近づいてきた。
当時は、主が言う進化ってなんだろうと思っていた。だけど主が喜んでいるなら別にいいかと、深く考えることはしなかった。
今思えば、それがどれほど愚かだったか――――自分の能力をきちんと知って使いこなせていたら、また違う未来があったのかもしれない。ただ言えることは。その時の私は無知だったのだ。

進化してから数日後、私は大好きな主が死んでしまう夢を見るようになった。恐怖と驚きで私は飛び起きた。生々しくその夢は、それから毎日見るようになった。そして夢は次第に起きてるときでも見るようになった。

夢が未来予知であることが分かったのは、夢を見始めてから数週間後のことだった。
『ティティって未来予知できるの?』
頭の良いフラナが何気なく聞いてきた。

『未来予知?』
『未来を見る能力よ。ネイティオという種族は未来が見えるって主が見ていた図鑑に書いてあったわ』
フラナが文字を読めたことにも驚いたが、それ以上に未来予知の話が衝撃だった。
夢だと思っていたあれが未来の主の姿だというのだ。私は慌てて主の姿を探した。その時はストイックと技の特訓をしている最中だった。生きていることに安心したもののそれ以降夢を見るたびに私は恐怖に襲われた。

そして酷いことに、未来予知の存在を知ってから、食事をするときや、寝ようとしたとき、時にはバトルの最中と、時間と場所を選ばずに未来が見えるようになっていった。

度重なる主の死ぬ姿を見た私は、いつしか主が死なない未来を求めた。主は若いうちに死んでしまうという事実に気付いてしまったからだろう。私が観る未来に主が生きている姿がなかったからだ。

だからこそ主の未来を変えるために私は動いた。
ある時は土砂崩れを回避し、あるときは転覆する船に乗せないようわざと出発時間を遅らせもした。
宿のガラスで首が切れるのを阻止するために野宿を選ばせたこともあった。

それでも、変わらず主に死が襲い掛かった。



そしてついに、あの日が来た。
主が、病に倒れた。



私が未来予知をしてから間もあけず主は倒れたのだ。倒れた先の未来を変えたいと、必死に未来予知を試した。しかし、今まで意思とは関係なく見えていた未来がこの時を境にぱったりと見れなくなったのだ。

私は、何もできない自分を呪いに呪った。

主が仲間達を手放し始めた。仲間達は訳が分からず困惑していたが、私はその理由を知っているからこそ涙がこぼれた。主は、自分が死ぬのを分かっている。

すでに仲間のモルフとフラナは主の友人に預けられた。暴れたガギスは保護区行きが決まり、そして私はレンタルポケモンとして施設に寄付されることになった。
私がそれを望んだからというのもある。もう二度と心を許した人間が死ぬ姿を見たくないと思ったからだ。心を許す人間を作らなければ、辛い思いはしないと思ったからこそ、私は施設を選んだ。
そのことが決定してからは、私はずっとモンスターボールの中に閉じ込もっていた。
恨み言を言われると思ったからだ。なぜ、未来予知の能力がありながら病気のことを教えなかったのかっと。
それが怖くて私はボールから一時も出ることなく、食事すらしないでひたすらこもっていた。

別れの時が近づく中、ボール越しから引き取り先が決まってないパマサが聞いてきた。
『ティティ。何でマスターを怖がっているんですか』
その言葉は、私の胸を深く突き刺した。他の仲間たちは、私が主と離れることがショックで落ち込んでるからボールにこもってると思っている。
だけど、パマサは違った。
『マスターとケンカしたんですか?』
私が主を怖がっていることに彼は気づいていたのだ。
『してない』
震える声でそれしか言えなかった。

『そうですか。なら、出てきてあげてください。食事もしないでボールに入ったままだから。マスターがすごく心配してますよ』
『お腹すいてない……』
『嘘を言わないでください。ティティ。外からグーグーお腹がなる音が聞こえているんですよ』
音が聞こえるなんてうそだと思いながら、私は反論出来なかった。
『……マスターは体調悪いのに、私たちの引き取り先を探すため走り回ってます。あなたが出てこないのも本当は施設が嫌なのではと思って、ほかの引き取り先を探し始めてます』
パマサの言葉に衝撃を受けた。
『なんで、施設で良いのに!』
『そうやって閉じこもってるからですよ。あなたは進化してからあまり意思表示しなくなりましたけど、嫌なことがあるとそうやって閉じこもるくせは変わりませんからね。施設が嫌でないなら出てきてください。そして食事を取って元気な姿を見せてあげてください。それだけでマスターはホッとするんですから』
そう言われて出てこないわけにも行かず、私はボールに閉じこもるのを止めた。ボールから出てきた私は思った以上に弱っていたのか、立つことすらできずに倒れてしまった。

『これはひどい。死ぬ気だったんですか?』
衰弱した私を前にして、パマサはため息をついていた。確かに、私は死ぬつもりだったのかもしれない。
その後主に見つかってポケモンセンターに入院することになった。その時の主の慌てようは言葉では言い表せない。

体力が回復し施設に行く前日となった時、主と最後の対面となった。
「施設だといろんなトレーナーと出会う。それでも本当に大丈夫か?」
最後の確認として、主は私の意志を聞いてきた。私は小さくだがしっかりとうなづいた。
「……ならいいけど。今更だけど、どうしてボールに閉じこもったんだ?」
私はただ俯くしかできなかった。主は困ったように頭を掻いた。

「……あっ」
主は、何かを察したのか私の顔を覗き込んだ。
「もしかしてお前、未来予知で俺が死ぬってわかってた?」
びくりと体が震えて、私は主から顔を背けた。怒られる!そう思って私は縮こまった。
しかし、予想していた罵声はなかった。
頭をクシャりと撫でられて、優しい声が聞こえてきた。
「悪い。気が付いてやれなくて。辛かったよな」
私は目を開いて主と顔を合わせた。
「お前には正直に話すべきだった。きっと、お前が見た未来どおり俺は死ぬ」

主自ら死を告げられて私の視界はぼやける。ほんの僅かな希望さえも断ち切られ、恐ろしい事実しか残らない。

「……お前のせいじゃない。こればかりは仕方ないさ。偏った生活習慣してたからなぁ」
壊れそうな笑みを浮かべて主は言った。
どうして笑うのか。本当は、貴方が一番辛いはずなのに。泣いたっていいのに、理不尽な未来に怒って当然なのに。

「覚悟はできてるからさ」

そんな顔して言わないで欲しい。覚悟と我慢は違う。
私は、伝えられない言葉の壁に悔しく項垂れた。たった一言だけでもいい。主に伝えたかった。
胸に秘めたその思いを、施設に移り住んでも私は抱き続けた。

ごめんなさい。
ごめんなさい。
貴方を救えなくて、ごめんなさい。

もし批評や誤字脱字がありましたら、教えていただけると嬉しいです。

読了報告

 この作品を読了した記録ができるとともに、作者に読了したことを匿名で伝えます。

 ログインすると読了報告できます。

オススメ小説

 この作品を読んだ方にオススメの小説です。

感想フォーム

 ログインすると感想を書くことができます。

感想