第6話 救出

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 フェナスシティ。砂漠の中にあって溢れるほどの水を湛える美しい街。そこへ来てレオの目に真っ先に飛び込んだのはしかしそんな美しい謳い文句にはあまりそぐわない光景だった。
「おい、何やってんだ。しっかり持てってばよ。」
「んなこと言ったってこいつが動きやがるからさぁ。持ちにくいったらありゃしねぇよ。」
 そんなことをブツクサ言いながら、二人のガラの悪そうなゴロツキが、彼らのものらしいジープに大きなズタ袋を運びこんでいる。どうやらついさっきこの町にたどり着いたようで、レオ達と鉢合わせなかったところから考えると、自分たちとは反対側からここへやって来たらしい。
「あの二人…。」
「ええ。なんだかものすごく怪しいわね。」
 二匹は早くもこの異邦人に対して敵意を抱いているようだった。二人は袋を運ぶのにかなり手間取っているようで、レオ達にはまだ気付いていないらしい。
「ねぇ、レオ。今あいつら『動く』って…。あの袋、中に何が入ってるのかしら…?」
 レオもそのことで嫌な予感はしていた。しかも袋の大きさから考える限りあの中身は…。
「ほれほれ、いい子だからもう少しの間静かにしてな。」
「モガモガッ!!ここから出してよー!人さらいー!!」
 やっぱりか。レオは小さくため息をついた。『まったく。街に着いて早々面倒なことに巻き込まれたな。』
「レ、レオ!今の声!」
ブラッキーはギョッとしたように耳を逆立てた。
「人…よね?」
 エーフィは探るようにじっと袋を見つめる。
「人だな。」
 半ば諦めたような口調でレオは二匹に応じた。正直、こんな人目につくようなところでの厄介事はごめんこうむりたかったのだが…。
「チッ。口に貼ったテープが剥がれたか。」
「やい。大声出すんじゃねぇ。」
 金髪のゴロツキが袋に向かって大きな罵り声をあげる。『こいつら馬鹿だな。』とレオは更に深くため息をついた。この状況で不自然な大声をあげるなど他人に見つけてくださいと言っているようなものだ。どうやらスナッチ団の連中と同程度のおつむらしい。
「しまった!そこの小僧に今のを聞かれちまったか!?」
 そして案の定、そこにぼんやりとつっ立っていたレオは二人に見つかってしまった。
「誰?そこに誰かいるの?お願い!助けて!え、でも待って。あたしもしかして今悪者の魔の手から王子様に助けられるお姫様ポジション?どうしよ、あたし今顔泥だらけだよー!」
 声から察するに、どうやら袋の中に入れられているのは自分と同年代くらいの少女らしい。そしてこのゴロツキ達に負けず劣らず頭が悪いようだった。
「このガキ!静かにしやがれって言ってんだろうが!」
 ゴロツキが勢いよくズタ袋を地面に置く。袋の中から『ウグッ!』と言う姫様らしからぬ呻き声が聞こえた。
「聞かれちまったからには仕方ない。運が悪かったと諦めるんだな。」
 金髪のゴロツキがそう言いながらモンスターボールを出し、こちらに迫る。
「ブラッキー、エーフィ、行けるか?」
「まかせて!悪者から女の子を助けるなんていきなりすごい展開!ワクワクするよ!」
「あの子、大丈夫かしら…。早く助けてあげましょう!」
 レオの呼びかけに応じて二匹が前におどり出た。
「ヘボイ!その小僧はお前に任せたぞ!俺はこいつを黙らせとく。」
「そっちは頼んだぜ、トロイの旦那。」
 ヘボイと呼ばれた男はそう言ってからモンスターボールを二つ空高く放り投げた。
「いけっ!ゴニョニョ!」
 ボールから二匹のゴニョニョが勢いよく飛び出す。
「ゴニョニョか。本当に運が悪いな。」
 こいつとの戦いはとにかくやかましい。この戦闘が人目に付くのは火を見るよりも明らかなようだ。レオは首を一つ鳴らし、にわかに目つきを鋭くした。
「さっさと終わらせるぞ。」
「「了解!」」





 ゴニョニョ二匹とブラッキー、エーフィ、計四体が対峙し、相手の出方をうかがっていた。周囲に独特の緊張感が走る。先に動いたのは相手だった。
「ゴニョニョ!エコーボイスだ!」
 二匹のゴニョニョが一斉に甲高いノイズを出し始めた。二つの音が合わさった衝撃でレオと二匹は吹き飛ばされそうになる。
「うひゃー。」
 ブラッキーが悲鳴を上げた。レオも思わず耳を塞ぎたくなるような爆音だ。
「エーフィ、光の壁!」
 二匹の前に見えない壁が出来上がる。特殊攻撃をはねのけるこの壁で、爆音は幾分マシになった。レオは二匹の様子を見る。両方とも致命傷は負っていないものの、ある程度のダメージは受けたようだった。あのタッグで増幅する騒音は厄介だ。
「あの中に何度も突っ込むのは得策じゃないな。エーフィ、サイケ光線!」
 ひらりと光の壁の外に出たエーフィから放たれた七色の光線が一体のゴニョニョに直撃した。
「っ!ゴニョニョ!」
 一撃でかなりダメージを与えることが出来たようだ。ダメージを受けて攻撃のタイミングが狂ったのか、相手二匹のエコーボイスがわずかに乱れる。
「くそっ。もう一度だ!ゴニョニョ!」
「させない。ブラッキー、怪しい光!」
 レオの声にブラッキーが勢いよく踊り出て、体勢を立て直そうとしているゴニョニョに対して体毛を逆立てた。黄色いリング模様が怪しく輝き、それを見たサイケ光線を受けなかった方のゴニョニョの足取りが明らかにおかしくなる。混乱したのだ。
ゴニョニョが味方のゴニョニョに対して間違って攻撃を放ってしまい、攻撃を受けた方のゴニョニョが力なく倒れた。どうやら戦闘不能になったようだ。
「ちくしょうやられた!ゴニョニョ!デカいのかますぞ!」
 残った方のゴニョニョがヘボイの声に我に返り、大きく息を吸う。周りの空気がゴニョニョの方に吸い込まれていくのがレオ達にも分かった。
「ヤバい!すごいの来るよ!どうする?」
「こっちの攻撃で相殺させる。準備はいいな?」
「「了解!」」
 レオの呼びかけに対し、二匹は勇ましく応じる。
「ブラッキー、手助け!」
「頼んだよエーフィ!」
「任せて!」
 ブラッキーから溢れた力の奔流がエーフィへ流れ込む。ブラッキーから受け取った金色のオーラを纏ったエーフィが静かに身構えた。
「エーフィ、サイコキネシス!」
「ゴニョニョ、ハイパーボイス!」
 エーフィから出た強烈な念動力と、ゴニョニョの発した爆音の圧力がぶつかり合い巨大な爆発が起きる。が、エーフィの放ったサイコキネシスがハイパーボイスを圧倒した。勢いを残したまま念動力がゴニョニョに直撃する。ゴニョニョは数メートル派手に吹っ飛んだ後、動かなくなった。どうやらこれで勝負あったようだ。





「くっ。なかなかやるじゃねぇか。オレ様のゴニョニョを倒すとは、お前、ただ者じゃないな!?」
 そう捨て台詞を吐きながら慌ててゴニョニョをボールに戻していたヘボイだったが、ふと何かに気付いたようにレオの顔を見た。
「ん?お前の顔、どっかで見た気が―」
「なんだ、なんだ?一体何がどうしたんだ?」
 ヘボイは何か言おうとしていたが、その時先ほどのバトルで騒ぎに気付いた街の住人達が数人集まってきた。
「ムグモガ…!ムムムー!」
 再び口にテープを貼られたらしい少女が懸命に助けの声をあげる。
「チッ。これ以上人に集まられると面倒だな。いったん引いて報告だ。おい、小僧!あれで勝ったと思っていい気になるんじゃねぇぞ。今度会った時はお前のポケモンもろともメタメタにしてやるからな!」
 トロイと呼ばれていた方のゴロツキはそんなありきたりな捨て台詞を吐くと、ズタ袋はそのままに、ヘボイとともにジープに乗ってさっさと逃げて行ってしまった。
「やだっ!中に人がいるみたい!」
 集まってきた取り巻きの中にいた女性がズタ袋に駆け寄り、怯えたような声をあげた。アスリートらしき男が懸命に紐をほどこうとしている。
「くっ!固く縛ってあるぞ。まったくとんでもないことをするやつらだ!おい、そこの君!これをほどくのを手伝ってくれないか?」
「…俺か?」
「他に誰がいるんだ!さっきあいつらをバトルで追っ払ってたじゃないか!」
 このどさくさに紛れて人知れず姿を隠そうと思っていたのに、これでそれもかなわなくなってしまった。旅の初めからこうも人目につくことになってしまうとはまったくもって運が悪い。観念したレオは淡々と固く結ばれた紐をほどいていった。そして…
「プハーッ!よかった、助かった~!」
 そんな声とともに中から一人の少女が現れ出た。



 これがレオとその少女、ミレイとの出会いだった。

バトルシーンって難しいですね…。

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